『第18回全日本教育工学研究協議会全国大会発表論文集』 122 - 125 (1992)


CAI利用授業指導案チェックリストの開発と評価


○鈴木克明・岩本正敏(東北学院大学)


I、研究の背景と目的

CAI教材の開発には多くの時間と労力がかかるといわれる一方で、実践者による自作教材の開発が叫ばれている。このことは、時間と手間をかけてつくったCAI教材を長く、広く使うという方向、すなわちCAI教材の共同利用を志向するものである。ベテラン教師のノウハウを「輸出可能な形」で抽出して、あるいは教育関連諸科学の研究成果を「処方的な形」にして共有化していくという教育工学の考え方を活かし、<質の良いCAI教材をていねいにつくってみんなで使うこと>を目指す意義は大きい。

発表者らはこれまでに、CAI教材の共有化を目指して「共有できるCAI教材の特色」を模索してきた(鈴木・岩本・屋代、1990)。また、仙台市において、自作教材の開発の指針をまとめ、自作CAI教材の収集、流通を意図して自作ソフト集の編纂も手掛けてきた(仙台市教育委員会、1990;1991)。CAI教材を共有できるものとして提供するためには、教材そのものが他の実践者によって使いやすく、学習指導上効果的なものであることが必要である。それと同時に、その教材を「どのように授業で使ったか」に関する資料を添付することで、共有を促進することが考えられる。教材の授業過程への位置づけを提案したり、また、自作者の使い方とは異なる活用法を考える契機とするためである。同じCAI教材を活用した実践者同志で学習指導案を披露しあい、CAI教材自体の検討に加えて、その活用方法をめぐっての議論がもたれることを期待したいからである。

学習指導案の明確化、共有化の枠組みとして沼野らのものがある(沼野、1976;沼野・長野、1988)。学習指導案の共有のためには、まず指導案の明確化が必要であるという立場から、フローチャートを利用して授業計画をできるかぎり詳細に表現することを提案している。指導案の「わかりやすさ」、すなわち指導案作成者の意図伝達性は、その計画をめぐる議論の出発点であり、明確な指導案があって初めてその計画の妥当性が吟味できるとする沼野らの立場は、授業計画の共有化を志向するCAI利用授業の指導案にとりわけ重要な意味をもつ。「わかりやすい」指導案は、自分の計画の長所も短所も伝えるものだから、「このCAI教材の正しい使い方はこれです」と主張するためでなく、「このCAI教材の使い方について他にアイディアはありませんか?」という問いかけとして、明確な指導案を添付することが求められる。

本発表は、沼野らの指導案の明確化による共有化の促進という主旨を踏襲し、CAI利用授業の指導案を作成する際の留意点をまとめたチェックリストの開発及びその評価に関する報告である。どんな点に留意して指導案を書けばCAI教材の共有化につながるのかを模索し、その結果のチェックリストがどの程度有効であるかを調べた。

II、学習指導案明確化の10ケ条

チェックリスト開発の出発点として、発表者(鈴木)が沼野らの提案などをもとにして作成し、教職課程での指導案添削に使用してきた「学習指導案明確化の10ケ条」を用いた(図1)。フローチャートを含めた本時の展開の表現方法については、現在のところ特定の書式を提案するまでに至っていないが、この10ケ条は、少なくとも指導案の初学者には、自ら作成した指導案の明確さをチェックするポイントとして有効に用いられてきた。



III、チェックリストの開発

前節の「学習指導案明確化の10ケ条」を参考にして、指導案細案の一般的な各項目にしたがって留意点を列挙した。その際、CAI教材を利用する授業の特徴を加味し、留意点を整理した。仙台市内における小学校、中学校及び高等学校におけるCAI教材利用授業の学習指導案一例ずつを、整理した留意点に基づきながら、発表者と校種代表の委員からなる教育ソフト事例集編集委員会において検討・改善し、チェックポイントが実際の指導案チェックに役立つかどうかを吟味した。表1に掲げる「教育ソフト利用指導案チェックポイント」は、今回開発されたチェックリストである(仙台市教育委員会、1992)。

チェックリストの特徴としてあげられるのは、(1)コンピュータの授業での役割を単元/題材のレベルで明確にすることを求めていること、(2)単元/題材に含まれる学習目標相互の関連を明らかにし、本時の目標の単元への位置づけを強調したこと、(3)本時の指導過程にはCAI教材の詳細を書かずに、「ソフト構造図」を別に用意するように提案したこと、(4)学習過程のどのプロセスを援助するかという点で指導過程を区切るよう提案したこと等がある。これらの特徴的なことに関しては、チェックポイントを列挙するのみでなく、「わかりやすい」指導案の工夫というタイトルの説明文を合わせて用意した(仙台市教育委員会、1992、84-89)

IV、チェックリストの有効性評価

今回開発したチェックリストの有効性を評価するため、CAI教材利用授業の学習指導案改善の作業に利用させることを次のように試みた。なお、評価の結果と考察については、当日発表する。


「教育ソフト利用指導案」チェックポイント

1、単元あるいは題材

(1)単元/題材/教材観について
□教科外の先生にもわかりやすく、単元/題材のねらいや教材観が書かれているか?
□この単元/題材に至るまでの関連基礎項目の指導時期が書かれているか?
□教科内容の指導と平行してコンピュータ関連の指導のねらいがあるのか?

