『教育メディア研究』(1998.11.投稿済)

Webサイトにみる1998年現在の
「ミミ号の航海」

鈴木 克明(東北学院大学)


完成から15年が経過した1998年に「ミミ号」はどうなっているのかを調べるために,インターネット上での関連情報検索を試みた。その結果,(1)いまだにPBSの放送番組リストに掲載されていること,(2)CD-ROM化・商品化されて高い評価を受けていること,(3)財団が結成され,帆船を軸に各種活動が継続されていること,(4)インターネットを使った利用者相互の協同学習が展開していること等が明らかになった。放送番組の長期利用やマルチメディア展開について考察した。

キーワード:「ミミ号の航海」 Webサイト 調査 インターネット マルチメディア


1.「ミミ号」は歴史になったのか
 米国バンクストリート教育大学によって開発され,公共放送番組提供協会(PBS)により1980年代後半に全米で活用されたマルチメディア教材「ミミ号の航海」(The Voyage of the Mimi)は,本学会においてもすでに「古典」として研究の対象になっている(佐賀,1995)。「経験するたびの,抑えがたい新鮮さ(p.35)」が「ミミ号」の古典性であると主張する佐賀(1996)は,「ミミ号」が科学の課題を文脈の中で提示し,かつ最近の教育思潮である「状況に根ざした学習」を当時すでに教材の中に具現していたことなど,マルチメディア時代に向けての総合番組開発に示唆を多く与えていると指摘している。
 当時の「ミミ号」の宣伝パンフレットには,「世界初のマルチメディア教材」と銘打たれ(浜野,1988),その後のメディア開発の模範とされてきた。開発に40ケ月をかけて1984年に完成した「ミミ号」は,様々な教育メディアを組み合わせてパッケージ化し,主幹メディアのテレビドラマシリーズ(15分番組13本)を中心に,テレビドキュメンタリー(15分番組13本),教科書,掛け図,コンピュータソフト(4本)などの教材群からなっていた。授業展開案と各種の教材を組み合わせて提供し,また,「ミミ号」の利用を支援し,教師同士がアイディア交換したり,公開授業の案内を掲示するためのパソコン通信のホスト局も開設されるなど,今日のマルチメディア展開の雛型をすでに実現していた部分も少なくない(詳細は,鈴木,1997)。
 完成から15年が経過した現在において,「ミミ号」は,古典として過去の歴史になったのだろうかか。それとも,今でもなお,米国の教育実践に影響を及ぼし続けているのであろうか。当時の「ミミ号」が与えた示唆に加えて,15年が経過した「ミミ号」の現状から,今後のメディア開発に与えられる示唆はないのだろうか。さらに,上記のような疑問を解決する手段として,インターネット上の調査はどの程度有効であろうか。以上のような関心に基づき,1998年時点での「ミミ号」の現状を調べるために,インターネット(World Wide Web)上での関連情報の検索を試みた。

2.調査方法
Web上の検索サイト「AltaVista」(URL=http:// altavista.digital.com/)などを用いて,「ミミ号」関連情報の所在を調査した。検索は,全文検索の手法により,「voyage of mimi」(3単語のAND検索;大文字小文字の区分なし,言語の制限なし)をキーワードに用いた。また,全文検索により同定したWebサイトに含まれている関連サイトへのリンクをたどることで,全文検索で同定できなかったWebサイトを同定した。調査は,Web上の情報の流動性をかんがみ,1998年3月23日と1998年8月17〜18日の2度にわたって行った。

3.調査結果
3-1.「ミミ号」がいまだにPBSの放送番組リストに掲載されていたこと
 1998年3月の調査時点で,1997-98年度の放送番組シリーズとして,「ミミ号」(第1と第2両シリーズ)が,Web上のPBS教育番組リストに掲載されていた(URL=http://www.pbs.org/learn/ itv/series. html;図1参照)。「ミミ号」の主幹教材となっていた放送番組が,現在でも再放送されていることがわかった。ただし,PBSの番組リストには,地方の放送局ごとに番組を選定して放送しているので,このリストの番組すべてがすべての放送局から実際に放送されているとは限らないとの注記があった。




