JICA中華人民共和国・技術協力専門家(水利人材養成プロジェクト:研修管理(ハード)B-04-10309)(福建省福州市)
短期派遣専門家 業務完了報告書
1.専門家氏名: 鈴木克明
2.プロジェクト名:中国水利人材養成プロジェクト
3.指導分野: 研修管理(教授設計論で効果的なラーニングを実現する)
4.派遣期間: 平成16年11月27日〜12月2日
5.本邦所属先: 岩手県立大学ソフトウェア情報学部
6.供与、携行機材:無
7.専門家活動内容と成果達成状況(下記)
(1)活動内容
11月30日から12月 2日にかけて、福建省福州市鼓楼区の福州鳳凰假日酒店5F会議場にて、日中協力「研修教育情報化管理研修」が開催され、「教授設計論で効果的なeラーニングを実現する」を中心に講義を行った。日本国政府は、国際協力機構(JICA)を通した技術協力(プロジェクト)として2000年7月より「水利人材養成プロジェクト」を実施してきており、今回はその一環として本研修が開催された。
①「研修教育情報化管理研修」の目的:
現在の中国も、インターネットを代表とする情報テクノロジーは経済、社会及び日常生活に対し大きな変化をもたらしている。社会の情報化が急速に発展することに伴い、コンピューターのネットワークを基礎とする遠隔研修教育にとっても非常に良好な環境が提供されつつある。まず、大学において初歩的なネットワークが形成され、そこでの経験を参考として活用しつつ各業界が遠隔教育研修の実現を目指し、水利業界においても遠隔研修ネットワークの構築に向けた条件整備が始まった。更に、水利における情報化の構築が推進されて、特に水利の「第10次5カ年計画」における発展目標の制定及び水利における情報化の進展は、水利業界における遠隔教育ネットワークシステム作りに有利な条件を提供した。現在、各流域機構および大部分の省(自治区、直轄市)における水利(水務)庁(局)では全てLANが構築されており、DNN専用ラインを通じて外部のネットワークともリンクしている。2003年から水利部は流域機構と水利専門ネットワークでリンクされている。
このような水利における情報化の進展は、遠隔研修教育システムの構築に向け良好な基礎を築きつつあるが、その利点のみが強く認識され、一方に存在する遠隔教育の危険な罠については理解されていない状況にある。
そこで、本研修では中国の水利業界で職員教育研修管理に従事している人員を対象として、日本における遠隔教育の経験や全体の流れ、並びに中国におけるネット研修カリキュラムの実例紹介、遠隔教育研修の理論と基礎、メディアとコミュニケーション理論、教育研修における情報化管理等を講義することにより、水利人材養成業務における遠隔教育の効果的な導入を目指し、更には遠隔研修教育の管理レベル向上を図って、中国水利業界での人材開発活動推進に資することを目的とする。
②「研修教育情報化管理研修」の研修生:
研修には、中国各省(自治区、市)における水利部門の教育研修機構において教学と管理に従事している研修管理者及びメディア教材管理者、制作担当者等の関係者が参加した。
③講義内容:
「教授設計論(Instructional Design)で効果的なeラーニングを実現する」をテーマとし、下記内容で3時間(逐次通訳)の講義を行った。使用したテキストは1冊で、講義はパワーポイントを用いて実施した。
- Ⅰ.eラーニングで組織と個人の問題解決を
- 1.eラーニングシステムとコースを区別しよう
- 2.良くデザインしてeラーニングのメリットを出そう
- 3.研修手段選択を誤らないようにチェックしよう
- 2.教授設計論(Instructional Design)で質の高いeラーニングの実現を
- 1.ADDIEモデルで開発工程を見直そう
- 2.ID理論でeラーニングの青写真を描こう
- 3.成人学習向けの良いeラーニングを実現しよう
(2)達成状況
「教授設計論で効果的なeラーニングを実現する」をテーマに講義を行った。eラーニングシステムとコースの区別、eラーニングのメリット、研修手段選択、教授設計論(Instructional Design)の重要性、ADDIEモデル及び成人学習の役割について習得しようとする研修生の意気込みが、肌で感じられた。また、今回の研修に参加した研修生は各部署におけるリーダーでもあり、研修成果は本人のみならず、各部署で周知普及されることが期待される。
(3)具体的成果品リスト
「教授設計論で効果的なeラーニングを実現する」の講義テキストとして、35ページをA4サイズで日本語と中国訳を見開きに左右対比して見られるように綴じたものを120部作成した。また、内容は電子情報化した後で、人材資源開発センターのホームページから検索可能となる予定。
(4)専門家業務の役割(PDMとの関わり)
①研修教材のデータベース化:今回の研修会で使用した教材は電子ファイル(PPT)にて保管される。今後は水利人材資源開発センターのホームページにも掲載され公開される予定。
