(財)日本放送教育協会(2002)「2005年度を目標に『教育の情報化』に対応した放送番組とデジタルコンテンツの企画案と番組編成についての調査と提言」(NHK教育番組部委託研究)報告書(分担執筆:第1章第2節「調査の方法」・第2章「調査結果」第1節 回答者のメディア利用実態・・第2節 放送番組についての教師の期待

第2章「調査結果」
2.1.回答者のメディア利用実態



2.1.1.放送とインターネットの利用度


授業への放送番組の導入状況【質問項目1-2】への回答は、 「月に一本以上利用している」が70人(50.0%)、「年に数本は利用している」が60人(42.9%)、「利用していない」が10人(7.1%)であった。一方で、授業へのインターネットの導入状況【質問項目1-3】への回答は、「月に一度は導入している」が93人(65.5%)、「年に数回は導入している」が31人(21.8%)、「導入していない」が18人(12.7%)であった。

<図表2−1に放送利用者とインターネット利用者の関連を示す。本調査の回答者の中では、放送を利用するけれどもインターネットは利用しない(12人)、あるいはその逆の場合(4人)は少数であった。逆に、放送とインターネットの両方を毎月1回あるいはそれ以上利用している回答者が、全体の35.7%(50人)に及んでいた。インターネットも放送も両方授業で利用した経験をもつ者が、全体の84.3%(118人)であった。

図表2−1 放送利用とインターネット利用(単位 人)

インターネットの授業利用
月1回 年数回程度 未導入合計
放送利用月1回以上 50128 70
年数回程度3917460
未利用31610
合計923018140

注釈:放送利用の欠損値によりインターネット利用のみの数値と異なっている

図表2−2に、教職年数ごとの授業へのインターネット利用度を示す(左図)。インターネットはベテラン教師には敬遠される傾向があると言われているが、本調査の回答者においては、教職年数にかかわりなく、積極的に授業へ活用している様子が伺えた。また、担当学年ごとにインターネット利用をまとめると(右図)、高学年においてインターネットがより使われている傾向が読み取れた。5,6年担当の教員では、すべての回答者がインターネット利用を経験している一方で、1,2年担当の教員のうち月1回インターネットを使っているとした者はわずかであった。



図表2−2 教職年数・担当学年とインターネット利用

2.1.2.放送教育実践者の実態

 放送教育全国大会への参加経験【質問項目1-4】については、「3回以上参加したことがある」と回答した者が23人、「1・2回参加したことがある」が39人で、あわせて約半数となり、もう半数(54.9%)の78人が「参加したことがない」と回答した。放送教育のブロック・都道府県・市町村レベルの研究(研修)会への参加経験【質問項目1-5】も、同様な結果が得られた(「3回以上参加したことがある」41人、「1・2回参加したことがある」27人、「参加したことがない」73人)。

 放送教育の実践研究イメージを自由記述式で尋ねた項目【質問項目1-6】には、回答者の83.8%にあたる119人が何らかのイメージを回答していた。回答者が描く放送教育の実践研究イメージを図表2−3にまとめて示す。回答者の記述に多く見られたのが、内容の総合性に関するイメージであった。「教科を超えて考えることができる」とか「調べ学習の広がりの可能性」を指摘する声などがこれにあたる。同様に、「常に新鮮な情報が手に入ること」、あるいは「今までにない気づき」など、情報の新鮮さをイメージする声も多かった。映像の情意性や象徴性(「児童の興味関心をより高める魅力がある」、「普段は見ることができない映像を」など)を加えて、この3つのイメージが放送教育の中心を占めていた。もう一つのイメージは、「同じ体験を共有できる」という話題性であった。「録画さえすれば、いつでも手軽に使える」という簡便性をイメージする回答者も多かった。

 一方で、番組内容の次元だけではなく、制作者とのコミュニケーションやコラボレーションを指摘する声も多かった。「番組制作者、学識経験者、現場の教員が一体となって」進めていることや、「放送局が作ったものと自分のやりたいことのすり合わせ作業」の側面を強調しているイメージである。さらに、最近の傾向を反映して、他メディアとの共存・共栄をイメージしている声もあった。「Webページと連動し交流学習を促進できる」とか「放送のマルチメディア性」を指摘した声などに代表されるイメージである。



