『教職研修』2002年6月号増刊「新教育課程下の経営戦略」(第1巻)「多様な指導方法への経営戦略」原稿(2002.3.14.脱稿)


第5章10 インターネットなどを活用して地域や保護者に学校の活動をどう知ってもらうか


岩手県立大学ソフトウェア情報学部教授 鈴木克明



学校のインターネット活用は常識?

 文部科学省が毎年報告している「学校における情報教育の実態等に関する調査結果」によれば,平成13年3月31日現在で,全国4万校の81%がインターネット接続を実現した。同調査によれば,ホームページを持つ学校も,小中学校で約3分の1,高等学校で約3分の2を数えるようになった。もはや,インターネットを使っていることや学校でホームページを持って何らかの情報を発信していることは,珍しいことではなくなった。「うちの学校でもやっています」という声は益々多く聞こえるようになるだろう。そうなると,インターネットを活用していること自体は当たり前になり,「いかに活用し,どのような効果をあげているか」が問われるようになる。

 インターネットの活用は,ホームページ利用とメール利用に代表される。ホームページとは,本来WWW(World Wide Web;略してウェブとも言う)サイトを訪れた時に最初に表示されるページ(すなわち帰宅する場所を指してホーム)のみを指す用語であるが,いつの間にか拡大解釈してすべてのページを「ホームページ」と呼ぶようになった。インターネット上に公開されている情報を集めるための入口にもなるし,学校の情報をインターネット上に発信していくための出口にもなる。ホームページを持たない学校は、「インターネット上に存在しない学校」として受け止められる。そういう世の中になった。

 電子メール(略してメール)は,インターネットを利用して郵便のように個人から個人に送る「信書」を指す。管理職研修でも,「自分のメールアドレスを持っている人は?」と尋ねるとほとんどの人の手が挙がるようになった。個人の私的アドレスと学校の公的アドレスを使い分けている人も少なくない。宛先を「メーリングリスト」にすると,それに参加する全員にメールが同時に送れるため,一対多の郵便(同じもののコピーを何人にも送ること)が可能になる。ファックス通信の用語を使ってメールの「同報通信」とも呼ばれる。教育委員会通達や研究会のお知らせなどにも活用される例が増えてきた。

 インターネット利用には,ホームページとメールの他にも,遠隔地のコンピュータとファイルをやりとりする転送機能やテレビ電話的機能,あるいは文字を打ち込むことでおしゃべりをするチャット機能などがある。多くの機能がホームページ上で実現可能になってきているので,そうとは知らずに色々な機能を使っていることもある。これらのインターネット上の機能を活用して,学校の活動を地域や保護者に知ってもらう実践が様々な形で行われている。


玉川学園の「CHaT Net」

 私立玉川学園(東京都町田市)では,学校の塀を低くして“子と親と教師による三位一体”を目指したネットワーク「CHaT Net(チャット・ネット)」を1998年4月に始めた。名前は「Children Homes and Teachers」の頭文字で,チャットというネーミングから連想されるコンピュータを使って同時に複数の参加者が書き込むことで「おしゃべり(チャット)」できる空間を提供しているだけではないらしい。

 「CHaT Net」には,児童・生徒と学園の全教職員が参加し、さらに希望する保護者が参加している。2002年現在、小学部で90%、中学部で72%、高等部で44%の家庭が参加している。「CHaT Net」はいつでも利用でき、電子メールで欠席の連絡や学校・先生からの連絡事項、家族の意見などさまざまな情報をやり取りすることができる機能が備わっている(グループウェアと総称される機能)。また、それだけでなく、家で子供たちの活動の様子を見たり、家族が家庭にいながら教育に参加できる機能をも備えている。家族が教育に関心を持つきっかけとなった「CHaT Net」は,文部科学省主催の第1回インターネット活用教育実践コンクールで内閣総理大臣賞を受賞している。

