『放送教育』1997年4月号( 第52巻1号)、16 - 17

新番組『スクール五輪の書』に寄せて


東北学院大学助教授 鈴木克明


かなり大胆に変えるつもりだな。これが、この4月から始まる中高生向け新番組『スクール五輪の書』の企画を目にした最初の感想であった。中教審答申に登場して以来注目を集めている「横断的・総合的学習」というキーワードを新しい教育課題としてとらえた、大改革である。

放送時間も「教育セミナー」の再放送枠だった午後2:00〜2:20に移され、20本シリーズが5種類、合計100本の20分番組が揃うことになる。「ステップ&ジャンプ」の廃止にも驚いたが、新設された「10min.ボックス理科系・社会科学系シリーズ」の中に、またこの新番組の中に、姿を変えてこれまでの伝統が息づいていくことを期待したい。

『スクール五輪の書』は、月曜日の『人間の巻:思春期放送局』、火曜日の『社会の巻:世の中探検隊』、水曜日の『科学の巻:発想ミュージアム』、木曜日の『国際の巻:ワールドドキュメント』、金曜日の『生き方の巻:21世紀の君たちへ』から成り立っている。教科の枠組みを超えた総合学習型番組である一方で、それぞれの『巻』が核となる教科・領域をターゲットとしている。

横断的・総合的学習といっても、中学高校が教科担任制である以上、核となる教科からスタートして授業を展開することになる。「横断的・総合的学習を進める時間」が新たに設けられるとしても、各教科の授業時間との連携をいかに確保するのか。その検討を抜きにしては、全体として大きな変化は期待できない。この新番組を、横断的・総合的学習への入口に位置づけて欲しいものだと思う。

学級活動や道徳の時間を念頭に置いている「思春期放送局」は、人間教育を子どもの視点で日常的な問題から展開することで、子どもが自分の問題として考える機会になる。時事的なキーワードを扱う「世の中探検隊」では、公民分野や家庭科のテーマを多く配置し、教科書の内容と社会の出来事を結びつける。何気なく存在するモノの背後にある科学や技術を紹介する「発想ミュージアム」は、科学史の視点を取り入れ、科学者の創意工夫と生きざまを映し出す。

地理・公民から国際理解教育へ広がる「ワールドドキュメント」では、NHKスペシャルなどの好評一般番組をコンパクトに再編成し、子どもたちの興味を大いに高めるであろう。そして、「マイライフ」を受け継ぐ「21世紀の君たちへ」は、道徳・特別活動・進路指導などの場面で、夢や生き方を考えるきっかけを与えるだろう。

授業が先生と子どもたちとの心のキャッチボールだとすれば、放送番組はディレクターがつくるボールそのものである。ボールは、いいものでなければ使われない。ストレートな直球型授業しかできにくいボールではすぐに飽きられてしまう。打ちやすそうに見えても、芯がしっかりと入ったボールならば、打ちこなす力量も次第に身につくというものだ。

学校放送の今を担う新進気鋭のディレクター諸氏には、新しい発想のもとに編成されたボール一つひとつを丹念に、そして大胆につくって欲しいと思う。また、教室に投げるときには、今までの配球やカウント(ボールをストライクより先にコールするかどうかは別として)、塁上のランナーなどにも考慮して、攻めにリズムと流れが出るようにコースや球種を選んでいただきたい。教師も子どもも、バッターのような先読みの楽しみができる。20回のシリーズものなのだから。

全国の教室に対して、新しい思いを込めてボールは投げられた(投げられる、ですね、正確には)。それをどう受け止めて、どんな心のキャッチボールを展開して、新しい発想を現実のものにするのか。全国の先生方の創意・工夫が待たれる。決して扱いやすい棒球(ぼうだま)ではないだろう。それをどう料理するか(あるいは、子どもにどう料理させるか)は、先生方の腕の見せ所である。

「教師の皆さんの、新しい授業を創りだす視点からの積極的な活用を期待しています(利用の手びき)」との投げかけに、一人でも多くの先生がチャレンジしてください。新しい発想で手作りされたボールをしっかりと受け取った教室からの、子どもたちの生き生きとした活動を伝える実践記録で、本誌が埋めつくされることを期待したい。