◆ メリルの二次元整理とライゲルースの比較表 ◆
メリル(M.David Merrill)は、学習のタイプをパフォーマンス(何をするか)とコンテンツ(何が対象か)の二次元マトリックスにまとめた分類を提案している。パフォーマンス(何をするか)は、覚える(Remember)→使う(Use)→発見する(Find)の3段階で、コンテンツ(何が対象か)は事実(Fact)→概念(Concept)→手順(Procedure)→原理(Principle)の4種類。事実は単に覚えるだけで、使うことも発見することもできないので網掛けになっている。これが、メリルが提唱するID理論(CDT:Component Display Theory)の基礎となった枠組みであり、そののちに教授トランザクション理論(ITT)の13分類に発展する(鈴木、2005)。
メリル(Merrill, 1983)は、「何をするか」と「何が対象か」の例として次のものを提示している。どれがどれかは分かりますね?(マウスを置くと答えが出ます)
<何をするか:パフォーマンス>
1.「抵抗」の記号は_________である。
2.次の電気回路で負荷抵抗が弱められたらどうなるか?(回路図が示される)
3.直流モーターが停止するまで徐々に弱めるような電気回路を考え出しなさい。
<何が対象か:コンテンツ>
1.アメリカ合衆国の大統領は誰ですか?
2.次の写真の中で積雲{せきうん} を写しているのはどれですか?(写真が数点示される)
3.次の一次方程式を解きなさい。(一次方程式が示される)
4.次のケースにおいて主人公の反社会的行動を強化理論を用いて説明しなさい。(ケースが示される)
ライゲルース(1999)は、ブルームの伝統的な分類学に対して、他の分類枠がどのような対応関係になるのかを整理した。今回紹介したガニェやメリルの分類枠の他にも、第7回で紹介したオーズベルや、認知心理学者アンダーソンの枠組み(宣言的vs手続的知識)がどこに位置づくかをまとめている。ライゲルースは、様々な学習・教授理論やモデルが提案されているが、どのタイプの学習課題に適しているか(あるいはどのタイプを扱っていてほかは扱っていないか)を注意する必要があると説いている。ちなみに、この表で空白になっている部分は、その枠組みでは扱われていないことを示している(例:オーズベルが主張したのは丸暗記と有意味な学習の区別であり、ブルームの分類学に対応させると知識と理解の区別となり、分析・統合・評価は扱っていなかった)。
教育目標の分類枠比較(Reigeluth & Moore, 1999,表3.2 p.54)
ブルーム |
ガニェ |
オーズベル |
アンダーソン |
メリル |
ライゲルース(注1) |
「知識」 |
言語情報 |
丸暗記学習 |
宣言的知識 |
逐語的に覚える |
情報を記憶する(注2) |
「理解」 |
有意味学習 |
言い換えて覚える |
関係を理解する(注3) |
「応用」 |
知的技能 |
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手続的知識 |
一般則を用いる |
技能を適用する(注4) |
「分析」 |
認知的方略 |
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一般則を見つける |
一般技能を適用する(注5) |
「統合」 |
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「評価」 |
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- (注1)ライゲルースの列は、上記5つを統合したReigeluth & Moore (1999)における提案。
- (注2)行動主義でもっぱら研究された後、認知主義でも記憶術やメタ認知技能の対象とされた領域。「理解」とは教授方略が異なるので、ガニェの「言語情報」を2分した。(とライゲルースは解説しているが、どうもブルームの分類学とガニェの枠組みの比較自体が間違っているような気がして調査中ですby鈴木。少なくとも「理解」は知的技能だと思えてきた今日この頃・・・)
- (注3)理解とは関係の把握であり、スキーマ研究の対象として20-30年の間知見が蓄積されてきたが、未だに教えたり評価したりするのが困難な領域。
- (注4)学校・職能教育共通の領域で、知識・理解とは異なる教授方法が要求される。知識よりは困難だが、理解よりは容易に教授・評価が可能。
- (注5)高次の考える力、学習方略、メタ認知技能などを含む内容領域非依存の一般的学習能力で、長期間かけて習得される。求められる教授方略が類似しているのでブルームの3レベルを統合した。
※注は鈴木がReigeluth & Moore (1999)本文を要約して追加した。オリジナルは下記のとおり。
- Bloom,B.S. (Ed.).(1956). Taxonomy of educational objectives. Handbook I: Cognitive domain. New York: David Mckay.
- Gagne,R.M.(1985). The conditions of learning (4th Ed.). New York: Holt, Rinehart, & Winston.
- Ausubel,D.P.(1968). The psychology of meaningful verbal learning. New York: Grune & Stratton.
- Anderson,J.R. (1983). The architecture of cognition. Cambridge, MA: Harvard University Press.
◇ 参考文献 ◇
- Merrill, M.D. (1983). Component Display Theory. In C. Reigeluth (Ed.), Instructional Design Theories and Models. Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates.
- Reigeluth, C. M, & Moore, J. (1999). Cognitive education and the cognitive domain. In C. M. Reigeluth. (Ed.), Instructional-design Theories and Models: A New Paradigm of Instructional Theory (Vol. II). Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates, 51-68.
- 鈴木克明(2005)「〔解説〕教育・学習のモデルとICT利用の展望:教授設計理論の視座から」『教育システム情報学会誌』22巻1号、42-53.