図1.「ミミ号」を紹介するPBS番組表

 PBSのWebサイトからのリンクが張られ,Web上で放送予定表を公開している20数局のリストを調べた結果,サンフランシスコのKQED(URL=http://www. kqed.org/cell/school/ curricula/science.html)が,1998年3月に第1・第2シリーズとも,早朝5時から6時にまとめて放送予定であることがわかった(録画利用を前提とする,いわゆるblock-feedでの再放送)。しかし,それ以外の放送局の予定表には,「ミミ号」の文字を発見することはできなかった。「ミミ号」を放送している地方局が実際に少ないのか,それともホームページ検索による調査の限界なのかは,不明である。
 1998年8月の調査時点では,PBSの教育番組リストそのものが別組織のWebサイトに移管されていた(http://www.netaonline.org/)。移管先のNational Educational Telecommunications AssociationのWebサイトでは,8〜9月度の放送予定表が公開されていたが,その中には「ミミ号」は含まれていなかった。PBSサイトで,サイト内のキーワード検索を用いて調べた結果,3月時点と同じ「ミミ号」についての番組案内が残ってることがわかった。

3-2.「ミミ号」がCD-ROM化され,市販されて高い評価を受けていたこと
 「ミミ号」は,サンバースト・コミュニケーションズ社によって,CD-ROM化され,市販されているとの情報が,同社の製品の紹介ならびにオンラインショッピングを展開しているWebサイトに公開されていた(URL=http://www.nysunburst.com/ mimi. html)。同社のWebサイト及び1998年版の販売パンフレットによると,「ミミ号」についての30分の説明ビデオが無料で配布されている他,アメリカの教師向けには,最初の3話(ビデオテープ3本とCD-ROM2枚)とコンピュータソフト1つ,児童用テキスト1冊,ならびに教師用ガイドがセットになった「体験パッケージ」が無料で用意されていた(「体験パッケージ」の販売価格は$99.95)。
 CD-ROM化された「ミミ号」を入手して詳細を調査した(1996年サンバースト・コミュニケーションズ社の版権表示あり)。Win/Mac共用のCD-ROM1枚に2話ずつの冒険ドラマとドキュメンタリーに「シーンの裏側」を加えた3部構成となっていた。
 「シーンの裏側」は,ビデオ教材には含まれていなかったもので,「ミミ号」の関連情報を紹介している。例えば第1話では,「ミミ号」を例にしながら映像制作について学習するメディアリテラシー的な内容,第2話では,帆船の構造物を紹介する「船員のはなし」と16〜18世紀に描かれた鯨の絵を紹介する内容となっていた。
 「シーンの裏側」には,「表示される文字を読むためには,ビデオ画面の一時停止ボタンを利用すること」などの注意書きがあり,また画面に「STEP」や「PLAY」の文字が含まれているところからみて,レーザーディスク版を原形として開発されたものと推察される。後述の教師用ガイドにも「シーンの裏側」については一切触れていないので,最近の追加分と思われる。
 CD-ROMは,1.9MBの作動用プログラムをハードディスクにインストールし,それをダブルクリックすることで開始される。ビデオ表示用のウインドウ(デフォルトは240×320ピクセルで拡大縮小可能)とナビゲーション用の学習用ソフトウェア「探検と発見」ウィンドウが同時に表示される(図2参照)。




図2.CD-ROM版「ミミ号の冒険」

 その他に,ヘルプ表示用のウィンドウと,レポート作成用のワープロウィンドウがメニューから選択でき,表示可能になっている。付属のワープロは,データパックソフトウェア社によるもので,ワープロで作成するレポートの中に,「ミミ号」からのシーンを引用するボタンを付ける機能がある。
 ナビゲーション用の「探検と発見」ウィンドウ上部(図2左上)には,要約,探索,レポートアイディア,用語集,ビデオ集の選択肢が用意されている。当該部分のビデオを選択視聴するためのボタンが随所に埋め込まれており,ビデオを参照しながらの学習を支援する機能が充実している。ビデオ用のウィンドウは,パソコン画面一杯に拡大すると粒子が荒れて視聴が困難になるものの,画面の四分の一程度であれば通常に利用可能な画質を提供している。ビデオ視聴後に,あるいは初めからCD-ROMを単体で用いての視聴でも,個人や小グループでの学習に十分利用できるものである。CD-ROM化で「探検と発見」が加えられたことにより,子どもが自分(たち)だけで学習を進められる方向での拡張が図られていた。
 「体験パッケージ」に含まれていたその他のものは,表1のとおりである。発表当時の資産を現在まで踏襲しながら,コンピュータ環境の変化に対応してソフトウェアを改訂・追加するなど,長期間にわたる持続的な開発の経緯が,当時の教材と比較することにより,また著作権表示などに読み取れた。

