『教職研修』2002年6月号増刊「新教育課程下の経営戦略」(第1巻)「多様な指導方法への経営戦略」原稿(2002.3.14.脱稿)


第5章9 授業でのコンピュータ活用が活発化するために校内研修や教職員配置をどうするか


岩手県立大学ソフトウェア情報学部教授 鈴木克明



コンピュータ授業は現実的か

 授業でコンピュータを活発に活用してもらうためには、その準備が必要である。コンピュータを使いましょう、との掛け声ばかりでなく、現実的に授業をするための準備はできているだろうか。授業用のパソコンは日本全国100%の学校に設置済みと言われているが、一部、古すぎて使えない機器も数字の中には入っているらしい。陳腐化が激しい世界を指して「ドッグイヤー」と呼ばれている。犬のようなペースでどんどん加齢するという意味である。

 一方で、最新の機器でなくても、用途を限定すれば、工夫次第でまだまだ使える。たとえば、マウスの練習や、お絵描き、あるいはキーボードの練習、ワープロ操作などは、10年前の機種でも十分だ。他方で、インターネットに接続して情報を検索したり、デジカメで撮影した写真を取り込んで加工したり、あるいは、ホームページを作るなどとなれば、なるべく新しい性能の優れた機器を準備した方が良い。

 学校のどこに何の用途にならば使えるパソコンが何台あって、それがどのように利用されているか。実態を把握する必要がある。どの教科(あるいは学年)で、どの程度頻繁に使っているのか。誰が管理・運用しているのか。子どもがパソコンを使いたいと思ったときに、障害になることはないのか。どの時間帯ならば自由に使えるのか。これらの利用状況や利用条件について、まず情報を集める。すでに活発に利用されているのであれば、「現状維持」が解決策になる。しかし、あまり利用されていない、あるいは、利用したくても機器が十分に備わっていない、となれば、何らかの方策が必要となる。

 教員側の準備体制はどうか。文部科学省が毎年報告している「学校における情報教育の実態等に関する調査結果」によれば,平成13年3月31日現在で,約8割の教員がパソコンの操作ができ、約4分の3の教員がインターネットを使ったことがある、ということになっている。また、同調査では、約4割の教員がパソコンを使った授業ができるといい、約4分の1の教員がインターネットを使った授業をやったことがあると言う。「できる」とその技を生かして授業を実際に「やっている」は同じと考えてよいか。現状をつかんでおく必要がある。

 どのぐらいの教員が、抵抗なく授業にパソコンを取り入れて日常的な実践をしているのか。それとも、パソコン授業は「できる」けれど、実際にやるのは多くても年に数回だけ、なのか。誰の助けも借りずに一人でできる教員はどれぐらいいるのか。また、コンピュータ授業をやりたいけれど心配だと思っている教員への手助けは十分に機能しているのか。「教育情報指導者(リーダー)養成講座」から戻ってきたリーダー候補生は、しっかりリーダーとしての役割を果たしているのか。果たせる立場に置かれているのか。校内の役割分担と研修経歴や本人の得意不得意がマッチしているかどうかも確認する必要があろう。 コンピュータ授業を現実のものにするためには、管理職が配慮すべき点は多い。目配りと気配りが肝要である。


コンピュータ授業活性化への6ステップ

 コンピュータの授業利用を活発にするためには、表1に示す6ステップを踏むと良い。活性化することを目標に据えて、着実にそのゴールを現実のものとするための「システム的アプローチ」である。

 第1に、「活性化する」とは具体的に何を指すのかのゴールを明確にすることである。一言で「活性化」といっても、どういう状態になれば活発にコンピュータ授業が展開しているとみなすのか、については、統一基準があるわけではない。各学校の実態と、目指す方向性、あるいは、出したい特色に応じて、その学校なりのゴールを設定する。

 第2に、ゴールを達成したかどうかを、いつどのように確認するかを確認しておく。つまり、評価計画を立てることである。目標は美辞麗句で飾り立てて、その後で棚上げする、というのが良くありがちな教育実践における「ゴール」の用いられ方である。実践が終わると、何の証拠もなしに、とてもすばらしい実践ができました、と締めくくる。これでは何がどう変わったのかが「知る人ぞ知る」状態のままになるので注意が必要である。学校が一致団結して「活性化」に取り組むためにも、目標を明示して、それをいつの時点でどのように確かめるかをあらかじめ決めておくのが良い。

 第3に、活性化をリードするチームを結成することである。チームには責任者をおき、任期中に何をどこまで進めるのかを明確にして、そのために必要な準備をさせ、権限を与え、校務分掌に明確に位置づける。コンピュータ授業は好きな教員が趣味的にやっていれば良いという時代は過去のものになった。このことをしっかりと踏まえて、全校の取り組みをリードできるだけのチームを編成し、管理職がその動きをサポートする体制をつくることが必要である。

