『教職研修』1999年12月号原稿(1999.11.1.脱稿)
特集:2000年の学校経営戦略(1)創意を生かした教育課程の編成と学校経営上の課題


11. 情報教育充実のための環境整備と学校経営上の留意点


岩手県立大学ソフトウェア情報学部教授 鈴木克明



対応のポイント

●情報教育の実現・推進については,2001年度がインターネット接続の目標年であることを念頭に,学校経営の重点課題の1つとして捉え,周到な準備をする。

●バーチャルエージェンシー「教育の情報化プロジェクト」の提言を熟読し,情報教育の目指す方向性を学校における設備,活動,カリキュラムの面からイメージする。

●具体的な方策としては,校内ネットワーク整備と利用計画,情報教育のカリキュラム,インターネット利用ガイドライン,研修計画を含めて環境の整備を図る。


2000年の情報教育

 新教育課程実施に向けての移行措置開始を目前に,2000年度は情報教育にとって重要である。高等学校普通科への教科情報の新設,中学校では技術家庭科の情報基礎を拡充した情報とコンピュータ,そして,小学校から高等学校までの「総合的な学習の時間」における情報教育の重視。どれをとっても,周到な準備が必要であり,学校経営においての重点課題の1つとして捉える必要がある。

 コンピュータの導入以来,新しい授業実践の創造,あるいは,教師の授業準備・校務処理の簡素化などが目指され,着実に教育の情報化が浸透している。ほとんどの教師がワープロで文書を作成し,成績処理や調査書の作成がコンピュータ化される事態を,誰が予想できたであろうか。ワープロの次はパソコン,そして,情報通信ネットワークの活用。授業以外の利用から始まった情報化が,いよいよ子どもとの直接接触を前提とした授業の「正面」に据えられる。授業の常識を問い直すことを迫り,教師と子どもの新しい関係を予感させながら。

 周知のとおり,文部省は,「21世紀を担う子どもたちに,情報の活用能力や国際性を養うため,すべての学校をインターネットに接続し,その積極的活用を推進する」とし,平成13年度(2001年)までにすべての学校をインターネットに接続する計画を進行中である。

 最近の調査によれば,平成 11年3月31日現在で,インターネットへの接続校は13,945校である。この数字は,全国約4万校の35.6%にあたり,平成10年度のみで,6,400余校が新しく接続を果たした。残りの65%の学校で,今年度か来年度中の接続が待たれていることになり,情報教育の基盤づくりが急速に進んでいる。


バーチャルエージェンシーが掲げた
2001年以降の方向性

 文部省生涯学習局長をリーダーとした内閣総理大臣直轄の省庁連携タスクフォース(バーチャル・エージェンシー)「教育の情報化プロジェクト」は,教育委員会・学校現場・企業からのヒアリングを行いつつ検討を進め,平成11年7月に総理に報告を行った。学校を中心とした教育の情報化を推進するため,全国の小中学校等におけるコンピュータの整備充実,インターネットの活用,情報化に精通した人材の活用等を推進する方針として,2005年を目指して,次のような施策を総合的に推進することを提言した。2001年以降の方向性が示されており,一読に値する(文部省ホームページhttp://www.monbu.go.jp/に全文が公開されている)。

●教育の情報化によって目指すべき目標

【子どもたちが変わる】
主体的に学び考え,他者の意見を聞きつつ自分の意見を論理的に組み立て,積極的に表現・主張できる日本人を育てる。

【授業が変わる】
各教員がコンピュータ・インターネット等を積極的に活用することにより,子どもたちが興味・関心を持って主体的に参加する授業を実現することができ,日本の教育指導方法が根本的に変わる。

【学校が変わる】
学校における情報化の推進は,上記にあげた教育活動上の効果をもたらすだけでなく,学校運営の改善,学校・家庭・地域の密接な連携などを促進し,日本の学校のあり方そのものを変える。

●ハード面の施策
 全国の学校のすべての「教室」にコンピュータを整備し,すべての教室からインターネットにアクセスできるように,インターネットの高速化を図る。また,すべての教員が1台ずつのコンピュータを専用で利用できるようにする。

●ソフト面の施策
 平成13年度までにすべての教員が操作できるように研修の充実を図り,情報化担当の教員を明確にし,情報リテラシーを有する教員の採用を促進するなど,すべての教員がコンピュータを活用して指導できるような体制をつくる。「コーディネータ」や「ヘルプデスク」,あるいはボランティアなど,地域や民間の人材を活用して学校の情報化をサポートする。質の高い教育用コンテンツの開発を促進し,「教育情報ナショナルセンター」を整備する。


 すべての学校へのインターネット接続を果たす目標の2001年から,たった4年後を目標に,すべての「教室」にインターネット整備を実現すべきとの提言である。米国において達成が間近である「2000年までにすべての教室にインターネットを」という国家目標に追従した形になっているが,今まで以上の急速な変化が想定されている。

 様々な問題で揺れる学校を生まれ変わらせる手段としても,教育の情報化が期待を集めていると読むことができる。学校経営を担う現場サイドにも,用意周到に,しかし大胆に,改革の方策をリードしていくことが求められている。


情報教育環境のイメージ

 さて,教育の情報化によって変わっていく学校をイメージしてみよう。ここで述べることは,筆者がこれまでに見聞してきた先進校の実情などに基づいている。「ふつう」の学校においても,それほど遠くない将来に実現してもおかしくない学校像と考えていただきたい。

