『IMETS(メディアと授業の改善)』126号,72 - 76

インターネットの基礎を教える試み

〜タレ流し講義からの脱却を目指して〜


東北学院大学教養学部助教授 鈴木克明
東北学院大学大学院人間情報学研究科 市川 尚


はじめに

 昨年度と本年度の2年間、教養学部の専門講義として、総合科目「インターネットと学問研究」を企画・実行している。インターネットについて様々な研究分野からの視点で講義をするという趣旨で、インターネットの技術的基礎、自然科学研究とネットワーク、人文学研究と論文作成支援のデータベース、ネットワークの社会学、サイバースペースの心理学、ネットワーク社会の倫理などをそれぞれ専門の先生方が講義している。
 筆者(鈴木)は科目のコーディネータとしてその前座を受け持ち、インターネットの「イ」も知らない学生を想定して、基礎的なことがら教えている。何をどのように教えているか、しばし大学生に戻ったつもりでおつきあい願いたい。そこから、インターネットの教育利用についてのイメージを膨らませていただきたい。キーワードは、大学において最も得意とする「タレ流し講義」からの脱却、である。

第1回:いきなり2つの宿題

 教養学部で様々な専門分野の勉強をしている3年生100名弱が集まって、総合科目「インターネットと学問研究」の第1回目はスタートした。講義担当者全員がどのような内容の話をするかの予告編とともに自己紹介し、年間のスケジュールを示し、試験はしないで出席とレポートによる評価であることを説明した。そこで、いきなり2つの宿題を出した。
 ■宿題1:インターネットに関する入門書を買ってくること。自分が気に入った本でいい。あとで読んだ感想を書いて提出してもらう。
 ■宿題2:インターネットの活用方法として有名なホームページを見てくること。やり方がわからない人は、教育工学実習室で相談すること。

第2回:宿題をやる週

 講義は1週休みにして、初心者が宿題2をやるための手助けをした。筆者らのホームページ(教育工学実習室)を一部改造して、「初めての方へ」「総合科目インターネットと学問研究」「ネットサーフィンしよう」などのリンクを用意した(http://www.edutech.tohoku-gakuin.ac.jp/)。パソコンの電源の入れ方とマウスの操作方法、ブラウザの立ち上げ方法(2回クリック)だけを確認して、どうやってホームページを見て回ればいいかなどはホームページに教えてもらうようなつくりにしておいた。同じ部屋で仕事をしながら様子を見守り、呼ばれれば助っ人として参上した。

第3回:宿題の確認とビデオ視聴

 入門書を買ったかどうか(宿題1)、ホームページを見てきたかどうか(宿題2)を確認するため、購入した本を持参させ、本のデータと印象に残っているホームページをプリントに記入させた。その後、インターネットの歴史的背景と現状、今後の方向性を見事に紹介したビデオを見せた。ただ見せるだけだと寝込む輩がいるので、プリントの裏にメモをとらせ、ビデオが終わったら感想を書かせることを告げた。
 ビデオは、BS日曜スペシャル「メディア革命2:情報スーパーハイウェイ(1994.4.17放送)」。オンラインショッピングや医療などのイメージビデオで未来像を覗き、インターネットの起源がアメリカ軍の通信ネットワークであった過去を訪ね、父(上院議員)の高速道路建設が戦後のアメリカの繁栄を築いたのを目のあたりにした息子ゴア副大統領が情報高速網計画を推進しているという歴史の必然に触れ、国会図書館や学校での先進的な事例を紹介し、インターネットがバケツリレー方式・芋づる方式につながっているネットワークのネットワークであることを解説し、利用者の激増と回線容量の限界という問題やインターネットミュージック(オンラインデビュー)などのこれからの産業への影響などをまとめたものであった。これを言葉で説明しようとしたらいったいどれぐらい長い時間がかかるだろうか。

