ご挨拶
教授システム学専攻は、平成18年度に社会文化科学教育部の独立専攻(修士課程)として設置され、15名の第一期生と22名の科目等履修生を迎えてスタートしてから、すでに17年以上が経っています。開設以来、教授システム学に関する体系的な教育研究を行い、教育効果・効率・魅力の高いeラーニングを開発・実施・評価できる高度専門職業人等を養成することを目的として教育研究活動を展開してきました。博士後期課程では、この分野に対する社会的ニーズや学問的要請に応える大学院教育の深化及び学術研究の高度化を推進し、同分野の発展・普及を主導できる教育研究者等を養成しています。
博士前期課程では、修了生に求める職務遂行能力(コンピテンシー)を公表し、その達成を支援する実践的なカリキュラムとなっています。eラーニング業界の求める人材を輩出するために特定非営利活動法人デジタルラーニング・コンソーシアム(旧名:日本イーラーニングコンソシアム)と連携し、「eラーニングプロフェッショナル(eLP)資格認定制度」の相互認定機関としての認証を受けています。修了生の多くは複数のeLP資格を取得して、eラーニングの専門家として本専攻を巣立っています。
なお学位取得を目指す正規生には、前期課程2年分の学費で3年間在学できる長期履修制度や、その逆に2年より短期で修了する在学期間の特例制度があり、柔軟な履修をサポートしています。また正規生の他にも、特定教員の指導のもとで研究を進める研究生や科目ごとの単位を取得できる科目等履修生の制度もあります。
本専攻での取り組みと将来構想は文部科学省に早くから認められ、平成19年度には「大学院教育改革支援プログラム」に採択されました。3年間取り組んだ「IT時代の教育イノベーター育成プログラムーグローバル人材育成を主導できるeラーニング専門家の養成―」は、日本学術振興会が行った事後評価で「目的は十分に達成された」(人社系全53件中7件のみ)との最高水準の評価を得ました。その成果の一端は、本専攻の黎明期を紹介した『IT時代の教育プロ養成戦略:日本初のeラーニング専門家養成ネット大学院の挑戦』(大森不二雄編著、2008年東信堂刊)に続く第二弾『ストーリー型カリキュラムの理論と実践:オンライン大学院の挑戦とその舞台裏』(根本淳子・鈴木克明編著、2014年東信堂刊)として公刊しました。
提供科目の刷新も継続的に進めています。平成19年度には国際協力機構(JICA)協力のもと科目の英語化を行い留学生を迎えました。また、入学される社会人学生の専門分野等からのニーズに呼応して「医療教育におけるeラーニング」「eラーニングのUI/UXデザインとゲーミフィケーション」など、新たな科目を新設してきています。さらに、令和4年度にはカリキュラム改定を実施し、昨今発展著しいテクノロジーを教授システム学の観点から効果的に利活用するスキルを身につけるための科目群を開設することで、インストラクショナル・デザインとラーニングテクノロジーをカリキュラムの2つの主軸としています。
平成26年度からは、文部科学省と熊本大学の支援を受けて、「教授システム学の研究普及拠点の形成-学び直しを支援する社会人教育専門家養成パッケージの開発と普及-」に取り組んでいます。これまでに本専攻が培ってきた新しい学びの仕組みを全国の大学院に普及させる横展開への挑戦です。対面講義と最終試験に頼らない教育方法を、未来の大学教員たちに体験・会得してもらうことが主たるターゲットですが、このやり方は高等教育機関のみならず、より広い領域での人材育成にも有効な方法だと確信しています。これまでの教育研修の慣例にとらわれずに、ICTを活用した大人向けの学びを設計・支援できる専門家が増えることで、社会人が学び続ける環境が整うことに貢献できればと願っています。
修了生が所属する機関と専攻との共同研究や学会・研究会での研究成果報告など、修了生は専攻を巣立った後も専攻とのつながりを大切にしながら、研究活動の幅を広げています。令和5年度には専攻設立17年を迎え、博士前期課程の修了者は150名を超えています。
日本のeラーニングやオンライン学習には(そして人材育成を機能させるためには)学問的な基盤と専門家として活躍する人材が必要だ、という私たちと想いを共有してくださる皆様とともに学ぶ日を心から楽しみにしております。
喜多敏博・戸田真志
(前期担当・後期担当)