熊本大学大学院教授システム学専攻
目次:
【第4回】プレゼンテーション用ソフト、ドロー系ソフト
第1章
第3章
第4章
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良いプレゼンテーションを行うには

【本節の目的】
良いプレゼンテーションを行うには、 発表資料のページ(スライド)の流れをどのようにして作成すれば良いかを知る。

良いプレゼンテーションは、わかりやすい

一つのプレゼンテーションは、 一つのことを聴衆に理解してもらったら成功です。
物事には多面性があるので、スライドについ多くを書きがちになります。 そのようにして自分が思いつくままにスライドを作成しても、 まずうまくいくことはありません。また、 達人の行う優れたプレゼンテーションを目の当たりにして、 それをただ真似ようとしてもなかなかうまく行きません。 優れたプレゼンテーションには、その流れに込められた工夫と努力があり、 それを汲み取るにはそれなりの力がいるのです。
良いプレゼンテーションを行うにはスライドの流れをどのようにして作成すればよいかについて、以下簡単に説明します。

1.目的を知る(スライドを書き始める前に)

「一つのことを聴衆にわかってもらう。」 これが、プレゼンテーションを行う目的です。そのためには、 スライド第1枚目の「標題」からスライド最後の「結論」まで、 すべてのテキスト、図、写真、表などをただ一つの目的に向かって作成して行きます。 これは非常に困難です。なぜなら、実際のところ、 プレゼンテーションを行う自分自身にも、 目的がよくわかっていない場合が多いのです。自分でさえもわからないのに、 それを聞かされる他の人達がわかろうはずはありません。したがって、 自分が何をプレゼントしたいのかを知ることが第一歩です。

2.「標題」を決める(スライド第1枚目)

自分のプレゼンテーションを他の人達に聞いてもらえるかどうかは、 「標題」の良さにかかっています。内容を端的に表し、 短いのがよいでしょう。「○○について」では、 そのことについて何がプレゼントされるのかわかりません。

3.「趣旨」を書く(スライド第2枚目)

プレゼンテーションで何をどのように述べようとするのか、 第2枚目のスライドにこの「趣旨」を書きます。 「趣旨」とは、プレゼンテーションが明らかにしようとする問題を、 「背景」の中に位置づけたものです。 プレゼンテーションの意義が、これで決まります。 プレゼンテーションの意義とは、 最後のスライドの「結論」が、「背景」の中で現す価値のことです。 したがって、「趣旨」の替わりに「背景」と書いてもよいことになります。 内容によっては「目的」と書いてもよいでしょう。 この「趣旨」によって、プレゼンテーションのねらいが端的に表わされます。 プレゼンターの個性や独創性が見られるのも、この「趣旨」のスライドです。 聴衆(オーディエンス)が後の話を聞き続けてくれるかどうか、 その態度はこれで決まります。

「趣旨」のスライドは、また、 プレゼンテーション全体への案内の役割をもっています。 このプレゼンテーションを初めて聞く聴衆に対して、 プレゼンテーション全体の論理構成をこのスライドで「予告」します。 すなわち、明らかにしようとする問題と、それをどのように扱おうとしているのか、 結論を得るにはどのような条件が必要かなどをこの「趣旨」で述べます。 この「趣旨」のスライドに続く第3枚目以降のスライドは、 この「趣旨」の詳細な説明であって、それらの内容は、 この予告を逸脱してはなりません。そして、スライド最後の「結論」は、 この「趣旨」で予告した問題に対するプレゼンターの解答です。 したがって、スライド第2枚目の「趣旨」とスライド最後の「結論」が、 プレゼンテーション全体の「骨子」(ほねぐみ)であり、 この「趣旨」と最後の「結論」は、厳密に呼応していなければなりません。

なお、 スライドに書く文章や言葉を軽く見てはなりません。 それは、プレゼンターの論理と知識の表現なのです。 先ず、他人に理解できる言葉で書くことが大切です。 友達に見てもらい、率直に批判してもらうのもよいでしょう。 独りで書いていると、重要なところがつい自明なことに思えたりします。 不明確な表現は、プレゼンター自身の曖昧な認識の表れと受け取られかねません。

4.「根拠」を書く(スライド第3枚目?)

プレゼンターが独自に知り得たことをここに書きます。 そして、「趣旨」を「結論」へと結ぶ根拠を提示していきます。 すなわち、これらのスライドで、 「結論」で述べようとする事柄の真実性を保証していくのです。 これはプレゼンテーションの「核心」です。 プレゼンテーションの「生命線」でもあります。 したがって、全力を注いで作成しなければなりません。 後に導き出される「結論」が論理的に飛躍する場合は、 先人の過去の業績などを引用するのも良いでしょう。 引用した場合は出典が特定できるように明記しなければなりません。

この根拠を書く過程で、自分のプレゼンテーションの限界を、 誠実に表明するのが良いでしょう。たとえ万全の「結論」を導き出せるとしても、 それには何らかの前提条件が付く場合が多いからです。 これは、プレゼンターの「謙虚さ」の現れとして評価されるだけでなく、 同じ分野の研究などに新たな方向付けを与える重要な示唆ともなり得るからです。

これらの「根拠」のスライドによって、 プレゼンターとオーディエンスの緊張は最も高まります。 たとえ新しく発見したことや独自に知り得たことであっても、 ここで「結論」と無関係な事柄を書き加えてはなりません。 それは「道草」でしかありません。

5.「結論」を書く(最後のスライド)

このスライドで、スライド第2枚目の「趣旨」に対して解答を与えます。 先人の過去の業績に対して敬意を潜ませて書くのが良いでしょう。

6.反響を知る

他人から批判されるプレゼンテーションは、実は良いプレゼンテーションです。 これは、プレゼンテーションを他人から批判されるよう、 手抜きして行えということではありません。プレゼンテーションを行うときに、 他人が自分と同じ情報を手にした上で、自由に考え、批判できるようにするのです。 そもそも人間は、自分で批判できないものは、 それを理解することも信頼することもできないのです。 プレゼンテーションの批判者は、実はプレゼンテーションの理解者です。 自分のプレゼンテーションを批判されることは、 プレゼンテーションの価値を理解してもらえるのと同時に、 そのプレゼンテーションが、 予想できなかった新しい概念形成の契機になり得るという、 重大な価値が潜んでいるのです。
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