第4回:常識問題テスト

 宿題1で購入した入門書を「読んで何かを考えた証拠」として感想文を持参・提出させた。そのあと予告なしのテスト。インターネットについての常識問題10問(表1参照)に答えさせた。どの問題は自分で答えられて、どの問題は答えられないかを確認したあと、周りと相談。全部自信をもって記入できたら提出しなさい、と言い渡した。提出されたものはその場でチェックし、どこが不正解かのみを告げた。一発で全問正解する学生は約3割、その後も何度かチャレンジする者もあり、そのまま放置する者もあり、そこは自由意思に委ねた。この風変わりな導入講義(一度も話をしないで講義?)の意図を最後に話して、課題をこなした学生諸君が次回から始まる「ネットワークの社会学」を聴く権利を得たことを確認して、筆者の担当を終えた。

(表1をこのあたりに挿入)

自分で学ぶということ

 一度も話をしなかったこの風変わりな導入講義の意図とは、いったい何だったのか。インターネットの時代には自分で学ぶ姿勢が最も重要であるということを体験させたかった。講義という形が、印刷技術以前のいわゆる「口述筆記」の伝統を踏襲するものであるとすれば、それは、インターネットの時代にはおおよそそぐわない学びの形である。
 宿題1では、任意の入門書を1冊読ませた。これは、「立ち読み技術の習得」のためであった。立ち読みとはお金を払わずに漫画本に群がることだけではない。溢れる多種多様な本の中から、自分にあった本を選べるようになること。これが立ち読み技術である。インターネットの入門書は多すぎるぐらいにある。どの本が買うに値するものか、見極めてから買え。これは、ネット上では「ブラウジングの達人」になることに通じると思う。
 宿題2では、ホームページを覗いた。これは、「自分探しの旅」であった。自分は何に興味があるか、夢中になれるものがあるかを確認させたかった。ホームページは使い方によっては暇つぶしにしかならない。逆にのめり込めば時間を忘れるほどの魅力が埋蔵されている。探したいものがない人がいくらホームページを見ても、決してそれは面白いものではない。学生の中には、ホームページのどこが面白いのかと真剣に問う者もいる。それがただ与えられたものを消化することに慣れすぎているためでないことを願うばかりだ。
 確認小テストは、「タレ流しへの挑戦」であった。マルチメディア時代の学びにはただ聞いているだけでなく、自分で調べ、何が習得できたかを自分で確認する積極性・能動性が必要であること。今後の講義にもその姿勢で臨んでもらいたいことを確認したかった。講義では普通、確認小テストなどはない。だったら、自分で作ればいい。テストは評価点を決めるためだけのものではない。自分がどの程度内容を把握できたかを確認し、不十分なところは補い、一つずつ自分のものにしていくために欠くことができない道具である。本来それができるのが大学生なのだが、高校までにその訓練が十分行き届いているわけではない。今からでも遅くないから、自学する姿勢と技術を身につけろ。インターネットの時代には、そんな学びがふさわしい。大学における講義のスタイルがそう急激に変化するとは思えないが、受講方法によっていくらでも「インターネット的な学び」を実現する道はある。そんな思いを込めたインターネットの基礎を教える試みであった。

おわりに

 インターネットの教育利用で最も重要なポイントは、これまでの授業の常識や学び方の常識、あるいは先生と子どもの関係の見直しを迫っていることにある。何といってもそれが一番すごいことだと思う。常識問題として学生に課したテスト(表1)の答えとその解説を次の2ページに市川君につくってもらった。さて、それをすぐ読むことにするか、それとも独力で(入門書を買ってから)チャレンジしたあとで読むことにするか。それは読者の学びのスタイルと雑誌というメディアの限界に任せることにしよう。


