『第14回全日本教育工学研究協議会発表論文集』203 - 208 (1988)
       簡便で長続きするCAI開発−実践者のための3段階法−

             鈴木 克明 (東北学院大学)

                 1.はじめに

本稿は、教育の現場で実践に当たる教師たちが自分でCAI教材を作成する場合の、簡
便で長続きする開発方法について、その手続きを提案するものである。ここで言うCAI
教材とは、単に子供たちにコンピュ−タによる学習を体験させるという目的以外のある特
定の学習目標を意図して作成されるものであり、その意味で「独り歩きのできる教材」の
作成を目指す。質の良いCAI教材にはどのような条件があるのか(鈴木、1988b)、また
、その条件を満たすCAI教材はどのように作成するのか(鈴木、1987a)という点につい
ては、システム的な教材の設計開発モデルに示されている通りである。しかし、これらの
モデルは教材の設計開発を主な仕事とする専門家を念頭に作られてきており、必ずしも現
場教師に最適なものではない。現場での実践の中で、難解で複雑なモデルを諦め、その結
果として場わたり的で単発的な、しかもこれまでのCAI作成のノウハウを生かし切れな
いCAI開発の事例が多く見られるのは残念な事である。そこで、これまで質の高いCA
I教材の作成を支えてきたシステム的な設計開発モデルを、教材作成にあてられる時間は
少ないが、一方で、教材の使用者になる生徒たちの協力が得られる教育実践者の実情に合
わせて改良し、役に立つCAI教材を現場で自作するための「実践者のための3段階法」
を以下に提案する(Suzuki, 1987) 。

             2.「3段階法」を支えるもの

具体的な提案に入る前に、「3段階法」が有効となる条件について触れておきたい。ま
ず第一に、CAI作成環境として、現場の教師が抵抗なく使うことのできる教材作成支援
システムが用意されていること。少なくとも「説明」と「問題」のフレ−ムがあり、教材
の基本単位としてのフレ−ムの作成と、できあがったフレ−ムを順序立ててCAI教材に
組み立てる機能が独立しており、両方の作業の修正が簡単にできること。「問題」のフレ
−ムでは、複数個の正答処理、解答回数や誤答のタイプに応じたフィ−ドバックや分岐、
任意のフレ−ムでの学習情報の収集等が簡単にでき、願わくば、メニュ−機構、幾つかの
「問題」フレ−ムの雛形、複数の「問題」フレ−ムのアイテム・バンク化や乱数選択等を
サポ−トしたものが望ましい。第二には、教師の学習内容に関する専門的知識が挙げられ
る。授業設計に関する特別な研修は前提としないが、CAIによってどんな問題を解決し
たいのかを明確に示すことができ、テストや練習問題を作ることができ、学習させたいこ
とと生徒の現状とのギャップを埋めるには何をさせるのがよいのかを提案できる程度の専
門的知識が要求される。第三に、できあがったCAI教材を使うことになる生徒(に相応
する生徒)の協力が得られること。効果のある教材が作れたかどうかは生徒に試させてみ
るまではわからないからである。
 効果のあるCAI教材を作成しようとする際に問題となる点の一つに、どんな教材が必
要かを一番よく知っているのは生徒の実情に詳しい教師である一方で、教師にはCAI教
材を作成する時間が限られているということがある。この問題点を解決するためには、例
えば、現場の教師と外部のCAI教材作成業者もしくは研究者とが連携して開発チ−ムを
作ることが可能であるが、「3段階法」では、外部からの協力がない場合に現場の教師が
主となってCAI教材を作成するための手順を提案する。これは、CAIの教材作成環境
が益々整備されれば、他の自作の補助教材を開発して授業に利用すると同じ簡便さでCA
Iを活用することができるであろうことを予測し、また、願うためである。「3段階法」
を学ぶことで、CAI教材の作成に関する視点をおさえ、授業設計の要となる技能にはど
のようなものがあるかを確認できるのではないかと考える。

            3.「3段階法」の手順について

「3段階法」では、これまでシステム的な教材の設計開発モデルの中でCAI教材の設
計から完成までに必要とされていた手続きを3つの段階に分断し、より少ない時間で使用
に供することができる教材を完成させることを目指す。3つの段階のそれぞれは、それ自
体が一つの教材開発過程を成すと同時に、一つの段階で開発された教材が次の段階の基礎
となり積み重ねていくことができるように工夫されている。次に、図1に示される「3段
階法」を各段階毎に説明したい。

