赤堀侃司編著(1997)『ケースブック大学授業の技法』有斐閣、分担執筆(4項目)


5—2 定期試験以外の完全習得学習のための
    再チャレンジつき小試験

場面設定:
 授業科目:教育方法
 学年、人数等:2年、150人規模、教職専門科目
 教授目標:講義内容を確認し、試験に対する勉強必要量を
      見積もれるようになる


■具体的な方法■

★背景

 大学生が勉強するのは一年に2回だけであると言われて久しい。定期試験にしてもレポートにしても、半年に一度だけの評価ではカバーする範囲が広く、妥当な問題を出題するのは難しい。試験の成績が悪い場合には、「出席点を加味」するのなどのサジ加減で単位をとれない学生が余り多くないように調整する。しかし、これでは本末転倒、受講生が講義で何を身につけて単位取得に至ったのか、次第に不明瞭になっていく。数合わせの論理が、単位取得の基準を入学試験のような相対評価に導いていく。

 大学における単位認定は、「これこれがある一定水準に達した者に単位を認定する」といういわゆる自動車運転免許のような絶対評価でなければおかしい。その科目に続きがあって、次へ進ませる前にある一定の基礎知識を身につけさせるといったカリキュラム上の役割が期待されている場合はなおさらである。

★教授法の改善と試験

 教授法を改善することを目指すならば、まず何を教えようとしていて、それがどの程度達成できているのかをしっかりと把握しなければ、声の大きさや学生の評判などを調べてみてもらちがあかない。学ぶべきことを学生がどの程度学んだのかを知らずして、その学びを導くものとしての責任は取れない。そもそも教授法を改善すべきかどうかすらもわかるはずがない。

 一方で、ごく当り前に行われている半年間の学習成果を一回で評価する方法では、絶対基準を死守するのは困難を極める。講義者が自分で下す評価にどれだけ自信を持てるかという問題。毎回まじめに講義につきあってくれた学生が悪い成績であれば、それを無下に落とすわけにもいかないと思えてくること。また、ここで単位を取れなかった学生がどうなってしまうのか、その救済策が十分でない場合、英断が下しにくいこともあろう。さらに、自立した学び手に成長していない学生にとっては、半年分を一気に評価されることは余りにも荷が重い。

 そこで、定期試験に頼らずに、しかも講義で押さえたい内容が身についているかどうかを確実に知る方法が求められる。それには、半年に1回よりはもっと頻繁にチェックする必要が生じる。ある意味では、学ぶ自由(すなわち学ばない自由も含む)を奪うことに通じ、また余計なお節介になるかも知れない。しかし、ペースメーカーが必要な学生にとっては、確実に学ぶべきことを学ぶ道標を与えることとなる。学ぼうとしない学生を学ばせるための最も有効な手段は、何といってもテストである。年に2回しか勉強しないですむ、と思わせないためにも、定期試験以外のテストを試みた。

★再チャレンジつき小試験

 この科目では、半期の講義内容を3つに分割し、その区切りごとに試験を実施している。試験終了後、隣同士で答案を交換の上、講義者の解説にしたがって採点させている。不合格者と公欠者には次週の講義開始時に再試験を実施しているので、一発合格するとご褒美として次の週は30分遅れて来ていいことになっている。これが、再チャレンジつき小試験の概要である。

 1回の小試験につき2度のチャンス、合計で半期に最大6回の試験を受けることで、講義内容を確実に身につけさせる。単位認定は、3回の小試験の平均点が8割以上となることを最低条件としている。したがって、小試験には受講者全員に理解してもらいたい基礎的な項目を出題する。応用面については別途レポート課題を与え、出来具合に応じて最終評価に加点している。

★小試験のメリット

 小試験のメリットとしては、まず講義者の側からは、出題の範囲が限定されるので、その中で万遍なく項目を出題できることが挙げられる。学生にとって出題範囲が狭いことはありがたいだろうが、その範囲でヤマがたまたま当たったために合格できる望みは極めて薄い。その結果として確実な学習が要求される。このことは、講義者にも受講者にも、ここで学ぶべき基礎事項が何かを明らかにすることに役立つ。評価の土俵を確実なものにできる。

 さらに、小試験とその採点・解説の過程を通して、区切りごとの内容を整理し、再確認することが可能になる点もありがたい。学生の出来が悪ければ少し時間をとって補説することもできるし、逆にペースを上げることもできる。

 一方の学生にとっては、単位認定の過程が透明であり、安心して学べるとともに、何がどの程度要求されているのかが明らかになる点が喜ばれている。学生にとっての不満の最たるものに、試験やレポートの評価基準がわからず、どうしてこの点が付いたのかが納得できないことがあるらしい。評価がある種の偶然に左右されていると感じてしまうと、いわばクイズ感覚で試験に臨むことになってしまい、何をどの程度身に付けたのかということから関心を遠ざけてしまう。単位が取れたかどうかが唯一の関心事となってしまう原因の一つはここに求められる。

 もう一つのメリットは、試験に対する勉強必要量を見積もれるようになることである。これまでの経験からか、試験と聞いただけで不安になる受講生も少なくない。それも3回もやると聞けば講義の選択を誤ったかなと思っても不思議ではない。しかし、回を重ねるごとに、とりわけ1回目の準備に失敗して再試験で合格した者にとっては特に、うまくいった経験のノウハウが蓄積され不安が解消されていくようである。

 さらに、現状では、定期試験前に大勢が判明してしまうので、他の科目の試験に割ける時間が相対的に増えるということも歓迎されているようである。このメリットは、殆どの科目が定期試験に頼っているゆえに成立するものであり、逆に登録している全科目で半年に3回も試験をやれば、新たな問題を生じることになるのは必至である。

★小試験実施の今後の課題

 講義の時間が少なくなることと試験の実施に手間がかかること。これがこの方法の当面のデメリットである。米国の大学で見られるようにテスト実施のためのセンターが組織されていれば、講義時間外に学生がセンターに出向き、講義者の手を煩わせることなく何度でも再チャレンジできる環境が整う。講義者ごとの工夫の枠を超越した組織ぐるみの教授法改善へのサポートが期待されるところである。
(鈴木克明)