 第4に、活性化チームのイニシアチブで詳細が検討された実施プランを、全校の教員に公開し、共通理解を得ることである。活性化チームにはチームとしての役割がある。率先垂範である。一方のその他の教員には、一人ひとりの役割と任務を与え、一人ひとりがコンピュータ授業を最低、どこまで取り入れることが求められているのか。そしてそのための準備としてはどんな活動を要求されているのか。これらを明確に示し、コンセンサスをとっておくことが必要である。あとになってから「そんなの知らなかった」、と言われないために、時間をかけて、意見を聴取して、それを取り入れた全体プランを合意しておくことが肝心である。

 第5に、活性化プランを実施する際に、進捗状況を見守り、必要に応じて修正を加えていくモニタリングがある。計画は予定通りには行かないのが普通であり、それを放置しておけば目標は達成できない。ずれを察知し、対応策を考え、追加的に実施して何とか当初の目的を達成できるように工夫する。計画と修正を繰り返すことでのみ、活性化が実現できる。そのためには、修正が可能な中間目標をセットしておく必要がある。

 第6に、ゴール達成の喜びを全員で分かち合い、次へのステップを踏み出すための儀式を計画しておくことがある。「よくここまでやれたものだ。上出来だ。」と自分たちの辿ってきた道を振り返り、やってよかったいう気持ちを共有できれば、チームワークも万全になり、次の活性化への基盤となる。教員同士の信頼関係も深まり、互いに励ましあうことができる教員集団が実現できる。

表1:コンピュータ授業活性化への6ステップとチェック項目
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1)「活性化する」とはどういうことかを明確にする<ゴール設定>
□ 施設・設備をどこまで拡張するか
□ 施設の利用率をどこまで高めるか
□ 教員の参加度をどこまで高めるか
□ 子どもの満足度をどこまで高めるか
□ 授業の充実度にどう貢献するか
□ 学習観・学校観・自己概念を変えるために役立つか

2)活性化したかどうかをいつどう確かめるかを決める<評価計画>
□ 1)で挙げたゴールそれぞれに確認方法は用意したか
□ 達成までのスケジュールは明確化したか
□ 中間目標を学期ごとに設定したか
□ 現在と理想の姿のギャップは何かを確認したか

3)活性化チームをつくる<担当者確保;校務分掌>
□ 責任者を指名し、任期を設けたか
□ 責任者をサポートする要員を十分配置したか
□ 校務分掌に位置づけたか
□ リソース(人・もの・かね)を確保したか
□ 責任と権限のバランスは良いか
□ 活性化チームに「外から学ぶ」機会を与えたか

4)活性化プランを全員で共有する<共通理解;一致団結>
□ 活性化チームを全校の教員が認知したか
□ 全校の教員が自分の達成目標を持ったか
□ 教科ごと・学年ごとの達成目標は持ったか
□ 活性化についてのアイディアを集める手段はあるか

5)活性化プロセスを見守る<評価と修正;モニタリング>
□ 最初の中間目標の達成度を全員で確認する場を設定したか
□ 計画を修正するための手順を準備したか
□ お互いに改善のアイディアを出し合う場はあるか
□ 進捗状況が活性化チームと管理職まで報告されるか

6)活性化の達成を喜ぶ<成果発表;慰労会;次へのステップ>
□ お互いの成果を校内で発表し、喜び合う場を設けたか
□ 活性化チームの活躍を賞賛し、慰労する場を設けたか
□ 学校の外に向けて成果を発信する場を用意したか
□ 保護者・有識者・地域の人たちからの意見を聴取したか
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現実的な課題で新鮮な校内研修を

 授業でコンピュータを使うと、子どもたちは喜ぶ。一方で、教員研修でコンピュータを扱うと、先生方は敬遠する。この傾向を打ち破って、楽しい校内研修を実現するためには、「使える」研修内容を、「新鮮な」研修方法で実施すると良い。

 「使える」研修では、研修の成果が明日から使える具体的な題材を選ぶことが大切である。研修のメニューとしては、「ワープロ操作法」よりは、「絵入りの学級だよりを作ろう」。「ホームページ作成の基礎」よりは、「インターネット上に自己紹介ページを作ろう」。そんなタイトルをつけて、現実的に使える題材を取り上げる。もちろん、やっていることはあまり変わらない。しかし、たとえばワープロソフトの(いつ使うかもわからない)「便利な」機能をすべて網羅するよりは、必要最低限の機能だけを使って、明日配布できる中身があるものをつくる方が良い。もちろん、子どもに教えるときにも同じテクニックが使える。すべてを熟知しないと使えない、という真面目な先生方に見受けられる思い込みを捨ててもらうことも、情報関連研修の目標に据えておくのが良い。