3.1.第1段階:診断するCAI
 第1段階では、テストをコンピュ−タ化することで「診断するCAI」を作成する。教
師が学習指導上で何か問題を感じた場合、まず最初にすべきことは「何を学習させるか」
を明らかにすることである。システム的な授業設計の実際に不慣れであることを考慮すれ
ば、学習目標を明確に記述する事よりも、テスト項目をつくってみることから始めるのが
よいと考えられる。後でテスト項目から明確な学習目標を導き出すことは容易であり、目
標を記述することで後に教授方略を選択する時に理論的な研究所産を活用し易くさせるが
、この段階ではテスト項目によってCAIで何を学ばせるかがはっきりすればそれで十分
である。「問題」のフレ−ムを使えばテストのコンピュ−タ化は単にテスト問題を入力し
、正解を指定するだけで終わる。この場合、フィ−ドバックは省略し、問題の各項目毎の
解答を(特に誤答はそのまま)記録できるようにする。現在使用中のテストをコンピュ−
タ化することによって、成績の管理が容易になる。「説明」のフレ−ムを使ってテストに
表紙を付けたり、最後に診断の結果を知らせる画面を加えることもできよう。
 テスト項目を入力したら、生徒たちの協力によって、「診断するCAI」の形成的評価
を行う。当該の学習を既に終えた2−3人の生徒に「診断するCAI」を使ってもらうこ
とで、1対1の形成的評価(鈴木、1987a)を開始する。この生徒たちは学習が終了してい
るので当然問題なく「学習済」との診断が出るべきであり、つまずいた場合は生徒よりも
テスト項目に問題があると考えられる。この過程を通して問題のあるテスト項目や、入力
ミス(誤植)等を明らかにしていく。その結果を受けて、「診断するCAI」の問題点を
見つけ、改良を加える。
 1対1の形成的評価の結果をもとに改良した「診断するCAI」を、次に、当該の学習
〓枠01〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
〓                                      〓
〓 授業の目的を定める    行動目標を記述する
〓                                      〓
〓第1段階:                                 〓
〓                                      〓
〓 目標に準拠したテスト   「診断する」CAI    形成的評価を実施し
〓 項目を作成する       を開発する       教材を改良する
〓                                      〓
〓第2段階:
〓                                      〓
〓  練習の部分を      「練習用の」CAI    形成的評価を実施し
〓  設計する         を開発する       教材を改良する
〓                                      〓
〓第3段階:
〓                                      〓
〓  導入の部分を      「指導する」CAI    形成的評価を実施し
〓  設計する         を開発する       教材を改良する
〓                                      〓
〓                                      〓
〓図1.実践者のための3段階CAI教材作成法(鈴木)             〓
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

課題に関する授業を受けた直後の生徒1クラスの協力で、事後テストとして試用する。こ
の過程で、CAIが授業で扱った事柄を反映しているかどうかが確かめられる。また、あ
る程度の数の生徒に共通して見られる誤答のタイプを記録して、第2段階のCAI作成の
参考にする。この段階のCAIは、まだ当該の授業を受けていないクラスの生徒に対して
、事前テストとして試用することもできる。その結果として授業を受ける前に多くの生徒
が「学習済」との診断を下される場合には、問題項目そのものに解答へのヒントが含まれ
ていたり、あるいはCAIの使用者と見込まれた生徒にとっては簡単過ぎる問題であった
かも知れない。