表1.「ミミ号」体験パッケージの内容物
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ビデオテープ3本(1本に1話;冒険ドラマとドキュメンタリーの2部構成;1985年バンクストリート教育大学の版権表示あり)
ポスター(A2版相当カラー;1988年バンクストリート教育大学の版権表示あり)
メイン湾海図(A0版相当カラー;実物のコピーと思われる;航海目的のものでない,と注記あり)
テキスト(A4版相当全カラー160ページ;冒険ドラマとドキュメンタリーの内容紹介;1985年バンクストリート教育大学の版権表示あり)
教師用ガイド(A4版相当で白黒131ページ;最初の3話分のみ;1995年サンバースト・コミュニケーションズ社の版権表示あり)
コンピュータソフト「地図と航海術」(フロッピーディスク1枚;1992年サンバースト・コミュニケーションズ社の版権表示あり)
「地図と航海術」用テキスト(A4版相当で白黒75ページ;1994年バンクストリート教育大学の版権表示あり)
「地図と航海術」用教師用ガイド(A4版相当で白黒164ページ;1994年バンクストリート教育大学の版権表示あり)
CD-ROM版「ミミ号」(ボーナス)2枚(1996年サンバースト・コミュニケーションズ社の版権表示あり;Win/Mac共用)
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注:サンバースト・コミュニケーションズ社Webサイトにて1998年3月に購入したセット。

 全話分の販売価格は,第1・第2シリーズともにCD-ROM7枚セットで1セットが$299.95,5セットパックが$599.95と安価に設定されていた。宣伝パンフレットでは,CD-ROM版は,クラス全体で「ミミ号」を視聴した後の活動に用いるものという位置づけを与えられており,従前からのビデオ版(英語とスペイン語の字幕機能付)も各30分の全13話セットが$450.00で販売されていた。
 リンウォース社の学校メディア専門家向け雑誌『Technology Connection』1997年4月号(第4巻2号)の新製品紹介記事(URL=http://www. linworth.com/reviews/tc/april97/review.htm)では,1996年にビデオ,レーザーディスク,CD-ROM(WIN/ MAC)の3形態が販売されたことを取り上げていた。新たに開発・追加されたコンピュータソフトや水温測定機具などの関連教材のすべてがそろう完全キットでの販売価格は,$1299.95(ビデオ)〜$1599.95(LD又はCD-ROM)だとしていた。
 リンウォース社の紹介記事では,パッケージ化された「ミミ号」を高く評価している。使い勝手もよく,授業展開案も整備されていて長期(1学期〜1年間)にわたる複合的な利用が可能であるとする。また,カバーできる教科も,主たる教科領域である算数・理科や社会科,環境,文化から,ほとんど意識することなく言語や音楽などへも広げられる。さらに,多種多様な学習活動の提案やワークシートが準備されており,異年齢児童の統合クラスにおける理想的な教材であるとする。マルチメディア教材の新たなベンチマークとなったと評し,とりわけ,児童用ワークブックと教師用ガイドの充実度とカバーする学習課題の広範さが特筆に値するとしていた。