②研修出席率:講義別アンケート調査の提出数及び出席確認表から判断して参加者の人数を調査した。すべての講義を通じた出席率はほぼ100%近くなる見込みで、目標である80%以上の出席率を確保するものと思われる。
③教材使用アンケートの満足度:教材に対するアンケート結果は人材資源開発センターによって近日中に集計される予定である。
④施設の機能アンケートの満足度:研修会場の広さ、人数、サービス、視聴覚機器、宿泊施設に対するアンケート結果も人材資源開発センターによって近日中に集計される。
⑤研修評価テストによる理解度:研修評価テストは、研修参加者80人中全員が受験して、平均点は95.88点となり、目標である70点以上を確保し、研修修了証を受領した。
⑥その他:研修の実施状況については、中国水利部のホームページに掲載される予定。
8.中国の研修管理の現状と問題点
(1)中国政府の政策との関連
①第十次五ヵ年計画における位置付け
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・今後5〜10年をかけ水利、交通、エネルギー等の基盤整備をさらに強化。水利の中心は、洪水と旱魃対策。
- ・持続可能な発展を実現するため、生態建設と環境保全を重視。植樹等により生態環境の悪化を食い止める。
- ・人的資源開発と教育を行い、専門分野の人材を養成する。
②指導者の発言など
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・1997年1月3日、水利部は全国水利人材開発大会を開催し、鈕茂生水利部長(当時)が水利人材開発の仕事について「1997年を水利開発年と決め、水利人材開発年の行動計画を制定する」と発言。
- ・1998年水利部人事労働教育司周保志司長(現長江水利委員会副主任)は、『21世紀に向けた水利人材と成人教育』(寄稿文)の中で「実践的な教育内容を重視、強化して、理論と実際とを結び付け、教育の質と教育機関運営の効率性を向上させて、水利教育の規範化、制度化、現代化を実現すべきである」と要求。
③研修管理の課題
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・研修内容が具体性に欠け、幹部職員の学習希望内容とも齟齬をきたしており、自主的に「私が学ばなければならない」という意識が形成されていない。
- ・結果的に養成資源を浪費しており、職員の研修参加意欲も減退しているので、人材、特に高級人材の流出を招いている。
9.水利人材養成プロジェクトの今後の課題
研修生が職場に戻ってからの周知普及の程度について、アンケート追跡調査などの手法により確認を行う必要がある。
10.中国における遠隔教育の手法と技術に関する今後の課題
eラーニングは開始時点でのインフラの整備に巨額が必要であるが、ハード面が整ってもすぐに有効な教育研修システムが成立するわけではない。ネットワーク上に何を載せるのかについてのノウハウの蓄積が必要であり、インフラ整備で要した巨額の投資が有効に用いられる準備が不可欠である。技術的な設計の前に、eラーニングで何を達成したいのかを十分に検討・整理し、目的に応じたシステムの導入計画を立てる必要がある。また、実施上の様々な知見を体験的に得るためには、試行的な小規模システムをまず導入し、段階的に全土へ拡大していく計画を持つことが重要である。
現存の研修をネットワーク上に移行するだけでなく、研修以外の手段も含めて、研修方法を再検討する必要がある。また、研修教材については、講義をビデオに収録して配信する方法はできるだけ避けて、帯域をあまり必要としないシンプルなつくりで、かつ、教育的効果が得やすいことが先進事例で分かっている方式(例:静止画+テキストによる情報提供と学習状況が自己診断できる確認テストの組み合わせ)を採用するのが良いと思われる。
水利部における人材育成には、広大な国土に点在する研修対象者に第一線の研修機会を与えることが可能であるという点からeラーニングを導入することは理にかなっていると考えられる。しかし、せっかくの学習機会が効果的に活用されるためには、人事制度へ位置づけ、地方政府のサポート、教材制作部隊の専門性の確保など、様々な課題が山積している。今後とも、システム全体を見通して、最適な解決策を提言していく必要がある。
11.提言
今回の講義を通じた教授設計論についての紹介が、中国における遠隔教育の実現に向けての進展と人材開発に資することを望む。
12.添付資料
別紙−1 研修教育情報化管理研修行程表(略)
別紙−2 研修教育情報化管理研修実施要項(略)
別紙−3 遠隔研修教育セミナー・研修教育情報化管理研修時間割(略)
別紙−4 研修教育情報化管理研修参加者名簿(略)
別紙−5 研修教育情報化管理研修開催状況写真
別紙−5 研修教育情報化管理研修開催状況写真

開 講 式 の 状 況

講 義 状 況

受 講 状 況 | 講演終了後に中国側からの相談を受けている様子 |