熊本大学大学院教授システム学専攻
目次:
4.学習目標の分類学と適性処遇交互作用

◆ ブルームのタキソノミー(分類学) ◆

アメリカ心理学会(APA)が1948年に大学の試験にかかわる研究者を集めて、 試験問題を分類して互いのコミュニケーションの円滑化を図る目的のプロジェクトをスタートさせた。 年1回のペースで研究会を持ち、その8年後に結実した成果が、今日「ブルームの目標分類学 (タキソノミー:Taxonomy)」と呼ばれるものである。教育の目標とする領域を「あたま、こころ、からだ」 の3領域(認知・情意・精神運動領域と呼ぶ。KSA (Knowledge, Skill, Attitude)と略されて用いられる場合もある)に分け、それぞれに下記のレベルわけを提案した。試験問題を集め、それを地道に分類することで導き出したボトムアップ(帰納的)な手法に基づくレベル分けであった。第一巻(認知的領域)が1956年に公刊され(Bloom, et. al, 1956)、第二巻(情意的領域)が遅れること8年の1964年に公刊された (Krathwohl, Bloom, & Masia, 1964)。しかし、第三巻(精神運動的領域)はこの研究者グループの手によるまとめはなく(試験問題の収集ができなかったのが主たる理由)、数人の研究者による提案が1970年代になされたが定説には至っていない。


ブルームの教育目標分類学(原題は、表3-1:教育目標のタキソノミーの全体的構成)
6.0 評 価 Evaluation  
5.0 統 合 Synthesis 個性化 Characterization 自然化 Naturalization
4.0 分 析 Analysis 組織化 Organization 分節化 Articulation
3.0 応 用 Application 価値づけ Valuing 精密化 Precision
2.0 理 解 Comprehension 反 応 Responding 巧妙化 Manipulation
1.0 知 識 Knowledge 受け入れ Receiving 模 倣 Imitation
認知的領域
情意的領域
精神運動的領域※
※ブルームの弟子のダーベが1971年夏スウェーデンで開かれた「カリキュラム改革に関する国際セミナー」においてわれわれに示したもの。
出典:梶田叡一(1983)「教育評価」有斐閣、表3-1、p112(英語は同書などから加筆)

ブルームの分類学として結実したのは、当初、試験問題を分類して互いのコミュニケーションの円滑化を図る目的のプロジェクトではあったが、この分類体系は、教育内容を体系化し、一人ひとりが何をどこまで達成したかを調べて学習を支援しようとする試み(完全習得学習における形成テストの作成)にも有効であった。アメリカのみならず、数多くの言語に翻訳されて世界に広まり、デファクトスタンダードとなった。日本においても、ブルームのタキソノミーを紹介した2冊の訳本などが公刊されており、「教育評価法ハンドブック」の第14章には、タキソノミー(要約版)が邦訳されている。ということで、どこかで聞いたことがあるかもしれませんが、「基盤的教育論」で扱うのにふさわしい内容、ということになりますです、はい。

この試みを開始した背景には、1948年当時に問題視されていた「機械的暗記型・言語主義的教育」があった。「知識」が与えられたことをそのまま繰り返すレベル(いわゆる丸暗記)であるのに対し、「理解」レベルになると頭で考えて、変形(表現を変えて自分の言葉で答える)、解釈(与えられた情報間の関係を答える)、あるいは外挿(示されていない内容を予想して答える)などを求める問題が出される。「知識」を学ぶことの重要性は認めた上で、そのレベルのみで試験を終始させてはいけない。試験問題を上のレベルで作成することを意識することによって、教育のゴールをより高いレベルに設定することができる、というメッセージが込められていた(50年も経った今日でもその重要性は変わらない)。

「知識」を超えた理解が教育目標として重要であることは多くの研究者が主張するところではあった一方で、「理解」が示すレベルは多岐にわたっており、細分化することが必要であるとの結論を得た。そこで、与えられる知識を超えた認知的領域の目標の最も基礎的なタイプを「理解」とし、その上にすでに学んだことを新しい課題場面や具体的状況に適用する力としての「応用」、問題を構成要素に分解・再構成し、問題の全体的な構造を明らかにする力としての「分析」、部分をまとめて新しい全体をつくり出す力としての「統合」、価値や意味を判断する力としての「評価」というレベル(およびその下位分類)を提案した。実際には、2.0~6.0の分類は、2.1~2.5と表記すべき性質を持っているほど、1.0知識とは別のものとして捉えられている。その証左に、2.0が開始する前に、2.0~6.0の分類全体を示す見出しとして「知的能力と技能(Intellectual Ability and Skills)」が付けられている。このことは、あまり指摘されないことではあるが(恥ずかしながら、今回の準備で鈴木も初めて気づいた)、とても重要なことのように思える(ブルームの分類学は時間をかけて詳細に振り返ってみるべきものだ、ということを強く感じた。今回は時間切れでここでおしまい)。


    ◇ 参考文献 ◇
  • ブルームほか(渋谷・藤田・梶田訳、1972)「教育評価法ハンドブック:教科学習の形成的評価と総括的評価」第一法規出版



  • ブルームほか(渋谷・藤田・梶田訳、1974)「学習評価ハンドブック(上・下)」第一法規出版



  • ※次の原著を3分冊にして翻訳されたもの:Bloom, B. S., Hastings, J. T., & Madaus, G. F. (1971). Handbook on formative and summative evaluation of student learning. AcGraw-Hill.