熊本大学大学院教授システム学専攻
目次:
9.構成主義:正統的周辺参加と足場づくり

【第9回】学習心理学の3大潮流(3)構成主義:正統的周辺参加と足場づくり
はじめに~

構成主義(constructivism)とは、認識論〔epistemology〕の一つで、「知るということは自分の中に意味を構成すること」と考える立場である。心理学者ピアジェの理論が見直されて、人間の知識が「シェマ(スキーマ)」というかたまりに取り込まれていく・かたまりを形成していく過程として学習が捉えられる。また、ヴィゴツキーの最近接領域説にならい、他者との交流によって知識が社会的に構成されていくとする立場(社会的構成主義)がある。これまでの行動主義・認知主義が、客観的に捉えられる(誰が見ても同じ)知識を身につけるプロセスとして学習を捉えていた(客観主義)のに対して、学習者一人ひとりが(各自異なる)意味を自ら構成していく過程として学習を捉えている(鈴木、2005a)。

構成主義では、知識や学習を次のように捉える(久保田、1995)。(1)学習とは学習者自身が知識を構築していく過程である。知識とは誰かによってつくりあげられたものを身につけていくのではなく、自分が学習活動に参加する中で、自分自身で点検しながら身につけていくもの。体験と切り離すことはできない。(2)知識は状況に依存している。知識は細分化され、構造化されてパッケージになっているのではなく、必要とされる場面から切り離すことができない。(3)学習は共同体の中で相互作用を通じて行われる。学習は一人ひとりが個別に隔離された状態で行うものではなく、常に他の学習者との関わりあいの中で行われる共同体的な営みである。いわゆる伝統的な学習観(客観主義=行動主義+認知主義)に対して「もう一つの学習観」(構成主義)を説明した入門書に、稲垣・波多野(1989)の「人はいかに学ぶか」がある。一読をお勧めします。

今回は、構成主義の主要なコンセプトを概観する。また、構成主義に基づいた実践の代表例とされている「ジャスパー冒険物語」などについて紹介する。