第9期生 下坂充さん

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下坂 充さん 第9期生
長野医療技術専門学校 理学療法学科 学科長

– 現在のお仕事について簡単にご紹介いただけますか。

理学療法士を養成する専門学校の教員をしております。職場では、講義、学校内での実習の指導、それから実際の医療機関に出向きそこで現職者と近い経験をする臨床実習の支援を主に担当しています。

– 本専攻に入学しようと思ったきっかけを教えてください

「自分の教え方は自己流でいいのだろうか」「もっと良い教え方があるのではないか」と、ずっと現場で自問しながら試行錯誤をしていたのですが、なかなか良い打開策が見つけられませんでした。

少子化と言われるように、昨今子供の数が減ってきています。一方で、学校の定員は変わらない。そのため、以前では入学してこなかった低学力のレベルの学生が入学してきているという現実があります。私は、1年生向けに「運動学」という講義科目を担当しているのですが、年々成績が下がってきたり、学生の反応が鈍かったりということを実感していました。

学生に少しでもやる気を持ってもらうために、自己流で教え方を工夫してみました。たとえば、授業にゲーム的な要素を取り入れて、質問に来た学生にはポイントを付与し、小テストの得点に追加するというようなことを試してみました。学生は、テストの点数が欲しいからどんどん質問に来てくれるんですね。学生が積極的に質問に来てくれるので、教員としても嬉しく思いました。しかしながら、ポイント制度を導入した時は学生が積極的に質問に来ますが、ひと区切りした段階で「今後はポイント提供はなしにするけど質問には来てね」と言ったら途端に学生は質問に来なくなる。また、学生の中には「自分は知りたいことがあれば、質問に行きます。でも、ポイントがもらえるから質問に行くというのは嫌です」と、この取組に対して反感を持つ学生も少なからずいました。せっかく工夫して取り入れてみたのに、学生のためになっていないと感じ、ポイント制度はやめました。

失敗もありましたが、うまくいっていたこともあります。あらかじめ講義の資料を予習の宿題として渡しておいて、授業の時間は、小テストと学生からの質問だけを受け付けるという形式を取り入れてみました。いわゆる反転授業ですね。小テストで学生の理解度を確認しながら、質問を受け付けてそれに丁寧に答えるということをやってみたら、学生の理解度がみるみる伸びてきました。
このような試行錯誤を繰り返すことで、何らかの工夫をしないと学生の力は、なかなか伸びてこないということがわかりました。ただ、自己流ですので「本当にこれでいいのだろうか。もっと良い方法があるんじゃないか」と、いつも疑問を感じていました。

専門学校では臨床経験が5年以上あれば、教員になる資格が生じます。自分は教員と言っても、教育学的な専門的知識を持っているわけではありません。良い教え方を知らないのに、「自分は教員と名乗ってはいかんのでないか」「教壇に立ってはいかんのではないか」という思いがあり、教育方法を体系的に学んでみたいという気持ちが芽生えてきました。

– 本専攻のことは、どういった経緯で知り、受験まで至ったのでしょうか。

インターネットで教育について情報収集していたら、たまたまヒットしたんですよね。探り当てたのが11月で、まだその年の受験には間に合いました。インターネットで学習できるのであれば、仕事を続けながら教育のやり方について体系的に学ぶことができます。自分にぴったりな場だと思いました。

その後12月に、まなばナイト(※注1)に参加したんですよね。早めの時間に行ったら、専攻長の鈴木先生が「初めて来た人ですね、ちょっと話を聞きましょうか」って声をかけてくれたんです。そのときに「どんな問題意識を持ってるの?」「何をしたいの?」と、話しかけてくださいました。

私は、理学療法士の職能団体の学術広報委員会で責任者をしていまして、当時その中でeラーニングコンテンツを展開していこうという話がありました。自分の教育に問題意識を抱えていたのですが、もう少しeラーニングに関わりのある話をした方がよいかなと思い、この職能団体のコンテンツの開発をテーマに取り組みたいとお話ししたんですね。それに対して、鈴木先生が「うーん、それは違うんじゃないか。わざわざ大学院に入らなくて専門家に依頼すればいいんじゃないか」と仰られました。

