日本教育工学雑誌・論文・投稿(1997.2.17受理)


HyperCard上のドリル教材作成支援ツールの開発研究

Development of drill shells for HyperCard

鈴木 克明
SUZUKI, Katsuaki

東北学院大学
Tohoku Gakuin University

〒981-31仙台市泉区天神沢2-1-1
2-1-1 Tenjinsawa, Izumi, Sendai, 981-31




要約:HyperCard上に付加するドリル教材作成支援ツールを開発した.選択肢の自動配置替え,練習カードの自動配列,回答に応じた練習カードの除去や再出題などの制御を備えるツールを数種類用意し,CAI教材自作課題に提供した.評価実験1では,HyperCardの標準リンク構造のみを活用する教材と,支援ツールを活用した教材の特徴を大学生に評価させた結果,ボタンリンク構造のみの自作教材に比べて,練習支援の側面を強化しているとの印象を与えていた.次に,改善提案とドリル構造についての研究結果とを取り入れて「正解消去型ドリル」を改善・拡充し,操作性を向上させた.評価実験2では,画像情報と音声情報を含む学習項目を,3形態で練習できる教材を自動生成するツールを非情報系の大学生に試用させて教材を自作させ,ツールとしての使い勝手を調べた.その結果,ツール初回利用時で新しいドリルを約30分で自作・試用できることがわかった.
キーワード:
CAI 教材開発 高等教育 ドリルシェル ツール


Summary

 Drill shells to assist the development of CAI on HyperCard were developed. Several shells were prepared for CAI courseware development, with such features as random ordering of the answers for multiple choice practices, shuffling of the practice items, and deletion and reordering of the items based on the correctness of learners' responses.
In Experiment 1, college students evaluated courseware, some of which utilized the drill shells, and the rest used only regular links among cards by clicking buttons. Analysis of questionnaire suggested that they felt the courseware with drill shells would be better than the ones with regular links in practice only, which was the intended effect of the drill shells.
One of the drill shells, "Correct-Disappear Drill", was then redesigned and expanded, based on the students' suggestions and drill control mechanisms suggested in the literature. Experiment 2 was conducted to examine the ease of use of the shell for college students to develop their own courseware. It was found that the first-time users successfully made and test-ran their own courseware in 30 minutes by utilizing the drill shell.
Key Words: CAI, COURSEWARE DEVELOPMENT, HIGHER EDUCATION, DRILL SHELL, TOOL



1.はじめに


 ドリル型CAI教材には,個に対応して学習を支援するコンピュータの機能を最大限に発揮する可能性がある.にもかかわらず,最も効果的とされる制御構造をもつドリル教材を誰でも簡単に自作できるツールが整っていない.ドリル型CAI教材の制御方法については様々なメカニズムが提案されており,とりわけALESSI & TROLLIPやSALISBURYの類型化は参考になる(鈴木,1989a).しかし,CAI教材の制作者がこれらの知見に精通しているとは限らず,練習をただ繰り返すだけのものや,知っているかどうかは判断できるけれど一向に上達しない「テスト型」とでも言うべきドリル教材も少なくない.制御構造の研究知見を普及させるためにも,それらを内包したドリル教材作成支援ツールの開発が求められている.

 一方で,CAI教材作成の環境が向上し,マルチメディア情報をマウス操作でたどらせるハイパーテキスト構造の教材は,簡便に作成できるようになってきた.筆者が担当する非情報系学部2年生のための専門科目「教育工学実習」では,後期にHyperCardを用いての自作CAI教材づくりを課している.学生は,各々の関心に基づいて「自分が詳しいこと」を主に同輩の大学生に紹介するための教材を設計・開発・評価・改善している.コンピュータを扱うのが初めての学生が多く,しかもコンピュータ技術の習得を目的にしていない実習においては,いわゆる「透明度」の高いHyperCardのようなツールはとても威力を発揮している.半期の間に自分のアイディアに基づいて,ひとまとまりの教材をまがりなりにも完成させることができるのは,ツールの了解性が高く,使い勝手が優れているからである.文字情報のみならず,スキャナからの絵の取り込みや,効果音や音声情報など,年を追うごとに先輩の作品などから刺激を受けて,大容量の力作が目立ってきた.

