『NEW教育とコンピュータ』2000年8月号原稿(脱稿2000.6.8.)
特集:インターネットでの検索


「同姓同名探し」から見えてくるもの


岩手県立大学ソフトウェア情報学部教授 鈴木克明


導入課題:同姓同名を探そう

 大学での事例で恐縮だが,Web入門課題の一つとして,「同姓同名を探そう」が好評である。大学でもそんなにつまらないことをやっているのか,と言われそうではあるが,この課題はなかなか奥が深い。絞り込み検索の威力を教える題材として,小学校高学年から使えるのではないかと思う。

 この課題では,まず最初に,カテゴリー型の検索エンジンを使い,自分の調べたいことについて,大きなジャンルから徐々に小さなジャンルを選択する体験をさせる。次に,全文型(ロボット型)の検索エンジンを使って,自分の「同姓同名」を検索する。このとき,「姓のみ」,「名前のみ」,「姓」+「名」(2語),「姓名」(1語)での検索を試みて,そのヒット件数の変化を記録させ,違いに気づかせる。

 この数の変化と,「なぜ2語で調べると自分と同姓同名が出てこない場合があるのか」を考えることで,絞り込み検索とはどんなことかがよく理解できるようである。次の課題「最近習った専門用語について,絞り込み検索を使って調べてみよう」で,いかに情報検索が便利かを体験する導入としての位置づけである。


2語検索と1語検索

 たとえば,筆者の姓名で検索をかけると,「鈴木」では320,178件,「克明」では3,838件であるが,「鈴木+スペース+克明」(2語のAND検索)だと1,434件,「鈴木克明」(1語)だと335件に減少する(いずれも,2000.6.8.現在,「goo」を使用した場合)。「鈴木+スペース+克明」だと,たとえば,鈴木宏正さんと川地克明さんが載っている「1994年度 精密機械工学科研修旅行のページ」がヒットする(古い情報!)ために生じる違いである。

 別の検索エンジンを用いると,ヒットする件数が異なってくる。「goo」では335件であった「鈴木克明」は,「Infoseek」では413件,「InfoNavigator」では106件であった。表示される検索結果も,その順番も,同じではない。用いているロボットの仕組みの差が現れているのだろうか。「Lycos」では,2,016件がヒットして驚いたが,「鈴木+スペース+克明」にしても結果は同じ件数だった。姓名だと検知して,2語検索が採用されたのだろうか。


他人の存在で広がりを知る

 次に,「同姓同名」でヒットした件数のうち,「自分」と「他人」の件数をわけて報告させる。「自分と同じ名前の人がいることに親近感を覚えた」という感想(他人の場合)や,逆に,「自分が何かの懸賞にあたっていたことを知らなかった」(自分の場合)という驚きまで報告される(本当に本人なのかはわからないが)。インターネット世界の広がり,自分の名前が知らないうちに公表されているインターネット世界の危うさなどを,身を持って体験することになる。

 確かに,これはやってみると大人でもおもしろい。鈴木というのはありふれた名字であるが,克明はそういないだろう,まして,同姓同名となれば,と思って調べると,結構,同姓同名の方がおられる。某ソフトウェアライブラリに登録しているコンピュータプログラムの作者,動画通信を研究している某社移動通信システム事業部のエンジニア,某自動車メーカーのシステム部に勤務する方,ダウン症の本の訳者,某レコード会社の販売促進部長,岡山県に住むとある数学パズル懸賞当選者,某コピー会社の商品開発部員,民放テレビ局のチーフプロデューサー,神奈川県で最優秀出塁率を記録した草野球選手,筑波のロードレースで20位になったライダー,あるいは,某菓子会社が募集したバレンタインデー記念の俳句コンテストに入賞した静岡県の方もいらした。

 断わっておくが,これらはどれも,筆者の情報ではない。誰かがWeb上で筆者の情報を得ようと思って検索したとすれば,もしかして,思わぬ誤解を与えるかも知れない(あの人いつ企業に転職したんだろう,とか,特殊教育にも明るいんだ,とか,バイクをやるとは思わなかった,など)。ところで,筆者の知り合いの大学教員が指導した学生リストの中に,「映画『風と共に去りぬ』と南北戦争の人間愛について」を卒論のテーマにした同姓同名の学生が見つかったのには驚いた。こんどあの先生にお会いしたら,「私の卒論の出来はどうでしたか」と尋ねてみようと思う。


自分を再発見する

 鈴木克明(自分)のことについてでも,知らなかったページが見つかる。かの有名な大阪教育大学のサイト「インターネットと教育」に自分がかつて公表した論文へのリンクがあったり,出版社がかつて自分が書いた論文を紹介しているページもあれば(宣伝ありがとう),研究仲間が筆者のことについてあれこれ語っているページもある。学術雑誌目次速報データベースに著者として登録されているものもあれば,見知らぬ研究者や大学院生がかつて筆者が書いた論文などに注釈を付けて紹介リンクをはっているのに出会ったりもする。

 Web上に情報公開をしておくことで,知らない間にたくさんの人が見に来てくれたんだな,と実感できることは嬉しいものだ。考えてみれば,筆者のサイトで公開している論文も,相手が「検索」した結果,発見されたに違いない。最近では,「筆者のURLは◯◯です。」とアナウンスするかわりに,「岩手県立大学」と「鈴木克明」で検索すれば,筆者のWebページに到達できます,と言うようにしている。長ったらしいURLを言う手間も,書き写す手間も,ついでにそれを入力する手間も省くことができる。

 検索は奥が深い。上手に授業の中に取り入れ,インターネットの世界を実感させていただきたい。同姓同名検索のような言葉遊びから発展させて,検索エンジンの仕組みを体験的に理解させるのと同時に,さまざまな出会いを体験したり,ことばへのこだわりを追究したり,飛べないリンクにいらだったりすることで,様々なことを学べると思う。正しい使い方を覚えさせるんだ,という焦りを忘れて,遊び心と予期せぬ出来事に身を任せてみてはいかがだろうか。むろん,フィルタリングなどの予防策は万全に整えてから。