3-3.「ミミ号」財団により帆船が教育目的に保存され,各種活動が実施されていたこと
 バンクストリート教育大学とともに番組制作にあたってきたBarn School Trustによって,「ミミ号」第2シリーズが完成・放映された直後の1988年から,各種活動が展開されてきていることが判明した。マサチューセッツ州グローチェスタに本拠地を置く財団が,番組に使われた「ミミ号」(帆船;1931年フランス製)を教育目的に保存・活用している。毎年度9月から6月までの間,「ミミ号祭」(MIMIFest)として全米20数箇所に「ミミ号」を寄港させ,毎年合計3万人を越える児童に(過去7年間に15万人を越える参加者を得て),体験学習の機会を提供しているとの報告がWeb上に公開されていた(URL=http://www.mimi.org/festports. htm)。
 Web上では,たとえば,国立ステルワーゲン沿岸海洋禁猟区管理所の機関誌の教育ダイジェスト(URL=http://wineyard.er.usgs.gov:80/soundings/ edudiges.html)が,マサチューセッツ州プリモス港に「ミミ号」が再訪することを報じている。マサチューセッツ州は,「ミミ号」の冒険ドラマで最初の鯨が発見されたのがステルワーゲン沿岸海洋禁猟区内との設定であったことから,関連が深い土地柄でもある。1996年度の「ミミ号祭」には,「ミミ号」教材で勉強中の1,800人の児童と教師が,遠くはインディアナポリスやニューヨーク州ローチェスタからも参加の予定であり,「ミミ号」のグランビル船長役に扮するピーター・マーストン氏(元MIT教授;帆船の所有者で財団の創始者)を迎え,「ミミ号」の船体を見学したり,近隣のプラネタリウムで天体航海術を学んだり,海上での天気予報や漁業技術,鯨の見分け方などのワークショップに参加することになっていると伝えていた。また,フロリダ州モンロー郡学区の広報『Key Lines』1998年1月19日号(URL=http: //www.monroe.k12.fl.us/mimipic. htm)には,280名を超える4〜8年生が参加した「ミミ号祭」の様子が写真入りで紹介されていた。
 海をもたない内陸の州でも,「ミミ号祭」が行われている。1998年2月26・27日には,ネブラスカ州オマハで,ピーター・マーストン氏らを迎え1,400人の児童が参加して,5年目の「ミミ号祭」が行われた。活動の様子を伝えるWebサイトが設けられ(URL = http:// 205.202.101.100/Hillrise/MIMI/mimifest.html),5年間の活動記録が公開されている。1998年に行われた並行開催ワークショップでは,表2に掲げるメニューが用意され,それぞれのワークショップに参加した子どもによる活動報告が,写真とともにWeb上に公開されていた。

表2.「ミミ号」祭ワークショップメニュー
   (1998年,オマハ)
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デカルトダイバー:ダイバーを沈ませるチャレンジを通して,浮き沈みの原因を探る
電気ボード:正解を選ぶと電気がつく装置と問題を自作して,鯨と海に関するクイズで遊ぶ
慰み細工:いにしえの捕鯨船員が航海中の慰みに貝などに彫刻したものをまねて,自作する
危機に瀕する種:動物園からの講師と会話しながら,危機に瀕する種について学ぶ
ネットスケープ:「ミミ号」に関連するトピックスについて,インターネットで調べる
縄結び:船で用いられる縄結びの種類と方法について,老人から学び,練習する
天気:海軍と地域を代表する人たちを招いて,日常生活に役立つ天気予報について学ぶ
忘れ去られた水:地下水と地表水をきれいにすることについて,水質の概念を用いて学ぶ
ヘビ:陸に住むヘビについての情報を,科学的な探究過程を用いて発見していく
地球はびしょぬれ:4Hからの代表を招いて,水の占める割合と循環について実験する
リサイクル:ゴミ探偵に扮して,リサイクルについて学ぶ
ざりがに:観察と調査を通して,ざりがにの生態について発見する
コンピュータ雑学:パソコンが出題する「ミミ号」雑学問題で,他の学校の児童と競い合う
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出典:URL=http://205.202.101.100/Hillrise/ MIMI/ Mimi98/Sessions.html

 「ミミ号」通信(MIMIConnections)として財団がWeb上に公開している情報には,財団の経緯,「ミミ号」帆船の歴史と見取図,「ミミ号祭」の概要と寄港先リスト,教師向け夏期講座の概要と参加者募集,インターネットを使った「ミミ号」利用者間の交流案内,「ミミ号」関連学習情報へのリンクなどがあった。財団のホームページは1995年に開設された(URL=http://www1. shore.net/~nya/ MIMI.html)が,近年独立したサイト(URL= http://www. mimi.org/;図3)に移動し,新しい活動が整いつつあるといった状況であった。




図3.「ミミ号」財団のWebサイト
   URL=http://www.mimi.org/

 「ミミ号」を利用している教師に,関連情報を提供するサイトを紹介したり,遠隔教育コンソーシアム設立を呼びかけるページもある一方で,掲示板への書き込みは始まったばかりで,リンクが完成していない部分もあった。1998年3月と8月の半年間では大きな変化はみられなかったが,これからどう変化するのかが楽しみである。

