鈴木克明(1994f)「やる気を育てるプリント教材はここが違う(解説)」『NEW教育とマイコン』1994年8月号 44 - 49

[解説]よいプリント教材はここが違う
 〜プリント教材作成のポイント〜


東北学院大学助教授 鈴木克明



この解説では、プリント教材作成のポイントを次の3つに大きく分類して、注意点をまとめた。結論は、
たかがプリント教材、されど奥が深い。


プリント作成のポイント   参考にした研究分野
1 見やすくわかりやすくする  認知心理学とその成果を表現法に応用した「認知表現学」
2 学びやすいプリントにする  学びを助ける方策を提案している教材設計論の研究成果
3 よりよいプリントに仕上げる システム的な教材開発モデル


よいプリント教材とは?


 世の中はマルチメディア時代。ペーパーレス(紙なし)社会へ向かっていると言われて久しい。しかし、紙なしの授業を想像するのは難しい。

 プリント教材。最も手軽でよく使われる普段着の自作教材である。誰でもつくれるプリント教材には、特殊なノウハウはない。しかしながら、いつでも誰でもつくれる教材だけに、技術的なハードルが低いだけに、最も基本的で普遍的なノウハウが求められている。

 よいプリント教材とは何か?ここでは授業づくりのノウハウを広く共有ようとする教育工学的な視点から、少し手を加えれば誰でも使えるプリントを目指すことにしよう。違うクラスでも、違う学校でも、あるいは来年も使えるものを、という意味である。プリント作成の理由や使用方法についての情報も合わせて提供できれば、プリントそのものは共有できなくても、その精神は共有できる。

 この解説では、プリント教材を作成する際に役に立つと思われるポイントを、3つに分けてまとめていく。まず見やすさ・わかりやすさという観点から、次に学びやすさという観点から、関連する研究成果を整理する。最後に、作成手順について触れる。列挙するポイントをこの解説に続く実践例にあてはめることで、理解を深めていただければ幸いである。


1.見やすくわかりやすく

プリントの構成要素と
見やすさのポイント

 プリント教材の見やすさ、わかりやすさを左右する要素には何があるだろうか。

まず、プリント教材を構成する要素を列挙し、変えられるものは何かを検討してみたい。表1では、認知表現学の枠組み(海保、1992)を参考にして、ビジ ュアル表現を文字情報とイメージ情報とそのレイアウトに分けてまとめた。

▼表1 プリント教材の構成要素:何が変えられるか?

ビジュアル表現\変えられるもの  例または標準   この解説では?

<文字情報>
書体(フォント)    明朝体、ゴシック体、丸文字、相撲文字など      本文は明朝体を使用
大きさ         9ポイント、10ポイント、             本文は9ポイント、
            12、14、18ポイント      見出しは14ポイント
強調文字        書体の変更、ボールド、イタリック、下線、袋文字など 書体の変更と下線
文字間         狭い文字間隔と
行間          文字の大きさに対して75%空けるのが標準       ?%空け
字詰め(一行の文字数)  横書きで35文字、縦書きで45文字が標準       3段組の18字詰め
漢字の混合率       通常30%が標準                   本文全体では29.4%
漢字の学年配当表     対象年令に応じて参照する               常用漢字が基本
文の長さ        30文字以上の文は注意                極力避けたが47個存在
文の構造        単文複文、否定形、受け身形など            複雑な文は極力避けた
表現の難易度      指示語、言い換え、接続詞など             平易な表現に心がけた
段落構成        段落の長短、段落開始は1文字インデントか行あけか   インデント、行間変更なし

<イメージ情報>
図表           情報の構造化、数値の視覚化              なるべく多用した
グラフ          変化には折れ線グラフ、比較には棒グラフが一般的    (該当なし)
写真とイラスト      現実感と省略化(部分の強調)、キャプションのつけ方  (該当なし)