 公開サーバでは,関係者以外にも見られる形で,教育現場の様子(課外活動、学外活動等)を静止画と動画で知らせている。たとえば、2002年1月には学園長と父母・児童生徒代表による「新年メッセージ」が公開された。同年2月に行われたスキー教室の模様も,ふんだんな写真で紹介し,楽しい様子が手にとるように分かる。その日の写真が午前中のものは夕方に,午後のものは深夜に発信されているので,子どもを送りだした留守宅の保護者も,安心できたに違いない。タイムリーな情報提供の好例である。


インターネット活用の分類

 インターネット活用は,その情報の流れに着目すると図1に示すように次の3つのパターンに分類することが可能である(市川・鈴木,1999)。情報の流れに着目することで,インターネットの利用目的も明確になる。

1. 情報収集(Netsurfing):あるテーマについてホームページ上のリンクをたどったり、検索サーバを使用したりしながら必要な情報を見つけていく活動。メールボランティア(子どもからの質問に電子メールで答えてくれる人)宛にメールを出して情報を得ることもある。

2. 情報発信(Publishing):ホームページを作成したり電子メール(メーリングリスト)を使って,情報を発信していく活動。学校側の要覧的な発信や募集・宣伝等に使ったり,子どもたちや先生方が授業の一環(学習目的)として発信できる。

3. 共同作業(Collaboration):ホームページや電子メールを利用して、意見を交換したりする共同作業,あるいは共同学習。全国各地にあるホームページ上に調査データを公開していくプロジェクトや作品の共同制作などがある。

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図1 インターネットの活用と情報の流れ



 表1は,使われはじめた時期の学校ホームページの内容について,目的別の分類を試みたものである(市川・鈴木,1999)。当時は,学校要覧をそのままホームページ上に載せた事例も多く見られたが,近年では学級や教科レベルの授業実践を踏まえた発信が増加する傾向にある。情報の主体も,教師のみならず,子ども(個人あるいはグループ)の学習プロセスや学習成果を発信している例も増えている。

 これらはすべて,学校から地域・保護者への情報発信の一部であり,学校で今何が起きているか,どんな勉強をやっているかを忠実に反映する鏡になる。子どもたちにインターネットを使わせる学習を行うと同時に,その途中経過や学習成果を広く一般に示していくことが可能である。美辞麗句を並び立てるよりは、子どもの活動の様子や学習の成果を示すことで、学校の理念や建学の精神、あるいは教育目標を具体的な形で伝えることができる。

 一方で,学校を取り巻く共同体(卒業生,保護者,地域の人々を含む)の情報を学校ホームページや学校発のメーリングリストで発信していくことも可能である。表1では,一番右の情報主体Cがそれにあたる。授業以外の利用も,視野に入れて、学校を媒介として地域の活動を広げる役割を担ったり、過去から現在まで学校にかかわった人々との交流の輪を広げたりすることも可能なのである。

表1 学校ホームページ内容の目的別の分類枠(市川・鈴木、1999)
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ホームページの可能性と問題点

 インターネット活用を考える際に,メディアとしての特徴を踏まえておく必要がある。可能性を広げ,問題を未然に防ぐことができるからである。表2に,ホームページの可能性と問題点を整理したものを示す。文部省(当時)委託事業でその他の留意点や実践例をまとめたものに,日本教育工学振興会(JAPET)発行による『先生のためのガイドブック:みんなが生き生き総合的な学習?インターネットで一工夫?』(2000年)もある。あわせて参考にしていただきたい。

