熊本大学大学院教授システム学専攻
目次:
8.認知主義:先行オーガナイザとスキーマ理論

【第8回】学習心理学の3大潮流(2)認知主義:先行オーガナイザとスキーマ理論
はじめに~

認知主義心理学は、行動主義心理学がヒトの学習をブラックボックスとして処理し、行動のみに着目していたのに対し、情報が入ってからどのように処理されて、どのように蓄積されて、そしてどのように記憶が引き出せれているのか、という点に着目した。つまりは、人間の情報処理過程(=認知と呼ばれる)を中心にモデル化を試みたので、認知主義と呼ばれるようになった。最近でこそ脳生理学の研究によって、ヒトの頭脳のどの部位がどんな働きに関係しているかがシナプスの電位変化現象として捉えられるようになった。しかし、認知主義心理学では、ヒトの脳にメスを入れることなく、もっぱら実験の繰り返しによってヒトの情報処理を「モデル化」(すなわち間接的な証拠によって推測すること)をした成果である。




認知心理学はコンピュータ科学と融合して「認知科学」として発展することになる。ヒトの情報処理とコンピュータの情報処理を対比して考えることで、研究を一歩前へ(お互いに)進ませることができると考えたからだろう。ヒトの脳神経をモデルに「ニューロコンピュータ」なるものも研究されているぐらいだし・・・認知科学では、記憶や学習のほかにもさまざまな研究課題がある。注意と意識、言語、情動、視覚、聴覚、運動、など広範囲に及ぶ。最近では、アンドロイドや脳神経系の研究などがホットな話題として注目を集めているらしい。

さて、認知心理学の文脈で学習が語られるとき、コンピュータとの対比で概念化・モデル化される場合が多い。CPU短期記憶(電源を切ると中身が消去される)、ハードディスクなどの外部記憶装置を長期記憶(今まで学んだ事柄が何らかの規則によって蓄えられているが、検索できるとは限らない)などという具合にだ。短期記憶と長期記憶の二種類にヒトの記憶を分けてモデル化したアトキソンとシェフリンの二重貯蓄モデル(Dual Storage Model:Atkinson and shiffrin,1971)は、インストラクショナルデザインの生みの親ガニェが「9教授事象」としてまとめた学習支援段階の基礎となった考え方だ。

その他、コンピュータには通常見られないヒト特有の情報処理としては、選択的知覚(処理する情報と処理しない情報を主観的に選ぶメカニズム。コンピュータにそれをされたら困る)や、リハーサル(繰り返し繰り返し覚えていようと意識することで記憶にとどめておくこと)、意味ネットワーク化(情報と情報とを意味的に相互にリンクすること)などが挙げられる。もっとも、ヒトの情報処理にコンピュータを似せる試みがあれば、どこまでが「特有」かは永遠ではないかもしれない。