鈴木克明(2003e)「教科<情報>の授業づくりに向けて:Webサイト活用術」『ICT・Education:フォーラム情報教育』No.20、日本文教出版、1-5


教科「情報」の授業づくりに向けて:Webサイト活用術


岩手県立大学ソフトウェア情報学部教授 鈴木克明



1.神奈川県立川崎北高校の実践

普通科高校で新しい教科「情報」が始まろうとしていた今年2月16日に、NHK教育テレビ「教育フォーカス」(2003年3月まで毎週木曜日夜11時放送して終了)で初めて、新教科「情報」を取り上げた番組が放送された。タイトルは、「高校で<情報>をどう教えるか」。筆者は、高校生のお子さんに刺激されてパソコンの世界にはまり込んだタレントの清水国明氏とともに、「高校の情報科に詳しい人」としてこの番組に出演した。取材先の選定から、番組内容まで、担当ディレクター氏とともにいろいろと議論した。

この番組は、一般の視聴者に、新しく始まる教科「情報」は何をするもので、どんな問題点があるのかを伝える番組であった。これまでに誰も受けたことがない新しい授業が始まる。何を教えるのだろうか。誰が教えるのだろうか。親はどんなことを考えたらいいのだろうか。そんな疑問に答える内容を盛り込んだ番組になった。

新教科「情報」のイメージを具体化してもらうために、6年前から情報の授業に取り組んできた神奈川県立川崎北高校の実践を紹介した。川崎北高校は、どこにでもある公立の高校で、情報教育の研究指定を受けて先進的な取り組みを実践してきた特別な高校ではない。ごく一般の中堅校が、地道に情報教育を模索してきた事例として、全国のごく普通の高校でもスタートする新教科「情報」を語るのにふさわしい事例であると考えた。NHKの担当ディレクター氏も、数回の訪問を経て、この高校を紹介するべきだと同意した。

現在の川崎北高校では、キーボード練習から始まって、名刺づくり、ホームページづくり、チャットや掲示板をつかったコミュニケーション体験と情報モラル、プレゼンテーションの制作と発表・相互評価という具合にカリキュラムは進行する。「情報A」の内容を先取りして設定されてきたものである。

ここに至るまでには、6年間の試行錯誤があった。開始当初はビジネス文書を打ち込ませることを中心にやっていた授業内容も、生徒の個性を表現できる内容に衣替えした。コンピュータ教室の配置も、黒板に向かって全員が座る教室型からグループ内の相互発表もできる対面型に変えた。実践の様子を学校内外につぶさに紹介する情報科Webサイトの充実ぶりも特筆に価する(http://www.johoka.net)。これから教科「情報」を担当する先生方にとっても、具体的で参考になる紹介ができたと思っている。

川崎北高校の場合、教科「情報」が始まる前からの取り組みだったこともあって、各教科の先生方を巻き込んで、情報の授業に取り組む体制が必要であった。担当の柴田教諭が、自らを「セールスマンのようでしたね」と番組の中で振り返ったように、職員室にLANケーブルを張り巡らせ、パソコンを購入した教員にはインターネット接続の設定を手伝い、先生方が自分の授業準備にWebサイトなどを使えるようにするなど、徐々に教育の情報化についての「信奉者」を増やしていったという。各教科から先生方の担当時間を出し合って、情報の授業を複数教員が担当するという組織づくりが成功したことで、川崎北の情報化は一気に進んだといえよう。

ひるがえって、昨年度まで何もやってこなかった高校の動きはどうだろうか。教科担当の先生だけが孤軍奮闘していないか。あれは今度免許をとった担当者の問題、という冷めた空気が職員室に蔓延していないか。各教科でも「コンピュータやネットワークなどの情報機器を取り入れ、より分かりやすい授業を目指す」といういわゆる教育の情報化が求められていることが忘れられてはいないか。いや、それは筆者の杞憂であって、実際は、各教科の教員が連携して助け合い、教科「情報」の授業も、そして各教科における情報化も進んでいます、という大変好ましい状況ができつつあるだろうか。いよいよ開始された新教科「情報」をきっかけとして、学校全体の情報化の実際について、思いを新たにしてみたい。


2.情報科の授業実践に役立つWebサイトを探せ

本稿の残りでは、日本全国各地に点在する普通教科「情報」の授業づくりに参考になるWebサイトを紹介する。これらのサイトは、情報科の教員を目指して岩手県立大学ソフトウェア情報学部で教職課程を履修中の学生が「これは役立つ!」と思ったと報告してきたものの一部である。筆者が担当する「情報科教育法Ⅰ」の課題に答えたもので、発表の中から、「どんな理由で役立つと思うのか」についての彼らの意見を「推薦理由」にまとめた(詳細は、http://www.et.soft.iwate-pu.ac.jp/class/info/2003zenki/index.htmlなどにある)。