3-4.インターネットを使った「ミミ号」利用者相互の協同学習が行われていたこと
 「ミミ号」を活用した教育実践についての情報も,全米各地からWeb上に公開されていた。たとえば,テキサス州のある小学校では,5年生の理科学習が「ミミ号」を中心に展開していることを報告していた(URL=http://www.amarillo.isd.tenet.edu/puckett /mimi.html)。理科についての子どもの関心を高め,総合的学習の文脈を作り出すと評価し,近隣の機関からのゲストや他の映像教材で「ミミ号」の標準カリキュラムを拡張しながら,5年生が海洋学者,海洋生物学者,環境学者,地質学者になって,協力しながら活動しているとしていた。
 カナダのオンタリオ州の小学校でも,1996年10月のプロジェクトとして5年生が「ミミ号」に取り組んだことが報告されていた(URL=http:// www.ebecie.ebe. on.ca/broadacres/events.html)。コンピュータなどのテクノロジーを教室での活動と統合するものであるとの紹介があった。また,首都ワシントンにある大学からは,聴覚障害児学校で数学と化学の復習教材として「ミミ号」の活用を試みるプロジェクトが3年目を迎えているとの報告もあった(URL=http://www.gallaudet. edu/~mssdsci /mimi.html)。
 ネブラスカ州の小学校では,前述の「ミミ号祭」に関連して活動を展開した結果を公開していた(URL=http://interlog.com/~hsurfers/MIMI. html)。「ミミ号」教材をもとに学習を進めている子どもたち(5年生)が創作した絵や物語,詩や歌などを発表したり,子どもたちと「ミミ号」財団本部との電子メールによるやりとりの記録,あるいは,教師向け情報として「ミミ号」最終テスト(記述式14問)も含まれていた。
 オレゴン州の小学校からは,3人の小学校教師による「ミミ号」学習とインターネット利用学習とを組み合わせた授業展開案が公開されていた(URL=http: //schools.4j.lane.edu/harris/mimi/voyage_home. html)。1998年3月の調査では「ミミ号」の第1シリーズ用のみ(13週間分)が公開されていたが,1998年8月までには第2シリーズ用の授業展開案(12週間分)が加わっており(URL=http://schools.4j.lane.edu/ harris/voyage2/ index.htm),進行中の取り組みであったことを示している。両シリーズともに,毎週の「ミミ号」教材にあわせて,番組に登場する博物館のWebサイトへのリンクなどのインターネット利用学習を提案していた。その他にも,関連したトピックスでの文章作成課題のワークシートが,教師用素材としてマウスクリック一回でダウンロードできるようになっていた。インターネットを学習メディアとしてのみならず,教材活用アイディアの共有のための教師用メディアとしても活用した例としても,参考になると思われた。
 教育実践の中で特筆すべきものには,ペンシルバニア州Lower Merion学区の教育工学専門官ビル・ドルトン氏を中心に展開している遠隔協同学習プロジェクト「新米水兵のためのミミ号」(MIMI for Landlubbers;URL=http://www.lmsd.k12.pa. us/mimi/;図4参照)があった。




図4.「新米水兵のためのミミ号」Webサイト
   URL=http://www.lmsd.k12.pa.us/mimi/

 1994年に開始されたこの活動では,「ミミ号祭」で実際に「ミミ号」(帆船)を見学する学区の子どもたちと全米各地の子どもたちをネットワークで結んで,協同学習を展開してきている。3ヵ月間に及ぶ協同学習のプロセスが詳細に計画され,実践を着実に積み重ねている様子が読み取れた。この活動は,財団本部やサンバースト・コミュニケーションズ社のWebサイトでも紹介されており,それぞれからリンクが張られていた。「ミミ号」関係者には,よく知られているプロジェクトであることが推察される。
 5年目にあたる1998年度の「新米水兵のためのミミ号」プロジェクト参加校募集要項によれば,活動は,見学パートナー募集と,「ミミ号」学習の成果をホームページに掲載を希望するクラス募集の2つに大別されている。活動期間は1998年2月〜5月で,フィラデルフィア開催の「ミミ号祭」にホストクラスが参加する4月21〜23日に照準を合わせたスケジュールを組んでいた。全米から「ミミ号」学習中の3〜6年生をクラス単位で12〜20募集し,学区内に交流するホストクラス(4年生学級)を準備していた。見学パートナー募集の活動概要は表3のとおりである。

