1999.1.25-28. マルチメディア教材開発養成講座(文部省生涯学習局)テキスト原稿「マルチメディア教材開発の実際」東北学院大学教授 鈴木克明

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1. マルチメディア教材開発の手順

  〜CD-ROM『じっと見つめて台原森林公園』を例に〜


        1-1.はじめに:マルチメディアには2種類ある
        1-2.マルチメディア教材を構想する
        1-3.マルチメディア素材を収集・作成する
        1-4.マルチメディア教材を組み立てる
        1-5.マルチメディア教材を評価・修正する
        1-6.おわりに:モノヒトカネの限界が教材の「完成」



1-1.はじめに:マルチメディアには2種類ある


 マルチメディア教材を自作するには,どうしたらいいか。マルチメディア教材開発の実際を,開発手順にしたがって解説していく。ここでは,筆者らが上月教育財団からの研究助成を受けて開発したマルチメディア教材『じっと見つめて台原森林公園〜定点観測の365日〜』(日本教育工学協会,1996)を例に,開発の実際を手順を追って紹介する。

 まずはじめに,ここでのマルチメディア教材とは,「デジタル技術で可能になったコンピュータ上に実現するマルチメディア教材であり,それはパッケージ系と通信系の両方に配慮したものを意味する」ということを確認しておきたい(注:上の文章の意味がわかる人は,読み飛ばして「1-2.マルチメディア教材を構想する」に進んでよい)。

 マルチメディアと一言にいっても,その言葉が意味する内容は多岐にわたっているので,区別して用いることが必要である。第一の区別は,「多くの教育機器を効果的に組み合わせて学習を促進する方法(いわゆる多メディア)」という従来から視聴覚教育などで用いられている意味と,「別々の機器を必要としていた様々な形の情報をコンピュータ技術で一元化する方法(いわゆるデジタル化)」という意味でのマルチメディアである(鈴木,1997)。コンピュータの高速化や大容量化によって実現された後者のマルチメディアによって,パソコンが文字や数字だけでなく,音楽や写真,あるいは映像も扱えるようになり,より広範囲で利用可能な,誰でも使える身近なものになってきた。さらに,デジタル化によって産業構造そのものにも変化が生まれ,境界線がはっきりしなく(シームレスに)なってきたとも言われている。

 つまり,社会的現象として注目されているのは,後者の意味でのマルチメディア(いわゆるデジタル化)であり,前者の意味ではない。本講座でも,パソコン上で実現するマルチメディア教材を念頭に置いている。しかし,マルチメディアの意味することが変わっても,これまでの蓄積がまったく使えなくなるという訳ではない。パソコン上にマルチメディア教材を開発する際にも,これまでに蓄積してきた素材をどう活かしていくか,また,これまでに培ってきた視聴覚教材制作のノウハウをどう活かしていくかという視点が重要である。視聴覚メディアの教育利用に慣れ親しんできた立場からは,「テレビや電話,スライド映写,ビデオ編集,楽器類など,多くのメディアの機能が,パソコン一台で疑似的に実現できるようになったことがマルチメディアだ」と捉えるのがよい。

 マルチメディアという言葉の第二の区別は,「パッケージ系」か「通信(ネットワーク)系」かである(文部省,1994;多田,1995)。この区別は,デジタル化の意味でのマルチメディアをさらに分類するもので,パッケージ系とは,コンピュータ単体で実現する場合を指す。パッケージ系のマルチメディアには,フロッピーディスク500枚分以上の大容量で,パソコンに標準装備されていることから,CD-ROMが利用されることが多い。一方の通信系は,コンピュータを情報の受発信装置として用いて実現するマルチメディアであり,この代表例には「ホームページ(World Wide Web)」や「通信カラオケ」などがある。

