教職研修『情報教育の考え方・進め方』(第3章 情報機器・情報通信ネットワークの活用により学校教育の質的改善を図る) 教育開発研究所、1997年

(2)『ホームページ』の活用による学校教育の質的改善をどう図るか


鈴木克明(東北学院大学教養学部)
市川 尚(東北学院大学大学院人間情報学研究科)



要旨: ホームページは従来のメディアではできないことを可能にしている。教室にいながらにして、世界的な情報発信と情報収集が可能となった。本稿ではホームページ活用によってより質の高い授業にしていくために、ホームページの特徴を解説し、質的改善の可能性・問題点を列挙した。最後にまとめの意味で提言としてホームページ活用のための注意点を挙げた。これらを頭に入れて実際の活用を考えてほしい。


1、ホームページの特徴を把握する

数あるインターネットのサービスの中でもホームページ*は著しい伸びを見せている。小中高ホームページは97年5月現在ではおよそ1800件のホームページが公開されていると言われている。ホームページは、文字だけでなく画像などマルチメディア情報が扱え、マウスをクリックするだけで世界に点在する情報を収集でき、世界的な情報発信が行えるという特徴がある。

*ホームページ 「ホームページ」という言葉は、本来、あるサイトから公開されている一番最初のページのことを指すが、今日ではそのサイトから公開されているページ全てや一部分を指してホームページと呼ぶことが多くなっている。本稿も後者の扱いとしている。例えば「A学校ホームページ」と言った場合には、大抵はA学校から公開されているページ全てをひっくるめて言っている。

ホームページの活用は、3つに分けることができる。
  1. 情報収集(Netsurfing):あるテーマについてリンクをたどったり、検索サーバを使用したりしながら必要な情報を見つけていく作業である。
  2. 情報発信(Publishing):ホームページを作成して情報を発信していく。学校側の要覧的な発信や募集・宣伝等にも使われているが、子どもたちや先生方が授業の一環(学習目的)として発信できる。
  3. 共同作業(Collaboration):ホームページを使用して、共同で作業を行う。全国各地にあるホームページ上に調査データを公開していくプロジェクトや作品の共同制作などがある。

表1にホームページの質的改善の可能性と問題点を列挙した。可能性を引き出していくことが教師の工夫のしどころである。また、ホームページ活用は試行錯誤の段階であるが、これらの問題点を踏まえた上での活用が必要であろう。


表1 ホームページの可能性と問題点

■可能性(質的改善)
●受け身型授業からの脱却(→情報活用能力の育成:情報発信とフィードバック、返事を返す必要性)●情意(意欲・関心・態度)面への効果(新規性:世界的な最新情報が入手できる臨場感:世界への情報発信による自信と満足感)●教室の壁を越える(時間・空間・社会的枠をはずす→開かれた学校:人と人とのつながりを広げる:社会を意識させる:意見収集、特に小規模校での可能性:遠隔共同作業:情報(教育)格差の縮小)●情報交換ネットワークづくり(教師と教師の授業づくりのための情報収集)●高度情報通信社会への対応:ネットワーク・リテラシーが身につく)

■問題点 
●プライバシー(子どもたちの個人情報発信と保護条例)●著作権●正確性(嘘の情報、個人レベルの発信)●混沌(ほしい情報を見つけにくい)●ネチケットやモラル(失礼なふるまい)●インターネット中毒 ●セキュリティ ●インフラ(接続環境が悪い)●時間がかかる(操作、練習等、アクセス)●コンテンツが充実していない(質が悪い大量情報)●インターネット導入・維持コスト●使っただけでの充実感と深く追及しない態度●趣味先行(何も教育的活動が考えられていない)●活用ガイドラインの未確立●望ましくない情報への対処●教科の枠にはまらない●ついていけない子どももいる●すぐあきる(見るだけだと、返答が返ってこないと)●教員のリテラシー●世間(教師以外の目)にさらされる●便利すぎる(クリックひとつで情報収集)


2、ホームページを教育に活用するための提言


(1)道具としてのホームページ活用
従来の教育メディアの延長上で、授業をよりよくするためのメディアの選択肢のひとつとしてとらえることである。ホームページだからといって無理に使う必要はないし、臆する必要もない。ただし、まだまだ良いも悪いも未知数なところも多く、接続環境によっても活用法はかなり左右される。ホームページ上で学校紹介を公開し、電子メールで交流するバックグラウンドとして使うなど、他サービスとの融合も考えたい。

(2)教師側のコーディネートが鍵
ホームページを公開する場合、見に来てくれるかどうかはわからない。どの学校と交流していくか、交流相手をあらかじめ見つけておこう。情報収集だけの場合でも便利なリストを用意しておく(見つけておく)ことも必要である。また、フィードバック(意見や感想)をもらえるかどうかが重要であり、更新の原動力ともなる。フィードバックは面白い情報には来るが、つまらないものにはなかなか来ない。子どもたちに発信をさせる場合は、反応の個人差への配慮も求められる。

(3)教師はどこまで管理するか?
情報発信は子どもたち主体で行い、教師は後ろから見守る程度にする。受け身型の授業から脱却するいい機会である。情報収集でも、自分でとってきた情報と与えられた情報では子どもたちの受け取り方が違う。一方で、教師は、子どもたちに望ましくない情報のフィルターの役割を果たす必要もある。ホームページ上にも文字入力できるところも増えてきたので、失礼なことや個人情報などを入力しないような、ネチケット・セイフサーフィンの素養を子どもたちに身につけさせておくことも大切である。

(4)情報を収集・発信したらそれでおしまいか?
ホームページを使うとそれだけですごいという風潮がある(新しいメディアは大抵そうだが)。ただ収集に使った、公開してみたで終わっていたら意味がない。ただ調べただけでおしまいにならないように、調べた結果を検討するための方向づけが重要な課題である。また、作品を公開すること自体でも意欲向上のためには効果的であるが、公開した後のこと(どこかの学校と鑑賞会を行うなど)も考えたい。インターネット社会の一員としての自覚を持ち、ギブ&テイクで成り立っていることに思いをはせてほしい。

(5)個人情報の発信は危ないのか?
インターネットは善人だけに使用されているものではない。ネットワークの向こう側にはどんな人がいるかわからないので、ホームページを公開する際、子どもたちのプライバシーの問題には注意したい。また、個人情報保護条例により、ホームページ上に子どもたちの本名などを載せられない場合もある。子どもと保護者の理解を得るのは大前提であろうが、子どもと保護者の理解はどこまで進んでいるのかは怪しい。さらに、他人が作った画像を複製・加工することなどによる著作権侵害の危険性もある。危ないといっていたらはじまらないが、危険を最大限回避していく教師のインターネットリテラシーが必要である。

3、おわりに

ホームページは非常にパワフルな道具であるから、使い方を間違えばダメージも大きい。しかし、パワフルな分だけ、授業を質的に改善する可能性を秘めている。本稿で挙げた可能性、問題点、提言を踏まえての創意工夫を期待したい。