シンポジウムII:教育メディアと総合的な学習


総合的な学習から学校システム再設計
From Integrated Learning to School System Redesigning

鈴木克明
Katsuaki Suzuki
ksuzuki@soft.iwate-pu.ac.jp

岩手県立大学ソフトウェア情報学部
Faculty of Software and Information Science
Iwate Prefectural University



授業とは,学習を援助・促進する営みである。教育メディアとは,授業計画を具現化するものすべてである。教科書も教師も学校もメディアである。望ましい教育メディアのあり方を探ることは,学校全体をデザインすることを意味する。「総合的な学習の時間」が学校変革の一方策であるならば,それ以外の授業への波及効果をデザインする必要がある。教師による一斉情報伝達を脱し,マイペースの自学自習を基本に据えたい。また,小学校では普通教室の学習情報センター化と学年(部)TTの常設化,中学校では教科センター方式の導入,高校では単位制総合高校への再編を「新しい革袋」として検討したい。変革を担うのは教員である。教員養成・現職研修を再設計し,授業改善につながる研修改善を実現することが急務である。

総合的な学習,教育メディア研究,システム設計,教員研修


表1.教育メディア研究:5つの視点


1.機器構成:メディア設置vs利用、費用対効果、メディアvsメッセージ
2.教授者代行:教授機能の拡大、教師不足対応、遠隔教授、個に応じた指導
3.社会化エージェント:批判的視聴力の育成、暴力シーン、価値観の形成
4.学習意欲促進:新奇性、教師に比べての首尾一貫性や公平性、先行知覚
5.認知的学習ツール:ツールの内面化、認知スタイル、問題解決能力

Clark, R. E. (1996). Media and learning. In T. Plomp, & D. P. Ely, (Eds.), International encyclopedia of educational technology (2nd Ed.). Pergamon, 59-64.


表2.マルチメディアの教育上の利点
   (ガイエスキーによる)

1.個別学習の支援:レベル、ペース、スタイルなど多様なニーズに適合可能
2.学習と評価の統合化:学習しながら履歴の記録と得点化が可能
3.能動的な学習方略:受け身の記憶学習だけでなく、知識構築のプロセスに学習者が参加可能
4.臨場感がある疑似体験:発見的・協調的学習環境で知的にも感性にも刺激
5.高密度なデータへの迅速なアクセス:多様な形態の大量なデータを安価に複製して教室に配達可

鈴木克明(1997)「第3章マルチメディアと教育」 赤堀侃司(編)『高度情報社会の中の学校』ぎょうせい,97-98


表3.授業形態に影響を及ぼす3つの次元

1.教授内容の序列化:下位技能の完全習得を前提とするか、あるいは、文脈におくことで初めて下位技能の意味が生じると考えるか
2.失敗経験の価値:失敗なしを理想とするか、あるいは、失敗や限界や誤解を克服させることを重視するか
3.教師の役割:権威ある情報提供者とみるか、あるいは、必要に応じて助言者にも共同学習者にもなるとみるか

鈴木克明(1995)「教室学習文脈へのリアリティ付与について—ジャスパープロジェクトを例に—」『教育メディア研究』2(1) 13 - 27


表4.生成援助法下の教師の役割変化

1.情報提供者からコーチ・共に学ぶ者への役割変革;教室の人間関係に変化
2.詳細な指導案を前もって準備することは不可能;臨機応変な柔軟性が必要
3.拡散的に生じる全ての問題の専門家にはなれない;共に学ぶ姿勢や調べ方を示唆する態度が必要
4.指示的になりすぎないような援助のタイミングと方法の習得が必要
5.追及したいと思う課題を深めるデータベースへのアクセス技能が必要
6.必修学習項目との折り合い、現存のカリキュラムへの位置づけが必要

出典:同左


表5.研修の進め方と授業とのつながり 

◯おうむ返しの伝達講習と教師主導の情報伝達型授業
  ・座学研修とその伝達からの脱却=教科書を教える授業からの脱却
◯教師が動く研修と子どもが動く授業
  ・個別・マイペース研修と討議の時間の組み合わせで進める
◯講師に頼らない研修と教師に頼らない学習
  ・自分の力で,手引きプリントなどを頼りに主体的研修
  ・主体的研修のお膳立てができれば,主体的学習の環境整備もできる
◯講師を超える部分を要求する研修と子どもに教えてもらう授業
  ・正解をいつでも講師が知っている訳ではない
  ・知らないことでも,出来映えを評価でき,改善を指摘できる講師
◯教科横断的な研修と総合学習的な授業
  ・コンピュータを媒介に,全教科全学年に共通の話題
  ・他教科・他学年を知ることで,子どもの身になれる
◯過去の研修成果を参考にできる研修と情報を残せる授業
  ・最初は例示を参考に,次からは自分達の研修成果を事例に
  ・残して積み上げる。先輩の上を行く。
◯意欲がもてる研修と魅力的な授業づくり
  ・自分で苦労して,仲間と切磋琢磨してできあがった達成感を,授業にも

コンピュータ教育開発センター(1998)『コンピュータ活用実践授業のための研修カリキュラムの在り方に関する調査研究報告書〜校内研修を中心として〜』 文部省学習用ソフトウェアの改善開発研究委託事業(業-09-001) 第3章コンピュータに関する研修の在り方(執筆担当:鈴木克明)

参考文献

鈴木克明(1999)「総合的学習は様々な教科主義が出会う広場 〜エセ教科主義を克服して、教科主義の復活を〜」『現代教育科学』1999年8月号(第42巻8号;No.515)、 63- 65