鈴木克明(1995)『放送利用からの授業デザイナー入門〜若い先生へのメッセージ〜』財団法人 日本放送教育協会

まえがき


「放送教育の全国大会を宮城県で開催する。ついては指導室長をお引き受け願いたい。」この言葉に困惑してから、もう何年が過ぎたのだろうか。それまで仙台市や宮城県の視聴覚教育研究会の先生方の会合に呼ばれて、何度かお話をさせていただいたことはあった。放送教育に造詣が深い、故村田良一先生(当時東北学院大学教授)からのご紹介であった。しかし、突然の依頼から、放送教育とは何者か、一からの勉強が始まった。

大学院の修士課程を国際基督教大学で過ごした私は、当時の日本放送教育学会事務局の仕事の一部をアルバイトとして担当していた。故西本三十二会長に同行して、島根大学で開かれた学会に事務局員として出向いたこともあった。しかし、放送教育研究のお膝元にいながら学びの機会を無駄にした私は、コンピュータの教育利用を研究テーマに選んだ。その後、何の因果かアメリカ留学を経て戻った宮城県で、放送教育を学ぶ機会に再び恵まれたことになる。今度は、無駄にするまいと思った。

それ以来、放送教育について、様々な方からご教示を受けた。放送教育の外側にいる研究者として、いい所も悪い所も客観的に見ることができたし、放送教育の研究者や実践者、あるいは番組制作者との交流を通して、ある程度放送教育の内側も覗かせてもらうこともできた。時代は「マルチメディア」と「インターネット」で騒がれており、また学校教育も変革が求められている。放送教育がこれまで取り組んできた映像教育と学校改革・授業改善の営みが、これからの時代の授業を考える上でますます重要な意味をもつことを痛感する。今後の研究を進める上で、この時期に放送教育について学ぶ機会を与えていただいたことは、とても幸運であったと思っている。

本書は、自分が学んできた教授システム論と放送教育との接点を模索しながら、放送教育に携わる先生方に何かお知らせできることはないかと考え執筆した連載を中心に、関連する論文をあわせて加筆・訂正してまとめたものである。単行本にするあたって、タイトルを「教育に放送をどう生かすか」から「放送利用からの授業デザイナー入門」と改めた。放送教育叢書に収める本に「放送利用からの」とははなはだ失礼ではあるが、放送利用を出発点として授業全般、学校教育全体を再検討していく広がりを意識したものであるとご理解いただきたい。

本書の内容は、これまでに数多くの先達よりいただいた学恩に拠っている。できるだけ出典を明らかにするよう心がけたが、不完全さや誤解が懸念される。また、本書を準備するにあたっては、連載に対して様々な方からいただいたご指摘を参考にした。とりわけ、東北学院大学大学院人間情報学研究科の諸君には、輪読してもらい、不明瞭な箇所を多く取り除くことができた。沼野一男先生からは、毎度のことながら示唆に富むご意見を多数頂戴し、また激励いただいた。連載中から単行本化まで、古田普行編集長をはじめとする日本放送教育協会の方々には、お世話をおかけした。特に記して感謝申し上げたい。

平成7年9月吉日   
鈴木克明