鈴木克明・坂谷内勝・赤堀侃司(1993)「ARCSモデルによるCAI教材の動機づけ設計〜ゲーム型教材『マリコ伯母さんの秘密』を例に〜」 第30回日本視聴覚教育学会・第38回日本放送教育学会合同大会発表論文 補足資料


(1)ARCSモデルの4要因による教材の分析
注:+は魅力を高める原因と思われる点、ーは魅力を損なう原因となりうる点

1)注意の側面

+マルチメディアの使用により、これまでにない学習環境を実現していることから「新奇性」の効果が期待できる
+頻繁な問題提示により、利用者の注意を持続している
+グランドストーリーによるミステリーで好奇心をもたせている
+ピザ屋の突然の来訪など、予期せぬ出来事で「変化性」をもたせている
+コースウエアが短いサブシナリオに分解されており、長すぎずにテンポを保っている
ーテレビ画面としてとらえると技術的な新奇性が意識されず、「できて当然」、「写りの悪いテレビ」程度にしか受け取られないかも知れない

2)関連性の側面

+外国でのロケーションにより、具体性をもたせている
+英語の対話に関する質問に答えることがミステリーを解くために道具となりやりがいを与えている
+留学という内容自体が、知りたいことだったという意味づけをもたせる可能性がある
ー一日の始まりと映像クリップへのアクセスに残る「待ち時間」は利用者の不快感を招く可能性がある

3)自信の側面

+英語の「お勉強」であることを意識させない環境設定で、過去の失敗体験を想起させない効果がある
+失敗しても繰り返しチャレンジできるので、失敗を恐れずに挑戦できる
+ゲームの進め方に関して丁寧な説明書が用意されており、不安感を取り除いている
+制限時間が過ぎ「リタイア勧告」が出されてからは偶発的に事件が起きゲームオーバーになる機能で、「勧告」を受け入れるか「危険を覚悟で進むか」の選択権を利用者に与えている
+応答を求める箇所が多く、自分のペースで利用できるので、自分で操っている感覚がもてる
ーシナリオの流れが単線的なので、行き先を自分でコントロールしている充実感はないかも知れない
ー英語の実力がついてきたからおもしろい、続けてやろうという気持ちにはならないかも知れない

4)満足感の側面

+入力に対する即時反応により、KRが瞬時に与えられている
+ゲームゴール達成時の「充足感」により、努力がむくわれる
+成績の善し悪しによってエンディングを変化させることで、でき具合に応じた結末を提供している


(2)ARCSモデルに基づく開発過程の分析
注:+は魅力を高める原因と思われる点、ーは魅力を損なう原因となりうる点

1)学習者特性の分析

+これまでに経験したことがない学習環境を実現していることから「新奇性」の効果が期待できる(注意の側面)
ー使用者がコースウエアのどの側面によって動機づけられるかの予測がつきづらい。

2)動機づけ方略の選択的採用

+変化に富むシナリオにより、学習者を飽きさせないこと(注意の側面)に重点をおいた意欲の喚起が期待できる
ー学習者特性の予測が困難であるため、またコースウエアの魅力を高めることを主眼としているため、必要以上の方略を採用している可能性は否定できない
ー「魅力」の特定化(本コースウエアはどの側面に重点をおいて魅力を高めようとしているのか)が困難である

3)形成的評価と教材改善

+プロジェクト内部の評価により評価を重ねている
ーこれまでにないタイプのコースウエアであり、教材の完成度の予測がつきにくい
ーコースウエア自体の特性よりも評価研究の状況設定によって学習者の意欲の源泉が影響を受ける可能性がある
ー昨年の評価結果が本年度の開発に直接的に反映できていない

出典:ソフトウエア工学研究財団(1993)『新コンピュータ支援教育システムの開発に関するフィージビリティスタディ報告書』 機械システム振興協会システム開発報告書4ーFー9、第2章、p.41 - 43(一部修正、執筆担当:鈴木克明)。