沼野一男・平沢茂編著(1989)『教育の方法・技術』学文社、分担執筆
11.教授目標の分類について述べよ。

( 認知領域の目標、情意領域の目標、精神運動領域の目標、知識・理解、関心・態度、
 技能)


 〔教授目標をなぜ分類するのか〕
  まず、教授目標を分類することによって何が得られるのかについて考えてお
 きたい。教授目標の分類とは、性質が似かよった目標を集め、それと性質の違
 う目標とを区別する作業である。なぜそのような作業をするのであろうか。
  教授目標の分類で有名な米国のブル−ム(B.S.Bloom)らの試みは、「評価」
 のために行われたものである。つまり、同じような評価方法が使える目標を集
 めて分類することで、一つひとつの教授目標に対してその目標に到達したかど
 うかを評価する手段を考えるのでなく、目標の分類を知ることで適切な評価方
 法が選択できるようになる。そのために分類の基準となるような枠組みを模索
 したのである。教授目標を設定するときにはいつもその目標が達成されたかど
 うかをどのように評価するのかという問題を解決する必要があるので、評価方
 法がわかる分類は役に立つものである。
  教授目標の分類は、教授目標が達成されたかどうかを評価するためだけでな
 く、目標に到達するために有効な授業の条件を知る上でも有益である。ガニェ
 (R.M.Gagne)の学習成果は、学習を促すために有効な条件の差異によって教授
 目標を分類するための枠組みとして広く知られている。ガニェの分類を活用し
 てある教授目標がどのタイプの学習成果を目指すものであるかを知ることによ
 って、授業を効果的にするためのヒントを得ることができる。教授目標を分類
 することで、これまでの授業設計の研究で蓄積されてきた授業方法のうちのど
 の方法を応用するべきなのかがわかるのである。
  分類のもう一つの意義として、教授目標のかたよりを防ぎ、バランスをとる
 ことがあげられよう。ある授業を設計した際に教授目標が多数あったとしても
 、そのすべてが一つの種類に分類される場合と、様々な領域にまたがる場合と
 では授業の様相が異なる。いろいろな種類の教授目標を考慮することで、授業
 に「深み」がでるかもしれない。また、長期的な学習指導計画やカリキュラム
 を作成する時に、ブル−ムやガニェの分類を基礎にして、最終的に到達させた
 い目標の分類を試みることがある。後に単元ごとの、あるいは毎時間の授業を
 計画するとき、教授目標を長期的な教授目標の分類に照らして、その単元や授
 業が全体の中で担っている役割を果たせるように目標を調整するのである。
  教授目標を分類することはあまり意味のある作業のように思えないかもしれ
 ないが、教授目標の様々な性質を明らかにするために欠くことのできないもの
 である。分類することで明らかになる教授目標の性質には、目標の達成をどの
 ようにして評価するかという点、目標を効果的に達成するために適する方法は
 何かという点、そして、その目標がどのような役割を担っているのか、不足し
 ている目標はないのかという点がある。教授目標を分類するときにこのような
 目標の性質を同時に検討しなければ、分類することの意味が薄れてしまうこと
 に注意したい。

 〔ブル−ムらの教授目標の分類〕
  ブル−ムらは、教授目標をまず次の3つの領域に分類した。
  1、認知領域(Cognitive Domain): 知識の再生や知的技能の発達につ
                     いての目標
    2、情意領域(Affective Domain): 興味・態度・価値観の変容、適応
                     力などの目標
    3、精神運動技能領域(Psychomotor Domain): 運動技能や操作技能に
                     関する目標
  さらに、それぞれの領域をより基礎的な目標からより高次のものへと階層的
 に分類するためのクラス分けを設定した。認知的領域は、最も基礎的な目標の
 クラスから、 1すでに学習したことを思い出し必要に応じて利用できる情報と
 しての「知識」、 2伝えられる情報の意味をとらえて利用できる力としての「
 理解」、 3すでに学んだことを新しい課題場面や具体的状況に適用する力とし
 ての「応用」、 4問題を構成要素に分解・再構成し、問題の全体的な構造を明
 らかにする力としての「分析」、 5部分をまとめて新しい全体をつくり出す力
 としての「統合」、そして、 6価値や意味を判断する力としての「評価」の6
 段階に分かれている。情意領域は、「どう思うか」あるいは「どう感じるか」
 といった目標を扱う領域である。価値の内面化の程度というものさしで、基礎
 的なクラスから、「受け入れる」「反応する」「価値づける」「組織化する」
 「個性化する」という5段階を設けている。精神運動技能領域には、体育で扱
 う様々な運動技能や文字を書いたりタイプライタ−を操作したりする技能が含
 まれる。この領域に関するブル−ムらの段階分けはまだなく、いくつかの段階
 分けが試みられてはいるが定説はない。

 〔ガニェの学習成果の分類〕
  ガニェによる学習成果の分類は、ブル−ムらの教授目標の分類と結果的に似
 ているが、「学習の条件」の差異によって目標を分類したものであり、目標を
 達成するために有効な授業方法をあわせて提案している点で授業設計に有用な
 分類といえる。ガニェは、学習成果を次の5つの領域に分類した。
    1、言語情報(Verbal Information): 認知領域のうちの述べることが
                      できる知識、knowing what
    2、知的技能(Intellectual Skills): 認知領域のうちのやってみせら
                      れる知識、khowing how
    3、認知的方略(Cognitive Strategies):学習の方法に関する内的な知
                       識・技能、メタ認知
    4、態度(Attitudes): 個人の選択行動を支える内的な状態
    5、運動技能(Motor Skills): 筋肉の運動を伴う技能
  この5つの領域のうちの1から3までは、ブル−ムらの認知的領域を達成の
 ための条件の差に注目して分類したものである。言語情報を習得するためには
 、その情報がどんな意味を持つかを知らせるためにより包括的なコンテキスト
 を与える方法が有効であるとする。反対に、2つのものの違いを見分ける「弁
 別」、事例の分類を可能にする「概念」、具体例へ適用する力としての「法則
 」の学習などの知的技能の習得には、より基礎的な技能(下位目標となる前提
 技能)をひとつずつ習得させていくのが有効であるとする。また、このタイプ
 の学習は、概念や法則の定義を述べさせることによっては達成したかどうかは
 わからず、未知の例に応用させてみる必要があるとしている。認知的方略は、
 「学び方を学ぶ」ものであり、技能の対象が学習者内の情報処理にあるために
 、異なる学習の条件が必要だというわけである。情意領域の学習成果について
 は、「選ぶ」行為として捉えられる態度のみを取り扱い、また、運動技能の領
 域は、ブル−ムらの分類と同じである。

 〔分類から統合へ〕
  ブル−ムらやガニェによる教授目標の分類は、特定の教科に限らず用いるこ
 とのできる汎用性の高いものであり、広範囲にわたるものである。従って、あ
 る特定の教科や学年に適用する際には、これらの分類を基礎に置いて独自の分
 類を試みることも意味がある。そうすることによって応用場面にあった分類の
 枠組みがうまれ、ひとつひとつの教授目標の位置づけがより明確になる。
  教授目標の分類は、目標の性質を明らかにするために有効な手段ではあるが
 、区分された目標が相互に関連を持っていることも忘れてはならない。分類す
 ることでそれぞれの目標の性質をより正確にとらえたら、目標相互の関係に注
 目して、ある分類に属する目標の達成と他の分類に属する目標の達成が互いに
 支え合うことのできるように統合することも考えたいものである。
                             (鈴木克明)


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