熊本大学大学院教授システム学専攻
目次:
[第9回]IT分野の研究事例(3)
IT分野の研究事例(3)
今回のタスク(課題)
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第9回: IT分野の研究事例(3)(担当:松葉龍一)

内容を読んで学習した後、「今回のタスク」を行ってください。

[はじめに]

IT分野の研究事例(3)ということですが、私は元々、理学部 物理学科の出身で、学部から大学院修士(理学研究科 物理学専攻)、 博士課程(自然科学研究科 物質生命科学専攻)にかけて、宇宙物理学(平たく言えば、天文学)を学んできており、 IT(Information Technologies)分野に関する研究は、前職の総合情報基盤センターにおいて、 情報セキュリティ関連の研究を手がけたのが最初で実際、あまり長くありません。 コンピュータやコンピュータネットワークの利用、プログラミングに関しては、上述の研究において実践してきましたので、 それなりの長さになりますが、他のIT分野の先生方とは異なり、研究暦もせいぜい10年程度ですし、手がけてきた分野もまだ、 宇宙物理学分野のウェイトが高く、様々な分野について勉強を始めたのはここ3,4年のことです。 そこで、IT分野に限定せず、私の研究紹介も兼ね、これまでと現在、私の興味のある研究課題について記述しようと思います。

[研究事例]

宇宙物理学関連

博士論文の題目は「ブラックホールまわりの降着円盤に関する研究」です。 研究手法として数値計算及び、数値シミュレーションを用いて,恒星内部をはじめ,宇宙初期や ブラックホールまわりの降着円盤内部における元素合成や高エネルギー現象の数値解析を行っていました。 物理現象の数値解析とは、コンピュータを用いて数値計算を実行し、計算結果が示す物理状況を解析することです。 これにより、宇宙で起こっている様々な現象の原因(物理)を理解しようとする研究です。 最近はあまり多くの時間を割けないでいますが、現在も共同研究者たちと続けています。
Fujimoto, S., Matsuba, R., & Arai, K., (2007), Astrophys. J. Lett. 673, 51. (arXiv:0710.1918v1).(PDF:98KB)
Matsuba, R., Arai, K., Fujimoto, S., & Hashimoto, M., (2004), Pub. Astro. Soc. Jap. 56, 407.(PDF:328KB)

コンピュータ・セキュリティ関連

近年のコンピュータウィルスはメール感染型が大部分を占め、感染後は多量のメール/パケットを送信し、2次、 3次感染を誘発させたり, 相手サーバを利用不能にさせるなどの攻撃: DoS(Denial of Service)攻撃を行ったりするようになってきています。 そこで、DNS(Domain Name Systems)サーバやメールサーバのログ監視を断続的に行ない、将来的な侵入検知システム (IDS) 開発を目指して、 DNS サーバに対するパケット解析を行っていました。 コンピュータウィルスに感染したPCの特定や、情報漏えいを未然に防ぐために、 ウィルス発生アラートシステムの構築なども合わせて行ってきました。
Matsuba, R., Musashi, Y., & Sugitani, K., (2004), IPSJ Symposium Series, Vol. 2004 No.3, 31.(PDF:156KB)

情報教育関連

授業実践、授業改善に関する研究の一環として行っています。 具体的には、熊本大学で実施している情報基礎教育の授業改善のための より効果的なブレンデッドラーニングの利用法の模索、 シラバス、テキスト改善案等の提示とその実施、実施後に 行うアンケート調査データの分析などを行っています。 また、アンケート調査とオンラインテストの統計的な成績データを もとにした、大学入学以前の学生の情報科目の履修状況や 理解度などの調査研究も合わせて行っています。
松葉龍一,宇佐川毅,杉谷賢一,他,(2007),情報教育研究集会論文誌.(PDF:198KB)
松葉龍一,杉谷賢一,喜多敏博,他,(2006),学術情報処理研究 10, 15.(PDF:355KB)

オンラインテスト関連

いま、最も力を入れて取り組んでいるテーマです。 学生自身により、学習の到達度と個々の学習内容についての理解度を即座に確認できるLMS を利用したオンライン確認テストは非常に有用であることはよく知られています。しかし、 問題の質、難易度に差がある、いい換えれば問題の質保障がされていないと、 受講生の繰り返し受験の意欲を著しく失うことにつながると考えます。 情報基礎教育で実施しているテスト問題を対象として、問題の均質化を行うための チェックリストの開発とそれを利用した問題の改善とテストの実施を行ってきました。 現在は本テーマの第一段階である、改訂前後の受講生の統計的な成績データの統計値を利用した、 チェックリストの評価が終わり、リストの改善案をまとめた段階にあります。 次段階では、情報教育だけでなく、より汎用性の高いリストへの拡張と、今回の検証を踏まえて、 オンラインテスト問題作成におけるプロセスフローの試作などを行うつもりでいます。 幅広い拡張が見込まれるテーマですので、良いアイディアや知見をお持ちの方は、 私とともにこのテーマの研究、調査を進め、新しい貢献をしてみませんか?
Matsuba, R., Nakano, H., Takahashi, S., et al., (2007) eLearn 2007 Quebec (19824)(PDF:124KB)
松葉龍一, 北村士朗, 喜多敏博, 他, (2007) 第23回日本教育工学会全国大会論文誌, 904(PDF:706KB)

その他(理科教育関連)

eラーニングの実践研究の一環として行っているテーマです。 近年取りざたされている小、中学生の理科離れは子供の学力だけの問題ではなく、 各家庭において両親からの問いかけや教育にも原因があるのではないかと考え、 おもに小、中学校の年代の子どもをもつお父さんやお母さんたちに向けた、小、中学校の 学習内容とより発展的な事項を説明したオンライン学習コースを作成し、 インターネット市民塾の講座として公開しています。 また、夏休みの自由研究の一端として、小学生と両親が気軽に楽しみかつ、 天文学や理科、eラーニングへ興味を持つようにオンラインテスト問題を活用した 講座の運営も行っています。受講者からの意見や感想、改善案など得ることにより、 コンテンツの評価や開発研究などの実践に役立っています。
・村嶋亮一,吉田光宏,喜多敏博,他, (2005),Computer & Education 19,10

今後のテーマ

今後手掛けていきたい研究テーマは、 ブレンデットラーニング(eラーニングと対面講義の併用) に関する研究、例えば、シラバス作成に関するものや授業実践などに関する ものです。 文献調査を含めた勉強を始めたばかりの段階ですが、 このテーマに関する研究は世界でもほとんど行われてきていないよう ですので、どのような視点から始めてもプライオリティは主張できると 考えます。

[おわりに]

ここ数年、それまでやってきたこととまるで異なる分野の勉強や研究を手探りで始めてきましたが、改めてわかったことが2つあります。 研究課題に対するアプローチの仕方はそれぞれに異なっていますが、どんな分野、研究手法をとったとしても、 研究を進めていく基本的な方法には差はないということです。基本的な方法とは、皆さんがブロック1において学ばれたモノのことです。 そして、それまでに得てきた研究におけるカンどころ(研究をすすめる上での視点と言ってもいいでしょう) は違う分野に移ったとしてもそれは活きているということです。 特別研究IとIIを通して、研究、言い方を代えれば、何かを調べ、考える際の基本姿勢と、それを行う際に自分がすでに持っている知見を “どう生かして”行けば良いかを徹底的に考え、自分の基礎になる視点を身につけてください。