図表2−3 回答者が抱く「放送教育の実践研究」イメージ

 今年度NHKテレビ学校放送番組を授業で利用したかどうかを尋ねた質問【質問項目1-7】には、利用したと122人が利用したと回答し、20人が利用しなかったと回答した。利用したと回答した122人に、ナマ利用か録画利用かを尋ねた【質問項目1-7a】。「ほとんどナマ利用」と答えたのは15人、「ほとんど録画利用」は65人、「ナマと録画の併用」は42人であった。録画利用が進んでいる様子が伺えた。図表2−4に、担当学年と放送番組のナマ・録画利用の関係を示す。担当学年によってナマか録画かの利用形態が異なることはなかった。また、インターネット利用度や性別、教職年数によっても利用形態に差は見られなかった。

 図表2−5に、録画利用の主な理由として複数回答を求めた【質問項目1-7b】結果を示す。また、図表2−6に、録画した番組をどのように利用するかについての複数選択回答【質問項目1-7c】の結果を示す。授業の計画にあわせて、カリキュラムに組み込んで利用している姿が伺える。タイミングを見計らって、「まるごと」利用するとの回答が全体の2/3に及んでいた。



図表2−4 担当学年と放送番組のナマ・録画利用


図表2−5 録画で利用する場合の主な理由(複数選択回答)
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授業時間と放送時間が一致しないため・・・・・・・・・・・・・85人
授業のカリキュラムに合うときに見せるため・・・・・・・・・・80人
事前に番組を見て利用するかしないかを判断するため・・・・・・56人
ナマで利用できなかったときの補完措置として・・・・・・・・・・8人
その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7人
(一部だけ利用したい、再度繰り返し見ることができるようにする、事前に
授業プランを考える、北海道は長期の休みが本州と違うので等)
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図表2−6 録画した番組の利用方法(複数選択回答)
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教えたい内容と一致した時、丸ごと利用する・・・・・・・・・・・80人
教えたい内容と一致した時、必要な部分だけを選んで利用する・・・47人
映像を止めたり、必要な部分を繰り返し見せて利用する・・・・・・45人
内容や進度にこだわらずに丸ごと利用する・・・・・・・・・・・・11人
利用しやすいように再編集して利用する・・・・・・・・・・・・・・7人
その他(学習したことの復習、理解を深めるため)・・・・・・・・・1人
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図表2−7には、録画利用を前提として衛星チャンネルで放送されていることを知っているか、また利用しているかについて【質問項目1-9】の回答を担当学年ごとに示す。回答者全体の認知度は62.2%、利用度(録画したことがある)は21.3%で、担当学年や性別、教職年数ごとの差は見られなかった。



図表2−7 衛星チャンネルでの再放送の認知と利用

 図表2−8に、録画を前提とした再放送に望む形態についての回答【質問項目1-10】を示す。また、図表2−9に、放送利用をするにあたって不都合な点を尋ねた複数回答【質問項目1-11】の結果を示す。不都合を感じている点が「放送時間の固定」であり、「録画をし忘れることがあってがっかりする」等の意見も多く寄せられている。放送利用にあたって、放送時間の問題は慎重に検討を要する点であることが伺える。資料2−1には、改善案として回答があったもの(自由記述式【質問項目1-11】)を掲載した。

図表2−8 録画を前提とした再放送に望む形態
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番組ごとにまとめて放送(番組1年分を20本連続して放送)・・・・99人
教科ごとにまとめて放送(理科の番組を連続して1学期分放送)・・・30人
対象年齢ごとにまとめて放送(1年生向け番組を連続1学期分放送)・19人
その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7人
(上記の中から自分で選択できるようにチャンネルを用意、その日の夜中に再放送、
番組ごとに学期ごとにまとめて、同一テーマの番組を数日にわけ、連続して放送、
事前に全て録画して1学期間や1年間活用、番組ごとに定期的に繰り返し放送
 例)番組Aは、毎週○曜日△時)
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図表2−9 学校放送番組利用で不都合だと思われる点(複数回答可)
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放送される時間が固定されている・・・・・・・・・・・・・・・73人
放送される内容に関する情報が少ない・・・・・・・・・・・・・43人
限られた授業時間なので番組1本を使うのは難しい・・・・・・・30人
ある回だけ利用するには使いにくい・・・・・・・・・・・・・・20人
必要な教科や領域の番組が少ない・・・・・・・・・・・・・・・17人
その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24人
(録画し忘れる・再放送の仕方(7)、放送時間帯、単元配列・進度が異なる(4)、
教育機器が不十分(3)、「学校放送テキスト」との差・変更(3)、特に不都合は無い(2)、
長さが中途半端(2)、地上波放送の電波状況が悪い、テレビ欄で番組名が省略、
著作権法との関係、教材研究の時間不足、コンテンツ不足等)
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2.1.3.放送教育実践者以外からの声