まなばナイトは一種の学生を勧誘する場だと思います。「来てください、いらっしゃいませ」と勧誘するのではなく、その場で本質的な問いを投げかけてくださったことに魅力を感じました。ただ上滑りの調子の良い話ではなくて、聞く側にしてみれば否定される話だけど、核心の部分をズバッといわれて感激しました。教授システム学専攻を受けたい、この場で学びたいという気持ちが強まりました。

※注1 まなばナイトとは:熊本大学大学院 教授システム学専攻の同窓会が開催する参加型ワークショップです。年4回程度のペースでインストラクショナルデザインについての情報交換を行っています。詳細はこちら

–  実際に入学されて、いかがですか。

課題を進めていくのが、とても大変で驚きました。特に時間管理が大変でしたね。睡眠時間を削り、家事は全て女房にお願いすることで何とか時間を確保していました。入学する前は、大学院の高いレベルの学びについていけるかという部分が心配だったのですが、入ってみたら内容の難易度より働きながら学習の時間を確保し、課題の締め切りに間に合わせることの方に苦労しました。

本当は、せっかく学びの機会がもらえたので、授業に関連する文献を読み込んで学びを深めたいという気持ちがありました。ただ、そう思っていても、そんな暇はなく、次の課題に取り組まなければならなくて、結局果たせずじまいでしたね。

課題の締め切りについていくのが精一杯でしたが、「これは絶対に学ばなければいけない」と思いがあったので、気力で何とかついていくことができました。

–  一番役に立った科目は何ですか?

すべての科目が役に立ったと思います。一つには絞れませんね(笑)。具体的な科目というよりも、いろんな領域のことを学ぶきっかけや指針を与えてくれたということが、とてもありがたかったです。

この専攻では、効果的な教材の作り方から、企業内の研修の設計方法、IT技術など、さまざまな領域の科目が学べます。それぞれの科目では、授業担当の先生が、学生に問いを投げかけてくれて、関連文献を紹介してくれます。学生は、それを頼りに自分で学習を進めていき、教員から提出した課題に対する指導を受けます。こうしたトレーニングを通じ、教育に関わるさまざまな分野のことを自分自身で掘り下げる力が身についたと実感しています。ここで身につけたことは、修了後にも役立つ財産になったと思います。

–  修士論文のテーマは、どのようにして見つけ出しましたか?

入科試験のときの面接では、「医療分野でeラーニングを効率よく展開していくにはどうすればよいか」をテーマに研究に取り組みたいと発表しました。そうしたら質疑の中で、鈴木先生から「そんな研究のための研究みたいなことやっちゃだめですよ。もっと実践的なことやりなさい」とズバっと指摘を受けました。そのやり取りの中で、「そうなんだ。この専攻が求めているのは研究のための研究みたいなものではないんだ。自分の職場で役に立つ、実践に結びつく研究をしても良いんだ」ってわかったんですよね。

その後、頭に浮かんだのが臨床実習でした。臨床実習では、学生が医療機関で実地に現職者に近い体験を積みながら学んでいきます。しかしながら、臨床実習先での学生の学びに対してほとんどサポートができていなかったですよね。そこで、直感的に臨床実習中の学生支援のやり方を改善できないか、と思いました。

–  研究は、どのようにして進めていかれたのでしょうか?

