熊本大学大学院教授システム学専攻
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3.キャロルの時間モデルと完全習得学習
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◆ 完全習得学習と形成的テスト ◆

完全習得学習(マスタリーラーニング)は、B・S・ブルーム(Bloom)や弟子のブロック、キムによって1960年代後半にモデル化された教育方法である。キャロルのモデルに従えば、学習者は一人ひとり学習ペースが違うのだから、一斉に同じ進度で学習を進めようとすれば無理が出る。一人ひとりが完全に学習目標をクリアしてから次の一歩に進めるように、個別学習教材を整えてマイペースで進ませるのが自然に思える。詳しくは[第7回]行動主義:代理強化とティーチングマシンの、行動主義心理学に支えられたプログラム学習を参照して欲しい。

ブルームらは、キャロルの時間モデルを前提としながら、それを集団的一斉授業の枠組みで行うことができるようモデル化した。一斉授業の適当な時期に、診断的な目的でテストを行う(このテストのことを「形成的テスト(Formative Test)」と呼んだ)。形成的テストの結果によって、学習者の目標達成状況に応じた治療的な指導を行う。この方法で、少なくとも最低限の基準を全員がクリアして次の単元に進むことができる、と考えた。

上記の考え方にしたがって完全習得学習を進めるためには、次の情報を揃える必要がある(梶田、1983、184-185)。
  1. その学習単元において達成されるべき目標群を明らかにすること
  2. すべての子どもたちが達成すべき最低到達基準(マスタリー基準)を定めること
  3. 各目標のどれがすでに達成され、どれが未達成であるかを明らかにし得る形成的テストを作成し、使用すること
  4. 各目標が未達成である場合に与えるべき教材や治療的指導について準備し、形成的テストの結果が明らかになった各学習者の課題達成状況に応じてそれを与えること

この方式は、ブルームの弟子キムによって韓国で大規模に実践され、大きな効果を上げ、実践が可能であることが示された。その模様は、同じブルーム門下の梶田叡一によって翻訳・紹介された(梶田、1983:金、1976)。

梶田(1983)によれば、形成的テスト実施後の教育活動には、次の4つの種類が考えられる。
  1. 再学習:同じ課題をもう一度学習させる。再学習を必要としない者には深化学習を組み合わせる
  2. 補充学習:個々の学習者が目標到達の不十分な部分について補充的な学習を行わせる。不必要な者は1.と同じ
  3. 学習調整:教授・学習活動の展開のテンポや方向を調整する
  4. 学習分岐:個々の学習者の適性や前提能力等によりグループ分けして異なった学習課題(発展学習)を与える
    ◇参考文献◇
  • 梶田叡一(1983)「教育評価」有斐閣
  • 金豪権(1976)梶田訳「完全習得学習(マスターラーニング)の原理」文化開発社