 近年のパソコンには,通信のための装置や応用ソフトウェアを標準装備していることが当り前となっており,パソコンをネットワークにつなげて利用する形態が広がっている。さらに,基礎的な情報はCD-ROMなどのパッケージとして提供した上で,最新情報のみをネットワークから取り込んで,あわせて用いるという利用方法も進み,パッケージ系と通信系の垣根もシームレスになってきている。パソコン単体での活用を念頭においてマルチメディア教材を開発する場合でも,完成した教材の公開,あるいは流通を考えると,通信系への配慮も大切である。パソコン単体でも動かせて,ネットワークからも利用できる教材という形が,一つの目標になる。



1-2.マルチメディア教材を構想する


 マルチメディア教材開発の第1段階は,教材を構想することである。どんな教材をどうやってつくろうかをイメージし,教材づくりの行方をはっきりさせる。この段階での主な作業は,目標の設定,ソフトウェアの選定,全体構成図の作成の3つである。

1-2-1.何のためにつくるのか:目標の設定

 目標の設定とは,何のためにマルチメディア教材をつくるのかを明らかにすることである。教材であるからには,誰かに何かを教えたい(あるいは伝えたい)という目標があるはずである。対象者と学習目標を明らかにすることは,重要な第一歩である。また,教材の「売り文句」を考えることも有効である。どんな特徴を出したいのか,どんなものができ上がったら「成功」とするのかをあらかじめ考えておくとよい。

 どんな特徴の教材にしたいかは,評価の計画から始めると,具体的になる。教材が出来上がったときに,それを使った人がどんな感想を書いてくれることを目指すのか。何がどのぐらいの正確さや速さでできるような教材にしたいのか。教材のでき具合の評価に用いるアンケートやテストを先に作ってしまおうという訳である。

 『台原…』プロジェクトの場合,定点観測でたまった森林公園の鳥瞰写真を中心に,公園に生息するさまざまな生物のデータをまとめた教材をつくるという制作の意図があった。小学校中学年から中学生を対象にして,ていねいに観察するとわかる自然の不思議さや四季の移り変わりに気づく楽しさに気づかせ,生物の名前や特徴を調べてみようとする気持ちを育てるという目標を設定した。評価には,子供たちからの自由記述感想文を用いることとした。感想の中に,教材を使って発見したことへの驚きや,もっと調べてみたいという気持ちが表されることを期待した。

1-2-2.どうやってつくるのか:ソフトウェアの選定

 ソフトウェアの選定は,どんな教材がどの程度の労力でできるかの幅を左右するので,慎重にしたい。一般に,教材が短時間で簡単に作成できるソフトウェアほど,デザインの自由度が低く,実現できる機能が限定されている。高級な機能を求めればそれだけ,複雑なソフトウェアが必要となり,専門的な技能と開発の時間が要求されることになる。まず,候補のソフトウェアを使って開発された教材の実例を見てみることで,そのソフトウェアで何ができるかをイメージすることから始める必要があろう。

 さらに,出来上がった教材をどのように提供するのかも重要な判断になる。CD-ROMか,それともホームページか。マルチメディア教材の場合の選択肢は,主としてこの2つのうちのどちらかになろう。CD-ROMでの提供ならば,教材実行ソフトウェア(エグゼキュータ,またはランタイムとも呼ばれる)が無料で配付でき,MacintoshとWindows95/98の両方で動くものを選択するのがよい。また,ホームページ用に開発してCD-ROMで提供することも有力な選択肢である。インターネットに常時接続されていなくても,パソコンに付属してくるWWW閲覧用ソフトウェア(ブラウザと呼ばれる)を利用して,CD-ROMの情報を見ることが可能である。一方,ホームページで提供するならば,各種の簡便な作成ツールが利用できるし,HTML言語は低機能ゆえに簡単である。高級なことはプログラミングすれば実現できるが,広く見てもらうためには,低機能に限定しておく方が無難である。