表1.インターネットについての常識問題10
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1)インターネットとは何か? 一言で説明せよ。
2)インターネットの「インター」とはどういう意味か、「ネット」の意味は?
3)インターネットでは何ができるか? なるべく違うものを5つ挙げよ。
4)インターネットで問題になっていることは何か? 重要な3つを挙げよ。
5)インターネットとテレビとどこが違うか? 重要な2つを挙げよ。
6)1997年現在の世界のインターネット推定利用者数は? 最も近いものを選べ
◇70万人 ◇700万人 ◇7000万人 ◇7億人 ◇70億人
7)泉キャンパス情報処理センター(izcc)の登録者suzukiの電子メールアドレス何かは?
 これを使えば世界中どこからでも届くように記せ。
8)東北学院大学はまず東北大学に接続しているが、学院から東北大学までの回線料金は誰が払っているか?
9)WWWとは何の略か? それは日本語ではどういう意味か?
10)WWWで「ネット・サーフィンする」とは具体的に何をやることか?
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■常識問題テスト解答編■


1)インターネットとは何か?一言で説明せよ。
 「ネットワークのネットワーク」というのが本来の意味である。最近では世界中のコンピュータをつなぐネットワークという意味で使っている場合が多い。どちらでも正解とする。

2)インターネットの「インター」とはどういう意味か、「ネット」の意味は?
 「インター」という言葉は「の」「の間」という意味である。よくある誤答としては、インターナショナルといってしまうことがある。確かにインターネットは国際的であるからこう言いたくもなるがこれは間違いである。
「ネット」はネットワークのネットである。ネットワークというのは人の結び付きを示すものと物理的(コンピュータ)なネットワークの2種類あるが、こちらは後者のコンピュータネットワークを指す。しかし、インターネットを活用していくと、ネットワークの向こう側にいる人とコミュニケーションがとれること、つまりインターネットを介して人的ネットワークが広がっていくことのすばらしさがわかる。

3)インターネットでは何ができるか? なるべく違うものを5つ挙げよ。
 インターネットでできることは、電子メール(メーリングリスト)、WWW、ニュースグループ、FTP、TELNET、WAIS、gopher、CU-SeeMe、IRC、rlogin…などがある。これらはインターネットに接続している環境にあればソフトウエアさえあれば簡単にできる。特に教育関係では、電子メールとWWWの活用が大部分を占める。以上はインターネットで提供されているサービスの名称であるが、他の解答例としては、具体的にできることを書くこともできるであろう。例えば、オンラインショッピング、遠くの人たちとの共同作業、就職活動、アンケートを取るなどあげたらきりがないほどいろいろあるが、こちらを答えても正解である。

4)インターネットで問題になっていることは何か?重要な3つを挙げよ。
 インターネットで問題になっていることは、プライバシー、著作権、情報の正確性、子どもたちにとって好ましくない情報、情報過剰(混沌)、ネチケット、セキュリティ、インフラ、インターネット中毒などの問題がある。このうちの3つどれをあげても正解とするが、重要なものをあえて私が選ぶなら、教育で特に注目されているプライバシーの問題(ホームページに子どもたち個人の情報をどこまで載せられるか?)、著作権の問題(ホームページに画像等を載せる場合)、セキュリティの問題(学校のサーバに不正侵入される等)である。

5)インターネットとテレビとどこが違うか? 重要な2つを挙げよ。
 最も異なる点は、テレビは受信する(一方向)だけなのに対し、インターネットは受信と発信の両方をできる(双方向、インタラクティブ)ことであろう。またテレビはだれでも受信できるが、インターネットはID(インターネットに接続してあるコンピュータにユーザ登録されている)がないと使えない。またテレビは電波であるが、インターネットは回線を使用していることなどが挙げられる。普通ならインターネットとパソコン通信と比較するところだが、テレビと比較するところは鈴木先生らしい。ちなみにパソコン通信と比較するなら、パソコン通信はホストコンピュータに接続して利用するので、ホストコンピュータによってすべて左右されるが、インターネットは個々のコンピュータが対等につながっているので、中心のコンピュータというのが存在せず、それぞれのコンピュータが直接コミュニケーションをとれる点が最も異なる。最近はパソコン通信もインターネットに接続されているので、パソコン通信でもインターネットのサービスが受けられる。また、LAN(Local Area Network)との違いは、ローカルなエリア(学校なら校内だけ)で構成されるネットワークであるのに対し、インターネットはこのLANどうしが相互に接続したネットワークと見ることができる。