 しかし,HyperCardがいかに使い勝手の優れたツールであるとしても,プログラミングの知識の乏しい学生が複雑な制御構造を自作できることを意味するわけではない.HyperCardのプログラミング言語であるHyperTalkを用いて得点による条件分岐や練習問題の無作為抽出などを取り入れた教材を自作する力をつけさせるには,前提となる知識も作成期間も不足している.単なるページめくり機とハイパーテキスト構造では飽き足らない学生がより高度の制御を欲した場合には,筆者がそのためのツールを自作して提供する形で補い,学生がそれを自分の作品に組み込んできた.それらが「HyperCard上のドリル教材作成支援ツール」である.

 本研究の目的は,今回開発したツールを活用した教材の特徴を明らかにし,また教材作成を支援するツールとしての簡便性を高めた効果を確かめることにあった.評価実験1では,HyperCardの標準リンク構造のみを活用する教材と今回開発したツールを活用した教材を大学生に評価させ,学習支援のどの側面を強化しているとの印象を与えているかを調べた.次に,試用者コメントの改善提案とドリル構造についての研究結果とを取り入れてドリル機能を強化・改善し,評価実験2では,「正解消去型ドリル」作成支援ツールを非情報系の大学生に試用させて教材を自作させ,ツールとしての使い勝手を調べた.


2.ドリルツール


 開発したツールとそれを用いた学生の自作教材例は次のとおりである.

2.1.正解消去型ドリル

 画面にレイアウトしたイラストのどれが正解かをイラストをマウスで選択することによって練習するドリル.正解したイラストは消去され,誤答には選択されたイラストが何の正解であるかをフィードバックする.イラストの位置は動かないが,出題順はランダムにその都度決定され,全てのイラストが正解して消えるまで練習が続けられる.

 正解消去型のドリルをクリスマス会に必要な物品の名前を提示し,そのイラストを消していくドリルで例示した.学生がそれを応用して,英語で与えられた動物のイラストを消していく「動物カルタ」(図1),名称に適する音符や音楽記号を消していく「音符」に仕上げた.


図1.正解消去型ドリルの例「動物カルタ」


2.2.空欄補充型ドリル

 画面上にレイアウトした空欄に語句群から選択したボタンをドラッグして穴埋めするドリル.穴埋めした途端に正解か間違いかがフィードバックされ,間違いにはヒントが出される「練習モード」と,全てを穴埋めした後で一括して正答率と誤答箇所を指摘する「テストモード」を用意した.HyperCardに付属しているジグソーパズルのプログラムを応用した.

 「なつ」「正月」などの季節に関連したことばを「香取線香」や「お年玉」のイラストの上の空欄にあてはめる「どの季節かな?」を空欄補充型のドリルの例として提供した(図2).それを応用して,「中国方位」「F1」に関する自作教材の練習問題とテストを作成した例がある.


図2.空欄補充型ドリルの例「どの季節かな?」


3.評価実験1:ツールを活用した教材の特徴に関する比較実験


3.1.研究協力者

 教育工学実習が開設されている教養学部の全ての専攻を対象にして開講している専門講義「教育工学」の受講生165名が,単位取得のための課題の一つとして,自作教材の評価に参加した.参加者は,休講の週の出席点を確保するために,都合の良い時間に教育工学実習室に来室し,前年度までに自作された教材を各自自由に選択し,評価シートに記入する形で協力した.評価シートの提出をもって出席扱いとし,評価内容は点数に影響しないことが知らされていた.教育工学実習を既に履修し,CAI教材を自作した経験をもつ者は含まれていなかった.

3.2.評価シート

 評価シートは,教材がどの程度魅力的かをケラーのARCSモデル(鈴木,1995)をもとにして判断する部分と,教材がどの程度効果的かをガニェの9教授事象(鈴木,1989b)をもとにして判断する部分に大別されていた.ケラーのARCSモデルは,授業や教材の「魅力」を高めるための方略をA(注意),R(関連性),C(自信),S(満足感)の4因子でとらえたモデルで,情意面をシステム的に扱った教授設計モデルとして米国を中心に注目されている枠組みである.ガニェの9教授事象は学習の情報処理モデルに基づいて学習支援のフェーズ(事象)を9つに分類した枠組みで,教授設計モデルの最古参であり最も広く用いられているものである.

 評価シートのそれぞれの部分には,5段階の同意尺度項目と自由記述項目が含まれていた.評価の参加者には,2つの判断基準(ARCSモデルと9教授事象)についての説明が事前の講義「教育工学」で与えられ,配付されている資料を見ながら評価するように指示されていた.CAI教材の形成的評価については様々な技法が提案されているが(鈴木,1987),今回の改善には,ドリルの記憶促進効果を示すデータでなく,開発経験を持たないドリル利用者層の改善提案を主に用いた.