 『台原…』プロジェクトの場合,CD-ROMでの提供を考え,教材実行ソフトが無料で,MacintoshとWindows95の両方で動くソフトウェアとして,Oracle Media Objectというソフトウェア(オラクル社製)を選択した。ボタンで選択してリンクをたどるハイパーメディア的な学習の中に,簡単なアニメーションや検索機能などがHyperTalk言語流にプログラムできることが選択の理由であった(注記:このソフトウェアは発売停止になり,現時点では購入できない)。一枚のCD-ROMの中に教材本体とMacintosh用とWindows95用両方の実行プログラムを入れた,いわゆるハイブリッド版CD-ROMを2,000枚作成し,配付することにした。

1-2-3.どんなものをつくるのか:全体構成図

 教材の特徴と用いるソフトウェアが決まれば,教材のイメージはつくれる。次の作業は,盛り込む要素をリストしてならべることである。教材の全体構成図とは,教材の内容とその関連を示した図である。教材の中に入れる予定の要素が何か,そして,それらをどのようにつなげるのか(リンクさせるのか)を明らかにした全体構成図を完成させることで,教材を構想する段階を終了する。

 全体構成図を描く作業は,パソコン上のドロー系ソフトウェアを用いてもできるが,最も手軽な方法は,PostItTMなどの貼ったり移動したりが簡単な紙片を利用することである。紙片1枚を1つの画面と見立て,そこに盛り込みたい内容を記す。全体の配置を気にしないで,入れたい情報を全て書きだし,それを大きい白紙の上に(あるいはノートの見開き2ページを使って),お互いの関連を考えながら並べていくのである。おおよその配置ができたところで,画面相互をつなげる線を加えれば,全体構成図のでき上がりである。

 図1に,『台原…』プロジェクトで開発した教材の全体構成図を示す。教材を起動すると,表紙が示され,イントロとなる地下鉄の駅構内から森林公園までの動画を経て,公園の画面へ。そこから公園を散策してさまざまな生物に出会う「散歩」ルートと,仙台市科学館の特別展メニューから選ぶ「検索」ルートのいずれかによって,CD-ROMに収められたデータにアクセスする構造にした。「散歩」ルートからは,場面と季節に相応しい生物のデータをその都度参照できる他,公園のイベントや観察の記録が参照できる。また,「検索」ルートには,種類別の生物メニューや五十音順リストからの参照や,科学館建設の様子,観察した人や道具の解説,あるいは,生物博士になるためのクイズなどを用意した。


図1.教材の全体構成図例

 マルチメディア教材開発にあたって全体構成図を用意することには,さまざまな利点がある。第一は,目標作品の明確化効果。何をつくっているのかをはっきりさせることができる。この時点でプロジェクト発注者からの承認(あるいはプロジェクトメンバー間の合意)を得ておくとよい。「あなたのお望みの(我々が望んでいる)モノは,こんなものですよね」という確認をとっておく。第二は,進捗状況の把握効果。全体像を常に振り返りながら,今どの程度までできたかをチェックしながら進めることができる。

 全体構成図を用意したからといって,最後まで当初の計画に固執する必要はない。マルチメディア教材は,つくりながら変更するのが当たり前である。間に合いそうもなければ,枝葉を落として(規模を縮小して)全体のバランスを調整する。反対に,新たに付け足すものが出てきた場合には,どこに位置づけるかを確認しながら追加することもできる。

 第三は,共同作業の促進効果。この図を見ながら,プロジェクトにかかわる人たちが意見を交換し,また,自分の役割を再確認することができる。自分が分担した画面が,他の部分のどこに連結しているのかが一目でわかるし,また変更を加えたときにはそれを全体構成図上に反映しておけば,他のメンバーにもそれを正確に伝えることができる。最後に,全体構成図は,教材ができ上がったときには,教材のマニュアルの一部として活用することができる。コンピュータ上の教材は,使ってみても全体像がよくつかめないという弱点がある。全体構成図を添付することで,利用者が,迷うことなく教材を使うための手助けとすることが可能である。さらに,全体構成図を反映した「地図」を教材自体に加えることもでき,クリック一つで教材のどの部分へも移動できる機能を提供することも可能である。