<レイアウト>
版面率          紙の大きさに対して文字がかかれている部分約60%が標準 約?%
余白率         版面に対する実際に文字や絵で利用されている部分の割合  約?%
文字情報の段組     目の運動を左右する                  3段組
イメージ情報の位置   文字に対する比率と関係、配置             近接して配置


 次に、見やすさを高めるポイントを研究成果をもとに列挙する。


<文字情報>

●文字の大きさは、見る距離との関係で決める。本の活字は見る距離を40cmとしておよそ縦3mm(9ポイント)、テレビに表示する文字は見る距離を2mとすれば縦1.6cm程度が適当となる。

●パッと見てすぐ読み取らせたい文字や重要な箇所は大きくする。他の文字との大きさや濃淡、文字種の対比(文字ジャンプ率)を考える。文字ジ ャンプ率が高ければメリハリがつく。

●情報を階層的に構造化するためには、文字の変化、数字の使用(章、節、項目等)、インデント(書き始めの位置)を利用する。ただし深すぎる階層構造は読み手に混乱を招くので注意が必要。

●目の動きを短距離に、安定させるように工夫する。一行の文字数を少なめにし、読み手の予測を裏切らないように文字を配置する(インデントなど)。目の動きを安定させるためには行頭に縦の罫線を利用するのも効果的。


<イメージ情報>

●図表やイラストの役割は、まとめる、強調する、直観的にわからせるの3つある。

●一般に、線画より詳細画や写真の方が読み手に好まれる傾向がある。静的な絵よりは動きの感じられる絵が好まれる。しかし、イメージを詳しくすることで学習効果が高まるわけではない。

●詳し過ぎる絵は、内容を読み取る障害になる。この点では、写真はカラーよりも白黒、写真よりはイラスト、詳細画より省略画の方が見やすい。

●読み手の目の動きを考えてデザインする。凡例(図と文字の別記)は使わずに、図を読むのために必要な文字情報は直接図の中に書き込むとよい。

●図表のタイトルは内容をあらわす言葉を選び、絵を用いた理由がわかるようにする。本文の中で図表に言及する。


<レイアウト>

●レイアウトは、読みやすさと見たときの感じ(第1印象)を決め、読むときの目の動き(眼球運動)をガイドし、内容の軽重や種類を知らせる。

●用途にあった大きさの紙を使う。紙の大きさによって、行数、一行の文字数などの多くの属性が制限を受ける。一度に見る情報量に適した大きさにするためには、二つ折や四つ折もよい。

●すっきりさせるために、余白を多くとり、文字の種類を限定し、全体を統一したフォーマ ットやデザインにする。

●安定した構図にするために、版面の中心にアクセントをつけ、重心をやや右下におき、上下左右の配置を考える。


 見やすいプリントは子どもの第一印象を左右し、「わかりやすそうだな」とか「興味がもてそうだな」という気持ちにさせる。ワープロやDTPソフトの普及によって、今まで使ってきたプリントをより見やすくすることが簡単にできるようになってきた。大いに利用しよう。

 一方で、見やすくする工夫には限界がある。プリントの内容、構成などの中身の悪さを完全に補うことはできない。上のアイディアで見栄えのするものになっ たとしても、中身が伴わないのでは真によいプリントとは言えない。次に、わかりやすさについて考えてみよう。


わかりやすさを高める
ポイント

 わかりやすさを高めるためには、見やすいことに加えて、誰に何をわかりやすくするのか、つまりプリントの読み手とプリントが伝えるべき内容の要素を検討する必要がでてくる。再び認知表現学の説くところにより、わかりやすさを高めるポイントを列挙してみる。



<文字情報>

●具体—抽象のレベルを、読み手と内容に応じて調節する。具体的なほどわかりやすいのは、知識が乏しい人を相手にする場合と、知識が豊富な人に細かい情報を伝える場合。逆に、知識が豊富な人を相手にする場合や、知識があまりない人におおまかなイメージを与えたいなら、抽象的な情報ほどよい。