 「新鮮な」研修は、外部から(若くて美人の)インストラクタを連れてきて、説明を受けることを意味しない。むしろ、外からの助けに頼らずに、自分たちで2〜3人のグループを作って、共同作業で何か実用的なものをつくっていくのが良い。たとえば、教科のホームページ。たとえば、学年で同じ課題に取り組むコンピュータ授業の計画。お互いに知恵を出し合い、何かを創造していくことを研修方法の中心に据える。誰かから教えてもらうのではなく、自分たちで考えて学ぶ研修。最初は手ほどきしてもらうとしても、その後は自分たちで進める。分からなくなったときに初めて、助っ人として活性化チームのメンバーに聞きに行くスタイル。こういう授業スタイルが求められている今日だからこそ、研修のスタイルも工夫すると良い。

 新しい内容の研修は、新しい方法で。しかも、これから求められている授業スタイルを反映した方法で。これを表2のようにかつて整理したことがあった。その考え方をもとにして、コンピュータ教育開発センターでは、コンピュータ授業のための校内研修用CD−ROMを全国4万校に配布した。ピンク色の表紙がついたCD−ROMで、中には、コンピュータ利用授業についての研修を校内で自主的に進めていくためのすべての材料が揃っている。校内で活用されてきたか、あるいはどこにあるか、誰か使ってみたことがないか、ぜひチェックしていただきたい。書棚の肥やしにするには小さすぎて、しかしもったいない材料だと自負している。

表2.研修の進め方と授業とのつながり:新しい研修方法を求めて
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●おうむ返しの伝達講習と教師主導の情報伝達型授業
  ・座学研修とその伝達からの脱却=教科書を教える授業からの脱却
●教師が動く研修と子どもが動く授業
  ・個別・マイペース研修と討議の時間の組み合わせで進める
●講師に頼らない研修と教師に頼らない学習
  ・自分の力で,手引きプリントなどを頼りに主体的研修
  ・主体的研修のお膳立てができれば,主体的学習の環境整備もできる
●講師を超える部分を要求する研修と子どもに教えてもらう授業
  ・正解をいつでも講師が知っている訳ではない
  ・知らないことでも,出来映えを評価でき,改善を指摘できる講師
●教科横断的な研修と総合学習的な授業
  ・コンピュータを媒介に,全教科全学年に共通の話題
  ・他教科・他学年を知ることで,子どもの身になれる
●過去の研修成果を参考にできる研修と情報を残せる授業
  ・最初は例示を参考に,次からは自分達の研修成果を事例に
  ・残して積み上げる。先輩の上を行く。
●意欲がもてる研修と魅力的な授業づくり
  ・自分で苦労して,仲間と切磋琢磨してできあがった達成感を,授業にも
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出典:コンピュータ教育開発センター(1998)『コンピュータ利用教育のための教員研修プログラム報告書』第3章コンピュータに関する研修の在り方(執筆:鈴木克明)

楽しい学校づくりの一環として

 コンピュータは、授業で用いるメディアの一つである。どんなメディアを使った授業でも、授業づくりは教師が主役をつとめなければならないことは不変である。一方で、コンピュータがもつパワーが、ネットワークの普及とともに、社会全体を変化させている。教育を非人間的なものにするための道具としてではなく、楽しい学校づくりに向けての強力な道具として活用する方策を考えていって欲しい。強力な道具は、賢い使い手(ユーザー)を求める。子どもにコンピュータを賢く使う術を身につけさせたければ、それを指導する側も、避けて通らずに果敢に挑戦していく姿勢で臨まねばなるまい。コンピュータ嫌いの教師の下からは、コンピュータを駆使する(あるいは駆使しようとする)子どもは育たない。

 高等学校では、指導要領の改訂に伴って教科「情報」が新設され、情報教育の位置づけも明確になった。もちろん、その他の教科で情報教育的な視点やコンピュータ利用授業を怠ってよい、という訳ではないが、現職研修でも大学でも、情報教育の専門家が育成されつつある。一方、中学校では、技術・家庭科でコンピュータ関連の教科内容が高い比重を与えられ、これまで以上に「コンピュータは技術・家庭科の備品」という誤解を受けかねない状況にある。他の教科とのバランスを常に意識し、総合的な学習の時間や選択教科などとの連携も視野に入れた全体計画が求められる。

 小学校では、情報教育は総合的な学習の時間にやるものだとの理解が受け入れやすい。もちろん、情報教育を中心に取り上げなくても、国際理解教育でも環境教育でも、あるいは生命教育においても、コンピュータやネットワークを活用した授業を展開することで、学びを広げることが可能だ。あわせて、各教科の学習の中にも、コンピュータを適切に位置づけることができれば、学校全体としてより楽しく充実した学びを展開する手段となるだろう。「授業でコンピュータを活発に使うためにはどうするか」を考えることを糸口として、楽しい学校づくりを進めていくことができる。コンピュータ授業が活性化した学校では、学校に行くこと・学校で学ぶことが今までよりも楽しく充実したこととして、受け止められるようになる。それがコンピュータ授業を活性化する目的でもある。