3.3.結果

 研究協力者のうち161名が分析に有効な「CAI試用コメント用紙」を提出し,今回の分析の対象となった.今回の評価対象となった作品のうち,複数の評価者が選択・評価した作品は17で,そのうちの6作品(計67名が評価)に今回開発されたドリル教材用のツールが使われていた.

 ツールを利用した6作品の内訳は,正解消去型ドリル(図1)を使った2作品(動物の英語名とイラストを結び付ける「動物カルタ」と休符音符音楽記号などと名前,働きを結び付けるドリルを含んだ「音符」),空欄補充型ドリル(図2)を使った2作品(十二支の時刻と方位を扱った「中国方位」とチームやレーサーの穴埋め問題を含む「F1」),さらに正解消去型ドリルの項目ランダム配列と正誤項目の区分制御を発展させたカード配列制御ドリル構造を内蔵させた2作品(年号を語呂合わせで覚える方法を紹介する「歴史」と百人一首の作者と句,上の句と下の句を結び付けるドリルを含んだ「百人一首」)であった.

 ツールを使用した6作品(使用群)と使用していない11作品(不使用群)を比較したところ,教材の魅力と効果に関しての5段階評価の全項目を合計した総合評価では,両群の平均に有意差はなかった(使用群の平均65.7(SD=10.1)に対して不使用群の平均63.1(SD=11.8);範囲18〜90).教材の魅力に関しての項目合計値にもツール使用/不使用の差が有意に影響を与えていなかったが,教材の効果に関する項目で,ガニェの9教授事象のそれぞれを「うまく教えているか」という点で評価した9項目の合計値には,ツール使用群と不使用群の間に統計的な有意差があった(使用群の平均32.3(SD=5.9)に対して,不使用群の平均30.3(SD=6.0);範囲9〜45;t (159) =2.108, p =0.037).

 教材の効果に関するガニェの9教授事象に基づく評価項目を一つずつ検討した結果は,図3に示すとおりである.9教授事象全体としてツール使用群と不使用群との間に見られた有意差は,全事象を通しての差異に基づくものではなかった.むしろ,情報の身に付け方についてのヒントが豊富にあったかどうか(事象5;t (158)=2.275, p =0.024),練習の機会が実力がつくように用意されていたかどうか(事象6;t (158)=2.117, p =0.036),フィードバックが弱点が分かるように与えられていたかどうか(事象7;t (158)=2.194, p =0.030),そして,復習と応用場面があり,習得事項の保持と転移が高められていたかどうか(事象9;t (155)=2.073, p =0.040)の4事象に限って,統計的な有意差が見られた.



3.4.考察

 以上の結果から,今回開発したドリル作成支援ツールを使用して開発した教材とそれを使用しないで開発した教材では,「教材の魅力」という点では差が見られなかったが,「教材の効果」の予想という点で,統計的に有意な差が認められた.特に,ツール使用によって高まりが期待できる教材の構成要素(学習のガイダンスや練習,保持転移)という点にのみ差が認められたことは,今回提供したツールを組み込んだ意図と合致するものであった.ドリルツールの組み込みによって効果の向上が期待される事象は,「注意を喚起(事象1)」したり「学習目標を知らせ(事象2)」たり「情報を提示(事象4)」したりする場面ではなく,今回差異が認められた練習の場面であると考えるのが自然であろう.このことから,今回開発したドリル作成支援ツールによって,HyperCard上に作成される教材の練習支援の側面を強化する可能性が示唆された.

 上記のことは,コメント用紙の自由記述欄への回答にもあらわれていた.ツールの存在やその使用方法について知らされないままにコメント用紙に記入した学生が,「間違った問題を繰り返せるところ(音符)」「毎回問題の順番が変えられているところ(動物,歴史)」「間違えた問題だけをやり直せるところ(歴史,百人一首)」「当たるまで何回もやるので自然に覚えてしまうところ(音符,百人一首)」「正解だと動物が画面から消えるところ(動物)」「間違えたときに,もう一度同じ問題が出される迄覚えておかなければならないところ(動物)」などを,教材が「うまく教えている」こととして指摘している.