●読み手の既有の知識や関心を踏まえ、実例やたとえ話、比喩などを使う。

●数字は、情報の区切りやまとまり、時間的な順序、階層、要素の数を表現するときに効果的。しかし、選択肢などで単なる置き換えのため使うと、逆にわかりにくくなる。



<イメージ情報>

●矢印は、場所、時間的な変化、動き、論理的な展開を表現するのに効果的。しかし、矢印を多用して、読み手の視線を複数の方向へ同時に導くと混乱を招く。矢印の向かう先は上から下へ、左から右へを基本とする。

●イメージを具体化させるためには、写真、イラスト、ピクトグラフ(絵の大きさで量をあらわすグラフ)を使う。

●読み手の立場を想像しながら、読む順序と説明番号、観察の方向と説明図が描かれている方向、実物とイラストの大きさの比率などをあわせる。



<レイアウト>

●違いや変化を強調するためには、比較するモノ同士(例えば2つの図表)を同時に見ることができるようにする。

●情報を内容のかたまりごとに配置する。

 見出しと本文が別の頁になったり、参照図表と本文が近接しなかったり、図表が頁にまたがって分断されているのは、内容軽視のレイアウトである。


2.学びやすいプリントにする

学びやすさと
学ぶ気にさせるポイント

 学びやすいプリント教材とはどんなものだろうか。やる気(学習意欲)が刺激され、そして、プリントを使った結果として何かが身につく。プリント教材は何かを教えるための道具として用意するのだから、何らかの意味でその内容を教えることに貢献する必要がある。学びやすさについて、まずやる気の問題を、次に学習効果の問題を検討しよう。

 新学力観や指導要録の改訂で「関心・意欲・態度」の問題がクローズアップされて以来、学習意欲(やる気)についての関心が高まっている。コンピュータならば珍しい存在であるが、旧来からのプリント教材を使うことで興味や関心を高め、やる気を引き出すせるのだろうか。ワープロでイラスト画などが簡単に取り込めるようになり、漫画の登場人物でもさし絵に使って雰囲気を和らげることが考えられるが、それだけではない。

 身を乗り出させたあとをどうするのか、面白がらせてそれで終わりか、ということを筆者に痛感させてくれたのは、ケラーのARCSモデルであった。ARCSは学習意欲を左右する4つの要因(注意、関連性、自信、満足感)の頭文字である(図1参照)。ARCSモデルの詳細は別の機会に託す(鈴木、1994)として、プリント教材がそれぞれの要因でやる気を高める潜在的な効果についていくつか列挙してみる。


    S満足感(やってよかったな)
     ↑
   C自信(やればできそうかな)
    ↑
  R関連性(やりがいがありそうだな)
   ↑
 A注意(おもしろそうだな)

 ▲図1 ARCSモデルの4要因
 


<注意>

●プリントであれコンピュータであれ、授業で毎回使えばマンネリに陥る。たまに気分転換に用いれば、授業に新しい風を吹き込み、子どもたちの注意を喚起することが可能である。

●たとえ毎回の授業でプリントを用いたとしても、教師の説明を聞きながら黒板を写すという作業や、教科書を情報源とする日常からの息抜きにはなる。


<関連性>

●プリント教材の目的と役目を説明することで、プリントに取り組む姿勢を積極的なものにすることが可能である。訳もも分からずにやらされるよりは、納得の上の方がやる気が高まる。

●プリント教材を個別、あるいはグループ作業に用いる。達成意欲の高い子には自力で問題解決にあたることが、また共同作業を好む子には協力して問題を解決することが、プロセスを楽しむという意義付けを与える。