3.2.第2段階:練習用のCAI
 「3段階法」の第2段階では、いわゆるドリル演習型のCAIを開発する。第1段階の
最終的な産物(「診断するCAI」)がこの学習課題で何を学ばせるかをはっきりと示し
ているので、このドリル演習型のCAIを設計する作業は、単に先に用いられたテスト項
目に匹敵する問題を練習用に増やし、誤答に対する治療的なフィ−ドバックを加えること
でよい。評価と練習との間の整合性は、テスト項目を練習項目の基礎として活用すること
で保たれる。第1段階の形成的評価で記録された誤答に関する情報を生かし、誤答のタイ
プ別にあつらえたフィ−ドバックを用意する。実際に生徒が起こした誤りを参考にするこ
とで、まずは起こらないようなタイプの誤答に対するフィ−ドバックをどうするかについ
て考える時間を節約することができる。「診断するCAI」に使った問題にフィ−ドバッ
クを加えて「練習用のCAI」にレベルアップすることも可能であるが、テスト項目とは
別の問題を練習用に作成して、教材作成支援システムのメニュ−機構を使うか、もしくは
「問題」のフレ−ムを活用してメニュ−を自作して、「練習」と「診断」の両方を兼ね備
えたCAIにすることもできよう。
 第2段階での形成的評価には、2タイプの生徒たちに協力を仰ぐ。それは、授業で当該
の学習課題について一通り説明を受けた生徒たちと、まだ全く学習していない生徒たちで
ある。あらかじめ説明を受けた生徒たちからは、このCAI教材が十分に練習の機会を与
えられたかどうかを確かめ、まだ全く学習していない生徒たちからは、この学習課題に関
する教材を今後どの程度増やす必要があるかについての情報を得る。つまり、もし、説明
をあらかじめ受けないままに「練習するCAI」を使うことで十分な効果が得られるなら
ば、これ以上の教材はこの学習課題に関しては不要であると言える。当該の学習課題に関
してCAI教材が有効ではないかという教師の判断で開発が始められたものの、普通のシ
ステム的な教材設計開発モデルに提唱されているような本格的な「ニ−ズ分析」は省略さ
れているので、これ以上この課題に時間を費やすことが意味のあることかどうかを常に生
徒の出来具合いを見ながら判断していく必要がある。ある程度の効果が得られた場合には
、他の学習課題のための教材作成に時間を充てる方が効率がよいと思われる。
ドリル演習型のCAIについては、コンピュ−タの機能を生かし切っていない等の批判
が聞かれるが、ここでの「練習用のCAI」は、単に「問題を与える」ことがその役割で
はなく、「問題が解けるように導く」ことを目指すものである。従って、「練習用のCA
I」を修了した学習者は、前提となる下位技能を適用できる限りにおいて、また教師の導
入が功を奏した限り、問題が解けるようにならなければならない。形成的評価と教材の改
善には、この観点から取り組むことが要求される。質の良いドリル演習型CAIが実現す
れば、それは質の良いチュ−トリアル型CAIの心臓部ともなり得るのである。

第3段階:指導するCAI
 「3段階法」の最終段階は、いわゆるチュ−トリアル型CAIの作成にあたる。第2段
階までで当初の問題が解決できなかった場合、もしくは、人間教師による説明部分をコン
ピュ−タ化したい場合には、第2段階の最終産物に情報提示画面や基礎的な練習問題を加
えることで、「指導するCAI」を開発する。この過程では、これまでの学習指導に関す
るノウハウを生かすために、教授理論をCAI設計に応用したモデル(例えば、ガニェ理
論を応用したivy訳、1987;動機づけの問題を扱った鈴木、1987b)を参考にするのが効
果的であろう。ここで求められる効果的な教授方略に関する情報は、CAI教材作成の手
順を示すモデルからではなく、ある課題の学習を促すためには何をさせるのが効果的かを
示す授業設計理論(ガニェとブリッグス、持留訳、1986; 鈴木、1988b)から得られる。メ
ニュ−機構を利用して、「診断」、「練習」の部分に「導入」の部分を並列的に加えて、
利用できる生徒の幅を広くしたり、学習者制御を組み入れることもできよう。
 チュ−トリアル型のCAIと一口に言っても、「練習する」CAIで何が不足していた
のかによって、それに加えられる画面は様々なものになる。例えば、「練習」の部分にH
ELP画面を加えて、必要に応じて分岐できるようにする、あるいは「練習」の前に2−
3ペ−ジのまとめを付け加える事で十分な場合もあるだろうし、一方で、基礎的な前提技
能の練習問題を別に開発して、当該の学習課題を導入する前に復習させる必要が生じる場
合もあるかも知れない。しかし、いずれの場合も、「仕上げ」にあたる部分は第2段階で
開発済なので、学習者を「練習用のCAI」が引き受けられるレベルまで高める導入の方
法を考えることになる。導入の部分では、「説明」のテンプレ−トを使って情報を提示す
ることに加えて、各種の「問題」のテンプレ−トを駆使して積極的な学習者の反応を求め
ることもできよう。
 第3段階での形成的評価は、これまで提唱されている方法に従って行い(鈴木、1987a)
、「指導するCAI」の改良すべき点を見つけ、改める。前の2回の形成的評価で、「診
断」と「練習」の部分は既に改良されているので、問題があるとすれば「導入」の部分で
あることが予想できる。学習課題に関する説明が不足していたり、課題の意味を生徒につ
かませるための学習の指針(ivy訳、1987)が欠けていたり、前提条件の確認ができて
いなかったかも知れない。この形成的評価とその結果に応じたCAI教材の改良をもって
、「3段階法」の開発過程は完結する。