(2)児童の実態/生徒観について
□単元開始時の学習内容に関する児童生徒の実態(レディネス)が書かれているか?
□授業を実施する学級の授業実施時期における一般的な特徴が書かれているか?
  (例:夏休み直後で落ち着きがない、学年当初で緊張気味)
□児童生徒の日頃のコンピュータ経験についての記述(調査結果)があるか?

(3)指導にあたって/指導観
□指導者の考える指導上のキーポイントが述べられているか?
□コンピュータを用いる意図が述べられているか?
□コンピュータを用いる意図と採用した学習ソフトの特徴やその使い方がどのように関連しているかが述べられているか?

2、単元/題材の目標

□教科としての学習目標(内容に関するもの)が書かれているか?
□コンピュータ関連の学習目標が題材観に含まれている場合、それが書かれているか?
□学習目標相互の関連、関連既習目標との関係、指導計画と目標との関係が明かか?

3、指導計画

□本時が単元/題材の中の何時限目かが明示されているか?

4、本時の指導

(1)本時の学習目標/ねらい
□本時の教科指導のねらいが明確に述べられているか?
□本時の学習目標が単元/題材の指導目標のどれと関連しているのかが明かか?
□前後の時間との関連が明かか?
□本時のコンピュータ利用のねらいが明確に述べられているか?

(2)指導過程
□コンピュータ教材の「ソフト構造図」と本時の指導過程が別々に用意されているか?
□「ソフト構造図」から画面とそのつながり方が一目でわかるか?
□指導過程表を読むと教師と児童生徒の動きがわかるか?
□指導過程表におよその時間配分が書いてあるか?
□個別のペースで学習を進める場合、コンピュータ教材の中での全員への到達目標ラインが設定されているか?また、早く終わった児童/生徒のための発展学習課題が用意されているか?
□指導過程の展開の意図(何のための学習活動か)がわかるか?

(3)評価
□評価の観点が記述されているか?
□評価をいつどのように実施するのか、道具だては何かが明確か?


1、評価協力者

チェックリストを用いた学習指導案改善作業に協力したのは、教員養成系大学で情報処理演習受講中の学生27名(うち21名が2年生、19名が女子)であった。協力者は、自分の専門とする教科領域においてCAI教材を初めて自作中の大学生で、単位取得のための課題の一部としてこの作業を行なった。約半数(14名)が数学関係、6名が理科関係の教材を扱っていたが、教材の内容はその他国語、社会、英語、性教育などに及んだ。これまでに指導案作成の経験を有するものはわずかであり、協力者の大多数がこの課題で学習指導案を初めて書いた。

2、作業手続き

演習の前半では、自作するCAI教材を構想するために、「誰に、何を教えるための、どんな教材をつくるか」をまとめさせ、CAI教材の作成にとりかかった。夏休み前最後の演習時間を締め切りとして自作教材の構想をまとめた「事後テスト」「前提テスト」「教材構造図」の3点セットを提出させ、夏休み中の課題として作成中の自作教材を使う授業の学習指導案を書いてくるよう指示した。

夏休み明け最初の演習では、何を参考にして学習指導案をつくってきたかを確認し指導案のコピーを提出させたあと、今回開発したチェックリストとリストを適用した学習指導案の例を配付し、説明を行なった。夏休み中に書いた自分の指導案を、資料や説明に基づいて点検・改善し、再提出するように指示した。再提出までの期間は2週間であった。自作指導案の再提出に際して、チェックリストの有効性に関するアンケート調査を実施した。

3、評価に用いた道具

チェックリストの有効性に関する評価作業に際して、次の道具を用いた。

指導案作成時の参考資料を尋ねる質問票:指導案を最初に書く際に、どのような資料を参考にしたかを記入させるアンケート。CAI教材利用の指導案の書き方を扱った資料を初めから参照していたかどうかを調査し、不適当と思われる協力者は分析から除いた。

指導案改善箇所とチェックリスト項目の対応表:再提出された改訂指導案と元の指導案を比較して、その改善がチェックリストのどの項目に該当するかを調査する対応表を用意した。改善箇所が指導案明確化にどの程度寄与したかについて発表者が判断し、それを得点化した。

チェックリスト有効性に関する意見調査票:評価作業に協力した大学生がチェックリストに対してどのような感想をもったかを調査するためのアンケートを用意した。

参考文献

沼野一男(1976)『授業設計入門〜ソフトウエアの教授工学〜』国土社
沼野一男・長野正(1988)『授業を設計する(授業に活かす教育工学9)』ぎょうせい
仙台市教育委員会(1990)『コンピュータ利用学習指導の手引き』
仙台市教育委員会(1991)『平成2年度 教育ソフト事例集』
仙台市教育委員会(1992)『平成3年度 教育ソフト事例集』
鈴木克明・岩本正敏・屋代成夫(1990)「CAI教材の共有化への試み」『日本教育工学会第6回大会発表論文集』53-54