『指導と評価』1988年12月号 (第34巻12号) 、44-48
       連載「教師のためのコンピュ−タ・リテラシー」第21回
            CAI入門−4 CAI授業の設計

                        鈴木 克明(東北学院大学講師)


          1.CAIの「正しい」作り方とはいうけれど

 先月のCAI入門−3では、完成品として使い易いCAI教材にはどのような要件があ
るのかということについて考えてみた。CAI教材の利用者として、CAIのめざすもの
は何か、質の高いCAI教材はどのような特徴を持つべきかということについて「厳しい
目」を養うことが大切だという観点から、着目すべき要件をCAI教材の「説明書」に求
めた。今月のCAI入門−4では、先月の「厳しい目」で見た場合に合格できるようなC
AI教材を作るにはどうしたらよいかということについて考えてみたい。質の高いCAI
教材をどう作るかということ、である。
 CAI教材のシステム的な設計開発のモデルといわれるものを見ると、「質の高いCA
I教材を作るには、コンピュ−タに向かう前にまず、入念な分析が必要である」とある。
先月号で触れたように、いくらCAI教材作成の支援環境が整ったとしても、この「分析
」、つまり「何をどのようにCAIに盛り込むのか」を決める作業はあまり短縮されそう
もない。モデルに示されている「正しい」手順をふんでCAI教材を作れば、おそらく質
の高い教材ができる(そういう実績ももちろんある)。しかし、1時間分のCAI教材を
作るのに100時間もかかっているようでは、1つは作ってみたとしても、2つ目、3つ
目と開発が長続きするのであろうか。CAI教材作成の専任でもない限り、ただでさえ多
忙な毎日の中でどうやってそんな時間をつくるのだろうか。
 これまで質の高いCAI教材の作成を支えてきたシステム的な設計開発モデルは、教材
の設計開発を主な仕事とする専門家を念頭に作られてきている。従って、必ずしも現場教
師に最適なものではないであろう。現場での実践の中でCAI教材を作っていこうという
場合には、効き目は抜群だけれど難解で複雑なモデルよりも、ポイントだけを押さえた簡
便な省略法の方がかえって現実的であるかも知れない。これまでのCAI作成のノウハウ
を生かしながらも、教材作成にあてられる時間は少ないけれども教材の使用者になる生徒
たちの協力は得やすい教育実践者の実情に合うよう改良されたモデルが求められているの
ではないだろうか。


       2.複雑なCAI教材設計モデルの「ポイント」は何か

 質の高いCAI教材を作成するには、これまでに提唱されてきたCAI教材設計モデル
の中から肝心な「ポイント」だけを取り入れ、あとの部分はとりあえず省くのがよいと思
う。ここでは、その「ポイント」として3つ挙げておく。

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|A.何をできるようにするのかを先に決めてから、どうやってできるようにするのか|
|  を決めること。                             |
|B.教材のでき具合は、児童生徒に実際に使わせてみて判断すること。      |
|C.必要最低限の教材から始めて、足りないものを順次つけ加えること。     |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

