沼野一男・平沢茂編著(1989)『教育の方法・技術』学文社、分担執筆
49.ニュ−メディアの導入によって、学習指導における教師の役割はどう変わるか。
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(ニュ−メディアの導入と授業の形態)
日常的に授業は、教師が教壇に立って初めて成り立つ。授業に教師が遅れた場合は生徒は雑談に花を咲かせ、教師が教室に入ると同時に号令がかかり授業が開始されるというのが普通である。教師に依存した方法がとられ、教師の情報提示、指示、発問などにより授
業が展開するのが当たり前とされてきた。ところが、ニュ−メディアやCAIの導入によ
り、メディアと生徒が直にコミニュケ−トし、教師が仲介する必要がない学習場面の可能
性が増えてきた。
授業の形態を教師とメディアの役割分担という観点から分類した場合、図に示すように
3つの種類が考えられている。Aは、これまでのように教師が常に授業の前面にあるタイ
プである。伝統的なメディアでは、黒板とチョ−ク、教科書や資料集、模型や絵などを使
いながら、教師が授業の始めから終わりまでをリ−ドしていく。新しいメディアでは、例
えば、コンピュ−タのシミュレ−ションが教師の説明を実演するために使われる時には、
このAのタイプと考えられる。
Bは、放送番組を利用する時のように、授業の一部をメディアが直接担当し、残りの部
分を教師が担当するタイプである。教師はテレビ番組を見せる前に関連事項を説明したり
、番組視聴後に生徒の意見をまとめたりするが、番組を見ている時は生徒が直接テレビに
教わることになる。教師が一通り学習事項の説明をした後で、練習のためにドリル型のC
AI教材を使って個別に学習をすすめるような場合も、Bのタイプであると考える。
Cは、授業の全時間をメディアが直接生徒に対して指導するタイプである。教師が教室
にいなくても成立する授業という意味で、自習や図書館での一人調べの時間、あるいは、
プログラム学習教材やパッケ−ジ型の教材などを用いた授業が考えられる。ニュ−メディ
アの導入によって、学習方法の選択肢が増えるばかりでなく、実施者としての教師の存在
にしばられないで生徒が主体的に学習できる環境を整えることができるようになり、Cの
タイプの授業の可能性が増えている。
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|(中野の図 25字x8行=200字程度)
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(学習指導における教師の役割)
学習指導での教師の役割としては、まず、メディアとしての教師がある。教師は、自ら
教壇に立ち学習を援助する情報を口頭で伝達するメディアの役割を担っている。授業の実
施者としての教師である。前掲図のA、B、Cの差は、メディアとしての教師の使われ方
によるものである。Aでは、視覚的な情報の提示に弱い教師メディアを補うために、黒板
やOHPや教科書などを用いて授業を行う。Bでは、他のメディアでもまかなえる情報提
示などの部分は教師メディアを使わず、他のメディアでは真似ができにくい学習者と情報
との橋渡しや学習者相互の意見交換の司会役などは教師メディアを活用する。Cでは、学
習者の独り立ちを意図するなどの理由で教師メディアは側面に回るという具合である。
学習指導は教師が直接的に介在しなくても成立するという意味で、メディアとしての教
師は選択肢の一つにすぎない。ニュ−メディアの導入で、BやCのタイプの授業に用いる
ことが可能なメディアの候補が増えた場合、メディアとしての教師をどの場面でどのよう
に使っていくかという点は慎重に決定されなければならない。なぜならば、教師というメ
ディアは最も柔軟で応用範囲の広いものであり、さらに、メディア以外の役割を担うこと
も求められているからである。教師は、教師でなければできないことに専念し、機械に任
せられることはなるべく機械に任せるように心がけたい。
メディアとしてよりも重要な役割として、授業の設計者という役割がある。どのように
学習指導を行うのか、何をどうやって教えるのか、といった授業の青写真を描き、授業の
準備をする役割である。自分の受け持っている授業に教師というメディアをどのように使
うかを決めるのは、他ならぬ設計者としての教師自身である。従って、たとえCのタイプ
のような授業の方法を採用した場合でも、教師の果たす役割がなくなるわけではない。む
しろ、実施者としての役割を他のメディアに任せながらも、教師自身が実施した場合に劣
らない成果をあげるという難しい課題を背負うことになるのである。なぜならば、教師は
設計者として授業を企画するだけでなく、授業の実施責任者でもあるからである。授業の
計画を立て、その実施に関する責任を負う以上は、授業の実施状況を常にチェックし、当
初の計画通りに目標が達成されていない場合には、計画の変更を考えなければならない。
メディアとしての教師より柔軟性に欠ける他のメディアを使うためには、より綿密な授業
の計画と評価が必要となる。それを行うのは設計者としての教師の役割である。
ニュ−メディアの導入によって、まずは授業実施の選択肢が増えていくであろう。従っ
て、メディアとしての教師の役割は相対的に軽減されるかもしれない。機械には代替が難
しいと思われる授業の設計者としての教師の役割が、今後益々重要になってくるのではな
いだろうか。そして、教師には、自らの役割を再点検し、利用可能なニュ−メディアを積
極的に活用してよりよい学習環境を整えていこうとする姿勢が求められているのである。
(鈴木克明)
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