●設備

 学校に初めてインターネットが接続された時,回線は学校図書室に引き込まれた。数台のパソコンでインターネット接続ができるようになり,同時にいくつかのCD-ROM教材で調べ学習ができるようになった。地域の協力によって校内ネットワーク(LAN)を張り巡らせた時,校長室や職員室でもインターネットが利用できるようになった。まだすべての教室にパソコンが配備されているところまでは至っていないが,必要な時はノート型パソコンを借り出せば,コンピュータ室に行かなくても教室からインターネットが使えるようになった。PTAや卒業生の寄付で,インターネットにつながるパソコンの台数も徐々に増えている。

●活動

 始めはパソコンの扱い方ばかりを指導していたが,最近ではみんな慣れてしまい,自在に使いこなすようになった。パソコンクラブの部員が率先して教えているからだろう。自分が得意なことを友達の前でできることがうれしいらしい。嫌がらずに,いつでも面倒を見てくれるので大助かりだ。先生方も最初はおそるおそるだったけど,慣れるにしたがって,自然体で使えるようになった。自分で全部把握してから子どもに教えるという癖も抜けて,分からないところを子どもに聞くことにも慣れてきた。

 情報教育の活動はパソコンの前に座って黙々と取り組むものかと思ったが,デジカメや取材道具を抱えて,よく動き回っている。インタビューの仕方や,集めた情報のまとめ方も身についてきたし,他の学校の子どもたちとも電子メールをやり取りして情報を集めている。

 ホームページも最初は見て回るだけだったが,最近では自分たちでつくったページをマナーを守って使いながら,交流の輪を広げている。「総合的な学習の時間」で始まった活動が,だんだん教科の時間にも影響を及ぼして,気がついたら子どもが黙って座って聞いているだけの授業時間がずいぶん短くなっている。

●カリキュラム

 最初はとにかく何かやってみましょう,という具合に始めた情報教育だったが,最近では,様々な活動が活発に行われる土台として,情報教育のカリキュラムが学年進行に従って,整ってきた。楽しんで活動しているうちに,子ども1人ひとりにしっかり実力がついている。

 最初は情報教育を意識して取り入れようと努力していたが,徐々に各教科の学びに溶け込んだ形になった。先生方も,積極的に研修に参加してきた成果だろうか,様々な形の授業が展開できるようになってきた。効率的に校務が処理できるので,子どもと過ごす時間や,授業の中身について考える余裕も出てきた。

 何といっても,決まりきったことを紋切り型の方法で教えていた頃と比べて,先生方もいろんな工夫ができるのが楽しいのだろう。ああでもない,こうでもないと,先生同士でアイディアを出し合って,楽しく授業の準備ができるようだ。学年合同の授業や,複数学年で協力する授業も,以前に比べて増えてきた。この学校らしさが,少しずつ形になってきたのかもしれない。いや,先生方の個性が光ってきたのだろう。


対応への具体策

 さて,教育の情報化が目指す方向に学校を徐々に向かわせるには,どうしたらよいだろうか。具体的な方策と学校経営上の留意点をいくつか指摘しておく。

●校内ネットワーク整備計画と施設利用計画をつくる:

現在の校内の情報教育関連機器及びネットワークの整備状況を踏まえ,整備計画を立案する。その際に,すべての教室へのネットワーク整備を最終目標とし,段階的に実現するための方策を考える。また,既存の施設設備の利用状況を踏まえ,施設の利用割り当てを大筋で計画し,全校が何らかの形で関与できるようにする。

●情報教育カリキュラムを作成する:

学年進行と教科の関連を念頭に,情報教育のカリキュラムを学校単位で立案する。パソコンやネットワーク関連の実践力に留まらず,情報収集・活用・発信のための基礎技能や行動力を総合的に育成することを目指して,インタビューやプレゼンテーション技術,取材や作品構成のノウハウなど,(コンピュータ教育ではなく)情報教育の観点から既存のカリキュラムを総ざらいすることから始める。

●インターネット利用ガイドラインを整備する:

ガイドラインとは、都道府県、市町村、学校等がインターネットの利用や、個人情報の取り扱いに関して策定したものなどを示す。インターネットを利用する際には,学校経営の観点からガイドラインにしたがった利用を徹底させる必要がある。文部省調査によると,5,207校(インターネット接続学校の 37.3%にあたる)が,ガイドラインを設定している(平成11年3月現在)。

 ガイドライン項目を明示し,それを指導に生かすことによって,情報教育の重要な内容が整理できる。情報公開にあたっては,保護者からの同意を得ることなど,制度的な整備を徹底したい。また,そのプロセスを通じて,情報教育を始めとする学校の諸活動に対する保護者の理解を深めることにもつなげたい。

●情報教育研修計画をつくる:

情報教育の研修は操作技能の研修の域に留まらずに,新しい授業をつくり出していくための具体的なノウハウと,新しい形の学習スタイルを経験できる場に脱皮しつつある。教育の情報化関連で,各種の研修カリキュラムが整備され,研修用の教材も開発されている。それらを積極的に取り入れて,校内のリーダー的人材を育成し,校内組織を整備すると同時に,全教員を対象にした情報教育研修を計画し推進する。また,地域に配備される予定の情報教育推進コーディネータやSE派遣事業などとの連携も視野に入れたい。



【脱稿後の追加情報】 参考: