『実践教育工学シリーズ』第1巻原稿(インターネットが教育を変える)(1999.7.6.脱稿)

解説:学校でのインターネットの利用を促進する条件〜実践を踏まえて〜


最初は行動力・サポート・イベント,
継続には全教科・全教員・全教室


岩手県立大学ソフトウェア情報学部教授 鈴木克明



1.はじめに

 筆者は,ここ10年あまり東北学院中学高等学校と仙台市立第一中学校の実践を身近に見てきた.いずれも100校プロジェクトに選定され,大学との共同研究をベースに,恵まれた環境での先進的な実践を続けている.インターネット利用を促進する要件を立ち上げの時期と継続利用の段階に分けてまとめた.


2.導入期は行動力・サポート・イベント

 100校プロジェクトに選ばれるためには,学校の中の誰かが「応募しよう」と言い出して,書類を整える必要があった.インターネットを使いたい理由はいろいろあっただろうが,共通していたのは「応募しよう」と言い出した行動力がある教員の存在である.技術的なハードルも高く,接続するだけでも相当な水面下の努力が必要だった当時,実践を可能にしたのは,行動力がある教員の献身的な努力と工夫に負うところが大きい.

 各地の実践者たちを横に連結させたのは,100校プロジェクトの隠れた功績だった.他の学校では何を悩み,それをどう解決したのか.情報交流を促進するインターネットを用いて,担当者相互が連携する工夫が欲しい.

 ところで,行動力がある教員が,必ずしも技術的なノウハウに詳しかった訳ではない.サポートを外部から得ることは,成功への第2の要件であった.インターネット関連の技術的な素養に恵まれた人もいたが,インターネット環境を整備・維持していける専門性を手を挙げた教員全員が持っていたとは限らなかった.技術的なノウハウは業者や研究者などから巧みに取り入れながら,その学校の子どもにとって教育的意味がある環境を整え,利用法を模索した態度はぜひ参考にしたい.

 一部の限られた先進校での取り組みの時代から全国4万校へと,インターネット利用はその舞台を移している.維持管理サービスまで含む契約が進み,あるいは教育センターが維持管理を一括して行うなどの形で,各学校に要求される技術的なノウハウは,整理・縮小されている.技術的な側面は行政的にバックアップし,教員の時間を教育的な側面に使える配慮が欲しいところである.

 立ち上げ時期の第3の要件として,インターネット利用に関するイベント企画を挙げたい.文化祭での発表,コンテストへの応募,校内・公開研究授業の設定,授業参観での保護者へのPR,学校間交流の実施など多彩なイベントが考えられる.導入期の努力を焦点化し,インターネット利用への賛同者を増やし,子どもとともに新しい学びの成果を味わうために,アピールできる目標をもつ.

 インターネットを利用した学びは,これまでの教師主導で,予定調和的で,知識習得を第一義とした授業自体の変革を迫る.学校を少しでも楽しい所にし,適度な緊張感を生み出し,その中から多くのことを学ぶためにも,大小さまざまなイベントを定期的に(あるいは恒常的に)設定するのが良いと思う.


3.継続には全教科・全教員・全教室

 導入期を過ぎてインターネット利用を長続きさせ,あるいは学校全体の活動としていくために,次の3つの努力目標を提案したい(より詳細には,鈴木,1999).

 第1に全教科での取り組みを目指すこと.小学校では,全学年での取り組みとなろう.インターネット活用目標を教科ごとに設定・実践する.たとえば,「ホームページで情報を集める授業を各学年とも年に1度はやる」はどうだろうか.各教科ごとにホームページ上に情報を発信する.「先生のプラ イベート・ルーム」を設けるのもよい.ホームページは,高度情報通信社会における「顔」であり,先生がどんな顔を生徒,保護者,そして地域社会に見せていくのか検討したい.

 第2には,教員全員が電子メールアドレスを持つこと.朝と放課後の毎日最低2回は電子メールを読む.電話が便利なのは誰でも電話を持っているからであり,電子メールを便利な道具にするには全教員が使うことが必須である.電子メールアドレスが記された名刺を教員全員が持ち,外と交流するとよい.

 第3は,全教室からのインターネット接続を目指すこと.父母や地域を巻き込んで,学校内にネットワークを張る「ネットデイ」が各地で企画・実施されている.機種更新で余ったパソコンを捨てるのはもったいない.インターネットが図書室のパソコンでしか使えないのでは意味がない.職員室のどの机からも電子メールが使えるように,そしてすべての教室から接続できるようにする.

 米国では2000年までにすべての「教室」にインターネット接続することを国家目標に据え,1988年秋の調査時点で51%の教室が接続された(学校単位では同時期で推定89%).日本の場合は,2001年度までにすべての「学校」を接続することが目標であり,その先は各学校や地域での努力に期待する形である.いつでも気軽にどこからでも利用できる環境整備を目指したいものである.

4.おわりに:教育工学研究者からの貢献

 これからのインターネット利用を,教育工学研究者としてどのように支えていく道があるのだろうか.先進事例を広く紹介すると同時に,そこから「輸出可能」なノウハウを抽出し,教育メディア利用研究の系譜に位置づけて検討すること.教授設計モデルの枠組みから,学校ホームページのデザインなどに関わる原理をまとめること.イノベーション普及研究の文脈でインターネット利用を促進するための要因を洗い出すこと.アカウンタビリティ(結果責任)を担保するための評価技法を整理し,インターネット利用の効果を確認する手段を提供すること.これまでのインターネット利用を推進してきた献身的な教師の努力に酬いるためにも,一つひとつ確実に研究者としての役割を果たしたいと思う.



参考文献

鈴木克明(1999)「23.中学校においてコンピュータや情報通信ネットワークの活用をどう工夫するか」『教職研修』1999年3月号