1-3.マルチメディア素材を収集・作成する


 マルチメディア教材開発の第2段階は,素材を収集・作成することである。マルチメディア教材に用いる素材には様々な形があり,また,これまでの蓄積を再利用する道もたくさんある。再利用をまず考え,次に新たに収集・作成することを検討したい。


1-3-1.今あるものを再利用する

 結論から言って,今あるマルチメディア素材は,すべて,新しく作成するマルチメディア教材に,何らかの形で用いることが可能である。もちろん,それぞれの素材には著作権があり,私的な利用以外は制約を受ける場合がある。これからつくる教材をどのように利用するかによって,あらかじめ用いる素材の著作権を吟味する必要があることは言うまでもない。

 自分で今までに撮りためたスライドがあったり,これまでに撮影した古い写真などが勤務先に保管されているような場合は,それらの貴重な資料にデジタル時代の光を再びあてて,蘇らせることを検討したい。ひとたびデジタル化した素材は,二度と劣化することはなく,貴重な歴史的素材の保存にも一役買うことになる。コピーも容易であるし,ネットワーク経由での配布も可能なので,著作権に問題がなければ,複製を広く教育の場に提供することもできる。

 表1に,再利用するマルチメディア素材の例とその留意事項を示す。技術的な観点から見て,現在のところ,動画をデジタル化してコンピュータ教材の一部とすることには,限界がある(画質や画面の大きさ,データ容量など)。一方で,小さくて短い動画がとても効果的に使われている例もある。動画の利用には,細心の注意を払いたい。動画をデジタル化する際には,あわせて静止画も用意し,必要と環境に応じて使い分けられるようにするのも,賢明な方策となる。



 『台原…』プロジェクトでは,撮りためた定点観測の画像データや,インターネット上に公開している生物データ(静止画)とその解説(テキストデータ)などを,再利用した。ファイル形式を自動変換するフリーソフトを用いて,教材開発に使用したソフトで扱えるデータ形式に一括変換するのは容易であった。中学生がつくった夏休みの課題報告書は,図表部分をスキャナで読み込んで活用した。水生微生物を扱ったCAI教材の再利用を試みたが,ソフトが異なっていたために連結はできず,教材内部で用いられている動画ファイルや静止画像,さらに解説などのテキストデータを取り出して再利用した。公園を散策する子どもの様子を記録した8ミリビデオは,特徴的なシーンを選んで,短いデジタル動画として取り込んで活用した他,静止 画像もそこから制作し,メニューなどに用いた。


1-3-2.新たに収集・作成する

 マルチメディア素材を新たに集めたりつくったりする際に重宝するものに,デジカメ,著作権フリーのマルチメディア素材集,素材作成用のソフトウェアがある。

 デジカメ(デジタルカメラ)とは,静止画をデジタルで撮り,直接パソコンへ入力できる装置である。内蔵メモリに記憶してパソコンへ接続して転送するタイプや,メモリカードやフロッピーディスクに記録して,その媒体をパソコンで読み取るタイプがある。また,動画をデジタルで撮るのがデジタルビデオ(規格はDV)である。デジタルビデオは,ストップモーション(一時停止画面)が静止画として利用できるので,カメラとビデオの両方の役を兼用させることもできる。最近では,デジカメに動画像が記録できる機種も販売されている。

 著作権フリーのマルチメディア素材集とは,効果音やイラストなどを集めて,CD-ROMやインターネット上で提供しているものを指す。プロ仕様でかなり高額な利用料を要求するものから,安価(もしくは無料)で多彩な素材を提供するものまで,豊富にある。たとえば,学校教師が共同利用できる素材を収集したプロジェクトの成果が,岐阜大学によってインターネット上に公開されている(http://www.crdc.gifu-u.ac.jp/mmdb/)。大いに利用して,プロジェクトの成果を広めたいものである。

 『台原…』プロジェクトでも,多くの素材集を活用させていただき,文献を引用したときに出典を明らかにするのと同じように,どのフリー素材集を使わせていただいたかを明記して,感謝の意を表した。使えるものは,積極的に使わせていただくと同時に,あまり飾り立てないで,内容を重視する方針で活用したい。



