第4期生 堤 宇一さん

堤 宇一さん 第4期生
株式会社日立総合経営研修所
品質保証グループ 部長代理

– 現在のお仕事について簡単にご紹介ください

当研修所が提供している研修コンテンツの品質管理を行っています。

– 教授システム学専攻(以下,GSIS)に入学しようと思ったきっかけを教えてください

鈴木先生とは7年ぐらい前から、知り合いなんです。 私がまだ日本能率協会マネジメントセンターに在職中で、鈴木先生は当時、岩手県立大学にいらっしゃいました。 ある人材育成系の雑誌で対談をしたんです。対談のテーマは「CLO(Chef Learning Officer)」でした。 鈴木先生はインストラクショナルデザイナーの立場で、私は教育効果測定の立場で参加しました。 他には、ハウスメーカーの創業社長、教育ベンダーの社長、雑誌の編集長、根本先生も同席しておられました。 これがまず、鈴木先生との出会いなんですね。

日本能率協会は歴史のある教育ベンダーで、私はそこで、通信教育の教材開発、教育の効果測定の事業化に取り組んでいました。

通信教育の講座開発を行っていた頃、インストラクショナルデザイン(以下、ID)を一度勉強しました。 メーガーさんのCRI(Criterion-Referenced Instruction)です。 教育効果測定に本格的に取組んだのが、2000年からです。

効果測定を医療に例えて言うならば、臨床検査です。 いうなれば、尿酸値の数値やコレステロール値を測定し、健康状態を明らかにしていくことです。 診察し、状態や原因を明らかにした後、治療へとステージが移ります。もし、治療が勘や経験で行われたらどうですか。「ゾッ」としませんか。 そんな医者にかかりたくないですよね。

研修も同じで、正確に評価するだけではだめで、改善には科学的なアプローチが必要なんです。 「評価」と「設計&開発」の両輪があって初めて、人材育成(研修)の効果が保証できると、そんなことを思っていたんです。 どんどん世の中が複雑になり、教育テーマや解決課題もそれに応じて複雑になってくる。 教育設計の基本的なベースを、もう一度キチンと学び直さないとマズイと思うようになって・・・入学を考えたんです。 鈴木先生からは「もういいんじゃないの?」と言われましたが、いやいやそんなことないですよと(笑)。

– GSISのことは開講時からご存じだったと思いますが、このタイミングで入学するきっかけがあったんですか?

実は、3期生の早川さんと、お友達なんですよ。 早川さんは、科目等履修からGSISに参加し、その後本格的に入学されたので、どんな感じか教えてもらっていたんです。 そうしたら、「IDのベースをキチンと学べる」と。IDを体系的に教える学部は日本には熊大しかないし、早川さんがおっしゃるならいいかな、 というのが入ろうと思ったきっかけで。

– 実際に入学してみてどうですか?

入った直後からスタートしたSCC(ストーリー・センタード・カリキュラムは、期待はずれでした。 authenticって、ぜんぜんauthenticじゃないし・・・。正直なことを言うと、これが日本を代表するIDerがあつまって作ったのかというがっかり感がありましたね。 シナリオが、実務とのかい離が大きすぎて、お勉強のためのお勉強的な印象でした。たぶん、教育ベンダーで長年実務に携わっていたので、そう感じたのかもしれません。 20年以上人材育成に携わり、独学だけど理論を勉強し、実務に応用してきた人間から見ると、シナリオ内容に納得できなかったのかもしれません。 リアリティがないというか。

– SCCを選択しないこともできますよね?

そうです。SCCの選択のきっかけは、eラーニングワールドで、教授システム学専攻のプレゼンテーションを拝聴したことです。 内容は、SCCを用いたID教育の取組でした。是非、新しい手法を体験したいと思って、SCCを選択したんです。 SCCという方法論は、素晴らしい方法です。個人的にもすごく期待しています。 だけど、いくら考え方が良くても、内容が伴わないと、その素晴らしさは伝わりません。 期待が大きすぎたというか、ちょっと違うかなぁと。鈴木先生には、「SCCが当専攻の売りなので、まぁがまんして受けてよ」と言われたりして・・・。

残念な事だけではありません。面白く、ためになった科目も何個もありましたよ。 インストラクショナルデザイン2(以下、ID2)とか、経営学特論eラーニングコンサルティング論とか。 すごく実践的で面白い科目です。

ID2は、IDの理論を実務に応用するためにとても参考になる科目です。SCCに対して、こういうことを期待していたのかもしれませんね。

経営学特論は、経営学の観点から人材育成を考える科目です。アカデミックな勉強ってこういうことかと、私が持っていた学習の世界観が変わりました。 沢山の課題図書を読み、課題に沿って自分の考えを小論文としてまとめます。建設的批判をするとはどのようなことか、本の読み方などとても勉強になりました。 新しい視点というか、批判的に考えるという学びを得られました。

コンサルティング論は、ある実在する企業を課題企業として見立て、学生がコンサルタントとして課題を整理し、その解決施策を練り、提案書を整理していく科目です。 担当の江川先生よりいただくコメントの鋭さには、驚きました。知的ゲームのようで、毎回ワクワクして課題を作成しました。 何度も再提出を求められ、情け容赦ない、苦しい科目でしたが、とても充実度の高い科目です。

1年後半から2年前期は、大変だったけど面白かったですね。

– IDの基礎を学びたいというのが、入学の一番の動機だったとおっしゃっていましたが、IDの科目はどうですか?

eラーニング概論は、eラーニングファンダメンタルの復習かなという感じでした。 さっき申し上げたように、ID2で提案書を書いていくのは、実践的でよかったな。

あ、1年前期がいやだった理由をもう一つ思い出しました。ITの科目がだめだったんです。本当に苦手で、わけわかんなくて・・・。 そのストレスもあったのかもしれないです。まあでも、(プログラミング)言語が少しわかるようになって、少しはやろうという気になりました。

– 普段、学習はどのように進めていましたか?課題は大変でしたですか?