●プリントを用意するという教師の熱意が子どもに伝わり、それがやる気の源になる(ワ ープロの活字効果より手書きのぬくもり効果を見直したい)。


<自信>

●重要な情報や学習課題を整理してプリント一枚に凝縮することによって、ゴ ールを明確に設定し、理解すべきことを意識して学習を進められる。

●手元において何度も繰り返しわかるまで読み直したり問題を解き直したりできるので、徐々にゴールに近づく体験を積むことが可能である。

●使い方を自分で工夫して身につける余地が残されているので、成功の原因を自らの工夫に求めることができ、効力感を高められる。


<満足感>

●今までの学習の成果をプリント問題で確かめることで、成就感が得られる。

●同じプリントでえこひいきが防げ、公平感を確保することができる。


身につけやすさと
使わせ方のポイント

 身につけるとは、脳にしまい込むこと(記憶)、脳に蓄えておくこと(保存),脳から必要に応じて取り出すこと(検索)の3つの条件が揃うことを意味する。先生の説明を聞いているときはわかったつもりでも、質問されて答えられなかったり、次の日には忘れていたり、知っているはずのことが思い出せなければ、身についているとは言えない。したがって、身につけやすさを備えたプリントを作成するとなれば、わかりやすいプリントをつくるだけでは不十分である。

 この点に関しても、人の学びのプロセスについての研究成果から得られるヒントは数多い。中でも、授業/教材の設計を念頭に学びのプロセスを支援する外からの働きかけを整理した、ガニェの9教授事象(鈴木、1993)は参考になる。

 長方形の面積計算の授業に適用したものを図2に示す。詳細は省くとして、事象1から3は学習への導入にあたり、事象4と5は脳への記憶の支援、事象6と7は検索の練習、事象8と9は保持の支援の役割を果たしている。これを見ながら、プリント教材で学びのプロセスのどの段階を支援できるのかを考えてみる。便宜上、プリント教材を情報提供用と練習用とにわけて検討するが、もちろんこの両側面を兼ね備えたプリント教材を作成することも十分考えられる。


図2.ガニェの9教授事象と長方形の面積授業への応用例

情報提供を意図したプリントにも、関連する学習活動の指示を明らかにすることで、プリントに子どもたちを積極的に関わらせる用意をする。

 情報提供を意図するプリントには、学習内容の要点をまとめたものや、教科書の記載を補足するような付加情報を提供するものが考えられる。ガニェの事象4と事象5にあたる働きかけである。

 プリントで学習するという作業は、ただ与えられた情報をそのまま読み取るだけのプロセスではない。子どもが自分でプリントの内容を噛み砕き、自分なりに解釈し、今までの知識と組み合わせながら自分の頭の中で情報を再構築するプロセスだと捉えられている。そうした見方からは、子どもを積極的にプリントと関わらせる工夫が重視される。

 プリントをわかりやすく構成する工夫を凝らすと同時に、プリントを使う子どもに次のような活動を要求することによって身につけやすさを高めることを考えよう。

●学習目標を提示して、それを目指させること(事象2)。
●情報の枠組みを先に与えて、新しい情報がそれにどうあてはまるかを考えさせること(事象3)。
●質問を埋め込んで、それに答えさせながら進めること。
●子どもがプリントの要点と思うところに下線(色)を引かせること。
●プリントの情報の要点を各自の判断でノートにまとめさせること。
●プリントの情報と関連ある情報を子どもたちに集めさせたり、自分たちで次のプリントを作成させること。

 要点をわかりやすく構成して情報を提供する工夫は大切である。一方で、わかりやすいプリントを与え続けることは、あらかじめ整理されてこなれた情報を受け身的に受容する態度を形成する危険もはらんでいる。

 究極の目的は、普通のテキストでも自分で学びやすくする工夫を追加することができる子どもに育てることにあるといえる(すなわち学習技能の習得)。これまでに積み上げてきた学習の体験や生活の中での経験は、子ども一人ひとり異なる。それらが詰まっている脳に新しく提示された情報を組み入れる方法を工夫し、自分なりの理解をつくっていく技能を育てることを企ててみたい。

練習用のプリント教材は、使わせるタイミングと方法で情報提示、練習、テスト、復習、前提事項の確認の5つの役割を担わせることができる。

 空欄補充型のプリント、あるいは計算問題などの記入式プリントを作成したとしよう。もちろん、解答はプリントには付けないでおく。この練習用のプリント教材を授業の中に位置づけると、次の5つの用途で活用することが可能だ。

