『授業研究21』2000年5月号原稿(2000.2.15脱稿)
特集:情報活用能力はどんな授業で育つか
3.インターネット時代の発信・交流型の授業づくり(1)


発信・交流型授業づくりの七つのチェックポイント


岩手県立大学ソフトウェア情報学部教授 鈴木克明



はじめに

 インターネットを活用した発信・交流型の授業実践が,全国に広がっている。ホームページや電子メールは,学習のための情報を収集するための道具としても使われているが,それと同時に,子どもたちの学習の成果を蓄積し,学校内外に発信するための道具にもなる。また,学習を進める中で他の学校や地域と交流し,互いに情報を交換して学びを深めることもできる。

 筆者らは,ホームページが学校でどのように利用されているかについて,五年程前からその実態を調査している。ホームページ利用が始まった頃は子どもたちからの発信はあまりなかったが,最近では,子どもたちによる発信事例が増えてきた。実態の詳細は,学会発表や論文,『New教育とコンピュータ』での連載,あるいは,研究室のホームページで公開しているので,参考にしていただきたい。

 ここでは,個々の実践を詳細に紹介する代わりに,実践を見聞きする中であぶり出された留意点について説明していく。発信・交流型の授業実践を計画する際の,あるいは,実践事例を分析するときの観点として役立てていただければ幸いである。


●「伝えたい何か」を得る過程を重視する

 学習の成果を発信したり,他と交流するためには,「伝えたい何か」を得るプロセスが大切である。一生懸命調べてようやく分かったこととか,いろいろ悩んだ末に出来上がったものがあれば,これを是非,多くの人に伝えたい,という気持ちになれる。最初から発信や交流を前提に学びに取り組むことも,目標を与えるという意味では効果がある。一方で,発信する意味があるものが見つかるかどうかは,学んでみなければ分からない。発信を急ぐ余りに,「伝えたい何か」を追究する時間が疎かにされることがないように留意したい。


●見栄えよりも内容を重視する

 プレゼンテーション用のソフトウェアが誰でも気軽に使えるようになってきた。ホームページ用にも,壁紙や動くイラストなどの素材が著作権フリーで提供されて,可愛らしく着飾った情報発信が手軽にできる。一方で,「あれ,これどこかで見たことがあるなあ」と気づくことも多い。発信用の道具が充実する一方で,発信する内容が薄っぺらになってきたという警鐘も鳴らされている。プレゼンテーション資料作成よりもアイディアを練ることに時間をかけて,見栄えだけよくて中身がないものにはしないように。


●発表のあとで修正するチャンスを準備する

 発表を意識すると,他人が分かり易いように情報を整理することで,自分自身の考えをまとめることができる。さらに,発信した情報について他人からの反応を得ることで,自分で気づかなかった点を教えてもらうこともできる。発表に対する意見を活用するためには,修正する時間的・精神的余裕が必要になる。「もうここまでやった以上は直したくない」という状態では,誰が何を言おうと聞く耳を持つことはできない。中間発表的な位置付けでの情報発信であれば,さらに良いものを目指すゆとりができる。


●よい聞き手(受信者)になるトレーニングをする

 自分の順番が回ってくるまでは自分の発表に向けての準備に余念がなく,自分の発表が済んでしまえば放心状態になる。子どもの発表会だけでなく,良く見られる光景である。「人の振り見て我が振り直せ」の格言通り,自分以外の発表から学べることは多い。良い聞き手になるトレーニングは,良い発表者を育てる。お互いにチェックリストを使って評価しあうとか,コメントシートを使って全員からのコメントを得られる仕組みをつくるなど,内職ができない状況を工夫したい。発表の分かりにくかった点を質問できるようになれば,よい聞き手に近づいたと判断することができる。


●持続できる交流を計画する

 交流型の授業では,「継続」がキーワードである。長期間にわたる交流を計画することで,一発花火的なイベントではなく地に足がついた日常的な交流を実現できる。さまざまなメディアを組み合わせて,「交流をいかに長続きさせるか」を考えたい。電子メールやビデオレターによる自己紹介に始まり,お互いの紹介をホームページに公開して相互に鑑賞しあう。何か共通のテーマを設けて,お互いの地域の情報を交換しあう。そしてホームページやテレビ電話で発表したりするなど,長続きさせる計画を立てるとよい。


●交流相手の迷惑を考える

 交流型の授業が盛んになるに連れて,全国各地からの問い合わせが殺到している学校が問題を抱えるケースが増えている。交流希望が多すぎるのである。「交流」には対等の関係が基本であり,ギブ・アンド・テイクが原則。相手の迷惑を考えることは大切なエチケットであることも教えなければならない。たとえば,一つの大きなテーマのもと参加を呼び掛けているプロジェクトに加わる交流では,自分の地域や学校からの情報を提供することを条件に,他地域の情報を得て学習を深めることができる。いきなりメールで質問するよりも,交流相手を募集しているホームページを活用するなど,迷惑を掛けずにお互いの利益になる方法を考えたい。


●「先生同士の切磋琢磨」を交流の目的にする

 交流型の授業では,子どもたち同士がお互いに刺激を受け合い,与え合い,視野を広めることができる。それは同時に,今まで閉ざされがちであった先生方の実践を互いに見せ合い,切磋琢磨する場にもなる。同じテーマで授業を展開して,いざ合同発表会を迎える時に,「自分のクラスよりは相手のクラスの方が味わいのある,深い活動を展開してきているぞ」と思うこともあるだろう。どうせ交流相手を選ぶのならば,ライバル同士になれるような先生のクラスを相手にするとよい。交流授業の成果を話し合いながら,次の実践を高めあえるような仲間を増やすことを,先生自身の目的に据えたらどうだろうか。