熊本大学大学院教授システム学専攻
目次:
[第4回]ID分野の研究事例(2)
ID分野の研究事例(2)
今回のタスク(課題)
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第4回: ID分野の研究事例(2)(担当:北村士朗)

内容を読んで学習した後、「今回のタスク」を行ってください。

[はじめに]

第3回で鈴木先生はインストラクショナル・デザイン分野の研究が日本において遅れていることを指摘されています。それにならうわけではありませんが、私も日本において研究が遅れている分野を自分のフィールドとしています(正確には「しようとしている」)。それは「企業内教育」や「社会人の学び」です。

人は一生涯、学び続ける存在であることは言うまでもありません。ところが、教育や学習の研究は一に学校教育、二に生涯学習という様相です。そして、この「生涯教育(学習)」も文脈的には仕事をリタイアした年配の人の楽しみや余暇を使った趣味としての楽しみとしての学習であり、人の一生の中でもっとも長い期間が費やされ、そして重要であるはずの「働く」ための学習や教育については、あまり研究がなされていないのが実情です。

私自身、損害保険会社で20年間を過ごし、その後半10年間は社内の教育に携わってきました。社内の教育をより効果的、効率的に、そして魅力あるものとするために先輩や同僚とさまざまな努力をしてきましたが、その努力は「手探り」そのものでした。企業内教育に理論は無いのか?という疑問をもっていましたたが、なかなか出会うことはできませんでした。それには背景がありました。

皆さんは「KKD」という言葉を知っているでしょうか?これは営業マン教育の世界でよく使われる言葉で「勘、経験、度胸」の略です。もちろん、これらがいけない訳ではない(ある意味、暗黙知の世界ですので)にせよ、これら「だけ」でもいけない、営業にも理論があるのだ、科学的な見方や行動をすべきだ、ということを主張するときに使われます。ところが、その「営業マン教育」自体の多くがKKDに頼っているという皮肉な現状があります。

多くの企業では、ある分野の教育や研修をしようとするとき、講師や教材作成者にはSMEがあたります。彼・彼女らはその道のプロではあるにせよ、教育の専門家ではありません。しかしSMEとしてのキャリアがあり、講師や教材作成者としての経験が長ければ「教育のプロ」として扱われてしまいます。まさにKKDを評価されてしまう世界だったのです。

私はそういった状況の中で、「企業内の教育に理論や科学はないのか?」という疑問を持ち、さまざまな勉強をしてきました。

「企業内の人材育成」に関しては多くの本もあり、人材育成について論じる大学院もありましたが、それらの多くは経営学の文脈で語られていて「何をすべきか」は論ぜられていても「どう実現したらよいか」という自分の仕事に直結する知見は与えてくれませんでした。

一方で「教育」「学習」に関しても、多くの本が出版されている上、放送大学でも「教育心理学」「認知科学」など多くの科目があり、実際私も学習しましたが、そのほとんどは子どもに関するものであり、参考にはなるものの、これも直接的に役には立ちませんでした。

このような状況は、徐々には改善されているものの、現在も研究者の数も論文や書籍の量も十分とは言えない、まさに「これから」の領域です。学会(教育工学会、教育システム情報学会など)でも発表数はそれほど多くありません。その中で、研究のヒントになりそうなものをいくつか紹介します。私たちの「教授システム学専攻」はまさにこのような状況を劇的に改善しようとする企てなのです。

その企ての渦中にいる私(たち)は、新たな研究領域を開拓していかなくてはなりません。私自身、まだ研究者としては駆け出しで、何をどのように研究すれば良いかは模索中です。そこで、私がとても影響を受けた、そして今でも参考にしている論文をご紹介し、皆さんといっしょに研究の方向性やネタを考えていきたいと思います。