鈴木克明(「4.子供の学習活動の変化と『生きる力』の育成(中学校)」赤堀侃司(編)『身につけたいパソコン活用能力——情報化社会の学校管理職』(学校管理職スキルアップ講座No. 3)、 (財)教育調査研究所発行


4.子供の学習活動の変化と『生きる力』の育成(中学校)


岩手県立大学ソフトウェア情報学部教授 鈴木克明


ステップ1:中教審の『生きる力』を確認する


 インターネット上の情報を検索エンジン(google.com)を使って「生きる力」の意味を調べてみた。約66,000件の中には、1930年2月封切の白黒無声映画「生きる力」に始まり、両手両足の切断の障害を抱えながらもたくましく生き抜いた女性の生涯のドキュメントビデオ、宇宙エネルギーを生活に取り入れる方法を扱った本、会員360人のメーリングリスト、食と農で「生きる力」を育む総合学習展示、さらには、教師によるエッセイ「面白半分式生きる力テスト」「子どもの願いをかなえることが生きる力か?」などが登場した。インターネットは言葉のイメージをつかむ絶好の道具となる。

 兵庫県立教育研修所では、図書室所蔵の「生きる力」文献リストとして雑誌・資料・図書をあわせて554件の資料情報が表示される。大変ありがたい検索スタート地点である。2000年 6月公開の「放送分野における青少年とメディア・リテラシーに関する調査研究会」報告書(総務省)では、メディア社会を生きる力としてメディア・リテラシーをとらえ、施策の方向性を提言している。一度目を通してみたい資料が見つかった。

 「生きる力」を盛り込んだ中教審答申の全文(平成8年7月の第一次答申)も、まだインターネット上に公開されている(http://www.monbu.go.jp/ singi/cyukyo/00000151/)。パンフレットの次の説明を確認しておこう。

これからの教育は[ゆとり]の中で[生きる力]を育成することを大切にします。これからの社会は、変化の激しい、先行き不透明な、厳しい時代と考えられます。そのような社会では、子供たちに[生きる力]をはぐくむことが必要です。[生きる力]とは?

・自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する能力

・自らを律しつつ、他人と協調し、他人を思いやる心や感動する心など豊かな人間性とたくましく生きるための健康や体力

中央教育審議会では、これらの力を[生きる力]ととらえました。



ステップ2:多様な学びに共通な流れをつくる

 次に、中学校で生きる力を育てるための学習活動を再点検する。生きる力が総合的な学習で培われているか。ここでは、総合的な学習で扱う多様な学びに共通な流れを意識することが大切だと思う。学習の流れを意識することで、多種多様な活動の中で身につけさせる力の共通項を考えることができる。国際理解や環境をやるから総合なのではなく、そこで問題解決能力が育つのが総合なのだから。

 群馬大学教育学部附属中学校が平成10年度から3カ年計画で取り組んできた「生きる力を主体的に身に付けようとする生徒の育成」を主題とする研究が参考になる(http://wind.edu.gunma-u.ac.jp/fuzoku/chu/sub2.htm)。生徒の生活に最も密着した、ふるさと・郷土を学習の視点とし、問題解決能力、調査能力、報告・発表力、討論の仕方、ものの見方・考え方等の力の獲得を目指す実践を展開している。「生きる力」を育むための学習過程について、各教科の学習と総合的な学習に共通する段階があると考え、次の6つに整理している。

 [Ⅰ 課題把握]→[Ⅱ 計画立案]→[Ⅲ 情報収集]→[Ⅳ 追究]→[Ⅴ 確認]→[Ⅵ まとめ]


総合的な学習での問題解決的な学びのプロセスを、各教科の学習にも取り入れていくことで「生きる力」の育成につなげていこうとした点が、大いに参考になる。学習展開を共通にすることで、各教科での取り組みが比較検討でき、子どもの中で統合されるチャンスが出てくる。


ステップ3:多様な学びを見取り図で整理する

 総合的な学習にとどまらずに、教育課程全体を見渡す。たとえば、「総合的な学習の試行から魅力ある学校づくりへ」をテーマに平成9年度から実践研究を進めてきた信州大学教育学部附属長野中学校では、必修教科等の学習、選択教科の学習、総合的な学習の教育課程における役割と関連を明確にした3本立てのカリキュラムを図のように整理している。大変わかりやすい。





((図を挿入))





出典:信州大学教育学部長野中学校編著(2001)「アイデンティティ形成を扶ける学校づくり」日本文教出版、18ページ(URL: http://www.avis.ne.jp/~jnfuzoku/)

 硬い構造をもってみんな同じ目標に向かって学習を進める従来からの教科学習を基礎(左下)において、目標の幅を持たせて子どもがやりたいことを目指せる選択教科(カルチャータイム)で縦方向に広げる。横方向へは、より柔軟な構造を持たせる総合的な学習(ヒューマンタイム)で広げる。それらをつなげる要素として、問題解決的な学習を位置づけている。必修教科等の学習と総合的な学習、そして選択教科の学習の3つをつなぐものとして、必修教科等の学習や選択教科の学習にも問題解決的な学習を組み込んでいる点が注目に値する。カリキュラム全体を通して「生きる力」を育てていこうとする点が明確に示されている。

 数年に及ぶ実践を通して、課題設定や情報活用等の場面で、学習時間の不足を訴える生徒が多くなることなどを経験し、教育課程全般にわたって学習時間や授業時数を弾力的に運用することが成功へのカギだという。どの学校にとっても参考になる点だろう。

 多種多様な学習活動を制限するのでなく容認する方向で見守り、先生方の個性を発揮する場所を提供する。その中から共通項を見出して生徒の成長を確かめる視点に据える。多様な活動をバランスよくカリキュラム全体に位置づけていく。そういう姿勢が管理職には求められていると思う。

 教科学習の日常を,あらためて見直すことを忘れないようにしたい。総合的な学習の導入で一番試されているのは,教科学習における教師の腕だと思えば間違いない。

(岩手県立大学教授 鈴木克明)