            4.「3段階法」の効用について

「3段階法」の第一の長所は、時間的な制約に対する柔軟性である。従来の教材設計開
発モデルに基づくCAI教材の作成は、効果的な教材を開発できるという点では優れてい
るが、教材の開発を始めてから使用に供することのできる教材が完成するまでに必要な時
間や手間がかかりすぎるという欠点がある。「3段階法」に従って開発を行えば、各段階
に要する時間は短く、使えるCAIが段階毎に開発できる。しかも、前段階で開発した教
材を基にして、次の開発が行え、発展性があるといえよう。
 第二に、作成している教材に対する現場の必要性に敏感であることが挙げられる。CA
Iをどの課題に関してどの程度まで開発するかは、生徒が既にどの程度まで学習していて
、どの程度の指導を受ければその課題を達成できるかに依って判断されるべきものである
。最初から「完璧な」チュ−トリアル型のCAI教材を一つ作ることを目指すよりも、困
っている問題を解決するのに必要なだけの教材を幾つか揃える方が賢明である。プログラ
ム学習の時代に、最初は粗いステップで教材を作り、問題の生じた所だけステップを追加
していく、いわゆる「やせた教材(lean programming) 」を作れと言われたが、その精神
に通ずる利点であろう。
 第三に、評価、練習、導入の各部分の整合性が保たれ易いことが指摘できる。評価問題
を基本として、教材全体が相互に結びつけられて開発されるため、互いに整合性をチェッ
クする機能が働く。テスト問題と直接関連のないような説明が長く続くような教材は、「
3段階法」からは生まれにくい。勿論、テスト問題を解くために直接役立たないことは、
一切排除すべきであると言っている訳ではない。常に学習の達成を何で評価するかを念頭
に置いて教材を作っていくことで、この教材に最低必要な事は何かが明らかになる。それ
に物足りない感を抱いた時、何が物足りないかをより明確な形で(つまり学習目標として
)捉え、評価の観点として加える契機にもなり得るのである。
 第四に、必要なポイントを効果的に押さえた教材は、学習意欲を高めるのにも役に立つ
と言えよう。教師の頻繁な助けなしに自力で何かができるようになるという経験によって
、CAIを使った授業を好きになるだけでなく、その教科に対して、あるいは自分自身に
対して、好意的になる機会となる。動機づけモデル(鈴木、1987b)に照らしても、「三段
階法」で作成されたCAI教材は、学習意欲を高めるとされている多くの特徴を備える可
能性が高い(例えば、メニュ−機構による歯切れのよさ、誤答タイプに応じた治療的フィ
−ドバック、練習問題に応じた公正な評価方法等)。
 最後に、形成的評価を行った際の情報を、教材の改善に直接生かせることを挙げたい。
これまでの形成的評価は、使用者である生徒の協力を得る機会の少ない外部の業者や研究
者に適したモデルの中で、教材の完成間際にまとめて行われてきた。それに比べて、「3
段階法」の形成的評価は、一歩教材の開発が進むたびに行われるので、そこから得られた
情報の解釈が比較的容易である。教材のどこを直せばよいかが明らかである。この点で、
授業設計の専門的な手続きが簡略化できることになる。

                5.おわりに

本稿では、実践者のための「3段階法」の概略について提案した。CAIの学校への導
入が単にコンピュ−タの体験をさせることに終わらないように、質の高いCAI教材を使

うこと

で子供たちがやればできるという自信をつけ、当該教科が好きになるように、そして、コ
ンピュ−タをそんな目的に上手に使ってくれた先生に感謝し、同時にコンピュ−タが便利
な道具であることを実感するように。また、CAIの導入によって現場の先生方が機械に
振り回されないように、願わくば、CAI教材を作成する経験を通して授業設計のノウハ
ウに触れ、科学的な方法で授業を良くすることもある程度できるという気持ちになるよう
に。「3段階法」が少しでもそんなお役に立てることを願い、発表者自身も次年度以降に
担当予定の「教育工学」等で「3段階法」を実践してみたいと考えている。