表3.「ミミ号」見学パートナー募集の活動概要
  (1998年「新米水兵のためのミミ号」より)
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応募要件
 応募するクラスは,1997-98年度に「ミミ号」第1シリーズを学習中または学習済であること。電子メールとWebブラウザが利用可能なこと。パートナーを失望させないよう,締切を守り,責任を果たすために最大限に努力することを約束できること。
クラス紹介の電子メール(期限:3月末日)
 「ミミ号」を使っての学習をどのように進めているか。クラスや学校,地域についての紹介。プロジェクトのWebサイトに掲示するので,子どもの名字は含めないこと。これを交流の出発点とする。
電子メールのやり取り(最低週1回)
 休み中以外は,毎週1通ずつの返事または新たなメールを相互に送り合うこと。話題は「ミミ号」に限定しないが,「ミミ号を見に行ったときに聞いてきて欲しい質問」を明確にするためのやりとりを主とすること。ホストクラスからは「ミミ号祭」での活動内容をできるだけ早急に知らせ,質問を考える参考にしてもらうこと。すべてのメールの写し(cc)をプロジェクトコーディネータ宛送付すること。
「ミミ号祭」仮想見学体験
 参加クラスは,「ミミ号祭」での質問を最低3〜5問,10問を超えない範囲で用意し,送付すること(期限:3月末日)。ホストクラスは,質問の意図を把握し,「ミミ号祭」で情報を収集するための準備をする。「ミミ号祭」の後で,ホストクラスは回答を用意し,送付する(期限:5月8日)。あわせて見学記録の計画を立て,写真などを交えてWeb 上に公開する(期限:5月8日)。
プロジェクト評価
 プロジェクト終了時には,評価を指定項目にしたがって提出すること(期限:5月29日)。児童と担当教師が評価に貢献し,コーディネータ宛送付すること。
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出典:URL=http://www.lmsd.k12.pa.us/mimi /98/call.html

 1998年8月時点の調査では,1998年度の参加20クラスとホスト役7クラスからのクラス紹介の手紙や,「ミミ号祭」での質問項目と回答ならびに見学記録,そしてプロジェクト評価に関するアンケート項目とその結果が公開情報に加わっていた。参加クラスで「ミミ号」教材がどのように活用されているのか(1週1話のペースで活用している学校が多いことや,9年間「ミミ号」を活用してきた教師がいたことなど),また,「ミミ号」で学習した子どもたちがどのような疑問を抱くのか(撮影したのは野性の鯨か,それとも飼育して訓練した鯨か,など)がわかり,興味深いものであった。
 「新米水兵のためのミミ号」プロジェクト自体についても好意的な評価が多く,遠隔地に仲間ができたことや,インターネットの実用的な価値に触れたこと,あるいは質問を明確化する手法や重要な質問を選定するプロセスなども学べたことが述べられていた。プロジェクトの継続を望む声も多く,パートナー決定の時期を早めて「ミミ号祭」までの電子メールやりとりの回数を増やしたいとの要望も寄せられていた。