「情報科教育法Ⅰ」は、2001年度に開始して今年で3年目であるが、毎年新しい情報がWeb上に公開されつづけていることが伺える。何しろ、2年目からは、「お役立ちサイト増殖計画」と銘打っての課題であるため、同じサイトを2度紹介することは許されない(前回紹介されたときとかなり変わっている場合を除く)。それでも毎年興味深いサイトが紹介され続けている。おなじみのWebサイトも多いだろうと思われるが、まだ訪れていないWebサイトもあるだろう。「情報科」の授業づくりにあたって、これらの歴史的(?)財産を活用しない手はない。そう思いませんか?


3.教育センターなどのWebサイト

(1)愛知県総合教育センターによる「新設教科情報における指導の在り方に関する研究」(http://www.apec.aichi-c.ed.jp/project/joho/index.htm)

推薦理由:学習指導計画や実習課題をどのようにやるか参考案を提示しているサイト。ほかのサイトより細かい部分まで詳しく提案しているところが、さすが研究だと思った。普通教科「情報」の指導内容、指導方法、指導に必要な条件についての研究成果のページ。ページ内の専門用語の用語集も含んでおり、とても分かりやすかった。コンテンツは随時更新されている。 「教科情報Q&A」には、普通教科「情報」や科目「情報A」「情報B」「情報C」についての説明がQ&A方式で載っている。「用語集」では、Q&Aで用いている言葉の簡単な解説がある。「生徒実習課題」では、情報Aの単元別学習指導計画例と、「実習1通学・通勤方法を考えよう」などの実習課題例が7つ紹介されている。

(2)岐阜県総合教育センターによる「教科情報」 (http://www.gifu-net.ed.jp/kyoka/joho/top.html)

推薦理由:教科「情報」の指導案や免許取得のための情報提供が中心となっているページ。特に情報Bの指導案が充実している。「教材集」として、情報科に対応した指導テキストがWordやPDF形式で提供されている。第1集と第2集が用意され、教科「情報」のカリキュラムについてや、指導例が紹介されている。特に第1集は情報Bの指導案が32件、第2集でも情報Bを中心として35件の指導案が公開されている。「教科指導」のページでは、平成12年度新教科「情報」現職教員等講習会の課題として作成された学習指導案(情報Aが27件、Bが14件、Cが5件)を参照できる。

(3)普通教科「情報」実習指導資料  http://www.edu-c.pref.miyagi.jp/infonet/practice/

推薦理由:  宮城県教育研修センターでは、平成13年度宮城県教育研修センター所員研究として、普通教科「情報」実習指導資料をまとめて公開している。「情報A」「情報B」「情報C」についての年間指導計画や学習指導案、実習指導資料などが豊富にある。コンビニエンスストアでは、バーコード作成,レジ作成,コンビニ店舗設計などが面白い。ファイル圧縮実習や数値計算の誤差、音のサンプリング、食品のカロリー一覧などエクセルファイルを使った実習例も多い。

(4)情報モラル指導資料(大阪府教育委員会事務局教育振興室教務課) http://www.pref.osaka.jp/kyoishinko/kyomu/morals/morals.htm

推薦理由:指導資料と関係法令からなるA4判、120ページの資料で、指導資料は電子メールの活用などの話題別に16項目をカバーしている。16項目とも、情報社会の「光」と「影」、ネットワークの技術的解説、授業を行う際に参考になる学習指導案の4ページで構成し、人権尊重の教育の中での情報モラルの指導を位置付けやネットワークの技術的資料も掲載している。とても参考になると思う。


4.高等学校のWebサイト

(1)柴田功先生による「新教科「情報」授業アイディア集 」(http://www.johoka.net/)

推薦理由:神奈川県立川崎北高等学校の先生による発信。「情報A」の授業指導案、教材プリント、プレゼンテーション、生徒の作品等を公開してある。実際の授業に基づいているため、授業指導案などが実践的で参考になる。幅広く、多量の情報が得られる。リンクも多く、かつ多様なので便利。「E-mailで授業の感想を送ろう」「オリジナルの名刺を作ろう!」などの指導案を紹介し、教材プリントやプレゼンテーション、授業後の感想や生徒作品などもあわせて載せている。1年間を通してどのような流れで授業を実施しているのかを見ることができる。また、「情報教育用のイラスト集」や、新教科「情報」講習会や研修会のカリキュラム・資料、そして授業環境(ネットワーク等)を整えるための方法なども公開されている。