                  参考文献
ガニェ・ブリッグス、持留訳 (1986) カリキュラムと授業の構成. 北大路書房、京都
Gagne, Wager, Rojas 、ivy訳(1987) CAI学習教材の計画と開発 (1,2,3).
  マイコン・レ−ダ− 1987年1月号−3月号: 56-59
鈴木克明(1987a) CAI教材の設計開発における形成的評価の技法について.視聴覚教
育研究、17: 1-15
鈴木克明 (1987b) 「魅力ある教材」の設計開発をめざして−ARCS動機づけモデルと
  CAI設計への応用−.日本教育工学会第3回大会講演論文集: 375-376
鈴木克明(1988a) 授業研究の方法論−処方的な授業設計理論の立場から−.教育工学関
  連学協会連合第2回全国大会講演論文集
鈴木克明(1988b) 教師のためのコンピュ−タ・リテラシー講座20 CAI入門3−使
い易いCAIの要件−.指導と評価 1988年11月号
Suzuki, K. (1987) A Short-cycle Approach to CAI Development: Three-Stage Author-
ing for Practitioners. Educational Technology, 27(7): 19-24


                  教授理論や学習指導に関する研究によってCAI
は効果の上がる方法であるということが示される中で、今日の学校教育におけるマイクロ
コンピュ−タ利用は望まれる程に至っていない。授業に使うメディアの一つとしてマイコ
ンがあるのならば、この道具をどのように活用するのがよいのであろうか。マイコンは個
別学習を支援する独立型の教授メディアとして長きに渡ってその可能性が期待されて来て
いる。質的に高いレベルのCAIを使いこなすことで教師は人間にしかできない授業を司
る役割を担って、その結果として生徒個々に応じた授業を展開できるようになるとされて
いる。
 教材作成支援システムの発達によって、現場の教師がCAIコ−スウエア開発に近づき
易くなってきている。初めての教師でも、比較的短時間でCAIコ−スウエアが作れると
いう点でである。教材作成支援システムには普通、2つかそれ以上の画面の「雛形」つま
りテンプレ−トが用意されており、それをコ−スウエアの単位として使うことができる。
コ−スウエア作成にあたって必要なことは、画面のどこに何を表示するか、どんな質問を
するか、どんなフィ−ドバックを与えるか等を決めることだけであり、これは他のどのメ
ディアを使う時でも同じである。図1には、「ス−パ−・ソフトクラテス」という名前の
教材作成支援システムの質問・反応・フィ−ドバックのためのテンプレ−トを使って作っ
た質問の画面が示されている。このテンプレ−トでは、質問を表示し、複数の正答を指定
でき、回答の制限回数指定、誤答毎のフィ−ドバックや追加情報の画面への分岐を行うこ
とができる。
−−図1.「ス−パ−・ソフトクラテス」の質問・反応・フィ−ドバック画面
−−図2.「ス−パ−・ソフトクラテス」の組立機能
 コ−スウエアの基本単位として個々の画面を作成した後、画面を組み立てていく。図2
に示される「ス−パ−・ソフトクラテス」の組立機能では、コ−スウエアを形づくるため
に提示の順序が決められる。このように、CAIの開発は段々「ユ−ザ−フレンドリ−」
になっており、実践者たちによるCAIコ−スウエアの作成が促進される条件が整ってき
たと言える。
 しかしながら、簡便化されたのは、CAI作成過程の中での教材開発、つまりプログラ
ミングの部分だけである。授業開発のシステム的なモデルによれば、最初の画面をプログ
ラムする前に、相当な時間と労力をかけて教材に関する分析やコ−スウエアの設計を行う
ことが必要とされている(ガニェ・ウェ−ジャ−・ロジャス、1981)。更に、開発中途の
コ−スウエアの効果を確かめ向上させるために、形成的評価と教材改善がなされるべきだ
とされている(ディック・ケ−リ−、1985)。もしコ−スウエアが設計や評価の過程を経
ないで作成された場合には、それらの過程を経たコ−スウエアに比べて使用者である生徒
がより多くの困難にぶつかることが予想できる。特に、コ−スウエア使用中に教師が介在
するとは限らないCAIの場合には、作られる教材を使用可能で効果のある物にするため
に授業設計のモデルを応用することが重要な意味を持つのではないだろうか。
 システム的な設計開発のモデルを使うことがよいとされているが、モデルを十分使いこ
なせるようになるまでには高度な熟練を要するかも知れない。更に、通常の設計開発モデ
ルに示されている手順をそのまま踏んでCAIを作成するのは、現場の教師にとって時間
が掛かり過ぎるかも知れない。そこで、本稿では、現場で教育実践に携わる教師による効
果的なCAIの開発を助けるための方法を提案したい。