 今年度学校放送番組を利用しなかった回答者20人に、過去の利用経験の有無について聞いた【質問項目1-7d】。「かつては利用していたが、今年度は利用しなかった」と回答した者は18人、「まったく利用したことがない」者は2人であった。「かつては利用していたが、今年度は利用しなかった」と回答した者に、その理由を尋ねた【質問項目1-7e】結果を図表2−10に示す。中断の理由は、図表2−9に示した、現在利用している回答者が指摘した問題点に類似していた。一方で、少数派ながら、映像で教育することの意義や低学年での活用意義などに疑問を感じた、あるいは、研究の視点が他メディアに移行したとの回答も「その他」の記述に見られ、真剣に検討した結果、放送利用を中断している様子も伺えた。「まったく利用したことがない」と回答した者2人の理由は、いずれも「授業でやることが多く、放送まで手が回らない」であった。

図表2−10 学校放送番組を利用しなくなった理由(複数回答可)
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録画などの準備するゆとりがない・・・・・・・・・・・・・・・6人
放送の時間帯が時間割にあわない・・・・・・・・・・・・・・・4人
カリキュラム進行に番組内容が合わない・・・・・・・・・・・・4人
授業の進行にゆとりがない・・・・・・・・・・・・・・・・・・2人
VTR等の機器が教室に常設されていない・・・・・・・・・・・・2人
教育効果が上がらない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1人
番組内容に満足できない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1人
番組テキストが不助・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1人
放送以外の教材に魅力を感じる・・・・・・・・・・・・・・・・・1人
一緒に使う仲間がいない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0人
その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7人
(授業実践から離れたため(3)、勤務先に環境が無い、担当教科があわない、
音声と映像で教育することの限界を感じて、低学年での利用意義が不明、
研究の視点が他のメディアに移行した)
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注釈:かつては利用していたが今年度は利用しなかった回答者のみが回答(18人)

 回答者の「授業で学校放送の利用は増えているか、減ってきているか」【質問項目1-8】との問いには、 「増えてきている」と回答した者が48人、「変わらない」が59人、「減ってきている」が25人、「わからない」が10人であった。「減ってきている」との回答者に対して、重ねてその理由を尋ねた【質問項目1-8a】ところ、図表2−11のような結果となった。

図表2−11 放送利用が減ってきている理由(複数回答可)
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学校週五日制などで授業内容が過密になる等、放送を利用しにくい・13人
CD-ROM、インターネット等を利用でき、放送に頼る度合いが減少・11人
番組に関する事前情報が少ないため、授業の準備がしにくい・・・・・7人
授業以外の校務負担が増え、放送を利用しにくい・・・・・・・・・・5人
同じような教材が市販され、放送を利用する必要がない・・・・・・・4人
ビデオ普及で、他の番組を保存・編集して利用できる・・・・・・・・4人
直接体験が重視されるようになり、放送を利用しにくい・・・・・・・4人
学校放送の娯楽性が強くなり、教材として利用しにくい・・・・・・・3人
学校放送の番組テキストが入手しにくいので、授業の準備がしにくい・3人
受験などで知識中心の授業が重んじられ、放送を利用しにくい・・・・0人
その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3人
(双方向ではない、自分が行う学習と放送の内容が合わなくなってきた、
ストーリーが強すぎるため単発的な利用がしにくい、時間がない、
私立6年生という受験直前の学年で、授業が知識中心)
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注釈:放送利用が減ってきていると回答した者のみが回答(25人)

第1章第2節「調査の方法」・第2章「調査結果」第1節 回答者のメディア利用実態・・第2節 放送番組についての教師の期待