鈴木克明(2003)「メディアリテラシーと情報管理」(2章7)木岡一明(編)『教職員の職能発達と組織開発』


メディアリテラシーと情報管理


岩手県立大学ソフトウェア情報学部教授 鈴木克明



1.基本的視点

メディアリテラシーとは、メディアに囲まれた現代社会を生きる上で必要な資質であり、情報を読み解き、メディアを駆使して表現・発信し、様々なメディアの役割と特質を理解し活用する力を指す。文章による表現に加えて、静止画像や動画像を組み合わせて表現すること。パソコンやインターネットなどのメディアの特性を踏まえた上で、情報発信ができること。あるいは、テレビや新聞、広告などのマスメディアがどのような仕組み・背景で情報を提供しているのかを理解し、情報に踊らされないようになること。さらに、ネットワーク社会での情報の取り扱い方などに精通し、他人に危害を加えることなく、また自己防衛もできること。著作権や情報モラルなどの社会ルールを尊重すること。これらのメディアリテラシーは、次世代を生きる子どもたちにどう身につけさせるかが大きな教育課題である。教師自らが、児童生徒、あるいは保護者や地域社会に対して、模範を示す意味でも実践することができる素養と技術を持ち、また実際に実践していることが肝要である。

情報管理とは、職務上知りえた児童生徒などの個人情報の管理、学校運営上の記録として蓄積するデータの有効活用と漏洩防止、学校活性化・授業の充実などのために役立つ教育資源や活動記録などの把握と利用などを指す。情報のディジタル化は、活かしにくかった情報を、コンピュータを介することで甦らせ、教育活動の充実に貢献する積極的な面がある。その反面、情報の複製が容易なことやネットワークを介しての侵入・破壊などの危険性を伴う。十分な備えを施しながら、積極的にディジタル化の恩恵に預かろうとする姿勢を持ち、そのメリットを生かす道をつけていくことが求められる。


2.チェックポイント

<メディア活動>
<メディア特質の把握>
<ネット社会のマイナス面の把握と対策>
<情報管理>



3.チェックポイントの使い方と留意点

<メディア活動>

まずは、メディアの使用状況を確かめる。テレビ・新聞・雑誌などのマスメディアを積極的に使っているか、ビデオやデジカメなどの映像媒体を使っているか。デジカメは現像に出す手間もなければ費用もかからない。パソコンに取り込んで、Webサイトに使ったり、アルバムに加工したりして、映像記録を気軽に使うことができるメディアとして駆使できるようにしたい。

NIE(教育に新聞を)の活動やNHKの学校放送番組と番組ホームページがあることを知っているか、また、活用しているか。記事の読みとりや新聞同士の同じ記事の扱い方の比較。テレビ番組を授業で使って、その利用教師同士のネットワークで授業づくりのノウハウを交流する。そういう日常的な活動の中で、メディアとは何か、メディアを上手に使うとはどういうことかについての認識を高めておくことが重要である。

活動の成果は、学校ホームページで地域に発信する。地域との連携が叫ばれ、学校を地域に開放すると同時に地域の智恵を授業に生かすことが求められている。学校と地域の間をつなぐメディア利用も日常化したい。

子どもにインターネットを使わせる前に、教師が授業の準備にインターネット上の情報を役立てる。授業準備にこだわらず、インターネットを自分の、あるいは、家族の生活に役立てているか。家庭からのインターネット利用が学校よりも進んでいる状況にあることを踏まえ、教師自らがまず新しいメディアの可能性と危険性を自分なりにつかんでおくことが大切である。

<メディア特質の把握>

NIEに限らず、メディアリテラシーを子どもに育てる活動では、メディア特性をどのように把握させるかについて、様々な実践の積み重ねがある。実践の成果は書籍などで公表されており、それらの先進事例から学ぶ姿勢も情報社会の教師には特に求められる。

マスメディアを理解する上で、最も重要な概念は、構成と編集である。メディアからもたらされる情報は「客観報道」ということばとは裏腹に、すべて制作者の目線で構成され、編集されている.この事実をまずは認識する。放送には時間枠が、新聞には紙幅がある。だから、重要度の判断をし、軽重をつけ、構成するのである。

広告とメディアの商業的基盤を把握することも重要である。商業放送がどうして無料なのか、誰が結局は番組制作費を支払っているのか。どういう時間帯に誰に向けてのコマーシャルが流されているのか。調べる中で、メディアが提供する情報をクリティカルに捉えていこうとする姿勢が育つ。メディアは性役割などのステレオタイプを示している。そんなことに気づくことも、メディアからの情報を、少し距離感をもって捉えれば可能になる。

マスメディアと並んで、我々の生活に影響力を増してきたインターネット。インターネットで情報が盗まれるということがどうして起きるのか。闇雲に怖がるのではなく、仕組みを知ることで対策が立てられるようになる。パスワードはどうしてあるのか。どんなパスワードをつければ役目を果たすのか。ネット社会におけるカギの管理方法は知っていなければなるまい。

<ネット社会のマイナス面の把握と対策>

ネット社会は、これまでの社会と異なる点も多く、教師も新しい社会の特性、とりわけマイナス面を把握する必要がある。個人情報保護条例が自治体によって異なることを知っているか。また、どうすればそれを遵守できるか。日々変貌を遂げている著作権やネットワーク利用者のエチケットやマナー(ネチケット)の基礎知識は万全か。誰か一人の迷惑が多数に及ぶのもネット社会の特徴であり、また、どの学校から及んだ迷惑かがすぐ特定できるのもネット社会の特徴である。自分だけ知っているだけでは十分ではない。

ヘイトサイト(故意に誤情報を提供しているホームページ)の存在を認識しているか。子どもがそこからの情報を鵜呑みにしているときの指導はどうするか。ネット中毒の危険性を警戒しているか。ウィルス対策をパソコンに施しているか。基礎的な対応策を学校で共有することが不可欠である。

<情報管理>

最後に、情報管理の問題に触れる。管理という言葉の持つニュアンスが先行して、カギがかかったままのパソコン教室のように使われないのでは本末転倒である。積極的に情報を教育の質向上に役立てることが第一である。

その姿勢を保つために(決して使わないためではない)、情報管理ガイドラインを教職員が共有し、公開情報と非公開情報を物理的に区別し、あるいは、常にバックアップを別に保管するなどの体制をつくる。役割分担を決め、定期的にそれを見直し、管理規則に振り回されないように、また逆に有効な情報の使い方を常に工夫できるように、したいものである。