熊本大学大学院教授システム学専攻
目次:
[第5回]ID分野の研究事例(3)
ID分野の研究事例(3)
今回のタスク(課題)
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第5回: ID分野の研究事例(3)(担当:高橋幸)

内容を読んで学習した後、「今回のタスク」を行ってください。

[はじめに]

 私は学部から大学院の修士・博士課程にかけて、専攻を英語教育~辞書学~コンピュータ言語学に変更しました。皆さんが外国語を学習する際に、なんとなく感じている法則性やコーパスから導き出した規則を論理式などを用いて形式化し、それをコンピュータプログラム上でシュミレーションする(ややこしいですね…)というのが、私の博士論文の研究テーマでした。この分野の研究成果は、検索や機械翻訳など様々なeサービスに応用されています。専攻を変更したのは、当時キャッチーな分野に飛びついただけなのですが、その変更が私にとってはいい契機に。それまでアナログ人間だったのですが、プログラミングスキルを身につけざるを得ないきっかけになりました。
 私は本専攻だけでなく、熊本大学大学教育機能開発総合研究センターにも所属しています。センターでの主な業務内容としては、英語教育カリキュラムの開発やCALL(Computer-Assisted Language Learning: コンピュータ支援語学学習)教育がメインですので、大学院での研究テーマは直接関係していないように思われるかもしれません。ですが、言語科学の研究に携わって外国語教育を科学的なアプローチで分析できるようになり、現在の外国語教育が持つ矛盾点や問題点をより客観的に見れるようになったと思います。積み重ね研究は大切ですが、「専門外の情報にもアンテナを向けてみる」のは重要なことです。どんなところから研究のネタが生まれるかわかりませんよ。最初のうちはネタ探しや知識習得に苦労なさるかもしれませんが、テーマが広がり柔軟な思考で研究に取り組めるでしょう。

 さて、中学・高校・大学とこれだけ勉強しなきゃいけないんだから、英語教育の研究もさぞ進んでいるはずだろうと思われるかもしれません。戦後、様々な教授法が日本の英語教育に導入されましたが(田崎編 (1995),小寺・吉田 (2005))、「絶対コレ!」というベストの英語教育の教授理論や解決策が見つかったわけではありません。対面授業だけでなく、eラーニングの世界でも同様です。英語を学ぶeラーニング教材は、市販されているものからフリーのものまで、児童英語からビジネス英語まで多様なものが提供されているにも係わらず、実証された特定の理論に基づいて作られているものは少ないといえます。その理由として、eラーニング教材は幅広いユーザが望まれる総合教材(語彙,文法,リスニング,リーディングなど様々な分野を含むもの)として作られているものが多く、実際はレベルや分野によってそのデザインやプロセスを変えていく必要があるわけですが、レベルや分野ごとに個別の仕様にするのが難しい、操作が複雑だとユーザにうけない、外国語学習ではドリル型が根強い、ということがあるかもしれません。
 さて、肝心のID(インストラクショナル・デザイン)と外国語教育の関係ですが、文献調査をしてみると外国語教育の理論とID理論を融合させた研究や、それらを取り入れた教材の数が少ないこと(特に英語教育の専門家はほとんど手をつけていない!)に気づきます。外国語学習=ドリル型の既成概念から脱却する必要があるのではないでしょうか?

参考文献
 これまでどんな英語教授法があったの?と気になる方は、以下の書籍に簡潔にまとめてあります

・田崎清忠(編) (1995) 『現代英語教授法総覧』. 大修館書店.
・小寺茂明・吉田晴世 (2005) 『英語教育の基礎知識―教科教育法の理論と実践』. 大修館書店.