 素材作成用のソフトウェアとは,マルチメディア素材を加工して,あるいは白紙からすべて自分でつくるためのツールである。最も利用されているお絵描きソフトでイラストを作成したり,イラストをつなげてプレゼンテーションをつくって動画として組み込んだり,あるいはフォトレタッチソフトで写真をデジタル編集することなどが考えられる。また,ミュージックソフトで効果音を自作したり,音楽を編曲したりする楽しみもある。



1-4.マルチメディア教材を組み立てる


 マルチメディア教材開発の第3段階は,収集・作成した素材を組み立てることである。第1段階で検討した教材の全体構成図に基づいて,素材を収集・作成しながら,同時並行して組み立てていくのが普通である。その意味では,収集・作成→組み立て,収集・作成→組み立てを繰り返すことになる。プロトタイプづくりを意識して取り組むとよい。

1-4-1.まず,プロトタイプをつくる

 プロトタイプとは,教材全体の枠組みがソフトウェア上に実現し,メニュー項目のうちのどれか1つについての素材が集まったものを指す。つまり,全体像がわかると同時に,その一部について,完成した教材の予想がつく程度に形ができたものである。マルチメディア教材を組み立てる際には,まず,このプロトタイプをつくることを目指すとよい。

 全体の骨組みを,例えばボタンとリンクづけによって実現する。それぞれの画面の中身はまだ空白のままで,何がそこに入る予定かのメモが書かれている程度にする。次に教材の全体構成図の中のある一つの部分を選び,その部分についての内容を充実させる。他の部分は手付かずのままにしておく。それで,プロトタイプの出来上がりである。

 プロトタイプができれば,教材のでき具合をある程度具体的に予想することが可能になる。この段階で,プロジェクト発注者に点検してもらう。これ以上進んだ段階で文句を言われても,対応できない場合が多いためである。プロトタイプに選択する部分としては,教材の特徴的なメニュー項目(ウリの部分)を先に手掛けるのがよい。最も難しい部分で教材全体のでき具合を左右する肝心な部分が,一番後回しになることが多いからである。

 『台原…』プロジェクトでは,全体の骨格をソフトウェア上に実現したあと,公園散歩の一部分(3画面分)をまずプロトタイプとして開発した。同じ場所の風景を四季それぞれに用意し,「季節」ボタンを押すことで次の季節にタイムトラベルでき,また季節に相応しい生物や子どもの様子をそれぞれの風景に埋め込んで,その情報をデータベースから参照できるようにした。公園散歩の部分が,この教材の一つの特徴であると考えたからであった。

1-4-2.次に,すべての部品を揃えてつなげる

 プロトタイプができ,こんなイメージで教材づくりを進めるとの方針が確認できたら,残りの部分を揃えてつなげる作業に移る。部分ごとに分担して作業している場合は,つなげ方を予め決めておけば,並行作業が可能である。また,当初計画になかった追加・修正は,全体構成図に反映させておくとよい。部分ごとに素材を同じファイルに格納したり,また,あとで部品の追加ができるように,整理しておく。

 『台原…』プロジェクトでは,プロジェクトが進むうちに,さまざまな追加データが提供された。その都度,散歩の場面のどこにそれを埋め込むかを検討し,同時に,科学館の特別展示画面にメニュー項目を新たに追加していった。科学館の特別展示メニュー項目を素材データ整理の枠組みとして用い,メニュー項目に対応したフォルダで素材を管理した。メニュー項目が加われば,フォルダを新たに作成し,また,同じメニュー項目の中にデータをした場合には,フォルダは作成せずにデータを対応するフォルダ内に格納していった。



1-5.マルチメディア教材を評価・修正する


 教材開発の第4段階は,教材の評価と修正である。マルチメディア教材を組み立て終わっても,それが正常に動くかどうかはわからない。動作チェックが必要である。また,正常に動いたとしても,ちゃんと使ってもらえるかどうかはわからない。誰かに使ってもらう必要がある。そして,時間も資金も根気も尽きたとき,教材は「完成品」となる。