(2)茨城県立磯原高等学校による「新教科情報への取り組み」(http://www.isohara-h.kitaibaraki.ibaraki.jp/katsuyo/joho/kyokajoho.htm)

推薦理由:この学校では、数学科において新教科「情報」の授業を想定した、実験的な授業実践「情報科学」を実施していた。ホームページには、情報Aや情報Bに対応した合計5つの実践が紹介されている。実践はどれも身近な問題を解決するものになっている。情報Aとしては、観戦ツアーを計画する「情報検索—オリンピック観戦」、最も条件にあった機種の購入を考える「パソコンの購入」、情報Bの実践としては、クラス会の会計に関する「つり銭問題」、合宿の最適な日程を考える「合宿問題」、一番安価なプロバイダを考える「プロバイダ選び」の実践例が紹介されている。指導案だけでなく、生徒に作業させるワークシートや、授業中に参照させるページも公開されているので、すぐにでも同じ実践ができそう。生徒の感想や、授業中の様子(画像)も興味深い。

(3)教科におけるネットワーク活用と情報教育の実践(富山県立大門高等学校)http://www.daimon-h.tym.ed.jp/jp/class/index.html

推薦理由:このサイトには、富山県立大門高等学校における「教科におけるネットワーク活用と情報教育の実践」についてまとめられている。どのような内容の授業でどのようにネットワークを活用しているかをまとめており、今後の「情報A・B・C」を行う上や、各種授業においてネットワークを活用しようとする上で有用な情報があると私が思ったからこのサイトをお勧めする。受身の授業ではなく能動的な授業だと思った。「国際環境サミット」は英語も学べるし、HP作成方法も学べるのでおもしろいやり方だと思った。実際に授業をした後の感想やアンケート結果などもあり参考になった。

(4)情報教育の教材(立命館中学校・高等学校) http://www.ritsumei.ac.jp/fkc/kyoka/joho/index-j.html

推薦理由:分野別にたくさんのHPを紹介している。それぞれのHPについてコメントが書いてあるのでどこに入るかの選択がしやすい。実際にリンク先を見てみても分かりやすい教材が多く、ある程度以上厳選されたものであろうと思えた。 ディズニー・サイバー・ネチケットは、ディズニーのアニメーションで紹介されていて親しみやすかった。

(5)教科「情報」の実践報告(大阪府立生野高等学校) http://www.geocities.jp/okugake/

推薦理由:写真で見る大阪府立生野高校の「情報」、年間計画 、進行状況、2003年概略などがある。臨場感があって興味深い。前期の単元構想(4〜10月)として、自己紹介の作成、情報検索、Webで著作権学習、パワーポイントで職業調べ、ポスター作成、情報のデジタル化など、また、後期の単元構想(10〜3月)としてmidi音楽、WEB作り、マルチメディア作品(PP)、クラス文集CDなど具体的に様子がわかる。また、単発の授業案として、Web人気投票、健康診断、新聞広告の利用などもあり、生徒作品や先生が作った作品例、マニュアル教材などもある。


5.個人のWebサイト

(1)まつばら先生による「生物と情報の部屋」(http://www.avis.ne.jp/~yuichim/)

推薦理由:このサイトの「情報」のページには、情報科の講習に参加した報告が載っている。「新教科情報現職教員等講習会」には、平成12年度の講習会(長野県)のカリキュラム表があり、日程と講義テーマが書かれている。講義テーマにリンクが張られている部分については講義メモがあり、講義で説明されたことや、質疑で出てきた内容などを見ることができる。あくまでも私的に作成された講習のメモであることが逆に興味深い。講習会の様子も伝わってくる。

(2)MowMowMow 情報【http://www.mowmowmow.com/jou/data/】

推薦理由:群馬県前橋市立桂萱中学校教諭の上原永護さんが作成しているサイト。毎年、新情報をアップしているので更なる発展が期待できる。インターネットの教育的利用法、豊富な入門講座、リンク集などがある。このサイトは、情報科の授業を行う上で、基礎の基礎から生徒に対して教えるのにかなり役立つサイトだと思う。ここに載っている資料を参考に、詳しく丁寧に書いてあるので、生徒は自己学習も可能だと思う。図がついているのでわかりやすいと思った。PDFファイルが主で、私のネット環境(ISDN/64kbps)では非常に閲覧しにくかった。

(3)えびさんのページ http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/1154/index.html

推薦理由:愛知県の短大で、パソコンやインターネットの授業を担当している作者が、「学生作品」、「私の教材」、「ネットで力をつける」(リンク集)を公開しているサイト。「私の教材」では、身近なこと題材に取り上げていた。リンク集に題名がつけてあるのでどんなサイトなのかわかりやすい。「Flash作品展」が特に目を惹かれた。ただ、カテゴリ分けや各サイトに関する説明が一切ないため非常に分かりにくい構成になっており、それがとても残念だった。

