熊本大学大学院教授システム学専攻
目次:
[第1回]研究関心レポートを交換しよう/研究の7ステップモデル/学会発表に向けてのプロポーザルを書く
研究関心レポートを交換しよう
--今回のタスクその1(課題)
研究の7ステップモデル
--今回のタスクその2(課題)
学会発表に向けてのプロポーザルを書く
--今回のタスクその3(課題)

第1回: (1)研究の7ステップモデル (1章)

[7ステップモデルを使ってみよう]

テキスト第1章は理解できただろうか。ここでは、皆さんの先輩(本当は、仮想的人物)が7ステップモデルを応用してどのように研究を進めて行ったかを眺めてみよう。

1.トピックを選ぶ  Selecting a Topic

『1. 社会人向けeラーニング教材の教育設計分析と設計ガイドラインの提案』
私は、社会人向けのeラーニング教材を提供する業務に携わっている。教育の効果を高めるという観点から何か指標になるようなものはないかを探している。この研究テーマは業務に直結しそうで、研究成果がそのまま応用できそうだと思い、関心を持った。分野は企業内教育、対象は業務向けのeラーニング教材の開発になるのかな、と思う。

2.研究課題を明確にする  Identifying the Research Problem

なるほど、もっと特定されたものにするのか。テキスト13ページの例を参考にすると次のようになるのかな。

  • 誰が→弊社のeラーニング教材を設計している人たちが(弊社じゃぁ特定化しすぎかな・・・)
  • どのような課題状況か→業務用のeラーニング教材を設計するときに
  • どのような操作/条件/介入か→設計ガイドラインを使うことで
  • どのような効果か→より教育効果の高い教材設計ができるか(できれば今よりも早く:これは臨み過ぎか・・・)

3.文献検索をする  Conducting a Literature Search

ERIC?わぁ、英語かぁ・・・「ERIC」で検索すると、「国際理解教育センター」じゃなくて、あった、ERICね。1100万の引用と11万件のフルテキストだって、ちょっとあり過ぎでしょ。3番目の「Educator's Reference Desk」も興味を惹かれるけど、また今度にしてと。手始めに「e-Learning」で検索すると、675件か。割と少ない・・・。「Search Within Results」は絞り込み検索かな。調べたい「ガイドライン」は英語ではguidelineで通じるのか?AND検索の結果は0件。guidelineでは駄目らしい。回線の調子が悪いのか毎回時間がかかり過ぎるのでここらで別の方法も試しましょう。(敗退)

日本教育工学会の会員だと、会員特権としてこれまでの学会誌や全国大会発表論文集などが検索できる。学会Webの「会員のページ」からアクセスできる。
国立情報学研究所が提供しているGeNii(NII学術コンテンツ・ポータル)(2014.3.31サービス終了)、論文だけでなく、本・雑誌や、研究課題・成果、分野別専門情報のすべてを検索してくれるサービスだ。早速「eラーニング」と「ガイドライン」で検索すると、論文4件、書籍25529件、科研4件が見つかった。

論文の最初のものは、「日本教育工学会論文誌 29 (3) p.239-250 eメンタリングガイドラインの形成とその評価(<特集>実践段階のeラーニング)」。これは青山学院大学の研究らしい。メンタリングは教材設計というテーマとは外れるが、ガイドラインを作ってその効果を確かめる点では似ている。研究の進め方として参考になる点があるかもしれない。「本文等リンク」をたどると、PDF版で全文表示されるのもありがたい(これって、教育工学会の会員特権じゃぁなかったのかなぁ・・・)。

GeNiiで「eラーニング」「教材設計」では論文は0件だ。じゃぁ、「eラーニング」「デザイン」ではどうか。46件見つかった。熊大関係者のものもヒットする。「ガイドライン」ではなく「チェックリスト」という言い方もあるようだ。「社会人教育」は120件ヒットするが、「社会人教育」と「eラーニング」をANDにすると3件しかない。
いろいろと試してみて、検索のやり方にも徐々になれていく必要がありそうだ。「○○に興味があるのですが、参考になる文献を教えてもらえませんか」と教員に聞いてしまうのも手かもしれない。一般の検索エンジンではどうだろうか。研究者の名前が特定できれば効果があるかもしれないし、他の学会のWebサイトも覗いてみよう。最近の全国大会の論文集の目次や索引を眺めるのも案外いいのが見つかるよ、とも教えてもらったし・・・

