熊本大学大学院教授システム学専攻
目次:
[第5回]ID分野の研究事例(3)
ID分野の研究事例(3)
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第5回: ID分野の研究事例(3)(担当:高橋幸)

[研究事例]

 さて(前書きが長くなりましたが)現在の私の研究テーマは、以下の4点です。

  1. 英語コンピテンシー・リストの構築とeポートフォリオの開発
  2. CALL学習における学習者特性の分析と適切な学習方法の提案
  3. SCC(Story-Centered Curriculum)やPBL(Problem Based Learning)に対応した外国語教育教材の設計・開発
  4. 様々な研究分野(言語学,言語処理理論,脳科学等)の成果に基づく外国語教育教材の実証的研究

 先ず(タスクに直接関係のない)2~4について説明いたします(業務の一環としてのon-goingな研究がほとんどです)。
 2では、学習時間や成績に関するデータと、学習者特性の調査(アンケート)の分析から導き出された、異なる学習者志向を持つ学習者への指導方法について研究をしています。最近の研究成果としては、同僚の先生方と行った以下のものがあります。

◆井原健・折田充・斎藤靖・高橋幸・村里泰昭 (2007) 「英語学習における自律度、自信度、学習時間および英語習熟度の関係」. 『大学教育年報』, 第11号, pp. 9-26. 熊本大学大学教育機能開発総合研究センター.

 3のSCCは皆さん既にご存知ですね。PBLとは、自主的で相互依存的な小グループによる問題解決型学習法のことです。外国語のeラーニング教材は個人学習が主ですが、パフォーマンスができるかどうかをはかる上で、タスクベースの学習法や協調学習は重要です。指導学生の宇野さんは、SCCを用いてある架空の会社を想定したシナリオの中で、疑似体験からビジネスコミュニケーションを学ぶ英語学習教材を開発しました。

◆宇野令一郎 (2007) 『ストーリーによる意欲向上を意図した社会人向けオンライン語学学習の設計と開発』. 熊本大学大学院社会文化科学研究科教授システム学専攻修士論文.

 4は、eラーニングや外国語教育の学際的な研究を進めたいというスタンスから始めたものです。自分のこれまでの専門分野の知識を基に、言語の規則性や母語干渉を考慮した外国語eラーニング教材の開発に取り組んでいます。以下の論文では、ディクテーション問題で誤りがどの部分にあるかによって、誤りの原因を自動的に特定するシステムを開発しました。これは言語の規則性が強く影響しています。

◆高橋幸・安浪誠祐(2005) 「ディクテーション解答に基づく英語学習者のスキル判断」. 『言語処理学会第11回年次大会発表論文集』, pp. 301-304.

 さて、最後に1の研究について説明します。近年、言語教育においては、欧州評議会により制定された『ヨーロッパ言語共通参照枠』(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assessment: 以下CEFR)を利用してユニバーサルな言語能力の指標やそれに伴う評価を標準化しようとする動きが日本の高等教育機関において浸透しつつあり、熊本大学でもCEFRを基にしたコンピテンシー・リストの開発に取り組んでいます。他にもアメリカ外国語教育協会によるACTFLの言語能力指標が有名です。

CEFR: Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching,and Assessment …言語能力に関する欧州スタンダード。下から順にA1, A2, B1, B2, C1, C2の6レベルが設定されている。言語能力を実際の言語活動の記述におとした形式である。

ELP: European Language Portfolio …CEFRプロジェクトの1つ。「言語パスポート」「言語学習記録」「資料集」の3部構成からなっている。

●DIALANG: Diagnostic Language Test(リンク切れ)…CEFRプロジェクトの1つ。無料でオンラインで言語能力自己評価テストを行える。CEFRの6段階レベルに沿って語彙,文法構文,作文,読解,聴解の5領域で能力評価がある。また、テスト終了後には、将来に向けての学習方向のアドバイスがもらえる。

ACTFL: American Council on the Teaching of Foreign Languages…教育機関(主に大学)での外国語能力を評価するための記述。言語能力を実際の言語活動の記述におとした形式。レベルは4技能につき各10レベルが設定されている。

 現在はCEFRを基にしたコンピテンシー・リストをCan-Doアンケートの形式で学生に実施し、TOEICなどの標準化試験との相関性や、どのコンピテンシーをどの教材やテストと結びつけるのかを分析しています。このコンピテンシー・リストをいずれはカリキュラム,テスト,指導と連動させる必要があると考えています。

 外国語eラーニング教材、特に英語教材は民間企業や教育機関で多く開発されています。それらに携わる開発者よりよく話を聞くのは、理論武装をどうしようか、評価(アセスメント)の部分をどうしようか、という悩みです。皆さんには、現在自分が学習されている外国語学習教材や以前学習したことのある教材、または巷で売れている教材などについて、使用されている理論とアセスメントの観点から分析を深めて頂きたいと思います。その教材を一生懸命学習すれば、一体どのようなことができるようになると思われますか?
 今ある教材を紐解いてみると、外国語教育eラーニング教材のニーズや傾向、外国語教育理論の動向、または未解決の(研究が足りない)部分が明らかになるのではないでしょうか。