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  最終成果報告会では、前節に報告した通り、4つのサブ・プロジェクトごとに3年間の活動ならびに成果の報告を行うとともに、お招きしたお二人の先生から、本取組の成果や展望、今後の課題について、第三者の視座から客観的に評価・講評を頂いた。以下に、その内容を要約し、報告する。

【ア】小松秀圀先生から (NPO法人日本イーラーニングコンソシアム会長)

小松先生からは、本取組全体を俯瞰すると高等教育と企業内教育の深化に大きく寄与しうるとの評価を頂くとともに、企業内教育の実践者という視座から各プロジェクトに対して講評を頂いた。

(1)国際産学共同開発による「ストーリー型カリキュラム」の導入に対して
自身が過去にCRI(Criterion Referenced Instruction)の理論を用いてトレイニーセンタードラーニングの教育を開発した経験から見ると、SCCは実に興味深い。日本でのこの様な取り組みは少ないので、今後も研究を継続し、是非その質を高めて欲しい。自身の経験では、学習者に学習内容を自らでコントロールさせて、一定の学習目標に到達すると次のステップに進めるような方法にすると、学習者は集中して学習行動をやめず、学習時間も従来より4割減るなどの大きな効果があった。そのような経験から、SCCには似たような効果を生み出すことができる可能性が感じられる。一方、ストーリーに馴染めない人への対応と、メディアの効果的な活用方法が課題として考えられる。過去の学習者の学習成果や形成的評価の結果を取り込んで、内容を常に変化させていけるかどうか、また、実用的なテーマを扱う上で、構造化されていない情報(コンテクスト)をどの様にシステムに取り込むか、ソーシャルメディアやポータブルメディアをいかに活用して効果を高めるかがポイントになるだろう。SCCは今のところ研究段階だが、今後は実用化に向けた実践マニュアルづくりやプラットホーム開発の取組みを期待している。

(2)国際連携による「eポートフォリオ」活用教育改善システムの開発に対して
eポートフォリオの研究に対する進展を感じる。現状のeポートフォリオは、“過去の学びの「見える化」”が意識されているようだが、これに、今後の学習に対して学生自らが目標設定することを支援できるような側面をプラスすると、更に良いツールになるのではないだろうか。学生が抱いている興味や将来像を入力すると、それに即したカリキュラムを抽出して提示するといったシステムを開発した大学が20年前にあったが、内部処理は手作業に頼る部分が大きかった。現在のテクノロジーを活用すれば、eポートフォリオは、学生の自己実現を支援する教育指導に活用していけるシステムへと発展させられると考えられる。

(3)グローバル化の先端を行く外国大学との戦略的連携による「国際遠隔共同授業」の開発に対して
この取り組みを基礎的な考え方にし、PBLを採り入れるなど、より実践的な内容にすると面白いと考えられる。海外に目を向ければ、フェニックス大学やイギリスのOpen Universityなどは非常に良いモデルとなり得るため、その様なモデルを参考としながら日本向けにローカライズしていくことがヒントになるのではないだろうか。これらのモデルには、受講者を増やすためのノウハウや、受講者が増加した際に講義の質を維持する方法なども含まれている。その様な方面に目を向けながら、実用化を目指してこの研究が進展していくことを期待している。

(4)高等教育・企業内教育連携による「学びと仕事の融合学習」の開発に対して 現在は授業としての取り組みだが、これを学校の性格論に展開させられるならば興味深いであろう。将来的には企業内教育を代行するような、企業が必要とする骨太の人材を学校が育成するといったことを念頭に置くことが、これからの社会人大学院のあり方になるのではないだろうか。大学が企業からのニーズを把握し、それをシラバス化して学位を出すことでプロフェッショナル性を高めていける枠組みが構築されると面白い。その際、成功への鍵はICTの活用であろう。アメリカでは、企業がオンデマンドプラットホームを用いて学校の教育を行っている事例などもある。本研究においても、今後、モデルとなるようなプラットホームを是非とも示して欲しい。また、それを企業と共有していけると、更に夢が広がるのではないだろうか。


【イ】山田礼子先生から (同志社大学教授・教育開発センター所長)

山田先生からは、伝統的な国立大学における既存の研究科の中で、独立専攻を設置してイノベーティブな取り組みを行っていることに感銘を受けたという評価を頂き、本取組全体に対する総評を中心として講評を頂いた。

(1)本プロジェクト全体の方向性に対して
中央教育審議会では、博士前期課程を高度職業人養成、後期課程を研究者育成機関と位置付けている。これを受け、理工系の前期課程では高度職業人養成を意識したカリキュラム改革が比較的進んでいるが、人文社会系ではまだまだ少ない。

この様な中、教授システム学専攻は、高度職業人養成を強く意識して作られている。しかもそれを標榜している大学院のなかでは毎年定員を満たしているところが少ないにもかかわらず、本専攻が定員を満たし続けていることは高く評価できる。そして、その理由は、学生の「出口」を意識しながら、企業のニーズを把握した上でコンピテンシーベースの教育が行われている点にあると考えられる。

現在の日本では、人文社会系は学士修了が一般的だが、グローバルな視点で見ると、人文社会系においても修士の学位が必要な時代に突入している。この様な中、本専攻のような、高度職業人養成を強く意識し、なおかつそれをeラーニングで提供する博士前期課程は、修士の学位を持たずに就職した社会人層に対して潜在的なニーズがあると考えられ、将来的には企業内大学に発展する可能性も感じる。今後、この様なプログラムを体験した卒業生が、社会で高度職業人としてどのように活躍し、そしてその活躍がどの様に評価されていくのか楽しみである。

(2)更なる展開を見据えた上での課題
eラーニング課程について議論する際には、常に教員の役割が話題に挙がる。ここで、研究者の養成を目的とする博士後期課程を考えると、そこでの教育は、教員を媒体とした暗黙知で成り立つ部分が多い。高度職業人養成という位置づけの博士前期課程においては、eラーニングで展開されるプログラムは非常に有効だと考えられるが、この様な学習スタイルを経験した学生が博士後期課程に進む際、その違いに適応できるかどうかが課題となり得るのではないだろうか。

次に、本専攻のプログラムはビジネススクールに近い部分がある。この様な教育を行う際、学生だけではなく、教員も企業現場をフィールドとして外に出て行くことが求められるだろう。その際、国立大学法人である熊本大学において、果たしてその様な教員の動きが可能なのであろうか。それを許す柔軟性が大学に生まれてくるならば、これらのプロジェクトはさらにイノベーティブになると考えられる。
最後に、「グローバル教育戦略論」の開発を通して取り組んでいるような教育内容のグローバル化を意識するならば、学生に対するミニマム・リクワイアメントの英語力を設定する必要があるのではないだろうか。特に、eラーニング上で英語を用いる場合、対面時よりも遙かに高い英語力が必要とされるため、日本人においてはそれが壁となる。この様な科目において日本人の参加を増やし、その中で外国の学生と活発に議論を交わすことができるようにするためにも、ミニマム・リクワイアメントを設定することは必須と考えられる。

 

 
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