 ポイントAは、学習課題や評価方法などの「分析」がCAI教材の開発以前に行われな
ければならないという点である。コンピュ−タに向かう前に「先に決める」ことが多すぎ
て時間がかかるというけれども、要するに「何をできるようにするためにCAIを作るの
か」ということさえ具体的に押さえられていればよい。この点では、今手元にあるテスト
が参考になると思われる。ポイントBは、学習者検証の原則である。教材開発業者の事情
とは違って、学校教師のまわりにはいくらでも学習者がいるので、協力を求めて共にCA
I教材を作っていく位の気持ちで取り組めばよい。ポイントCは、形成的評価の考え方(
先月号参照)である。一度に誰でも100点を取れる「完璧な」CAI教材を作ろうとせ
ずに、徐々に完成をめざせばよい。
 この3つのポイントを押さえて、無理のないCAI教材の作成を始めるためには、いく
つかの条件が求められる。まず、CAI作成環境として、抵抗なく使うことのできる教材
作成支援システムが用意されていること。少なくとも「説明」と「問題」のフレ−ムがあ
り、教材の基本単位としてのフレ−ムの作成と、できあがったフレ−ムを順序立ててCA
I教材に組み立てる機能が独立していて、両方の作業の修正が簡単にできるものがよい。
「問題」のフレ−ムでは、学習情報の収集、特に誤答をそのまま記録することが必要とな
る。次に、教師として学習内容に関する分析ができること。つまり、CAIによってどん
な問題を解決したいのかを明確に示すことができ、テストや練習問題を作ることができ、
学習させたいことと生徒の現状とのギャップを埋めるには何をさせるのがよいのかを提案
できることが要求される。そして、できあがったCAI教材を使うことになる生徒(に相
応する生徒)の協力が得られること。効果のある教材が作れたかどうかは生徒に学習させ
てみるまではわからないからである。
 効果のあるCAI教材を作成しようとする際に問題となる点の一つは、どんな教材が必
要かを一番よく知っているのは生徒の実情に詳しい教師であるが、その教師にはCAI教
材を作成する時間が限られているということである。この問題点を解決するためには、例
えば、現場の教師と外部のCAI教材作成業者もしくは研究者とが連携して開発チ−ムを
作ることが可能であるが、ここでは、外部からの協力がない場合に現場の教師が主となっ
てCAI教材を作成するための手順を提案したい。何故ならば、CAIの教材作成環境が
益々整備されれば、他の自作の補助教材を開発して授業に利用すると同じ簡便さでCAI
を活用できるようになるであろうことが予測されるし、また、そう願っているからである
。「3段階法」と呼ぶこの方法を学ぶことで、CAI教材の作成に関する視点をおさえ、
授業設計の要となる技能にはどのようなものがあるかを確認できるのではないだろうか。


            3.「3段階法」の手順について

「3段階法」は、従来のシステム的なモデルの中でCAI教材の設計から完成までに必
要とされている手続きを3つの段階に分断し、より少ない時間で使いものになる教材を完
成させることを目指している。3つの段階のそれぞれは、それ自体で一つの教材開発過程
であると同時に、ある段階で開発された教材が次の段階の基礎となり積み重ねていくこと
ができるように工夫されている。

〓枠01〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
〓                                      〓
〓 授業の目的を定める    行動目標を記述する
〓                                      〓
〓第1段階:                                 〓
〓                                      〓
〓 目標に準拠したテスト   「診断する」CAI    形成的評価を実施し
〓 項目を作成する       を開発する       教材を改良する
〓                                      〓
〓第2段階:
〓                                      〓
〓  練習の部分を      「練習用の」CAI    形成的評価を実施し
〓  設計する         を開発する       教材を改良する
〓                                      〓
〓第3段階:
〓                                      〓
〓  導入の部分を      「指導する」CAI    形成的評価を実施し
〓  設計する         を開発する       教材を改良する
〓                                      〓
〓                                      〓
〓図.実践者のための3段階CAI教材作成法                  〓
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