 (1)情報の提示(事象4、5)
 新しく習うことはまず教師が説明し、それがわかったかどうかを練習用のプリントで確認させるのが自然であろう。しかし、そのかわりに練習用のプリントを配付し、子どもたち自身が教科書から必要な情報をとりだして空欄を埋める作業に使うことができよう。

 (2)練習(事象6、7)
 新しい事項の学習は、教科書を見ながら、あるいは教師の話を聞きながら「なるほど」と思っただけでは成立しない。何も見ないで、自分だけでできるかどうかを確認する練習が不可欠である。黒板をノートに写したり、教科書を見ながら問題を解いたり、解答例をなぞったりするだけでは、頭に入ったものを引き出すことができるかどうかはわからない。

 練習用プリントを用いて、まず何も見ないで挑戦し、できる部分を確かめる。できなかった部分は一度正解を確認してから(その正解を書き写すのではなく)また空欄に戻して再度何も見ないで答えさせるのが効果的である。

 (3)テスト(事象8)
 練習用のプリントは、そのまま実力確認のテストに使うことが可能だ。充分に練習の時間を与えてから、できるようになったかどうかを確かめるためにテストする。テストのやり方は練習と同じでよいが、今度は本番だから点数をつける。(言うまでもないことだが、練習の点数を平常点などという名目で記録に残すことは避けたい。練習は間違うことから学ぶ機会である。)

 (4)復習(事象9)
 復習は忘れたころにやってくる。授業も新しい内容に進み、そろそろ忘れたと思うころに試みる復習は、何も見ないで問題に取り組むことから始めるべきで、教科書を見直すことから始めてはいけない(まだできるかどうかが確かめられないから)。ここでも練習用のプリントが使える。練習用のプリントをいきなりやってみる。よい復習になる。

 (5)前提事項の確認(事象3)
 同じ復習でも、その内容をベースにして関連ある内容を学習したり、もっと高度な内容に進むときに行なう復習を前提事項の確認という。授業の導入に行なう前時の復習では、本時の学習の前提となる事項を、脳の奥深くしまわれている状態から目覚めさせ、それと関連づけながら新しい内容を理解させる準備をさせる。そこで、昔使った練習用のプリントの出番である。前に習った(はずの)内容なのだから、復習と同様、いきなり問題を解くことから始めるのがよい。

 ここに挙げた5つの場合のすべてに全く同じプリント教材を続けて使うことはできないかも知れない。特に計算や文法などのルールの応用力を試す分野では、解法そのものを暗記して正解しないようにするために類題(新しい事例)を用意する必要がある。また、同じ学習内容で5つの場合すべてにプリント教材を使う必要もない。しかし、5つの場合を見越してあらかじめ何度も使えるプリントができないものかを模索するのもよい。

 練習用のプリントはいつでも練習に使うのでなく、目先を変えて賢い使い方を考えたいものだ。子どもたちに理解できると思えば、同じ練習用のプリントもいろんな使い方があるんだよ、ということを学び方の作戦として教えるのもよい。そうすればコピー機の発達した当世の子どものこと、一回配ったプリントを自分自身で賢く使ってくれるかも知れない(これも学習技能の習得)。

 学びやすさという点でよいプリントを作成するためには、プリントを使ってどのような学習活動を子どもにさせていくも合わせて設計する必要がある。プリントが宙に浮いたままよいプリントであることを目指すよりも、授業の流れや学習活動との関わりの中で、いかに子どもたちの学びを促進していくのかを、全体として考えていく方がよい。


3.よりよいプリントに

プリントを作成する手順

 最後に、これまでに述べたよいプリント教材の要素をなるべく多く満たしたものを作成するための手順を概観する。教材作成手順のノウハウは、システム的な教材設計モデルで明らかにされてきている。以下、その手順をプリント教材作成にあてはめてみよう。各ステップでは質問に答える形で作業を進めていく。