 一方で,今回提供した「空欄補充型ツール(図2)」を使った教材のコメントには上記のような肯定的なコメントが見られず,ドラッグという回答方法のみの変化では,教材の効果につながったとの直接的な印象を与えていないことが示唆された.マウスをクリックして選択肢から選ぶだけでなく,語群から適当な語句を選んで空欄を埋めるドリルの形式は,応用範囲が広いと思われる.他のドリル制御形式(e.g., 鈴木・岩本・屋代,1989)と組み合わせるなどして,効果的な学習支援に結びつく今後のツール改良が必要であることがわかった.

 教材の魅力面では,ケラーのARCSモデルにしたがって評価を行なった.ここでは,教材の見た目が変化して「A:注意」の側面で魅力を増進することよりも,ツールの提供する練習条件からやればできるという気持ち(「C:自信」)の側面が高く評価されるのではないかという期待があった.

 どんな点でこの教材は「魅力的」だと思うかを尋ねた自由回答欄をみると,確かに「繰り返すうちにはずれる率が減ってくる(動物)」「再挑戦できるところ(歴史)」「自分が興味深いと思うところから選択できる(百人一首)」「間違えるとまた挑戦できるし,違う問題ができるのもよい(音符)」といった「C:自信」に関連すると思われる特徴を挙げる例もみられた.しかし,同時に,「効果音がよい(動物)」「文字ばかりでなく絵札も描かれていてたいくつしない(百人一首)」「画面の出方がいろいろあって面白い(音符)」などの「A:注意」の側面から感じる魅力を指摘したり,内容そのものにやりがいを見いだしている(「R:関連性」)回答も多くみられた.

 このことは,評価に協力した学生にとってCAIそのものがもの珍しい存在であった(「A:注意」の対象であった)ことを物語る.それと同時に,ツールを使用したかどうかよりも,そのツールを組み込んだ作品のセンスや見栄え,構成などに影響を受ける部分が少なくないことをも物語っていると思われる.「C:自信」を高める教材の特徴を意識させるような,評価方法の再検討が必要である.


4.「正解消去型ドリル」の改善


4.1.ツール改善提案の分析

 評価実験1で収集した「CAI試用コメント用紙」の中で,「正解消去型ドリル」のメカニズムを使用している「動物カルタ」を選択した17名のコメントを参考にして,ツール改善を試みた.

 コメント用紙の自由記述欄への回答をみると,「毎回問題の順番が変えられているところ」,「正解だと動物が画面から消えるところ」,あるいは「間違えたときに,もう一度同じ問題が出される迄覚えておかなければならないところ」などを,教材が「うまく教えていること」として指摘している.いずれも練習とフィードバックのメカニズム(ガニェの6・7事象に相当)についての肯定的なコメントであり,ドリル制御構造採用のねらいに合致していた.

 一方で,「どんな改良を加えるとより魅力的/効果的な教材になると思うか」という問いの自由記述欄には,多数の改善提案が記入された.それぞれの改善提案を「魅力」についてはケラーのARCSモデルの方略分類に,「効果」についてはガニェの9教授事象にあてはめて分類したものを表1に示す.

表1.正解消去型ドリル(動物カルタ)に提案された改善点


「魅力面」(括弧はARCSモデルの方略分類)

□ 効果音をより意外で楽しいものにする(A1)
□ 画面をカラーにする(A1、R1)
□ 動物の絵をユーモラスなものにする(R1)
□ 英単語の発音を加える(R1)
□ 動物の数を増やす(R2)
□ 動物だけでなく、植物カルタ、乗り物カルタ
  などもつくる(R2)
□ お手つきの罰ゲームを追加する(R3)
□ 正解の数(または誤答数)を表示する(C1)
□ レベル分けして入門編と応用編を用意する
  (C1、C2)
□ 毎回絵の配置を変え、場所を覚えて答えられ
  なくする(C2)
□ 正解時の効果音を動物の鳴き声にする(S2)
□ 正解時に絵をクローズアップする/絵が動き
  だす(S2)


「効果面」(数字はガニェの9事象を示す)

□ 練習の前に絵と英単語の一覧を表示する(4)
□ 似たような名前の動物だけを集める(5)
□ 間違えたらヒントを出す(5、7)
□ 練習後にテストを追加する(8)
□ 練習後のテストでは時間制限を設ける(8)
□ 前回の正解率を記憶・表示する(9)
□ 覚えられたら絵を出して単語を選択、または
  入力してスペルを覚える(9)

注:17人の自由記述式解答をまとめたもの;複数解答あり


4.2.「正解消去型ドリル」制御の機能拡充

 表1にまとめられた改善提案を,ドリル制御についての研究知見を参考に整理し,効果的な改善の方向性を検討した.その結果,今回の拡充には,項目間隔変動型と状態前進型の制御(鈴木,1989a)を参考にしてドリル制御を見直し,少ないドリル内容を形を変えて効率よく使えるように改善した.