第1段階:診断するCAI

 第1段階では、テストをコンピュ−タ化することで「診断するCAI」を作成する。学
習指導上で何か問題を感じた場合、まず最初にすべきことは「何を学習させるか」を明ら
かにすることである。ここでは学習目標を明確に記述するにはどうしたらよいかというこ
とに悩むよりも、テスト項目をつくってみることから始めるのがよい。後で教授方略を選
択する際に、明確な学習目標の分類を生かして理論的な研究の結果を活用することができ
るが、この段階では、テスト項目によってCAIで何を学ばせるかということがはっきり
していればそれで十分である。教材作成支援システムの「問題」のフレ−ムを使えば、テ
ストのコンピュ−タ化は単にテスト問題を入力し、正解を指定するだけで済む。この場合
、フィ−ドバックは省略し、問題の各項目毎の解答を(特に誤答はそのまま)記録できる
ようにする。「説明」のフレ−ムを使ってテストに表紙をつけたり、最後に診断の結果を
知らせる画面を加えるのもよい。
 テスト項目を入力したら、生徒たちの協力によって「診断するCAI」の形成的評価を
行う。当該の学習を既に終えた2−3人の生徒に使ってもらうことで、1対1の形成的評
価を開始する。この生徒たちはすでに学習を終了しているので当然問題なく「学習済」と
の診断が出るべきであり、もし彼らがつまずいた場合は、生徒よりもテスト項目に問題が
あると考え、問題のあるテスト項目や入力ミス(誤植)等を明らかにし、「診断するCA
I」の問題点に改良を加えるのである。
 次に、1対1の形成的評価の結果をもとに改良した「診断するCAI」を、当該の学習
課題に関する授業を受けた直後の生徒1クラスの協力を得て、事後テストとして試用して
みる。この過程で、CAIが授業で扱った事柄を反映しているかどうかを確かめる。また
、ある程度の数の生徒に共通する誤答のタイプを記録して、第2段階のCAI作成の参考
にする。この段階のCAIは、まだ当該の授業を受けていないクラスの生徒に対して事前
テストとして試用することもできる。もしその結果、多くの生徒が「学習済」と診断され
るような答をしている場合には、問題項目そのものに正答のヒントが含まれているか、あ
るいは使用者と見込まれた生徒にとって易し過ぎる問題であると考えるのである。

第2段階:練習用のCAI

 「3段階法」の第2段階では、いわゆるドリル演習型のCAIを開発する。第1段階の
最終的な産物の「診断するCAI」がこの学習課題で何を学ばせるかをはっきりと示して
いるので、この「練習用のCAI」を設計する作業は、単に先に用いられたテスト項目に
匹敵する問題を練習用に増やし、誤答に対する治療的なフィ−ドバックを加えることでよ
い。評価と練習との間の整合性は、テスト項目を練習項目の基礎として活用することで保
たれる。第1段階の形成的評価で記録された誤答に関する情報を生かし、誤答のタイプ別
にあつらえたフィ−ドバックを用意する。実際に生徒が起こした誤りを参考にすれば、ま
ずは起こらないようなタイプの誤答をした場合のフィ−ドバックをどうするかということ
など考えないで済む。教材作成支援システムのメニュ−機構を使うか、もしくは「問題」
のフレ−ムを活用してメニュ−を自作し、「練習」と「診断」の両方を兼ね備えたCAI
にすることもできよう。
 第2段階での形成的評価には、2群の生徒たちに協力してもらう。授業で当該の学習課
題について一通り説明を受けた生徒と、まだ全く学習していない生徒である。あらかじめ
説明を受けた生徒からは、このCAI教材が十分に練習の機会を与えたかどうかを確かめ
、まだ全く学習していない生徒からは、この学習課題に関する教材を今後どの程度増やす
必要があるかということについての情報を得る。つまり、もし説明をあらかじめ受けない
ままに「練習するCAI」を使うことで十分な効果が得られた場合には、この学習課題に
関してこれ以上教材を長くすることは不要である。当該の学習課題に関してCAI教材が
有効ではないかという判断で開発が始められたものの、従来のシステム的なモデルに提唱
されているような本格的な「ニ−ズ分析」は省略されているので、これ以上この課題に時
間を費やすことに意味があるかどうかということを、常に生徒のでき具合いを見ながら判
断していく必要がある。ある程度の効果が得られた場合には、他の学習課題の教材作成に
時間を充てる方がよい。
ドリル演習型のCAIについては、コンピュ−タの機能を生かし切っていない等の批判
が聞かれるが、ここでの「練習用のCAI」は、単に「問題を与える」ことがその役割で
はなく、「問題が解けるように導く」ことを目指すものである。従って、「練習用のCA
I」を終了した学習者は、教師による導入が適切であれば、問題が解けるようにならなけ
ればならない。形成的評価と教材の改善には、この観点から取り組むことが要求される。
質の高いドリル演習型CAIが完成すれば、それは質の高いチュ−トリアル型CAIの心
臓部ともなり得るのである。

