熊本大学大学院教授システム学専攻
目次:
3.キャロルの時間モデルと完全習得学習

【第3回】学習指導・評価論(1)キャロルの時間モデルと完全習得学習
はじめに~


学習指導・評価論でまず取り上げたいのは、B・S・ブルーム(Bloom)らの完全習得学習(マスタリーラーニング)とその理論的根拠となったJ・B・キャロル(John B.Carroll)(1916-2003)の学校学習モデル(時間モデル)である。キャロルのモデルが広く発表されたのは1963年、今から40年以上前になる。個人差を「学習に必要な時間と学習に使った時間の差」として捉えることで、従来からの知能(IQ)による個人差の固定概念に見直しを迫った。それ以来、米国を中心に学校教育のあり方に大きな影響を与え続けてきた。ブルームらの提唱した完全習得学習(マスタリーラーニング)は、個人の学習ペースにあわせて基礎学習を完全にマスターしてから次に進む、という方式として提案され、これまた広く実践されてきた。わけも分からず次に進む(あるいは次の学年に進む)ことで基礎が不完全のまま学習を進めるのは本人のためにならない、という考え方に基づいている。飛び級とか落第とかの制度の理論的バックボーンとして位置づけることができる。

まずは、J・B・キャロル(Carroll)の学校学習モデル(時間モデル)について、鈴木が10年ほど前に書いた一節を読んでいただくことで、その概要を紹介したい。アメリカから帰国してまもなく、「放送教育」という月刊誌(現在は休刊中)に連載したものをまとめて書籍化したものの第1章を飾るものであり、留学時の体験を語っている。キャロルの時間モデルは、鈴木が講義をする機会があったら常に最初に扱うテーマであり、とても思い入れの深い内容である。縦書きの文章をそのまま電子化したので、数字の表記が少し気になるが、その点はご容赦願って、是非、お楽しみください。

    ◇指定論文◇
  • 鈴木克明(1995)『放送利用からの授業デザイナー入門~若い先生へのメッセージ~』財団法人日本放送教育協会