 項目間隔変動型の制御では,学習する項目をランダムに混ぜて提示順序を決定し,正答できた項目は列の後ろに,誤答の項目は数問後に再提示することで,学習状況に応じて項目の提示間隔を変動させる.状態前進型の制御では,リハーサル,練習,復習,テストなどの徐々に難しい状態に同じ内容の項目を前進させてドリルできるようにする.この二つの制御構造を参考に,「正解消去型ドリル」の機能を拡張した結果,次のようになった.

 図4は,絵による辞典を模したのドイツ語単語ドリル画面(鈴木ほか,1994)である.この画面では,マウスによって選択した項目(絵)の名前が日独両語で提示されると同時にドイツ語が読まれる.この辞書モードに,他の練習へのリンクを作り(画面右上),また新たにドリルを作成する作業を支援する機能(画面左上)を付加した.


図4.ドイツ語単語ドリル画面

 図5に,辞書モードから分岐できる3つのモードを示す.リハーサル段階として,ランダムに提示される項目を思い出しながら正解をめくって確かめる確認モード(図5—1),項目間隔変動型のメカニズムを備えて,ランダムに出題される問題に正解すると絵がひとつずつ消えていくカルタモード(図5—2),そして,絵を選択させるのではなく名前を選ばせる逆の出題をする選択モード(図5—3;ランダム抽出・配列される選択肢の数は2〜7個に設定可)である.これらの3つのモードでの出題情報(絵のリソース,問題と正解,絵の場所,音声リソース名)は,辞書モードの情報を利用している.よって,辞書モードを完成させるだけで,4つのモードを用いた練習が自動的に可能になった.


 図5—1.確認モード
 図5—2.カルタモード
 図5—3.選択モード


4.3.ドリル作成支援ツールとしての改善

 動物カルタの内容を拡張して,似たような名前の動物だけを集めたり,レベル分けして入門編と応用編を用意したり,動物だけでなく,植物カルタ,乗り物カルタなどをつくる作業を簡便化するためには,ドリル内容を自由に入れ替えられるドリルシェルとしての完成度を高める必要がある.前節で述べたようにドリル機能が複雑化する一方で,絵と音と単語データを収集・入力するだけで高機能なドリルを自動的に生成・提供することが求められる.

 図6に,ドリルを新規に作成するときの画面を示す.辞書モード(図4)の画面左上の「新規作成」ボタンを選択すると,画面上部に4つのボタンが現われ,その指示にしたがって作業を進めていく.(1)PICTリソースとして組み込んだ画像を指定し,(2)その画像に含まれる選択項目のリスト(問題と答え;画面左下に表示)を作成し,(3)項目の場所をボタン位置で指定し,(4)必要であれば項目名と同じ名称で音声ファイルをリソース化する.

 新しいドリルを自作するためには,スキャナによる画像データ作成や音声サンプリングとハイパーカードへのリソース化が必要技能となる.これらの技能習得も含めて「正解消去型ドリル」の自作が非情報系の大学生にとってどの程度の負荷になるかを確かめる評価実験を実施した.


図6.ドリル新規作成画面


5.作成支援ツールとしての評価実験


5.1.研究の方法

 「教育学実験実習」受講生(2年生)と「演習」受講生(3年生)の計10名が演習課題の一部として研究協力者となり,作成中の教材に「正解消去型ドリル」作成ツールを使用してドリル機能を付加した.

 研究協力者は,ハイパーカードの基本(カードとボタンによるリンクなど)を学び,自分で選択した領域のCAI教材を構想・開発中であった.まず,作成ツール使用例のドイツ語単語ドリル(図4・図5)を体験させた.次に,全ての選択肢を含む絵(カラー可)を一枚用意し,画面上の各選択肢を覆う位置にボタンを配置するだけで,ドリルが作れること,また音声データ(単語の発音など)を連動させることも可能なことを説明し,ツールの使い勝手を確かめる研究への協力を求めた.研究協力者各自がドリルの素材を用意してきた時点で,絵や音声データのリソース化を補助しながら,スキャナーや内臓マイクを操作してデータをHyperCardリソースとして準備し,作成ツールを使ってドリルを自作させた.自作したドリルや他の受講生が作成したドリルを自分たちで体験させたあと,アンケート調査を実施した.