1-5-1.動作チェックでα版からβ版へ

 とりあえず全部の部品が揃って組み立てを終えた段階の教材を,α版という。一方で,とりあえず予定どおりに動くことを確かめたものをβ版という。全体構成図を参考に,出来立ての教材を,隅から隅まで確認する(動作チェックをする)ことによって,α版の教材はβ版になる。このとき,戻れるかどうかを確認するのを忘れることが多いので,とくに注意したい。動作チェックは,開発している人自身がまず入念に行うことになろうが,自分がつくったものを自分でチェックすると,漏れが生じやすい。できれば自分以外の人に(あるいは,お互いがつくった部分を交換して),チェックしてもらうといい。

1-5-2.β版で形成的評価をする

 ひとまず動作チェックを終えたβ版は,正常に動く教材である。次に,ちゃんと使ってもらえるものかどうかを確認する。この作業を,形成的評価と呼ぶ(鈴木ら,1997,9章に詳しい)。教材のβ版の形成的評価には,教材に詳しい人と教材を使う人(教材の内容には詳しくない人;詳しければ使う必要はないから)によるチェックが考えられる。前者は,内容の正確性や妥当性について,後者は使いやすさと親しみやすさ,あるいは学習効果についての調査となる。開発の第1段階で設定した目標に照らして,それがどの程度実現できているかを調べることで,胸をはって「いいものができました」と宣言することができるようになるのである。マニュアル類などの附属品がある場合には,それもあわせてチェックしてもらうとよい。

 形成的評価では,特別な用意をしなくても,教材を使っている姿を観察するだけでも得るものは大きい。わかりにくい点や,予想外の利用方法などに遭遇する場合が多い。また,使ってもらった人に感想や意見を聞くことも大切にしたい。いろいろと意見を聞いて,なるほどな,と思ったところを修正する。なるほどな,と思わないところは,ありがたく受けとめておくだけにする。

 マルチメディア教材の評価には,印象評価などの5段階選択方式(たいへんよい,よい,ふつう,わるい,たいへんわるい)や,自由に意見を書いてもらう自由記述式のアンケートの採用が考えられる。そのほかにも,マウスクリックから最大何秒以内に反応があることといった,絶対時間基準を設けてチェックすることや,「○○という言葉の意味を探してください。」などという検索課題を与えて,想定時間内に発見できるかをテストすることなど,さまざまな手法が試みられている。また,それらの評価研究の成果として,マルチメディア教材開発のガイドラインも提案されているので,参考にするとよい。



1-6.おわりに:モノヒトカネの限界が教材の「完成」


 『台原…』プロジェクトでは,平成8年度の日本教育工学協会主催全国大会の参加者に,おみやげとしてCD-ROMを配付した。これは,評価・修正の枠組みに照らせば,β版であった。時間制限の中で,まだまだ追加したいデータはあったものの,いちおう「すべての部品」が揃ったとみなし,プロジェクト内での動作チェックを繰り返した。おそらくまだ発見されていないバグはあるだろうものの,いちおう正常に動作するとみなし,それをマスターとしてCD-ROMを焼き付け,ようやく大会当日に間に合わせた。

 配付したCD-ROMは,β版として多くの人に試してもらい,その反響(肯定的なものが多いと聞いている)が仙台市科学館に寄せられている。また,仙台市内の小中学校にもお願いして,子どもたちに使ってもらい,アンケートも回収した。しかし,その後の改訂には,まだ手を付けていない状態である。時間切れの作品を,完成版と称するのであれば,現在のところ,『台原…』は,完成品と言うことができよう。次なる修正に着手するときは,『台原…』Ver. 2の開発になるのだろうか。



2. マルチメディア教材開発の促進
    〜よりよい教材の開発・提供を目指して〜


参考文献