 (1)プリントをなぜ使うのか?
 プリントを学習過程に位置づけて、どの段階で何の目的のために使うのかを明らかにしておく。この際、ガニエの提唱する9教授事象のどれを実現する手段とするかを意識するとよい。

 (2)その目的を達成するために
    プリントはふさわしいか?
 プリント教材を他の方法と比較して長所、短所を明らかにする。プリント教材の長所は手軽さ(持ち帰れる、いつでもどこでも使える、安い)で、短所は動きや色彩の表現力に弱いことと、視覚のみ(音声なし)であること。プリント教材よりも相応しい方法が別にあるかどうかをチェックする。

 (3)どのような構成にするか?
 プリントが最良の手段となれば、主な構成要素を洗いだし、全体的なレイアウトを考える。何を揃えれば学びやすいものになるかがチェックポイントとなる。

(4)各部の内容はこれでよいか? 
 レイアウトが決まれば、各部の詳細をチェックする。見やすさ・わかりやすさが主なチェックポイントとなる。

 (5)確かめて直したか? 
 見やすいかどうか、わかりやすいかどうか、学びやすいかどうか。いずれも細心の注意を払い、解説に挙げられている注意点を考慮し、創造性も発揮して作っ たプリント教材。しかし、実際に使ってみるまでは本当にうまくいくかどうかはわからない。実際に使ってみる前に、次の手順を踏むとよい。全部は無理だとしても、できるものだけでも試み、時間の許すかぎり、あるいは気の済むまで改善を繰り返す。

●プリントをつくったら、12時間以上放置してもう一度見直す。新たな気持ちで客観的にみることができる。
●同僚にプリントをみせ、意見を聞く。目的は内容を吟味してもらうことと子どもたちに使わせた際の問題を予想してもらうこと。完成したプリントを使ってもらえる可能性も増す。
●上級生にみせて、意見を聞く。目的は上級生が使えるかどうかを確かめることと、後輩に使わせた場合の問題を予想させること。改善のアイディアを募り、なるほどと思う点だけを直す。
●最終的には、子どもたちに使わせて、様子をみる。予想外の問題や使い方を観察する。あとで、何人かからプリントについて感想を聞いてみるとよい。どんな風だったらもっとよいと思うかも聞いて参考にする。

 よいプリントをつくりたいと思うならば、何回もの改善を重ねてよりよいプリント教材にするとまず覚悟する。しかし何かを変更したからといって、それが改善と言えるとは限らない。改善と呼ぶためには、どんな反応がでればこのプリント教材の役目は充分に果たしたと見なすのかをあらかじめ考えておく。

 いつ、どのような方法でプリント教材の善し悪しを判断するかを具体的に決めておく。このことは、取りも直さずプリント教材が何のためにつくられたのかを具体的に思い起こすことにも通じる。

 プリント教材を改善しながら使おうとすると、ワープロの威力が発揮されることになる。ワープロの真価はプリントをきれいに見やすいものに仕上げるためだけでなく、中身を改善しようとするときに最も効果が期待できる。

 手間暇かけて愛情込めてつくるせっかくのプリント教材、少しずつよくしながら、仲間とわけあって末永く使っていくための工夫も怠らないようにしたいものだ。たかがプリント、されど奥は深い。


<参考文献>

海保博之「一目でわかる表現の心理技法」1992年 共立出版
鈴木克明「学習のプロセスを支援する授業の構成」『放送教育』1993年6月号
鈴木克明「第8章メディア教育への動機づけ」子安・山田編著『ニューメディア時代の子どもたち』1994年 有斐閣
Jonassen, D.M. (Ed.) The technology of text (Vols. 1 & 2). 1982, 1985 Educational Technology Publications, U.S.A.
Fleming, M. & Levie, W.H. (Eds.), Instruc- tional message design (2nd Ed.). 1993  Educational Technology Publications.