熊本大学大学院教授システム学専攻
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[第12回]IM分野の研究事例(2)
IM分野の研究事例(2)
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第12回: IM分野の研究事例(2)(担当:江川良裕)

[研究事例]

コンサルタントとして活動してきた関係で、クライアントのオーダーによってリサーチやプランニングをおこなってきた。したがって、これまでの私の活動には特定の専門というモノがない。ただし、当然ながら得意分野はある。ITやインターネットをベースにしたビジネス開発である。これらのうち多くは特定の民間企業から受託したプロジェクトであるため、残念ながら公開をすることができない。したがって、ここでは公共機関から受託したプロジェクトで、eラーニングに関係の深い研究事例などを紹介する。

教育現場をサポートする周辺システムに関する研究

前職であるFRI(富士通総研)在籍時から熊本大学着任後にかけて、FRIのメンバーと協力しておこなっていた研究で、財団法人コンピュータ教育開発センター(CEC)からの受託。初等・中等教育現場における授業計画実務および実施支援システムのニーズ調査および企画策定である。現場に対する支援であるという点で、ID的な教育設計というより、教科書をベースにネット上のコンテンツを収集・編集するというような業務プロセスから発想されている。eラーニングではなく、通常の集合教育において効果的なIT利用を簡便におこなえるようにといった視点で考えられている。特に私たちが参考にしたのは、カナダ・オンタリオ州で運用されているOntario Curriculum Unit Plannner(OCUP)と呼ばれる、教員が自由に使えるPCベースのシステムである。

CECの上位省庁のひとつである経済産業省の期待を背景にしたプロジェクトであり、教育現場におけるIT活用を促進するためには標準化が欠かせないという考えから、本研究以前に、教育現場が抱える6分野の課題(標準化候補領域)を抽出し、その中から最重要と思われる分野を選択し継続研究をおこなったもの。ちなみに、他の課題とされたのは、(1)学校におけるIT利用環境の標準化、(2)ハードウェア/ソフトウェア整備方法のガイドライン化、(3)運用管理の標準モデル策定、(4)コンテンツのユーザー・インターフェースのガイドライン化、(5)自作コンテンツの開発環境の整備、となっていた。

ここでは、現在公開されているサマリー版のリンク[1]、およびOCUPのサイト[2]を掲示しておく。

[1]http://www.cec.or.jp/e2e/pdf/jyugyosekkei.pdf
[2]http://www.ocup.org/(リンク切れ)

関連プロダクトのマーケティング(流通)に関する研究

学習をサポートする機器、特に障害者のIT利用のためのアクセシビリティ機器の流通に関する研究で、JEITA(社団法人電子情報技術産業協会)からの受託研究である。検討テーマは、米英と比べ日本のアクセシビリティ機器の流通が活発化していないという現実を認識し、その要因を分析したうえで、マーケティング面での工夫をおこない本の状況を改善できないか、ということにあった。調査対象のサンプル・プロダクトとしては、入力スイッチ類(TashのBig Buddy、TraxsysのJoggle Switch)と、読み上げソフトであるスクリーンリーダー(GW MicroのWindow-eyes、Dolphin Computer AccessのHal)を取り上げた。

米国においては、障害者であっても社会参加(納税)すべきであるという意識が強く、その代わりに、作業療養士や理学療法士、言語聴覚療養士、あるいはAssistive Technology Specialist(AT Specialist)が協力して、児童・生徒のためのIndividual Education Planを立案する、といった手厚い措置をおこなっている。社会的・文化的背景に基づくこのような制度設計を我が国にすぐに輸入するのは困難であるだろう。しかしながら、一方では流通における仕組みなどコントローラブルな要素も存在する。例えば、機器のユーザーである障害者の購買を支援する立場として“中間支援者”が存在するが、我が国ではそれがボランティア頼みである私たちがマーケティング面で見いだした我が国における課題は、マーチャンダイジングやサポートに関するノウハウをもつ流通事業者が未成熟で、中間支援者のポジションの不明確で流通構造の中で機能していないことのほか、制度面の不備を補っていけるような流通モデルや具体的な施策が欠如していること、である。そして、それらの課題を解決していく方向として、(1)企業横断型の統一ブランドによるマーケティングの共同化、(2)介護業界を始めとした他業界の流通チャネルの活用、(3)ディーラーのスキルやノウハウを高め、新規参入を促す効果もあるB2Bコミュニティ&調達サイトの開設、(4)中間支援者を巻き込んだPCリユース・プロジェクトの推進、といった提言をおこなった。

公開されているエグゼクティブ・サマリー[1]、調査対象企業のサイト[2][3][4][5]、およびアクセシビリティ機器に関する参考図書を以下に掲載しておく。

[1]http://it.jeita.or.jp/nichijishin/2004/pdf/accessibility.pdf(リンク切れ)
         第一部「アクセシビリティビジネス化に関する調査研究報告」部分
[2]http://www.tashinc.com/(リンク切れ)
[3]http://assistive.traxsys.com/(リンク切れ)
[4]http://www.gwmicro.com/(リンク切れ)
[5]http://www.yourdolphin.com/

ゲーリー・モールトン、ラディアナ・ハイラー、ジャニス・ハーツ、マーク・レベンソン(株式会社ユーディット監訳)(2003)『アクセシブル・テクノロジ - ITと障害者が変えるビジネスシーン』日経BPソフトプレス

そもそも、マーケティングとはユーザー視点に立つというところから出発しているのであり、一方的な提供側の視点は「セリング」と呼ばれ、マーケティングとは区別される。残念ながら、現代の教育は提供サイドの論理で支配されているセリングのようにしか見えない。また、ユーザーの多くもコスト効率のみでeラーニングを導入している現状を考えると、「シミュレーション」や「ブレンディッド」というような言葉も、単なる流行のコピーとしか聞こえない。

なお、私は本専攻の教員であるとともに文学部の教員であるため、ここに記したこととはかなり違う分野の教育・研究をしていることも述べておく。学部で取り組んでいるのは、インターネット登場後の文化や社会を分析するメディア・スタディやカルチュラル・スタディの分野、ビジネス・マーケティングなどが中心である。