5.2.結果と考察

 研究協力者全員が,各自が用意してきた素材を用いて,支援ツールを使ったドリルを完成させることができた.図7に自作した教材例(ホンダ社の車種を覚える)を示す.教材の内容に応じて音を使用する必要があるかどうかは研究協力者に判断させたため,音声データを用いたのは3例のみであった.


図7.ドリル作成支援ツールを用いて自作した教材例

 図8に,作成に要した時間を示す.所要時間の平均は34.5(SD=14.9)分であり,1枚のカード上に25項目を入力・配置しようと試みて項目名を入力するだけで50分もかかってしまった1名を除外すれば,平均的な全作業時間は30分であった.スキャナーを操作して画像データをHyperCardリソース化する作業を自分でやりたいと申し出た2名の作業時間には,リソース化に要した時間(各々10分と15分)が含まれている.また,音声データを利用した2名の作業時間には,附属マイクから音声を入力し,登録準備をした時間(各々10,14,17分)も含まれている.さらに,全員の作業時間には平均6.7(SD=2.7)分の自作ドリル体験時間も含まれていることや,初めてドリル作成支援ツールを用いた場合の所要時間であることも加味すれば,短時間でドリルを作成できるツールという当初の目的はおおむね達成できたと判断できよう.


図8.ドリル作成の所要時間と作業内容

 図9に,アンケート結果のうち,各々の作業のやりやすさについての回答(5段階同意尺度)を示す.画像データのリソース化作業を自分でやった2名は,やりにくかったと答えている.これは,初心者向けのマニュアルがなかったためであり,一度演示を観察しただけでは自分で作業することが難しかったことを意味する.画像データのリソース化作業は,ドリル項目一つずつが別の画像である場合と,ドリル項目全てが含まれている画像を一枚用意した場合とで作業の手順が異なるなど,一様ではない.その点も含めたマニュアルを用意する必要があることがわかった.その他の作業内容については,項目名を入力するだけで50分を要した1名が「とてもやりにくかった」と回答した以外は,おおむね肯定的であった.


図9.作業のやりやすさ(アンケート結果)

 アンケート自由回答欄には,さらなるツールの改善へのヒントがみられた.25項目を入力・配置しようと試みた協力者は,自由回答欄に「選択される絵などの数は10前後がいい.多すぎてはダメ.」と記述した.一度に練習する項目の数を限定するという意味からも,10前後の項目でドリルを作成するようにアドバイスを付加した.また,「各作業の行程に,もう少し手順の説明を増やした方がいい.」との要望を入れて,手順の説明を付加した.


6.おわりに


 本研究では,HyperCard上に付加するドリル演習作成支援ツールを開発し,教材の特徴を評価させ(実験1),その評価実験から得た改善への提案と研究結果とを取り入れて「正解消去型ドリル」を改善・拡充し,操作性を確認した(実験2).本研究で取り入れたドリル制御構造は,項目間隔変動型と状態前進型と呼ばれるメカニズムであるが,この他にも様々なドリル制御構造が提案されている.これらの研究知見が広くCAI教材の制作に生かされるためにも,また良質なドリル型教材での学習経験から効果的な学習についてのノウハウを体得させるためにも,多種多様なドリル型CAI教材作成支援ツールの開発が待たれるところである.


参考文献


鈴木克明(1987) CAI教材の設計開発における形成的評価の技法について. 視聴覚教育研究, 17:1-15

鈴木克明(1989a) テレビ番組による外国語教育を補うドリル型CAIの構築について. 放送教育研究, 17:21 - 37

鈴木克明(1989b) 米国における授業設計モデル研究の動向. 日本教育工学雑誌, 13(1): 1 - 14

鈴木克明(1995) 『魅力ある教材』設計・開発の枠組みについて—ARCS動機づけモデルを中心に—. 教育メディア研究, 1(1): 50 - 61

鈴木克明・岩本正敏正敏・屋代成夫(1989) もの珍しさを超えたCAI教材〜学習意欲の分析とドリル・シェルの開発(1). 第15回全日本教育工学研究協議会全国大会論文集, pp. 183 - 186

鈴木克明・佐伯啓・風斗博之・岩本正敏(1994) ドイツ語単語ドリルの開発と利用〜自己評価チェックリストの提案〜. 私情協ジャーナル, 2 (3) :4 - 8