FD研修講師派遣(2021.3)

 

本センターではインストラクショナル・デザインについて学ぶ機会を提供するために、講師派遣をしています。

・本年度の概要
・派遣事例
・講演型FD研修会を脱却するための研修モデルについてのご提案

本年度取組の概要

昨年度に引き続き「FD研修講師・大学教育設計コンサルタント派遣」の継続・拡大を図りました。他の取り組みとも連携しつつ、可能な限り、受講者参加型のFD研修を実施しました。本年度はコロナ禍の影響を受け、毎年継続して行ってきた研修の中にも中止になったものがありましたが、一方で、対面授業のオンライン化の必要性が高まり、オンライン教育に関する研修が増加しました。また、本年度の特徴として、受託した研修自体のオンライン化も進み、オンラインで同期で実施するもの、非同期でオンデマンドの動画を提供しテキストによる質疑応答を含むなど、多様な形態で提供しました。

講師派遣として、4名の教授システム学研究センターの教員が、講師として、大学教職員対象の研修を21件、その他を対象とした研修を10件、のべ、31件行いました(表1参照)。昨年度は、大学教職員対象の研修を20件、その他を対象とした研修を18件、のべ、38件でした。昨年度と比較すると、のべ件数としては、7件減少しましたが、大学教職員対象の研修は1件ですが、多くなっています。

本年度の大学教職員対象の研修では、大学教員1522名、大学職員144名、大学院生49名が本センターの研修を受講しました。昨年度の大学教員627名、大学職員93名、大学院生34名と比較すると、大学教員の受講者数が倍以上に増えました。これは、教員がニーズを感じていること、オンラインで開催されたこと、オンデマンドで提供されたことなどが理由として考えられます。

一般・その他の研修では、対象者を設定していない一般を対象とした研修、その他として、専門学校教員、医療関係者対象の研修について整理しました。一般・その他の受講者は987名で、本年度の講師派遣による受講者数は、1115名でした。昨年度ののべ1917名と比較すると減少しました。

研修の内容は、授業設計、教材設計はもちろん、人材育成、学習環境デザイン、創発思考、研究成果の普及・活用、アクションプラン作成、コンピテンシー等、多岐に渡りました。研修の規模も、10数名の研修から、100名や300名を超える研修がありました。主催者も、大学だけでなく、企業、官公庁、各種財団、学会等で、それぞれの団体のミッションや課題に合わせ、研修を行いました。また、本年度も国際的な機関による研修も3件ありました。

表2は学校種別による参加者内訳を示しています。大学教職員対象の研修をみると、大学教員のうち、国立大学教員が460名、私立大学教員が1104名、公立大学教員が104名でした。大学教員の他に、大学共同利用機関法人20名、民間独立行政法人等が20名でした。昨年度と比較してどの区分からも参加者が増加しました。

また、地域別にみると、大学教職員対象の研修では、地域が特定できない不明を除き、関東が290名で一番多く、次いで多かったのは、東北からの231名でした(表3参照)。一般的に大人数を対象とした研修やセミナー等では、受講者の地域を特定することが難しく、不明数は大学教職員対象研修で717名、一般・その他対象研修で、880名となっています。一般・その他でも、不明を除くと、関東からの受講者が120名で一番多くなりました。

本年度も、依頼者のニーズに合わせ、受講者がより能動的で積極的に参加できる研修を提供してきました。次年度も、さらに、受講者が自ら学ぶ研修、研修後も学び続けられるような研修を提供していきたいと考えています。

 

派遣事例

事例1:Special Session “Technology and Education in Japan: Research, Practice, and More”, IEEE TALE 2020

講師:鈴木克明
コーディネータ:合田美子
実施日: 2020年 12月9日(木)17:00~18:30
場所:オンライン開催
研修名:Special Session “Technology and Education in Japan: Research, Practice, and More”, IEEE TALE 2020
参加者:約70名

2020年12月9日〜11日まで開催された国際学会IEEE TALE(Teaching, Assessment, and Learning for Engineering) 2020において、日本のテクノロジーと教育についての発信を目的としたSpecial Sessionが、Technology and Education in Japan: Research, Practice, and Moreと題して開催されました。本セッションは、当該国際学会のAcademic Sponsorである、関連研究分野で日本を代表する2学会、日本教育工学会(JSET)と日本教育システム情報学会(JSiSE)が合同で行われました。

RCiSセンター長であり、JSET会長の鈴木克明先生とJSiSE会長の柏原昭博先生(電気通信大学)とが日本の教育工学研究について、現在の状況、アプローチ、将来の展望などについて講演しました。国内外の研究者約70名が参加し、RCiSセンター教員の合田がコーディネートを行い、質疑応答についても活発に行われました。

学会自体が、VirBELA(https://www.virbela.com/)を基盤としたiLRN 3D Virtual Campus(以下,仮想キャンパス)で実施され、TALE2020のテーマに含まれるTransformative Technologyに相応しいプラットフォームでのLearning Experienceについても意見交換がなされました。海外の研究者から「JSET会員になるにはどうすればよいか?」という質問が出るなど、日本の教育工学研究について、国際的にプレゼンスを上げることに繋がったと考えます。

 

事例2:昭和薬科大学令和2年度 FD研修会

講師:平岡斉士
コーディネータ:合田美子
実施日: 2021年2月18日(木)19日(金)
場所:オンライン開催
研修名:昭和薬科大学令和2年度 FD研修会
参加者:約72名

この研修は、昭和薬科大学の教員を対象としたFD研修として行われました。全2日の日程で、1日目は2時間、2日目は1時間で完結する短期研修です。参加したのは、実際に授業を担当する教員が中心で、シラバス作成の課題を抱えていました。