基本的には睡眠時間を削るしかないでしょう(笑)。体力の限界までがんばる。 でも1年の前期は本当に真っ赤(未提出状態)になっていて、夏合宿で鈴木先生に呼び出されました。 「1か月の猶予を与えるからがんばってみない?」と言われて、8月はお盆休み返上で集中して勉強しました。 人間って不思議なもので、1つやるとそれを台無しにしたくなくなるんですよ。その後は、がんばっちゃうんですね(笑)。 それで後期からはリズムに乗れました。

対面の集中講義に参加して、その時同期の仲間といっぱい情報交換しました。 課題をどこまで作り込んだらいいのか?いい意味での手の抜き方・・・勉強の仕方を学べました。もちろん、手を抜きすぎると再提出ですから、 その辺の微妙なガイドラインを教えてもらいました。

– 研究のほうはいかがでしたか?

もともとはリーダーシップのコンテンツ開発のプロセスを標準化しようと思ったんです。 IDでは、到達目標を設定し、そこに至るまでに何をどう学ぶかを設計しますが、企業で今行われている教育の多くは、到達目標を設定しづらいのです。 問題解決能力の向上とか、リーダーシップ力の強化とか、向上目標に相当するモノが多いんです。 ゴールとして旨く設定できないものを扱っている場合が多いんですよ。向上目標に対するIDの使い方、みたいな研究をしようと思っていたんです。入学前は。

でも会社の方針が変わってしまって、業務として、研修開発ができなくなったんです。 そこで急きょ、テーマを(カークパトリックの)評価レベル1の質問紙の開発標準化を整理することに変更しました。 私が専門としている効果測定の領域だったら何とかなるかなぁと・・・。 効果測定を扱うならレベル3とか4の方がいいんじゃないかと言われたんですけど、最も多く使われ、最もいい加減に実施されているレベル1にメスを入れたいと考えました。 鈴木先生からも、「半年でどうにかしなきゃいけないので、そんなに大きなことはできないからね」と言われましたし。

そのあとは、うちの社長に話を通しました「リアクションアンケートの標準版をアカデミックなアプローチで、開発しましょう」と。 そして、一人じゃできないからリアクションアンケート開発のプロジェクトを発足させました。

– 研究を進める上で困ったことなどはありましたか?

研究テーマが自分がこれまでやってきたテーマたっだので、特にないですね。ただ勝手が違うなと思ったのは、研究論文の表現方法です。 研究論文はプロセスや実施手順を丁寧に論じる事を求められます。しかし、ビジネスではプロセスを丁寧に論じずに、結論や機能を中心に記述します。 その書き方に戸惑ったというか・・・なれれば大丈夫ですが。

– 2年間で1番の収穫はなんですか?

教授システム学というものを、体系的に整理できたことですね。 昔からIDや教育効果測定を勉強してきたので、新しいことをたくさん学んだということよりも、頭の中で散乱していた概念や理屈を整理できたということが、 自分としては収穫ですね。 現場で得た経験知だけを頼りに現象を判断しているだけでは、その事の本質が分からない気がします。 体系的に基礎を学べは、起こっている現象は、違うけど根っこは同じ、というふうに理解できたりしますね。

それと先ほど申しあげましたが、本を読んでいて著者がいうことを妄信的に受け入れるだけだったのが、 建設的批判をしながら「でもどうなの?」と違う見方をできるようになりました。

– 今後はお仕事にどう活かしたいですか?

私は、人材育成のNPOを主宰しています。その活動の中で本専攻で学んだことを伝えていきたいと思っています。 人材育成に携わっている人に経歴を尋ねると、多くの場合は人材育成と異なる部署から、お前優秀だからって、突然(人材育成部門に)異動になり、 個々人の勘と経験知だけで業務をやっているんです。 そういう人たちに、ここで学んだことをお伝えし、その人たちが理論やデータに裏付けされた方法で人材育成を行い、成果を上げるようにしていきたいですね。

もう1つは、ISO29990を勉強し、当社(私が勤務している組織)なりの人材育成の業務標準を作っていきたいです。 そうしていかないと、IDや教育効果測定といった理論を用いた業務が組織の中に入っていかないんです。 ISO29990を勉強して、コンサルティング能力を高めて、人材育成というポジションから経営にインパクトを与えたいですね。

3つめとして、NPOには人材育成に対する問題意識を持った人たちが、多数参加してくださいます。 熊大の卒業生等とコラボレーションを考えたいですね。私のNPOで卒業生に研究成果をご披露いただいたり。

– 最後に、入学を考えている人にメッセージをお願いします

基本的には社会人が学ぶところなので、目的意識を持ってください。 教育って、「消費」と「投資」の2面性がありますよね。ここでは、投資として、キャリアを積むんだという目的意識を持ってほしい。 目的意識がないと、途中でスピンアウトしちゃうことになるかなあ。

あとは、同期や先生等とアナログでたくさん情報交換してください。eラーニングがうまくいくためには、人的な交流が不可欠です。 合宿のような交流の場を大切にしてほしいですね(笑)。

(2011年2月インタビュー)

※ 登場している方々のご所属および本専攻のカリキュラムや科目に関する記述は、インタビュー当時のものです。

 

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