4.研究課題を明確に述べる  Stating the Research Questions

「疑問をリストにして書き出してみよう(p.22)」、か。

  • 設計ガイドラインを使うとより教育効果の高い教材が設計できるのか?(そもそも設計ガイドラインがまだないんだから)
  • 弊社で使えるような、設計ガイドラインはすでに誰かが提案されたものがあるのだろうか?(あればそれを応用すれば済むが、なければ作らなければならない→だから「提案」すると言っているのだろうけど・・・とすれば)
  • 設計ガイドラインはどのようにして提案できるのだろうか?(類似物を探す?いくつか組み合わせる?理論から導き出す?似た研究を探す必要がある)
  • 教育効果が高い教材とはどんな条件を満たしたら良いのか?(これがわかればガイドラインに書けばいいんだが)
  • 弊社でこれまで自作したeラーニング教材はどのような改善の可能性があるのか(どこがまずいのか)?(これをもとにガイドライン化することもできるか)
  • 弊社では「これでよい」という判断を誰がどのように(何をもとに)下しているのか?(現状を見直す必要がありそう。インタビューで掘り起こすか)

わぁ、いろいろ出すぎたので、疑問点はこのぐらいにしておこう。まだまだありそうだから、このリストを折に触れて見直していこう。解決する前に新たな疑問点が出そうで、リストは当分減りそうもないな・・・

5.研究のデザインを決める  Determining the Research Design

「研究とはたいへんなものだぁということがわかってくる(p.27)」って?まだ分かりませんけど・・・「実現可能性feasibility」は大切そう。2年間で終わる計画にしないとならないし、実際には1年しかないと考えないとね。
実験タイプの研究はできそうもない。設計ガイドラインを使った場合と設計ガイドラインを使わなかった場合を比較する、というのは難しい。現状はこうだが、ガイドライン導入後にはここまで向上した、というのならできるかもしれない。解説2に詳しい説明があるとのことだが、ABデザイン(p.128)というのはどうなのか。「ガイドライン導入」の前後でAとBのような変化が出ればガイドラインの効果があったといえそう。でも何回もデータを取る必要がありそうで、大変そう・・・

6.方法を決める  Determining Methods

研究の順序としては、次のようになるような気がする。これが2年間(実質1年間)で終わるかどうかは別として・・・

  • 教育効果が高い、ということをどうやって決めるのか文献をあたる。ガイドラインやチェックリストがあるかどうか調べる(たぶんピッタリくるのはないだろうが)。
  • 弊社の実情を調べる。まずい点を浮き彫りにし、どの程度まで「まし」な教材作りにしたいのかをイメージしてガイドラインの素案を作る。
  • 文献調査で見つかった「ガイドラインの形成とその評価」で使っている方法を参考にして、ガイドラインを評価する。
  • よさそうなガイドラインができたらそれを提案して研究のまとめとする。(ここまでで終わりかなぁ、それで「修論」として認めてくれるかが問題かも・・・)
  • ABデザインに基づいて、ある企業の実態を調査してガイドライン導入前後の変化を調べる。変化が持続しているようであればガイドラインが有効だといえる。(ガイドラインを提案すれば、それを採用してくれる企業が名乗りを上げてくれる可能性もある。最初から採用せずにまずは実態を把握してと頼めば可能か?)

7.データ分析の手順を決める  Identifying Data Analysis Procedures

「もしあなたが統計が得意でなくても、心配するには及ばない」(p.34)でかなり安心した。でも、質的研究の方が楽だとは思うな、というのは忘れずにいよう。これまでに考えた研究方法の中には、あまり難しそうな統計処理は出てこないような気がするが、これは専門家に聞いてみよう。参考論文では、アンケート調査で平均値の差の検定(t(44)=2.79, p<0.01)という表現が出てくるので、それが何かは理解する必要がありそうだ。また、あまり統計が出てこないということは、より難しい「質的研究」にあたるのかも知れないので、その点も確認しておこう。