1日目はIDの基本的な考え方を提示したのち、それを自身の授業に採用するかどうか、採用するならばどのように採用するかについて、個人での内省的なワーク、その結果を2~3人のグループで検討するワークを繰り返し行い、そこで生じた「もやもや」を解消するために全体での質疑応答を行いました。グループは、担当する教科・専門分野ごとに分けて、題材として各人が実際に担当する科目の内容を検討できるようにしました。1日目終了後、2日目開始までに1日目で検討した内容に関して改めて検討し、自身の授業改善案を準備することを2日目の事前課題といたしました。

2日目は質疑応答の形で1日目の振り返りを行ったほか、非同期学習設計の考え方を提示しました。その後、グループで相談しながら各自の授業改善案を修正するワークを行いました。最後には質疑応答の時間を設けて、参加者が自分自身の科目に取り入れる際の問題点について、質疑応答を行いました。

本研修は、コロナ感染対策として、Zoomを用いた同期型オンライン研修として実施しました。①ブレイクアウトルーム機能を活用して、参加者の担当科目に基づいて33組でのグループワークを行う②参加者からの質問・疑問については、Googleドキュメントを活用して研修期間中を通して受け付け、講師が逐次回答を記載・返答するという方略で、双方向型のアクティブラーニングを提供いたしました。Googleドキュメントには、参加者から多様な質問・感想が書き込まれ、講師や参加者間でのやり取りが多数行われました。参加者の質問等が文字として可視化されたことが、さらなる質問や議論を導き出したとも推測されます。

最終レポート等の課題は提示していませんが、参加者から「今日がシラバスの締め切りだったのですが、昨日の講義でとても参考になり、いままでと違うシラバスを書くことができました。」というコメントがありました。

 

講演型FD研修会を脱却するための研修モデルについてのご提案

本センターでは、これまでにFD研修講師派遣を依頼頂いた際に、様々な形の研修を提言してきました。外部講師としての依頼を受け、講演をした後で、質疑応答の時間を最後に取る、という従来型のものもありましたが、他のやり方はどうでしょうか、という提案をした結果、それを受け入れていただき、効果が上がったケースもありました。これまでの経験をもとに類型化した研修モデルには、以下のようなものがありました。

外部講師講演型
重要だと思われるトピックの第一人者を招聘して行うFD。例えば、アクティブラーニング、パフォーマンス評価、オンライン授業など。講師によっては、新しいコンセプトを事例に即して知る機会になることもあるが、力量に依存するので、「お勉強」に留まり実際の授業改善には直結しない場合も散見される。講演の最後には質疑応答の時間を設ける場合もあるが、質問があまり活発に出ずにFD担当者が困るケースも多い。

事前質問付外部講師講演型
外部講師を派遣する際に、事前に質問を受講予定者から募り、その回答を含めた講演にしてもらう。講演時間の半分程度を講演にあて、残りの時間を事前質問への回答にあててもらうのが効果的。ケースによっては、事前質問への回答を最初にしてから、まとめの講演というパターンがより講演を身近に感じられ、満足感を高めることもある。

事前資料付講演(反転授業型)
基本的な内容については事前に論文や講義ビデオで情報を得てもらい、その上で当日の講演に臨んでもらう。可能であれば、事前資料についての質問を事前にあるいは参集時に受付で出してもらう。講演時間は事前資料の内容についての質疑応答を中心に構成するか、ワークショップ的に例えば「事前資料の内容を今後の担当授業にどう応用するか」を検討する時間とする。担当科目でもこの形式(反転授業)を採用してもらう布石として学習者として体験してもらう意図も兼ねて行う。

講演型+アクションプラン作成
次回にアクションプランをどう実現したかをシェアする会を設定・予告し、それまでに活用することに誘う。新しいコンセプトを導入した後で、個人あるいはグループ(担当科目やカリキュラムを共有する者同士)で、このコンセプトをどのように活用して授業を改善できそうかを検討・議論し、アクションプランを作成する(次回のFDまで、今年度中、2-3年後までには、など)。

事前課題+アクションプラン作成
FD開始前に授業改善のヒントとなるような文章を全員が読んで、疑問点や自分の授業改善にどのように活用できそうかを検討した結果を持ち寄ってもらう方式。集まった時には疑問点を解消した後で、各自の検討結果を共有し、互いに気づいてなかった点を加えてアクションプランを作成して、次回につなげる。

まな板の鯉方式
これまでに様々な工夫をして授業改善に取り組んできた教員の事例を紹介してもらい、自分の授業で参考になる点(まねできそうな点)や更なる改善アイデアについて小グループで話し合い、授業提供者が持ち帰るお土産とする。例えば、ICT活用法、遠隔授業構成法、学習意欲を高める方策などのテーマを設定し、関連する工夫を数例並べて検討するとさらに効果が高まる。

ワークシート形式
各自が担当する授業について共通のフォーマットを用いて現状分析し、改善の糸口を見つける方式。ARCSで学習意欲を向上する、大学の授業点検シートで出入口と方略をチェックするなど。ワークシートへの記入を事前課題として記入済みのものを持ち寄って議論中心に展開すると効率的になる。さらにアクションプラン作成と組み合わせて次回につなげることも効果的。代表的な取り組みを次にまな板の鯉方式で共有することにつなげる前段階としての活用するのもよい。

他のやり方>
本センターでは、講師派遣に際して、その他にも有効だと思われるやり方を模索していきたいと考えています。遠慮なくご相談ください。

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