表2 ホームページの可能性と問題点(鈴木・市川、1997)
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■可能性(質的改善)
●受け身型授業からの脱却(→情報活用能力の育成:
 情報発信とフィードバック、返事を返す必要性)
●情意(意欲・関心・態度)面への効果
 (新規性:世界的な最新情報が入手できる臨場感:
 世界への情報発信による自信と満足感)
●教室の壁を越える(時間・空間・社会的枠をはずす→開かれた学校:
 人と人とのつながりを広げる:
 社会を意識させる:意見収集、特に小規模校での可能性:
 遠隔共同作業:情報(教育)格差の縮小)
●情報交換ネットワークづくり(教師と教師の授業づくりのための情報収集)
●高度情報通信社会への対応:ネットワーク・リテラシーが身につく)
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■問題点 
●プライバシー(子どもたちの個人情報発信と保護条例)
●著作権
●正確性(嘘の情報、個人レベルの発信)
●混沌(ほしい情報を見つけにくい)
●ネチケットやモラル(失礼なふるまい)
●インターネット中毒 
●セキュリティ 
●インフラ(接続環境が悪い)
●時間がかかる(操作、練習等、アクセス)
●コンテンツが充実していない(質が悪い大量情報)
●インターネット導入・維持コスト
●使っただけでの充実感と深く追及しない態度
●趣味先行(何も教育的活動が考えられていない)
●活用ガイドラインの未確立
●望ましくない情報への対処
●教科の枠にはまらない
●ついていけない子どももいる
●すぐあきる(見るだけだと、返答が返ってこないと)
●教員のリテラシー
●世間(教師以外の目)にさらされる
●便利すぎる(クリックひとつで情報収集) 
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出典:鈴木克明・市川尚(1997)「(2)『ホームページ』の活用による学校教育の質的改善をどう図るか」
『教職研修:情報教育の考え方・進め方』教育開発研究所 123-126



インターネット以外の情報発信も視野に

 インターネット以前では,生身の交流や広報誌,あるいは学校・学級だよりなどで情報を発信してきた。それらの機能のうちの何を、いわばオールドメディアに残し,何を新しいメディアであるインターネットに載せていくかの全体を企画することができる。

 インターネット以外の有力な情報発信メディアとしては,放送がある。とくに,地方放送局などによる県域の放送番組や,CATV(ケーブルテレビ)などの自主チャンネル利用によって成果を納めている例が増えてきている。

 たとえば,NHK福井放送局が夕方の生活情報番組として県内に向けて放送中のセグメント『発信!マイスクール』では,平成12年4月から毎週水曜日に県内の小中高校が自分たちの学校での出来事を紹介している。次々に応募があり,また再放送リクエストも寄せられる等,大きな反響があり,「学校を知ってもらうだけでなく,理解や信頼を得ていく好機になる(乾,2002,p.51)」ようである。

 また,同書にはPTAが地元のケーブルテレビ局にカメラ等の機材を借りて,給食から掃除までの1時間半を撮影して10分番組にまとめて放送した「かあちゃんの学校探検記(給食・掃除編)」の事例も紹介されている。この番組についてのアンケートをPTA広報誌につけたところ,反響が大きく,その後も「見たい場面」のリクエストに応じて番組を制作したり,あるいは他校のPTAにも同じような活動が広がったりもしたと報告されている。

 メディアによる情報発信に加えて,子どもを地域に出したり,逆に地域に学校に来てもらう(両方向ある)などの生身の交流も合わせて企画し,インターネットを利用して有機的に結び付けていくことが肝要である。インターネットなどのメディアを人と人との触れ合いをサポートする道具として活用したいものである。インターネットを勉強する地域の大人をサポートする情報ボランティアを組織したり,地域の住民を学校に招いてインターネット体験教室を生徒がインストラクタになって開催したり,PTAと共催で「親子パソコン教室」を開いたり,校内ネットワーク整備(ネットディ)に父親が活躍したりと,全国各地で様々な形が実践され,成果をあげている。

■参考文献■

乾昭治(監修)(2002)『学校で拓くメディアリテラシー』日本文教出版(下郡尚之・佐藤美希「学校から地域へ:『発信!マイスクール』の試み」44-48,「発信!マイスクールと地域の反応」49-51,「ケーブルテレビ局を利用したPTAによる学校紹介」52-55)

市川尚・鈴木克明(1999)「日本における小・中・高等学校WWWホームページの調査研究?黎明期における実態の把握と発信内容の分析?」『日本教育工学会誌(日本教育工学雑誌)』22(3), 153-165

玉川学園CHaT Net http://www.tamagawa.ed.jp/chatnet/