先生方のご指導をいただきながら、また得た調査結果を文章に反映させる作業を繰り返しながら少しずつかたちにしていきました。

研究の切り口を自分なりに考えて、修士課程の2年次に指導教官の平岡先生に、ギャップ分析を活用して臨床実習を改善してみたいと相談しました。学生が臨床実習でこうなりたいと思っている姿と実際とのギャップを明らかにして、そのギャップを埋めるために働きかけるツールを開発したいと提案したんですね。そうしたら、平岡先生から「全然考えていることが分からない。下坂さんは自分のどの問題をどうやって解決したいの?」って言われてしまいました。自分なりに一生懸命考えて提案したので、正直ショックでした。でも、先生からご指摘いただいたとおり、研究計画の具体性が全然なかったんですよね。ギャップを埋めるのにどういうツールを使って、それをどうやって埋めるのかが全然明確ではありませんでした。また、研究テーマを頭の中だけで検討しているうちに、そもそも自分が抱えている問題が何で、それに対してどうアプローチするのかという本筋から離れてしまっていることに気づきました。

では、臨床実習の現場の問題点は何だろうか。原点に戻って、もう一度考えてみることにしました。実習中は学生が1人で医療機関の見習いとして実地で学んでいくので、誰かに悩みを相談したり、知らないことを質問したりできず、不安を感じたり、学習がうまく進められなかったりする学生が少なからずいます。実習先で孤独感を感じてしまう学生の何らかのサポートができないか、と思いました。臨床実習に臨む予定の学生を担当するクラス担任の教員とも議論してみたところ、学生が教員や他の学生に対して気軽に相談できる仮想のホームルームを作れないかとアイデアが出てきました。実習中は、実際のホームルームのようにみんなで教室に集まってやり取りができないけれど、インターネットを使えば、それが実現できるかもしれない。「これだ!」と思ってその具体化に取り組み始めました。

それで早速、仮想ホームルームのプロトタイプを作ってみました。試作した後は、「とにかく学生の声を取り入れてあげなきゃならん!」と思って、学生に意見を聞いて回りました。すると、学生が「こうやった方がやりやすいです」「こうして欲しいです」って、どんどんアイデアを出してくれたんですね。それをどんどん取り入れて、仮想ホームルームをバージョンアップしていきました。学生の声を聞いて、学生の助けとなるものを作ろうと思って懸命に取り組み、それを研究としてまとめていきました。実務にも役立つ研究ができて、本当に良かったと思っています。

– 専攻で学んだことで、一番の収穫は何でしょうか。

学生の気持ちが分かったということですね。入学以前、教員の立場で「学生は勉強するのが当たり前。勉強やらない奴はさぼっているんだ」と、極端に言えば思っていました。ところが、実際改めて自分が学生になってみるとそんな単純なものではないことに気付かされました。eラーニングという新しい環境で学業を進めていく辛さ、時間管理の難しさなどを経験する中で、そもそも学ぶということにはいろんなところにハードルが伴うものであることを改めて知りました。

少し前までは、講義中にきちんと取り組んでいない学生、居眠りしている学生がいたら「なんだ!」とでかい声で怒鳴りつけていました。でも、今考えると教える側の責任を放棄して、怒鳴りつけるのは最低な方法です。「どうして寝ちゃうんだろうな」「講義つまんないからかな」と原因を考えて、教え方を改善しないといけないのではないか。学生の気持ちを改めて慮ることで、考え方が変わりました。教育に対する意識の変化が、私にとっての一番の収穫ですね。

– 最後に、これから入学を考えている人にメッセージをお願いします。

「諦めないで自分の職場の改善に真摯に取り組んでください」と伝えたいです。在学中に大変だったことや苦労したことが山のようにあります。修士論文についても途中で「ここまででいいや、やらなくていいや」と思ったことも何度もあります。でも、鈴木先生や平岡先生から「もっとこういう方向でやってみたら」と言われて、思い直してやってみると次のステップが見えてきました。

疑問を感じることや「もう駄目だ」と挫けそうになることも何回もあるでしょう。でも、諦めずに取り組んでいると必ず何かが見えてきますし、困ったら先生方が相談に乗って下さいます。みなさんのこうした真摯な取り組みに、正面から向き合ってくれるのが、この専攻の一番良いところだと思います。ぜひ、みなさんも諦めず自分が抱える課題と真摯に向き合って、この専攻で学びを深めてもらいたいなと思いますね。

(2016年2月インタビュー)

※ 登場している方々のご所属および本専攻のカリキュラムや科目に関する記述は、インタビュー当時のものです。

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