熊本大学大学院教授システム学専攻
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[第7回]IT分野の研究事例(1)
IT分野の研究事例(1)
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第7回: IT分野の研究事例(1)(担当:中野裕司)

[研究事例]

私がこれまでに指導してきた研究の事例のうち多少なりともITによる教育支援に結び付いた研究を以下に紹介する。 ただし、この例に引っ張られる必要は全くない。

シミュレーション教材の開発研究の例

折田君は、名古屋大学時代最後の学生で修士1年入学直後の6月に指導教員の私が熊本へ異動し迷惑をかけた学生である。 修士1年のうちは名古屋で授業を揃え、修士2年になり熊本へ来て1年弱を熊本で過ごした。 元来VR(仮想現実)に興味があり、1年入学直後からシミュレーション教材の制作を始め、Java3Dを利用したJavaアプレットで、 彗星の尾に関するシミュレーション教材を1年終了時には開発し、修士2年の時学会発表を行った[1]。 2年になってからは、USBカメラ2台を用いてステレオ視テレビ会議システムを開発した[2]。 こちらは残念ながら論文にはなっていないが、USBカメラのドライバから開発し実力を付け、念願のVR専門職へ就くことができた。

  1. 折田, 中野, 徳永, 中村, "Java3Dを用いた彗星の尾シミュレーション", 2003 PC Conference 論文集 (鹿児島大学), (2003).
  2. 折田, "仮想空間における複数の立体映像を用いたTV 会議システムの開発", 修士論文概要 名古屋大学大学院人間情報学研究科物質・生命情報学専攻 (2004).

IT教材の利用拡大に役立つツールの開発研究の例

橋本君は、熊本へ来た年に自然科学研究科の4年生として卒業研究の指導をし、その後修士2年間の指導をした学生である。
仮想環境を利用したプログラムは非常に特殊な実行環境を必要とすることが多く、それがたとえ教育効果の高い教材であっても、特殊な仮想現実装置がなければ実行不可能な場合が多い。 例えば、没入環境を例にあげると、周囲上下左右がステレオ視可能な数メートル四方のボックス (例えばTEELeX等)の中に入ると、 宇宙空間やミクロな空間にあたかも自分が入っているような感覚を得ることができる。 しかし、その場合は、キーボード等は操作出来なくなる。 そこで、このようなVR環境では特殊なグローブを装着し、仮想環境内に自分の手が表示され、手を動かすと仮想環境内の手もそのとおり動く仕組みがよく用いられ、 仮想空間内に合成されたボタンやスイッチ等を手で間接的に操作する。
しかしこれでは、通常のPCでは全く利用不可能である。そこで、橋本君は、この特殊なグローブのかわりをマウスでするシステムを開発し、さらに前述の折田君の 開発したUSBカメラドライバを利用して、2台のUSBカメラの情報から手を位置を割り出し、それを仮想空間に表示するように発展させた。
修士1年の時に、研究成果を国際会議にテレビ会議で遠隔参加し自ら英語で発表した[1]。

  1. A. Hashimoto, H. Nakano, S. Osawa, S. Orita, H. Akiyama, "Development of a Hand Device Emulation System for Realizing a Virtual Environment on a Personal Computer by it3d and Java3D", 2nd International Conference on Emerging Telecommunications Technologies and Applications and the 4th Conference on Virtual University (ICETA2003), Sept., 11-13, Kosice, Slovakia (2003).

LMSモジュールの開発研究の例

松尾君は、Moodle上に、シミュレーション教材作成支援モジュールとして、Javaアプレットのソースコードを コピーアンドペースト等で入れるだけで、Moodle上の教材としてJavaアプレットを公開することのできるMoodle用のモジュールを開発した。 このモジュールを利用すると、自分のPCにJavaの開発環境等全くなくとも、インターネット上にあるJavaアプレットのソースを貼り付けるだけで、同じ教材がMoodleの 中で教材として利用でき、ソースをオンラインで編集可能であるため、ちょっとしたカスタマイズも可能である。
修了間際ではあったが、電気学会教育フロンティア研究会で自ら発表を行った[1]。

  1. 松尾, 田中, 喜多, 中野, "Moodleに対応したJava Applet作成支援モジュール"電気学会 教育フロンティア研究会, FIE-05-33 (2006).

シングルサインオンやポータルを利用したIT支援開発研究の例

白木君と菅尾君は実は2005年度の学部卒業生であり、これは卒業論文の紹介であり、修士論文ではない。 ただ、このような例が、修士のほうでまだないため、敢えて紹介させていただいた。
両君は、導入準備をしていた、ポータル(uPortal)と シングルサインオン(CAS)のオンライン教育における可能性に関して研究を行った。 どちらのソフトウェアもオープンソースのWebアプリケーションであるが、この組み合わせと対応しているシステムを用いると、一度の認証で全てのシステムが、 認証なしにアクセス可能になるため、図のように、ポータル上に様々なシステムを入れ込んだり、リンクしたりできるようになる。
そこで、彼らは、CAS、uPortalに対応した、Javaプログラミング学習支援ツールとシミュレーション教材のパラメータ記録ツールの開発を行い、 uPortalの中だけでなく、MoodleやWebCTの中にあたかもその中に組み込まれた機能のように表示できることを確認した。
卒業後、私がCMS研究会にまとめて代理で報告を行った[1]。

  1. 白木, 菅尾, 中野, 喜多, "CAS統合認証下における学習支援ツールの開発"情報処理学会 第2回CMS研究会, 名古屋 (2006).

これまでに指導した研究は、現在は公開していない。 これは、公開する自信がないことと、公開可能かのチェックを行う時間的な余裕がないことに起因する。 最後に、今回紹介した例は平均よりは上と思われるものが多いことを断わっておく。