4.考察
 「ミミ号」は,1998年現在も発展を続けていた。CD-ROMパッケージ化され,市販されたのみならず,財団が「ミミ号」(帆船)そのものを活用した体験学習を全国展開していた。また,インターネットを用いて,「ミミ号」利用術の情報交換をしたり,利用者相互の協同学習を展開するなど,マルチメディア時代にふさわしい発展も見せていた。これだけの広がりを持つほどのインパクトが,「ミミ号」教材そのものにあった証しであろう。
 マルチメディア時代における放送番組の役割や制作方針,とりわけ他メディアとの連携や放送番組の長期に渡る活用策を議論するときには,製作当初の「ミミ号」を参考にする以上に,「ミミ号」のその後の展開ぶりを念頭に置く必要がある。教材のシリーズ化とパッケージ化,あるいは,市販と維持体制などについて,計画の当初から検討を加え,さらに,インターネットによる学習支援や利用促進策についても,組織的な取り組みと長期間の維持体制が不可欠である。製作者が関与する部分と,利用者相互の交流に委ねる部分との棲み分けも,重要な判断となるだろう。
 さらに,放送番組をCD-ROM化すれば,放送が不要になるのかどうかも,十分に検討しておきたい。情報を提供することが,他のメディアによって達成できるとすれば,情報提供以外に放送が担うべき役割が他にあるのではないか,という視点である。
 「ミミ号」以来の作品として注目を集めている「ジャスパー冒険物語」では,主幹教材の冒険物語は,放送ではなくレーザーディスクで提供されている。これは,見たい部分を何度でも繰り返し選択して見ることができるように,という配慮からである。一方で,テレビ放送を学習成果の達成度を評価するための手段として用いる試みをしている。出演者3人がジャスパー教材の類題に挑んでいる姿を生視聴し,誰が本物の達人かを投票するゲームショー形式で達成度を評価し,その結果を次の指導計画の調整に役立てようとする方式である(鈴木,1995)。
 学習成果を確かめるための放送によって,教材利用の締切日を設け,利用者が一斉にこれまでの学習成果を確かめ合う。その共通体験をもとに,今度はインターネットなどを使って交流を深めていく。こんな縦横無尽のメディア複合利用の学習展開も含めて,その核となる番組づくりを検討することが求められているのではないだろうか。
 この研究では,Web検索とリンクをたどることで「ミミ号」の現状を捉えようとした。PBSの番組表などのように,一定期間の情報しか公開されていない場合には,活用の全体像を把握しにくいことが調査を通してわかった。Webサイトにおける「現状」とは,その瞬間を意味するため,半年たらずの時間を隔てた2回の調査でも,変化が多数見られた。電子メールによる問い合わせや,出版物などを用いることにより,より長期間の情報を補うことが求められる。
 さらに,今回の調査では,インターネットを用いない「ミミ号」関連の情報は同定できていないという限界がある。たとえば,1998年現在,全米の小学校の何割が「ミミ号」を活用しているのかといった数字は,Web検索の手法では明らかにできない。今回の調査で明らかになった「ミミ号」の発展ぶりは,氷山の一角を捉えたものに過ぎないかもしれない。しかし,最低でもこれだけは活用されているということが判明したことだけは確かである。現状の一端を知るという目的のためには,Webを用いた調査は,手軽で容易に実施可能なものだと言えよう。

謝辞
 本研究の一部は,NHK学校放送番組部からの受託研究『マルチメディア時代の番組・教育ソフト研究報告書(3年次)』(財)日本放送教育協会,1998年によるものである。
 また,本研究の発端は,同研究会のメンバーであった小笠原喜康氏のご子息が渡米中に「ミミ号」の授業を経験したことを報告した電子メールを受け取ったことにあった。記して感謝します。

参考文献
浜野保樹(1988)『ハイパーメディアギャラクシー〜コンピュータの次にくるもの〜』福武書店
佐賀啓男(1995)「文脈の中の課題を提示する『ミミ号の航海』」 日本視聴覚・放送教育学会1995年度第1回研究会(教育メディア作品の古典研究)
佐賀啓男(1996)「総合番組について〜他のメディアとの連携をふまえて〜」 『マルチメディア時代の番組・教育ソフト研究報告書』NHK学校放送番組部からの受託研究 (財)日本放送教育協会,32 - 40
鈴木克明(1995)「教室学習文脈へのリアリティ付与について—ジャスパープロジェクトを例に—」『教育メディア研究』2(1) 13 - 27
鈴木克明(1997)「3章マルチメディアと教育」 赤堀侃司編著『高度情報社会の中の学校〜最先端の学校づくりを目指す〜』(学校変革実践シリーズ第3巻)ぎょうせい p.73-104


The Voyage of the Mimi in 1998: Searching Web sites

SUZUKI, Katsuaki (Tohoku Gakuin University)

Summary:
In order to investigate the state-of-the-arts of "The Voyage of the Mimi" in 1998, 15 years after its completion, Web searches were conducted. As the results, it was found that (1) the Mimi was still available in the PBS's television program list; (2) the Mimi was converted to a CD-ROM based package that is commercially available through a firm, and it was highly recognized; (3) Non-profit Mimi foundation is keeping the Mimi that has been used in various educational activities; (4) Cooperative learning activities have been initiated by the Mimi users via Internet. Factors related to long-life utilizations of an educational television program, as well as its extensions to multimedia environments were discussed.

Keywords:
The Voyage of the Mimi, Web sites, survey, Internet, multimedia