(4)情報モラルを学ぼう(教材ドットコム) http://www.wmc.gr.jp/security/

推薦理由:吉田喜彦さんのサイト。主にインターネットを活用する際の、初歩的な注意点が書かれていた。「何をして良くて何をしてはいけないのか」という、コンピュータ・インターネット初心者向けの学習ページ。 仮想体験を実際にやってみて、私だけでなくきっと多くの人が引っかかるだろうなと感じた。

(5)情報科の先生になります http://www.hi-ho.ne.jp/yoshi-sato/joho/

推薦理由:都立府中西高等学校情報科の先生になった佐藤義弘さんのサイト。授業準備、教材研究、先生になる、お気に入り、生徒向け、サイト内検索、実践例、掲示板などがある。実践例「電子メールを使おう」「LANを引こう」などが充実している。


6.教科書会社・研究団体などのWebサイト

(1)日文ネット(日本文教出版株式会社)(http://www.nichibun.net/)

推薦理由:出版社のサイトであり、情報科教員用テキストや、情報科に関する機関紙の記事、アプリケーションの操作方法のテキストなどを見ることができる。情報科教員用テキストの「情報マニュアル」では、情報科に必要な基礎知識を学ぶことができる。全15章から構成されており、情報科教育法や情報化と社会、コンピュータ概論、情報活用の基礎、アルゴリズムの基礎、ネットワークの基礎、マルチメディアの基礎などをカバー。教え方というよりも情報科で扱う範囲の知識を学ぶというテキストだから、自分の知識の確認に目を通してみるとよいだろう。高等学校情報科機関誌「ICT-Education」は、情報教育(情報科も含む)の実践例や論説の記事を参照できる。他にも、「Web Design」としてWeb制作の流れ等の解説があったり、「IT-Literacy」では,コンピュータの操作方法やインターネットの仕組みを学ぶページや、さまざまなアプリケーションを利用するためのスキルを学べるページ等が用意されている。

(2)啓林館 高校情報(啓林館) http://www.shinko-keirin.co.jp/kojoho/

推薦理由:情報の教科書を出版している出版社の一つ。出版だけにとどまらず、便利なフリーソフトのリンク集、学校が行っている演習の紹介など、幅広く情報を学ぶ上でためになるちょっとしたポータルサイトの雰囲気をかもしだしている。情報科をどのように教えているかとか、これからの情報教育のあるべき姿を述べたHP。私自身受けてみたくなるような授業の内容もあった。名刺の作り方を自分でも勉強したいと思った。情報科新課程に関するリンク集や普通教科「情報」Q&Aがあった。被教育者やその保護者が持つ当然の疑問が箇条書きにしてあった(内容自体は「情報A、B、Cの内容はどのように異なるのですか?」といった程度の内容)。またメールマガジン「情報教育メール」も実施しているようだったが、対象者が「普通教科「情報」を担当される予定の先生」のみだったので泣く泣く購読を断念。バックナンバーを見る限りでは非常に充実した内容だったので、とても残念だった。


7.おわりに

情報科の授業は、実際のところ高校で、とくに進学校では、あまりまじめに取り組まれていないのではないか。もしかすると、進路指導と合体させることが情報科の良さをアピールする一つの方法ではないか。こう言い出して、「『進路指導』を題材とした普通教科『情報』のカリキュラム提案」という卒論に取り組んでいるゼミ生がいる。進路指導の目標を取り入れた教科「情報」という発想は、たまたま手にした「情報A」の教科書に掲載されていた課題「進路について考えてみよう」を読んだことと、教育実習に行った高校での印象から得たものだという。それは面白い、ということで、卒論テーマにすることを認めた。確かに教科「情報」は、取り上げる題材は何でも良い。何についても「情報」的な見方や取り組み方は可能だからだ。

とある県の高校教員採用試験「情報科」の1次試験をパスしたものの2次試験では希望が叶わなかった彼女が、この研究の成果を実際に活かせるチャンスに恵まれるかどうかは、残念ながら現時点では不確かではある。しかし、こんな研究テーマを自分で見つけてきて、真摯に取り組んでいる学生がいることは嬉しい限りである。進路指導を通しで取り上げた「情報A」の1年分の年間指導計画と学習指導案を作る、と意気込んでいる彼女がどんな授業案を編み出すのか、卒論の成果が楽しみである。3月にはまとまった卒論がすべて研究室のWebサイトから公開される予定である(彼女が卒業すれば、の話)。どうぞ楽しみにしていてください。