6)1997年現在の世界のインターネット推定利用者数は? 最も近いものを選べ◇70万人 ◇700万人 ◇7000万人 ◇7億人 ◇70億人
 最近のインターネットの利用者数は約一億人位の利用があるらしい(誰も本当のことはわからない)。そうすると最も近いのは7000万人ということになる。インターネット利用者は爆発的に増加を続けている。今後もっとネットワーク環境が整備されてくるであろうから、利用者数はまだまだ増加していくことだろう。例えば図1はインターネットに接続しているホスト数の伸びを示している。技術も急激に進歩しており、ついていくのがやっとという状態である。

7)泉キャンパス情報処理センター(izcc)の登録者suzukiの電子メールアドレス何かは?これを使えば世界中どこからでも届くように記せ。
 正解は、suzuki@izcc.tohoku-gakuin.ac.jpである。この電子メールアドレスは世界でただひとつの(ユニークな)ものである。この設問はかなりローカルなので、解答できた方はいらっしゃるであろうか?インターネットに詳しい人なら適当に考えて当たったかもしれない。電子メールはネットワーク内の郵便であるが、郵便には最低限相手先の名前と住所がないと届かない。この場合の電子メールアドレスにも名前と住所を@で区切り、「名前@住所」のような記述になっている。名前(suzuki)はインターネットにつながれたコンピュータに登録してあるユーザアカウント(ID)である。住所の部分は、右から日本(jp)、教育機関(ac)、東北学院大学(tohoku-gakuin)、泉キャンパス情報処理センター(izcc)のようになっている。例えばNTTなら、ntt.co.jp(coは企業を表わす)となる。

8)東北学院大学はまず東北大学に接続しているが、学院から東北大学までの回線料金は誰が払っているか?
 東北学院大学(以下学院大)が回線料を払っているといのが正解である。さらに学院大の学生の学費というも一応正解と言えるだろう(実際に書いた学生がいる)。東北大学が以前からインターネットに接続していて、そこに後から学院大を接続してもらった。この場合学院大は自分で新たに引いた回線料だけを払い、東北大学より先の部分の回線については、無料で使わせて頂いているのである。インターネットに接続するのはこのように後から接続したものは自分で引いた回線のみを払っていけばよいことになっている。東北大学も自分で引いたところから先の回線については払っていない。学生の誤答としては、東北大学からの情報は東北大学が、学院大からの情報は学院大が払うなどという答えもあったが、情報単位でカウントしていられないから(アメリカの情報をとってくる場合はどうなるんだ?)このような制度が生まれているのである。

9)WWWとは何の略か? それは日本語ではどういう意味か?
 インターネットブームの火つけ役と言われているWWW。このWWWとはWorld Wide Webの略語である。誤答としては「Web」を「Wave」と書いてきた学生もいる。聞き間違ったのかネット・サーフィンという言葉から連想したのかはさだかではない。WWWの意味は世界中に張り巡らされた蜘蛛の巣(Webは蜘蛛の巣の意)である。蜘蛛の巣のように網の目上に情報が点在していることから来たのであろう。WWWの特徴はそれらの情報をクリックするだけという簡単操作で参照でき、また画像などのマルチメディア情報も扱うことができる。なんといっても最大の特徴はインターネットに接続していれば手軽に情報公開ができるということにある。

10)WWWで「ネット・サーフィンする」とは具体的に何をやることか?
 WWWでホームページを渡り歩きながら情報を収集していくこと。ホームページをリンクをたどって次々と移動していくことから、情報の波の乗っている(サーフィン)しているということからネットサーフィンするという言葉が使われている。

図1 インターネットのホスト数の統計
 Network Wizardsによる「Internet Domain Survey」より
 (http://www.nw.com/)