『教職研修』1999年3月号原稿

23.中学校においてコンピュータや
 情報通信ネットワークの活用をどう工夫するか


東北学院大学教授 鈴木克明



---------具体化のポイント---------
(1)コンピュータ活用目標を教科ごとに設定しよう
(2)各教科ごとにホームページで情報発信しよう
(3)全教員が高度情報通信社会の一員になろう
(4)情報手段を生徒の共有財産にしよう
(5)校内ネットワーク(イントラネット)を整備しよう
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 新学習指導要領の総則第6(9)には,現行指導要領の記述に加えて,「各教科等 の指導に当たっては,生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を 積極的に活用できるための学習活動の充実に努める」と明記された。日本全国の全学 校を平成13年度までにインターネット接続するために,二千六百の中学校に毎年度 導入していく整備計画も打ち出された。

 新指導要領の目玉の一つとして高校に情報科が新設され,中学校の技術・家庭科の 「情報基礎」が「情報とコンピュータ」に拡充,その一部が必修扱いとなった。「総 合的な学習の時間」でも,「情報」が例示され,「国際理解」や「環境」等の課題に 取り組ませるときにも情報手段の活用が期待されている。開かれた学校を実現し,生 徒の主体的な学習活動の成果を発信し,他校との交流を深めるためにも,情報手段の 有効利用が不可欠である。そのために求められる意識変革と課題は,決して小さいも のではない。

 小学校に先駆けて中学校に導入されてきたパソコンであるが,「情報基礎」に使う ために設置されたものという先入観も広まってはいまいか。パソコン室の利用状況を 改めて見直し,どうすれば各教科での情報手段の活用が推進できるかを検討する必要 がある。

 新指導要領に明記されるまでもなく,高度情報通信社会に巣だっていく生徒たちが ,学校の変化を待ち望んでいる。その見本となるべき教師たちが,少しずつでも自分 から変わっていくことが求められているということを,自覚することが肝要である。 各学校で今後検討される新学習指導要領への対応には,そのすべてにおいて「情報」 という角度からも光をあて,「情報手段を積極的に活用できるための学習活動の充実 」を目指したい。具体化のポイントを以下に6つ挙げる。


(1)コンピュータ活用目標を教科ごとに設定しよう

(1)教科ごとにコンピュータ活用のアイディアを集め実践する。全教科共通課題と しては,「ホームページで情報を集める授業を各学年で年に1度はやろう」や「表計 算ソフトのグラフ化機能を活用した授業を各教科で1つは考えよう」などはどうだろ うか。個別課題としては,理科では測定器具との連動,音楽ではMIDI,国語ではワー プロ,数学では作図ソフトなど,教科固有のパソコン活用法で,たとえば年に1回は パソコンを活用した授業に取り組むという目標も掲げる。


(2)各教科ごとにホームページで情報発信しよう

(2)学校ホームページに各教科ごとのページを持ち,情報を発信する。どんな情報 を発信するかは,各教科で話し合って決めていく。その過程で先進校のホームページ も参照することになり,教科ごとにどんな活用方法があるかを知る契機にもなる。生 徒や保護者へのメッセージ,パソコン利用授業のあらまし,教科関連の情報収集リン ク集,生徒の学習成果の発信などから始める。他にも希望する先生には「先生のプラ イベート・ルーム」を設けて,趣味の世界や子どもの頃の話,あるいは最近の出来事 など,先生の人柄が生徒に伝わるような工夫をする。ホームページは,高度情報通信 社会における「顔」である。先生がどんな顔を生徒に,保護者に,そして地域社会に 見せていくのかという観点から,発信内容を検討したい。


(3)全教員が高度情報通信社会の一員になろう

(3)教員全員が電子メールアドレスを持つ。校長・教頭が率先して,電子メールを 送受信しあうことがどれほど便利なことかを広めていく必要がある。朝と放課後の毎 日最低2回は電子メールを読むことを習慣にする。電話が便利なのは,誰でもが電話 を持っているからであり,電子メールを便利な道具にするためには全教員が使うこと が必須である。校内の連絡事項はもとより,教育委員会からの通達配信,教育研究会 の事務連絡や定例会前の事前打ち合わせなどがスムーズに実現できる。電子メールの アドレスが明記された名刺を教員全員が持つようにしたい。


(4)情報手段を生徒の共有財産にしよう

(4)コンピュータ部・パソコン委員会などを組織し,生徒の手で運営させる。パソ コンが得意な子どもを育てることで,進路指導の一環とする。先生が生徒に教えても らう場面を用意し,お互いが関係の逆転に慣れる。応用ソフトやネットワーク活用技 術を認定し,当番制で相談員として活躍する場を与える。生徒全員が電子メールアド レスを持つことも当り前の時代が,すぐ来る。電子メールも利用技術認定の一つとし ,外部とのメール送受信は校内メールでマナーを教えてから許可するなど,一歩ずつ 高度情報通信社会に仲間入りさせる。技術・家庭科「情報基礎」は1学年1学期へ配 当し,他の教科での基礎となる応用ソフトやインターネットの使い方,パソコンの利 用ルールなどを教える。


(5)校内ネットワーク(イントラネット)を整備しよう

(5)父母や地域を巻き込んで,ボランティアで学校内にネットワークを張るイベン ト(ネットデイ)を企画・実施する。機種更新などで余ったパソコンも捨てるのはも ったいない。ウインドウズが使えない中古機でも,ワープロ機能は十分使える。イン ターネットも図書室にあるパソコン1台でしか使えないのでは意味がない。まず職員 室のどの机からも電子メールが使えるように,次には特別教室や普通教室からもアク セスできるように,学校中に情報コンセントを設置する。お金をかけずに手間ひまか けて,愛情あふれる情報環境を構築し,盗んだり壊したりする生徒もなくしたいもの である。

 新しい酒(指導要領)にふさわしい新しい皮袋(学校)を目指す趣旨からは,ノー チャイムの教科センター方式による中学校の実現を目指したい。武藤ら『やればでき る学校革命』日本評論社,一九九八年の一読を勧める。