熊本大学大学院教授システム学専攻
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[第6回]ID分野の研究事例(4)
ID分野の研究事例(4)
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第6回: ID分野の研究事例(4)(担当:根本淳子)

[研究事例]

これまで根本が取り組んできた研究は、第3回の研究事例の中で鈴木先生が説明している3つのタイプにあてはめると、開発研究と質的な調査研究に分類できると思う。 質的研究は、観察やインタビューなどの手法を用いて収集した質的データを分析し、理論化していくものを指す。研究と聞くと、大規模な母数からサンプルを抽出し実験を行うことが印象として強いかもしれないが、研究対象によって、そのアプローチはいくつも存在する。定量的(統計的)データを駆使して、一般的な現象や動向も見ようとする手法もあれば、特定のフィールドを用いて、定量的なデータからは汲み取れない知見を定性的に様々な角度から分析する手法もある。定性的調査を行う場合、複数の技法を用いて主張の裏打ちを提示することが一般的である。 同じ実践でも、どこを焦点において分析したかによって得られる結果が変わったりする。また、その環境によって制約事項を整理して、適切なアプローチを取る必要がある。この点はかなり難しいところであるが、そこを設計してくのが研究の面白いところだと思う。

開発研究の事例

以下の2つの取り組みとも、学習設計者、教育者の支援をすることを目的にした。

<eラーニング教材の分析ツール>

2005年に情報処理推進機構(IPA)によって「eラーニングを活用した地方での高度専門家養成を目指した実証実験」が行われたが、この実証実験で利用された教材28点をインストラクショナルデザインの観点から点検し、分析結果をもとに、eラーニング教材の分析ツールを開発した。 まず、28の教材を利用(点検)して、長所・短所を列挙した。その点検結果を複数の項目に分け(例:構成、画面表示、メタ情報、定着、ユーザビリティなど)、インストラクショナルデザインの理論に当てはめ項目の妥当性を確認した。最後に教材評価判断の基準を3段階に分けて作成し、分析ツールを作成した。

Nemoto, J., Takahashi, A., & Suzuki, K. (2006). Development of an instructional design checklist for e-Learning contents: A Japanese challenge in IT skill training. A paper presented at E-Learn 2006, World Conference on E-Learning in Corporate, Government, healthcare, & Higher Educational Multimedia, Hypermedia & Telecommunications, Honolulu, Hawaii, Oct. 13-17, 2006.

<GBS教材チェックリスト>

学習者主体の活動を促す学習設計理論の中で、ゴールベースシナリオ(GBS)理論を取り上げ、その理論が活用されることを目的としたシナリオ型教材の分析に関心がある教育設計者向け教材チェックリストを作成した。理論の構成要素を整理して図式化し、理論内で提示される7要素を満たした質問項目を作成し、評価した。 フィードバック機能を十分にすることで普及促進に役立つということで、システムの開発を続けている。

根本淳子・鈴木克明(2005)「ゴールベースシナリオ(GBS)理論の適応度チェックリストの開発」『日本教育工学会誌』29巻3号(特集号:実践段階のe-Learning)309-318

Nemoto, J., Miyazaki, M., Suzuki, K., & Abe, A. (2008.7). The Design of a Web-based Support System for Material Design/Evaluation Based on Goal Based Scenarios. A paper presented at ED-MEDIA 2008, World Conference on Educational Multimedia, Hypermedia & Telecommunications, Vienna, Austria June 30 - July 4, 2008.

調査研究の事例

<岩手県におけるITスキル標準(ITSS)ニーズ実態調査>

岩手県のITスキル標準(ITSS)のニーズに見合った教育プログラムを提供することを目的に、ITSSニーズ調査を行った。岩手県情報サービス産業協会64社と産業振興センターHPの企業情報より、emailアドレスや企業ホームページの情報が掲載されている企業を選択し、Web上にアンケートページを作成し調査を行った。回答企業のうち5社を選定し、企業訪問を実施し、インタビュー(半構造化)を実施した。IT関連サービスに従事する企業に、ITSSは認知されていても、組織の中に入れ込むことは見込んでいないことがわかった。一方で、何かしらのスキルマップなどを活用した仕組みを人事の中に取り入れたいと思っていることも分かった。

『人材育成支援工学創出のための実践的・試行的研究―IT スキル標準を題材にして―』(財)岩手県学術研究振興財団研究助成「特色・戦略的研究」(ソフトウェア情報学部プロジェクト)2004 年度 研究成果報告書(研究代表:曽我正和)(研究協力代表、編集責任者)(第3章)

<通学・遠隔型コースの分析と比較>

米国のある大学院を事例に通学・遠隔型コースを調査した。対象とした大学院は、同等のプログラムを通学生と遠隔生の両学生に提供している。同等の質を保つためにどのような工夫や実践が行われているのか、参与観察とステークホルダーインタビュー、ドキュメント分析を行った。半年間の参与観察後、メールでインタビュー者を募り、教員、学生(通学生・遠隔生)にインタビューを実施した。教員は、2タイプの学生の違いを理解し、さまざまな工夫を凝らしながら、学習者にあった教育を提供していることが分かった。学生も、自分の選択したコースの特徴を理解しながら、自分にとって快適な学習環境の構築と学習を展開できるようにしていた。

Nemoto, J., & Suzuki, K. (2007). Offering the same graduate level courses for residential and distance students: An observation at an instructional systems technology department in U.S.A. A paper presented at 8th International Conference on Information Technology Based Higher Education and Training (ITHET 2007), July10-13, 2007, Kumamoto, JAPAN 11C4-4 (Paper No.130)

根本淳子・鈴木克明(2008.5)「大学教育実践ステークホルダーインタビュー分析 -米国の大学院プログラムを題材にして-」『日本教育工学会研究報告集』JSET08-2,  27-34