国際協力機構(JICA)フィジー諸島共和国・南太平洋大学(遠隔・フレキシブル学習支援センター)遠隔教育・情報通信技術強化プロジェクト(B−04−10219)オンラインコース企画設計評価専門家業務完了報告書

最終講義(公開)IDワークショップ

JICAフィジー諸島共和国・南太平洋大学(遠隔・フレキシブル学習支援センター)遠隔教育・情報通信技術強化プロジェクト
オンラインコース企画設計評価専門家業務完了報告書

鈴木克明(岩手県立大学教授)
2004年10月18日〜11月4日


目次
(1)オンラインコース企画設計評価に関する業務分析
(2)オンラインコース企画設計評価に関するワークショップ
(3)オンラインコース企画設計評価に関する公開講義
(4)おわりに
   添付資料一覧

(1)オンラインコース企画設計評価に関する業務分析

 本派遣の目的は、教育工学及びオンラインコースの企画設計に関する概念・技術の移転を通じ、本プロジェクトにおけるオンラインコース開発モデルの実施促進を図ることにあった。活動内容としては、ワークショップを通じてカウンターパートに対し、オンラインコース開発に必要な授業設計にかかる指導・助言を行うことにあった。具体的な指導項目としては、以下の5つが想定されていた。

1.授業設計に関する基礎概念
2.学習におけるコミュニケーション理論
3.オンラインコースの企画・設計
4.E-moderating(オンラインディスカッションのモデレーション)に関する事例研究
5.オンラインコースの評価方法

 本派遣に際しては、相手先カウンターパート(Valentine Hazelman, Online Instructional Designer, Distance and Flexible Learning Service Center (DFLSC))との電子メールのやり取りを通して、また、長期派遣専門家(Mr. Wade Miyagi)からの情報提供により、相手先のニーズの概要を把握した。また、当該開発チーム(Distance Education Unit of DFLSC)との電話会議(2004.8.15)を通して、チーム主要メンバーの研修ニーズを把握した。相手先からの業務内容提案書(Term of Reference; 添付資料1)により、相手先の業務の概要ならびに研修要望内容を特定し、準備を整えて赴任した。

 到着後、表敬を終えた3日間(2004.10.20-22)において、業務分析のためのインタビューを実施した。カウンターパートのみならず、開発ユニットリーダー(Mr. Anare Tuitoga; Coordinator of Instructional Design and Development; CIDD)、ビデオ中継講義担当インストラクショナルデザイナー(Ms. Carole Hunter; Instructional Desingner; ID)、電子出版担当者(Ms. Vanessa Singh; Senior Electric Publisher, Head)にヒアリングした。ヒアリングの結果(詳細は、添付資料2)を踏まえて、ワークショップの骨格を決定した。

(2)オンラインコース企画設計評価に関するワークショップ

南太平洋大学DFLSCの教材開発ユニット(EDU)スタッフ約20名を対象に、2004年10月25日から29日までの5日間、教材設計ワークショップを実施した。業務分析の結果に基づいて、ワークショップの目標を特定し、全体像を提示し、毎日の目標を確認しながら実施した。概要は下記のとおりである(詳細は、添付資料3を参照)。

ワークショップ1:動機づけ分析(10月25日)
ワークショップ2:教授方略分析(10月26日)
ワークショップ3:マルチメディア分析(10月27日)
ワークショップ4:制作プロセス分析1(10月28日)
ワークショップ5:制作プロセス分析2(10月29日)


(3)オンラインコース企画設計評価に関する公開講義

2004年11月2日10:00-12:00に、公開講義を実施した。上記のワークショップの成果を関連諸機関に伝える目的で、教員・スタッフ・学生に一般公開し、ワークショップの概要及び成果の発表(DEUスタッフ代表による)及び専門家の最終講義をその内容とした。公開講義の企画のために、DEU主要メンバーと企画会議を11月1日に実施し、協議の上分担を決めて準備に当たった。公開講義における配布資料並びに使用した提示資料を、添付資料4に示す。

(4)おわりに

今回の派遣は、沖縄国際センター(OIC)におけるカウンターパート研修(マルチメディアコース)特別講義「コミュニケーションデザイン・教材デザインの基礎」受講生の招きに応じたものである。OICにおける研修を修了したカウンターパートが現地に戻り、他の構成員からの信望を一手に集め、マルチメディア教材の企画・設計・開発・運用についてのリーダーシップを発揮している姿を見ることができたことが第一の喜びであった。

カウンターパートの要望としては、OICにおける講義を再現して欲しい、というものであったが、現地の様子を取材し、何が最も必要とされているかを知る過程を経ることによって、ワークショップの目的についての焦点を絞ることができた。短期間の派遣であっても、あらかじめすべての研修内容を日本で準備してそれを単に実施するだけでなく、現地を取材して、適切な内容を柔軟に組み立てて研修を実施することの重要性を改めて実感した。

当地はインターネット環境が極端に悪く(最大で52kbps)、大学内のイントラネットではWeb閲覧はスムーズにできても、一度大学外のリソースにアクセスしようとすると、スピードの遅さがネックになる。離島との間にはビデオ中継が可能な専用衛星が準備されているが、それを用いたインターネットアクセスはまだ実現されていない。離島においては、電源の供給も不安定である場合もあり、また必要とされる機材(パーソナルコンピュータも含む)や施設も必ずしも十分な状況ではない。

そのような劣悪な環境の中で、DFLSCのDEUスタッフ(カウンターパートも含む)は、どのようにメディアを組み合わせることによって、遠隔地で学ぶ大学生にとって最も効果的な学習環境を実現することができるかを最大限に工夫している。潤沢なメディア環境にあっては、工夫もなしに「何でもインターネット上においてアクセスしてもらう」といった状況が良く見受けられるのと好対照である。彼らの結論は、情報量の多いまとまった教材は、印刷教材またはCD-ROMなどで配布し、インターネットはQ&Aや小テストなどの即時的な双方向性が求められ、かつ情報量が少なくてすむものに限定して利用する、という方針であった。最初の試みであるコンピュータ科学の科目は、概ね順調な滑り出しを見せており、通常の科目を上回る割合で、受講生からの好意的な反応が寄せられていた(詳細のデータは分析中であった)。

今回のワークショップでは、スタッフが日常的に行っている業務について自分たちの手で分析し、問題点を探り出し、何をどう直せばよいのかを考えさせることに重点を置いた。その結果として、共通のドキュメンテーションが不在で山積する設計開発業務に追い回されていたことが自身で再認識でき、自らの開発工程において必要な書類化の合意が形成された。専門家の在任期間内では詳細の業務標準についての品質チェックリストの作成までには至らなかったが、今後も業務改善への努力が継続していくことを期待したい。そのための基礎は、十分に伝達できたと確信している。

本機関は、遠隔教育教材の設計・開発を専従業務としたスタッフが、大学全体を相手にしてサービス提供をする形態を取っている。よって、大学全体のポリシーのサポートによって、今後の拡充が望まれるところである。日本の大学と比べてはるかにすぐれた専門性を有する専従スタッフを抱え、大学における通信教育の長い伝統に支えられた本機関が、今後その専門性をさらに高くして、大学における確固とした地位を維持できるように、継続的な支援が求められていることを結語として、本報告書をおわる。

添付資料一覧

資料1:業務内容提案書(Term of Reference)(略)
資料2:ヒアリング結果(略)
資料3:教材設計ワークショップ関連資料(略)
資料4:公開講義配布資料・提示資料・関連資料(略)