「ネチケットよりも自己防衛から」季刊「ECSたより」 (春号3月1日発刊)日本教育情報機器(2002.2.15.脱稿)


ネチケットよりも自己防衛から


岩手県立大学ソフトウェア情報学部教授 鈴木克明



 インターネットは研究者のツールとしてスタートしたために,悪用されることにもろいと言われている。性善説に基づくシステムだ,と言う。ホームページへのアクセスやメールの投稿が匿名・偽名で行えることから,無用な情報を大量に書き込んで利用を妨げたり,悪意に満ちた内容を書き込んで誹謗中傷をしたりすることが簡単にできる。他人になりすましてウソのメールを送ったり,あるいはウィルスを送りつけて被害を広めたりする族を締め出すことは容易ではない。

 商用にも使えるようにと,認証システムや経由地での内容の「盗聴」ができない送信方法など,セキュリティを高める技術が付加されてきた。今日では,クレジットカードでの決済も日常的に使えるようにはなった。しかし,悪意をもったユーザーとのイタチごっこは続いており,インターネット上の情報管理には,最新の専門知識が常に要求される。

 掲示板が荒らされて,どこから荒らしのメッセージが発信されたかを調べたらある教育委員会のサーバーを経由していることがわかった。何とか対処して欲しい,と苦情が来る。教育委員会で調べてみると,所轄のある中学校のコンピュータ室が出所だということが判明し,学校長の責任問題になる。良くありそうな話であり,そこからコンピュータ室の利用を制限しようとか,生徒に「ネチケット」を徹底しなければならない,という方向に話が進む。しかし,これは,ネチケット以前の問題ではなかろうか。

 エチケットとは,社会生活を過ごす上で,自分が知らずに他人に迷惑をかけないように自分の振る舞いに気をつけることを指す。相手を困らせてやろう,という気持ちで迷惑をかけることはエチケット以前の問題として区別されるべきではないか。してはいけないことは何で,それはどう言う理由からかを周知徹底させる必要がある。これは,ネットワーク上での犯罪防止に向けた試みとなる。

 一方で,インターネットの世界に足を踏み入れるのは,ニューヨークのスラム街に行くようなもの。エチケットに構っている余裕はない。自分の身を守ることが先決だ。インターネットの専門家はこう言う。犯罪防止には,加害者を育てないことだけでなく,被害にあわないような術を身につけさせることにも取り組む必要がある。子どもにはまず,被害者にならないような自己防衛策を教えるのが良い。無防備な人が少なくなれば,悪意がはびこる危険も少なくなる。