第3段階:指導するCAI

 「3段階法」の最終段階は、いわゆるチュ−トリアル型CAIの作成にあたる。第2段
階までで当初の問題が解決できなかった場合、もしくは、人間教師による説明部分をCA
I化したい場合は、第2段階で最終的に完成したCAI教材に情報提示画面や基礎的な練
習問題を加えて「指導するCAI」を開発する。この過程では、これまでの学習指導に関
するノウハウを生かすために、教授理論をCAI設計に応用したモデル(例えば、ガニェ
理論を応用したivy訳、1987)を参考にするとよい。ここで求められる効果的な教授方
略に関する知見は、CAI教材作成の手順を示すモデルからではなく、ある課題の学習を
促すためには何をさせるのが効果的かを示す授業設計理論(例えば、ガニェとブリッグス
、1986)から得られる。メニュ−機構を利用して、「診断」と「練習」の部分に「導入」
の部分を並列的に加えて、利用できる生徒の幅を広くしたり、学習者による選択の幅を広
げることもできよう。
 チュ−トリアル型のCAIと一口に言っても、「練習する」CAIに何が不足していた
かによって、それに加えられる画面は様々なものになる。例えば、「練習」の部分にHE
LP画面を加えて必要に応じて分岐できるようにしたり、あるいは「練習」の前に2−3
ペ−ジのまとめを付け加える事で十分な場合もあるだろう。一方で、基礎的な前提技能の
練習問題を別に開発して、当該の学習課題を導入する前に復習させるという必要が生じる
場合もあろう。いずれにしても、仕上げの部分は第2段階で開発済なので、学習者を「練
習用のCAI」が引き受けられるレベルまで高める導入の方法を考えることになる。導入
の部分では、「説明」のフレームを使って情報を提示することに加えて、各種の「問題」
のフレームを駆使して積極的な学習者の反応を求めるという工夫も取り入れるとよい。
 第3段階での形成的評価も第1、2段階と同様に行い、「指導するCAI」の改良すべ
き点を見つけ、改める。前の2回の形成的評価によって、「診断」と「練習」の部分は既
に改良されているので、問題があるとすれば「導入」の部分であることが予想できる。学
習課題に関する説明が不足していたり、課題の意味を生徒につかませるための学習の指針
が欠けていたり、前提条件の確認ができていなかったかも知れない。この形成的評価とそ
の結果に応じたCAI教材の改良をもって、「3段階法」の開発過程は完結する。

          4.これで質の高いCAI教材が作れるのか

以上、実践者のおかれている状況の中でこれまでのCAI作成のノウハウを生かす方法
として、「3段階法」を述べてきた。この方法は、少なくとも、従来のCAI教材作成モ
デルに従って教材開発を行うよりはより現実的であり、場当たり的に開発するよりは質の
高いCAI教材ができる可能性があることは確かだと思われる。CAI教材の設計開発を
「専門家」として行ってきた経験に照らして、また授業設計理論を研究する者として、シ
ステム的なモデルを教育実践の現場で応用しやすいようにするためにはどうしたらよいか
ということを考えた結果たどりついたのがこの方法である。現場での無理が少なく長続き
する、しかも質の高いCAI教材の作成をめざす方々に、参考にしていただけることを願
っている。

                  参考文献
Gagne, Wager, Rojas 、ivy訳(1987) CAI学習教材の計画と開発 (1,2,3).
  マイコン・レ−ダ− 1987年1月号−3月号: 56ー59
ガニェ・ブリッグス、持留訳 (1986) カリキュラムと授業の構成. 北大路書房、京都